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第152話 現状 付き添いの日々

 ミガ国にある迎賓館のトイレの個室にて、自称神様との交渉は続いていた。

神様ことじじいは、俺の慰謝料の要求に対して、顔をしかめて口をつぐんでいる。

ここに籠って結構な時間が経った、そろそろ切り上げないと探しに来られちまう。


「そう嫌そうな顔をするなよ、そんな難しいもんじゃ無い、欲しいのは醤油だ」


 じじいは、しかめっ面から表情筋の力が抜けて、可愛く無いけどきょとん顔をし

ていた。


「……そんなもんで良いのか?」

「そんなもんてな、日本人にとって醤油がどれだけ重要かわかってんのか?

せっかく感覚の同調によって味覚を共有しても、俺の時代の日本食に慣れた身には

どんだけ辛かった事か。

今なら、パンにだって醤油付けておいしく食える自信があるぜ」


 感心した様な、半ばあきれた様な感じで、じじいが口を開いた。


「まあ、そのぐらいならいいじゃろ」

「ちょっと待ってくれ、いくらなんでも少量じゃ困る。

なんてったって、十七年の不当な拘束の慰謝料としてだぞ、十七年。

国家予算並みの補償が必要な所を、醤油で済まそうってんだ。

量に関しては、最大限の便宜を図ってもらわにゃ困る」

「いちいち細かい奴じゃの、そんな大量に渡しても運べんだろうし、保管するのも

大変じゃろうに」


 ここが正念場だ、引き出せるかどうか。


「だから、大きさは普通の食卓にある様な入れ物くらいでいい。

但し、無限に湧き出るようにしてくれ」

「なんじゃと? だめじゃだめじゃ、そんなものは認められんぞ」

「いいじゃねえかよ、そんじゃあ醤油の在庫が切れるたんびに、そっちに連絡すれ

ば送ってくれんのか?」

「わしは、お主の元の世界の通販会社じゃないわい」

「だからだよ、大量に送られても困るし無くなっても困る。

だったらこれしかないだろ? 醤油くらいいいじゃねえかよ」


 むむむむむと唸ったじじい、もうひと押しか?


「別に怪力無双にしてくれって訳でも、時間旅行がしたいって言ってる訳でもねえ

んだからいいじゃねえか。

こっちに拒否権も無く、強制的に転移させられたのをチャラにしようってんだ、そ

れくらい認めてくれてもいいだろ?」


 ことさら大きなため息を吐き、じじいがようやく返答してきた。


「仕方ない、特別じゃぞ特別、今回限りの大盤振る舞いとして授けてやる。

但し、これ以上は一切お主の要望は叶えんぞ、よいな?」

「ああ、わかってる、今回が最初で最後でいいよ」

「あいわかった、それではまず解析の力を授ける」


 じじいがそう言うと、俺の頭の中に何かが流れ込んでくる。

ふと眼の前を見るとそこはトイレのドア、じっと凝視していくと詳しい構造が頭の

中にはいってくる!?


 よしよし、これがあれば……。


「どうじゃ? 問題無いかの?」

「バッチリだ、トイレのドアの材質と工法がわかったぜ」

「そんなもん知ってどうするんじゃ? 

まあよいわ。次は、ほれ手を出さんか」


 言われて鏡を左手に持ち、空いてる右手の掌を上にして広げてみる。

すると、そこに醤油さしが現れた!?

おお、しかも液だれしない上にプッシュ式だ。


「どうじゃ? あまり使いすぎない様にその形態にしといたぞい」

「いい仕事するじゃねえか、大満足だ」

「ふむ、口調はともかく感謝の言葉とは殊勝な心掛けじゃな」


 よし! 予定通りにいったぜ。


「色々あったが、サンキューな、助かったぜ」

「うむ、ワシとしても生身のヒトと話すなぞこれまで無かったのでな、中々に有意

義であったぞ」

「それじゃ俺行くわ、もらったもんはありがたく使わせてもらうからよ」

「それではの、達者で暮らせよ」

「ああ、じゃあな」


 こうしてじじいとの交渉は終った、こちらの思惑通りに。


◇◇◇◇◇◇


「エイジ、おはよう」

「ああ、おはようアル」


 たっぷりと眠ったせいか、伸びをすると体からバキバキと音が鳴る。

メイプル館にて、まぶしい日差しを浴びて爽やかな朝を迎えた。

アルとの朝の挨拶を終えてベッドから降りようとすると、隣からも声がかかる。


「おはようございます、エイジさん」

「……おはよう、アーセ」


 あの闘技場の件から今日で一週間、何故か俺のベッドにはアーセが一緒に眠って

いた。

昨夜アリーは猛反対し、アーセに抱きついて離れないという実力行使にも訴えてき

たのだが、「離してくれないと、嫌いになる」という最終勧告を受け轟沈。


 加えて俺の「付き合っていない男女は、同じベッドでは寝ない」という主張も、

「お嫁さんにして下さい」というアーセの真っ直ぐなまなざしに押し切られ、この

様な次第となっていた。


 勿論、部屋に二人きりと言うのはいくら何でもと言う事で、アルとセルと俺とい

う男子三人部屋にアーセがころがりこむという形になっている。

ちなみに、アーセが呼んだように俺がガウマウでは無いというのは、全員に説明し

てある。


 まあ、ちゃんと納得してくれてるかはよくわからないが、少なくともアーセだけ

は俺がガウマウでは無くエイジだと、これまでアルの中に居たという事を理解して

いるみたいだ。

当面一緒に行動するにあたり、ガウマウとしての記憶は無いし取り繕うにも元々の

性格も良くわからないので、正直に正体を打ち明けようと皆には話が済んでいる。


 セルは俺の存在を知っていたのでまだいいとしても、アリーとシャルは何が何だ

かという感じで終始訳が分から無い様子だった。

アリーやシャルは、あまりアルと二人きりになった事は無かったのでどうかと思っ

たが、他の皆に席を外してもらった部屋でこれまでにアルと行動を共にした際の出

来事を話したことで、ようやくそうなのかも位には信じてもらえたらしい。


 今後は対外的にもエイジと名乗り、あくまでもガウマウと似てるけど別人という

事にして過ごそうと思っている。


 よいしょとアーセがベッドから降りる、トイレにでも行こうとしたのか一歩踏み

出したところでふらついたので、慌てて肩を抱き支える。


「大丈夫か? 疲れが抜けないようなら、まだ寝てた方がいいんじゃないか?」

「平気です、ありがとうございます」

「……何度も言ってるが、敬語じゃ無くていいんだぞ?」


 こう声をかけたのは、俺がガウマウの体に入った翌日から、アーセが毎日忙しい

日々を送っているからだ。

それというのも、彼女が犯人に傀儡術をかけられたとおぼしき、傭兵団『雪華』の

団長パルフィーナの術を解く事が出来たからである。

当然、顔見知りである副団長のレイベルの術も解除した。

術を解除された二人は、一様に著しく疲労してはいたが、他に目立った副作用の様

なものはなく、術にかかる以前と同じ状態に戻ったようだ。


 これにより、捜査本部から他の一連の犯行時に捕えてある容疑者達も、同じ様に

術を解除してくれとの要請があり、これに応えた結果アーセは連日体力の続く限り

働きづめなのである。

なんせ人数が多い上、一人の術を解除するにも時間がかかり、アーセも元々体力が

有る方では無いので、一週間たってもまだ全員終わってはいないのだ。


 俺も、実際にアーセが術を解除する時に同行して見せてもらった。

じじいから貰った解析の力で見てみると、アーセは術を解除する際に精霊魔術を使

っている。

それも、おそらくはこれまで行使する者がいなかった、光の精霊に働きかけて傀儡

術を解除していたのだ。


 アーセ本人に聞いてみたが、昔から一緒に話している精霊で、いつもはジュっと

する時にお願いしているとの事だった。

火の精霊魔術で高温を出してるのかと思ったら、レーザーだったとは……。


 アーセの捜査への協力が終わるまでは、俺達も王都から動く訳にはいかない。


 事件については、とりあえずのところは収束しているが、余波はまだまだありそ

うだと捜査本部のシャリファさんは言っていた。

結局犯人として捕らえたのは、じじいとカプリって女とジャートル国王の姿の奴の

三人だそうだ。


 じじいとカプリについては、意識が戻った後も黙秘を続けていて自白は取れてい

ないが、俺とアルの証言で間違いなく犯人だと認識されているとの事。

特にカプリの方は、アーセが術を解除した容疑者の中の数名から、この女に何かさ

れてから記憶が無いという証言を得られた事で、実行犯の一人と目されている。

ただ、じじいは黒幕だったのか、誰一人として顔を知っている者はいなかった。


 そんな中、ジャートル国王の姿の奴は中身が違うという俺達の証言により、本人

確認が行われた。

王妃や皇太子にご足労願って、それぞれ国王と二人きりしか知らないような事を質

問し、本人かどうかを確認したらしい。


 その結果ジャートル国王の姿の奴は、「我を疑うのか!」などと言ってまったく

答えなかったらしく、逆に先に捕えていた警護総責任者のフェリディオ氏に同じ質

問をしたところ、全て正解したとの事。

これにより、フェリディオ氏とジャートル国王の中身が入れ替わっているのではと

いう、俺とアルの意見が採用され犯人だと断定されたようだ。


 ただ、捜査本部としては犯人達に口を割らせ、犯行の動機や経緯それに実際の手

口また仲間の有無など、洗いざらい白状させたいところながら、奴らは一切口を開

かないらしい。


 術を解除された者達の証言では、カプリ以外にも彼らに術をかけた奴らがいたら

しく、そいつらを捕まえない以上、この事件は解決とはならないというのが捜査本

部の方針らしい。


 それよりも大問題なのは、国王の姿が変わってしまっていることだ。

周りは勿論、本人も現在の姿に違和感しか無いらしく、どうにか元の姿へ戻れない

ものかとミガ国の研究者達が連日試行錯誤しているようだが、今の所解決する糸口

も見つかっていないようだ。


 捕まえてあるじじい達も、何一つとしてしゃべらない為お手上げ状態らしい。

拷問してでも口を割らせたいところながら、じじいは高齢な上健康状態もあまり良

く無いらしく、そんな事をしたらすぐにでも死んでしまいそうで出来ないとの事。


 ジャートル国王の姿のおそらくはフェリディオ氏の方も、拷問でもして体に傷を

つけると、もしも元の体に戻れた時に国王が困るのではないかという事で、こちら

もその方法はとれずにいた。


 その点、カプリって女は何のしがらみも無いが、この女は傀儡術を使うのは判明

しているが、あの魂を入れ替える術を使えるのかどうかがわかっていない。

そもそも、あの術の詳細を知っているかどうかがわからないので、実際に拷問した

ところで知らないから答えられないのか、それとも知っていてとぼけているのかの

判別がつかない為、何の手も打てずにいた。


 俺が慰謝料としてもらった解析の力でも、術を行使するところを見ているならと

もかく、すでに術の効果が定着してしまっていては何の助けにもならない。

実際に見てみたが、傀儡術にかかっているヒトは現在進行形で術が行使されている

ので、解析の力で見るとわかるが、ジャートル国王の姿の犯人と、フェリディオ氏

の姿の国王を見ても特に何もわかる事は無かったのだ。


 しくったな、こういうケースは想定していなかった。


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