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エピローグ

 自称神様を名乗るワースのじじいから授かった解析の力は、今の所事件の解決に

はあまり役に立ってはいない。

まあ当たり前だ、何も其の為にこんな能力が必要だった訳じゃ無いからな。


 では、何故俺がこの能力を欲したのか。

それは、精霊魔術と操魔術以外の魔術を開発する為である。

元々おかしいと思ってたんだよな、魔力があり魔術が使える世界でこれ以外に種類

が無いってのが。


 ゲームの知識がこの世界に当てはまるかどうかはわからんが、俺の知識では精霊

魔術ってのは元素を司るもんで、操魔術は要するに念力みたいなもんだ、分類する

と無属性の魔術ってとこだろう。


 だったら、それ以外にもあるのでは? 若しくは作れるのでは? ってのが俺の

以前から気になっていたことだ。

それを可能にするために、解析の力が欲しいと思ったのだ。


 素直に他の魔術を使える様にしてくれと言っても、おそらくじじいはこの世界の

バランスを考えて、授けてはくれなかっただろう。

だから、搦め手で攻めてみようと考えたのだ。


 俺が注目したのは、ダンジョン最奥に安置されている不思議アイテム達。

アルが持っている『コールミラー』、あの手のもんがまだまだダンジョンには眠っ

ている。


 それがどのような原理で動いているのか、この世界に転移させられる際にじじい

に詰め込まれた知識にも無かった。

しかし、実際に物があるって事は何らかの力が働いているってこった。


 それが分かれば、複製を作ったり魔力でその性能を再現したり出来るのではない

かと思ったのだ。

まずは試しにこの間アルに借りた時に、『コールミラー』を解析の力を使って見て

みた。


 それによると動力は使用者の魔力で、会話したいヒトの名を呼ぶ事で、記憶から

該当者の魔力波形を読み取り、その相手へと回線を繋いでいるらしい。

つまり、魔力を持つ者とは距離に関係無く繋がるが、魔力を持たない者とは繋がら

ないという事だ。


 これで分かったのは、一度でも会うと勝手に相手の魔力波形を読み取り記憶して

いるんだなって事と、ワースのじじいは魔力があるんだなって事と、地球のヒト達

とは繋がらないんだなって事の三つか……。


 まあそれはそれとして、ここで注目すべきなのが回線の繋ぎ方だ。

これまで何度か見てきたが、どうも距離によってタイムラグが有る様には見えなか

った。

セルに城塞都市ヨルグから試しにミガ国に居る母親に繋いだ時、同じ王都オュー内

で母親からセルに繋いだ時、そしてさっきワースのじじいへ俺から繋いだ時、どれ

も見ていると大体同じ位の時間で相手に繋がっている。


 という事は、無線にしろ有線にしろ線を繋いでいると表現しているが、実際には

空間と空間を距離に関係無く引っ付けているのでは? といった印象だ。

この原理の解明ができれば、ゆくゆくは離れた場所に一瞬で移動する転移の力が手

に入るかもしれない。


 ただ、いくら解明できてもその力を再現できなければ意味がない、其のためのサ

ンプルはいくらあってもと思い願ったのが醤油だ。

これはそのものズバリで、異なる空間からこちらへ醤油という質量のある物質を移

動させている。


 まさしく、まんま転移だ、空間魔術って事になるのか?

こいつの原理をなんとか解明して魔術で再現できれば、ゆくゆくは地球に戻れるか

もしれない。


◇◇◇◇◇◇


 メイプル館の二階の部屋を出て、階段を降りて朝食へと向かう。

一階では、すでにシャルとアリーがテーブルを囲み椅子に腰かけて待っていた。

それぞれで挨拶を交わす、アリーだけはすかさずアーセの元に駆けより、顔がくっ

つかんばかりの至近距離で。


「おはようございますアーセちゃん、何か不埒なマネをされませんでしたか?」

「おはよ、普通」


 アーセの体を撫でまわしながら無事を確認している、……そっちの方がよっぽど

不埒だろうが。

大体だな、いくら同じベッドで寝ているからといって、アルとセルが同じ部屋で寝

てるんだぞ、何にもある訳ないだろうが。


 シャルはいつも通り苦笑している、そんなこんなで俺達男性陣が椅子に座ると、

ほどなくアリーとアーセも席につき、これで六名全員揃ったことになる。

運ばれてくる朝食を食べながら、その合間に本日の予定について話し合う。


「後どれくらいかかりそうなの?」

「こちらも用事があるって事で、とりあえず今日明日の二日間で一旦切り上げさせ

てもらう約束にしている」


 アルから、アーセの捜査本部への協力が後何日位かかりそうなのかという問いな

んだが、ハナから俺に聞いてくるあたりは流石は兄妹、よくわかってる。

傀儡術の解除にベストなパフォーマンスで臨むのに必要という、わかる様なわから

ない様な理由でアーセに乞われて、俺が毎回捜査本部で一緒に過ごしている。


 一度にかかる時間はそうでも無いが、一人を解除するだけでもかなり消耗するら

しく、捜査本部との折衝はもっぱら俺の担当となっている事から、アルもアーセに

は聞かずに俺に尋ねたという訳だ。


「そっちは? 今日は依頼か?」

「うん、いい加減慣れておかないとね」


 俺からの質問には、さっきとは逆にアルが答えた。

このメンバーで朝食を囲むのは、地味に一週間ぶりとなる。

それというのも、俺とアーセ以外はキシンとナルールと共にヨルグへ行っていて、

昨夜こちらに戻ったばかりなのだ。


 アル達四人が戻った昨夜から、再び全員でメイプル館に泊まっている。

四人がヨルグへ行っている間、俺とアーセは捜査本部に寝泊まりさせてもらってい

た。

これは、事件解決に重要な役目を果たすことになったアーセを、犯人側からの襲撃

から守る為というのが表向きの理由。

裏の理由としては、アル達が居ない状況でアーセと二人きりで宿で寝泊まりするの

は、色々と不味い事態になりそうだと保険をかけたのだ。

勿論、何も無かったのは言うまでもない。


 アルがヨルグへと付いて行ったのは、リンドス亭へ行き謝罪をする為であった。

キシンがヨルグへ戻る時にナルールを連れて行けば、道中の問題は何も無い。

だが、アルに責任は無いもののナルールを危険な目に遭わせたのは間違いなく、そ

れを言伝だけで済ますのはあまりにも申し訳ないと、両親にお詫びをする為に同行

する事になったのだ。


 普段はアーセにべったりなアリーも、あの事件でアルの命が脅かされた事には地

味に責任を感じていた。

そこで今回はわがままを言わずに、おそらくは本来の任務であるイァイの直系であ

るアルの身辺警護の為、おとなしくアーセとは別行動をしヨルグへと同行していた

のだ。


 アリーも、これまではアーセがアルにべったりだったので、趣味と実益を兼ねた

というか一石二鳥というか、煩悩と仕事への真摯な取組みという矛盾する内容を両

立させる事が出来ていた。

だが、こうなってしまうと流石に業務を放っておく訳にはいかないらしく、未練は

あるようだが表向きはしっかりとアルの傍を離れない様にしている。


 しかしそもそも、ナルールはここに来た目的を果たしたんだろうか。

どう考えても、此処に来る理由も来てからの態度を見ても、アルに気持ちがあると

いう事だと思うんだが。

これまたどう考えても、あのにぶとんかちなアルがその辺の微妙な心情に気が付い

ているとは思えない。


 まあ、アーセの興味が俺に移った分それほどの問題にゃならんだろ。

なんとなく最終的に、優柔不断なアルが姉妹揃って嫁にしそうな気もするけど。

まあそうなったら、父親であるキアラウにどんな目にあわされるかわからんがな。


 アルのいい加減慣れておかないとというのは、単純に俺が居ない事もっと言うと

俺の操魔術が無い事を自覚する事。

それを踏まえた上で、今後の自分なりの戦い方を模索しているようだ。


 ほどなく朝食を終え、それぞれが席を立ちメイプル館を後にする。

アル達四人は傭兵ギルドへ、俺とアーセは捜査本部へと足を運ぶ。

連日感じている事だが、眠る事も食べる事もこうして歩いているだけで、何もかも

が新鮮に映る。


 まさに比喩では無く、俺は生まれ変わったんだ。

これからは忙しくなるぞ、不思議アイテムの解析からの新しい魔術の構築。

各国のダンジョン踏破に、最奥にあるアイテムの回収などなど。



 ようやく本当の意味で、俺のこの世界での冒険が始まるんだ。



ー完ー


最期までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。


魂のみの存在が、肉体を得るという物語でした。


この先は蛇足になりそうなので、ひとまずここまでで、この御話は閉じさせていた

だこうと思います。


次回作は、もっと頑張ります。


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