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第18話 神秘 一応一通りは

 一日おいた、ダンジョン探索二日目。


 朝、宿屋を出てダンジョンへ。

入口でカードを渡し、番号札を受け取って中へ。

そんなアルを、三人の男たちが遠目に見ていた。


「あれどうだ? まだ若造みたいだし、いかにも初心者っぽいじゃねえか」


すると、リーダー格と思われる男が口を開いた。


「やめとけ、あのぶら下げてるの剣だろう? 剣じゃ大して値が付かない、その上防具もろくに装備してねえじゃねえか」

「へっ、違いねえ、金にもならんやつじゃあな、それに男じゃ楽しみも半減だ」

「それもそうか、女探すか女!」


 その言葉で思い出したかのように、男たちはつい先日の自分たちの獲物について、話し出した。


「そーいや、この間の女は良かったな、「助けて下さい! 助けて下さい! 何でもしますから!」って何度も叫んでて「だったら手前も気分出せ」っつったら、一生懸命腰振ってよ、これで助かるとでも思ったのか、あの最後殺されるってわかった時の、唖然とした顔ったら無かったぜ!」

「ギャハハハハッ! その前にもよー、ずーっと泣きじゃくってるのがいたじゃねえか、オレァああいうのが燃えるんだよ! まあ、大体のやつはあきらめたみたいに、何の反応も示さなくなりやがるけどな、あーなんかそんな話してたらムズムズしてきたぜー、おいっカラッゾ早ええとこやろうぜ!」


カラッゾと呼ばれたリーダー格の男が、たしなめるように小声で二人に話しかけた。


「それなんだが、どうもここんとこ続いたんで、網張ってやがるくせえんだ、ほとぼりが冷めるまでは、大人しくしておいた方がよさそうだ」

「なんだよ、つまんねえな」

「そういうな、捕まりでもしたらどうすんだ? 特に傭兵ギルドに目付けられたら、他の街まで知らせが回っちまう、それでだ、どうせならしばらく、他のとこでやらねえか?」

「俺あ、どこでもかまわんぜ」

「俺もだ」

「よし、じゃあ、ちょっくら遠出して楽しむとするか、そっちがやばくなったら、戻ってくればいいしな」

「「おう!」」


 三人は、ダンジョン入口から離れ、ヨルグの中心から街の出口である門へ向かって行った。


◇◇◇◇◇◇


 アルは、初日の順路をなぞって、早々に第3階層に到達した。


【さって、今日は少しでも中まで行くぞー】

【前にも言ったけど無理すんなよ? 目的はダンジョンの攻略じゃなくて、戦闘で鍛える事だからな】

【うん、わかってる、でもまだ蛇にも会ってないしね、蛇ってどんな攻撃すんの?】

【噛みつきと巻きつき、牙には当然毒あり】

【まあ普通の蛇と一緒って事だね】

【ああ、だけど蛇はとんでもなく速いぞ、攻撃の瞬間なんかは、カエルの舌どころじゃないから気を付けろよ】


 エイジが言い終わる前に、アルは『ニードルモンキー』三匹に囲まれ、すでに防戦一方になっていた。


ああも素早いのが三匹じゃ、しょうがないけど、あのままじゃいずれ押し込まれる、なんかキッカケ作ってせめて2対1にしないと、勝ち目無さそうだな。

アドバイスするか? ・・いや止めておこう、このくらい自分で気づかないようじゃ、この先行っても結局俺頼みになっちまう、それじゃ意味ないからな。


 完全に観戦モードで、エイジはそんな事を考えている。

アルも、それは理解しており、ここは自分の力でなんとか打破しないとならないと、何か突破口になるものが無いか、己に問い続けていた。


 鎖分銅を飛ばしてけん制はしているものの、怯んだ一匹を仕留めようとすると、残りの二匹が襲ってきて思うようにいかない。

攻撃しようとすると、察知され邪魔される、だったら、そう考えて向かってきた一匹と刃を合わせる。


「グギャァ」


『ニードルモンキー』の鉤爪を『嵐』で受け、そのまま剣を下へ鉤爪に沿って刀身の腹を滑らせ、指を切り裂いた。


 『滑り小手』、相手の得物に鍔やナックルガードがついて無い時に使える、相手の得物に剣を合わせた際に、そのまま剣の腹を相手の剣に沿って滑らせ小手を撃つ技。

仕込みや短刀また短槍などに特に有効で、長槍相手にも懐に飛び込んで使える技でもある。

真剣勝負において、最も狙いやすく効果が高いのが、小手である。

一番近い相手の体であり、少しでも傷を負えば攻撃力が激減する、小手狙いは勝負の常道である。

そう以前にエイジに教えられたのを思い出した。


 こうなると後はもう簡単だった。

止めを刺そうとすると、これまでと同じように二匹に邪魔されたが、小手を撃った奴は威嚇するばかりでおそらくは痛みで動けず、一匹を鎖分銅でけん制している間に、残る一匹を相手取りこれを仕留める。

これで包囲は崩れ、後は難なく処理できた。


 よしよし、ちゃんと小手狙いの有用性を覚えていたか、大分甘さが抜けてきたな。

迫ってくる次の敵に対する警戒も怠ってないし、こりゃ思いの外戦闘に関しちゃ問題なさそうだな。

後は、ダンジョンギミック、罠に関する対処や・・何だ? 誰かに見られている? どこだ?


 エイジが感じた通り、アルを観察している男たちがいた。

両手に剣を持つ、一角人種の男がそれほど離れていない、坑道の中からこちらを見ているのが見える。

彼らは、アルを見て話し合っていた。


「ありゃあ違うな」

「そっすね、見事な動きでした、こすいマネするようには見えませんでしたね」

「ああ、ありゃあ相当鍛えてるな、あれならどっちにもならんだろう」

「気づいているみたいですし、説明しといた方がよくないすか?」

「そうだな」


 男たち、総勢五名が潜んでいた坑道から出て、一直線にアルの元へ歩いてくる。

魔物たちがいるにもかかわらず、まったく意に介さず、向かってくるもの立ちはだかるものを、苦も無くたたき伏せながら。

全員が、それなりの腕であり、それもまだまだ余力を残しているような、余裕を感じさせた。


 誰だ? こいつら、危害を加えてきそうな雰囲気は無いが、こっちに用があるようだな。

アルも、構えてはいないが、警戒心を解かずに相対していた。

一角人種の男が、アルに3mほどの間合いまで近づいて声をかけてきた。


「驚かせたならすまない、俺たちはヨルグの傭兵ギルドの者だ、ここでの犯罪行為に対して、警戒していたんだ」

「そうですか、僕はアルベルトと申します、あの犯罪行為ってなんですか?」

「最近、初心者が数多くダンジョン内で命を落している、確かに初心者がってケースは昔からあるんだが、どうもこのところあまりにも多い、そこで装備を売り払ったりする目的で、殺してる連中がいるんじゃないかと、ここで張っていたんだ」


そんな物騒なやからがいるとは思ってなかった。


「何か証拠とかあるんですか?」

「いや無い、あれば警ら隊が出てきて、取り締まるなり捕まえるなりしてくれるんだが、それが無いんで俺らが自主的にやってるって訳だ」

「初心者っていうんなら、第1階層とかじゃないんですか、なんでここで張り込みを?」

「1・2層は人目につき過ぎる、3層となるとぐっと人が少なくなるし、ここまで潜るやつは、装備もそれなりだから金にもなる、そんな理由でここが一番可能性が高いと踏んでたんだ」

「なるほど」

「俺らはまた隠れる、まだしばらくここで警戒してるが、あんたも気を付けてな」

「はい、ありがとうございます、気を付けるようにします、それでは」

「ああ、それじゃあな」


 その後、しばらくは戦闘を重ねたが、時間切れとなり、第3階層を後にした。


【嫌なことするやつがいるんだね】

【ああ、魔物だけじゃなく、そんなのまで警戒しなきゃならんとはな】

【もし襲ってきたら、返り討ちにしてやるのに!】

【敵がどんなんかもわからんのに、そう張り切るなよ、まあでも今日の戦闘は良かったぞ、満点だ】

【やったー、僕も今日のは中々だなと思ってたんだー】

【うんうん、明後日からもこの調子でな】

【うん!】


とりあえず、今日の所は何事も無く過ごせた。


◇◇◇◇◇◇


 二度目の休日。


 アルは、再びヨルグの街を巡っていた。


 警ら隊の詰所や兵士の宿舎などの物々しい建物や、裁定所や訓練学校と役場などのお堅い施設が並ぶ、東の区画。

万屋や色々な店が軒を連ねる、中央付近。

武器屋や防具屋などの、探索者や傭兵御用達の店が多い、西側方面。

南側には、傭兵ギルドや薬師ギルド、商人ギルドなどが立ち並ぶ。

そして、北には公衆浴場や馬車屋、配達屋などと共に娼館が存在している。

ここでは、昼間から勤労意欲旺盛な働き者が、薄着や体のラインが出る衣装で身を包み、道行く人に熱い視線を投げている。


 この世界での犯罪者に対する、最も重い刑罰は死罪である。

軽いものは罰金刑、ではそれ以外はというと、男性犯罪者は全員鉱山での強制労働。

女性は、同じ鉱山での強制労働と、年齢によっては娼館とを自分の意思で選べるようになっている。

働き者たちは、そのほとんどが犯罪者であった。


 鉱山での強制労働は、刑の重さによって年数が決められているが、娼館の方は人数になっている。

よって、自分自身の頑張りによって、期間の短縮は可能であった。

その為、一日でも早くこの生活から抜け出るために、より一層労働に励むことになるのである。


 アルは、この辺りには初めて訪れたので面食らっていた。

働き者たちも、この通りを歩くのは、そういう目的の者が多いので、当然労働に対して積極的な行動にでる。

店の外での勧誘は禁止されているので、外が見えるようになっているところから、封印術によって魔力を封じられた証である、魔封紋を額に浮かび上がらせた働き者たちが、声をかけてくるのである。


「あらあ、可愛らしいボウヤねえ、お姉さんとお話しな~い?」

「ボクゥ~こっちにいらっしゃいよ~、そんなに時間とらせないから~」

「ど~お~、あたしと一緒に楽しい時間を過ごしてみない~」


 アルは、真っ赤になって足早に通り過ぎていく。

そこまでして通らなくてもと思うが、この先に書いた手紙の配達を頼む配達屋があるのである。


【帰りもまたあそこ通るのかー、回り道して帰ろうかなー】

【別に相手しなきゃいいんだし、問題無いだろ? 

まあでも、もしなんだったら相手してもいいけど】

【あああ、相手ってなにするのさ】

【なにって、ナニするんだよ】

【? ナニって、なに?】


 ・・これは、困ったことにならないうちに、この手の事も一通り教えておかなきゃならんか、とその前に。


【なあ、アル】

【ん?】

【お前がこの先好きな娘とそういう事になったら、俺の事は気にするなよ】

【そそそ、そういう事って・・】

【気にするなっても無理か、トイレの時と同じく感覚の同調切ってかまわないぞ】

【・・】

【あー、それでも相手の声や周りの音は聞こえなくても、アルの声は聞こえるんだよなー】

【・・】

【・・そうだ! アル、お前俺が休眠状態の時に強制的に起こせるよな?】

【うん】

【だったら逆に、覚醒状態の時に強制的に休眠状態にできないか?】

【そんな事できるの?】

【いや、俺に聞かれても、起こせるんなら逆もできんじゃないのか? 試しにやってみろよ】

【えー、どうやって? うーんと起こす時はこうだから、えーと・・こうかな?】

【ーー】

【あのエイジ?】

【ーー】


 覚醒状態からの、強制的な休眠への移行が出来るようになった、画期的な日になった。


 この後、宿屋に戻り再び覚醒したエイジが、アルに対して教育を施していった。

娼館はなにをするところなのか。

赤ちゃんは、どうやって作るのか。

また、赤ちゃんはどこから生まれてくるのか。

などなど。


 出来るだけわかりやすく、アルが大人の階段を登るのに、躓かないように説明をしていった。

そして、アルには、その手の行為に及ぶ際に、いちいちエイジの了解を得ることなく、いきなり強制的な休眠状態にしてかまわないと、エイジの方から申し出て、そうするように約束させた、勿論おひとり様での時も含めてである。

これは、アルの人生において、自分が邪魔をすることが無いようにとの配慮からである、単に気恥ずかしいので遠慮したいという気持ちもあったが。


 アルは、終始戸惑いながらも、

【そっ、そうなんだ】

【ふっ、ふーん】

【へっ、へー】

などと興味を持って聞いてくれた。


 これで、事前情報の開示は終了した。

後は実践あるのみ。

とはいっても、これは別に急いでやらなきゃならないとか、頑張って腕をあげなければって事はないので、自然に任せるしかないんだが。


 このレクチャーが終わった夜は、知恵熱だかなんだかわからないが、体温が高くなり中々寝付けない夜を過ごす事となったアルであった。


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