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第150話 念願 この時がこようとは

 迎賓館のほど近くで行われた竜と僕らの戦闘は、場所柄多くのヒト達が目にする

事となった。

其の為、竜が倒されその直後にジャートル国王の姿の奴が捕縛された様も、これま

た多くのヒト達が目撃していく。


 自国の国王が捕えられた事にボー然と立ち尽くす者、どういう事かとシャリファ

さんに詰め寄る者、どう捉えたのかはわからないが、とりあえずこの場に於いては

命じられた動きを優先する者と、警護の者達のリアクションも様々だ。


「アルベルト殿!」


 イァイの近衛隊の皆さんも迎賓館から出てきて、その中で副隊長のギリウスさん

が僕に向かって声をかけてくれた。


「ご無事でしたか? お怪我などございませんか?」

「ご心配おかけしました、この通りどこも痛めておりません」


 ギリウスさんは、胸をなでおろし笑顔で喜んでくれる。

こういうヒトが近くにいると、なんか安心するな。


「さっ中の方へ、国王が心配しております、無事の姿を一目だけでも」

「いえ、僕は……」

「そうおっしゃらずに、ささっ」


 そう言って、迎賓館の建物の中へと僕の腕を引っ張り連れて入ろうとする。


「アル、ちょっと」


 と、そこにエイジがアーセを引き連れてやってきた。

さっきのアーセの言葉の意味を確かめたいけど、ちょっと今は無理だな。

……しかし、中のヒトって一体いつから気づいてたんだ? それとも当てずっぽう

なのか?


「アル、悪いが鏡貸しといてくれないか?」

「えっ? うっうん、いいけど」


 なんで今鏡がいるんだろう? まあ、エイジなら信用出来るからいいけど。

そう思って、腰の特製ベルトのポーチから鏡を出して渡した。


「あっ、じゃあちょっと中に行ってくるから」


 セルに向かってそれだけ言い、迎賓館の中へとギリウスさんに連れられて行く。

通されたのは『茎の間』、ここは本来国家間の行事をする場所なんだそうだが、イ

ァイの王族が居る間はイァイ国の近衛隊の詰所になっているらしい。


 今はそこにイァイの王族が全員居るとの事で、ここに通されたらしい。

中に入ると、いかにもな玉座っぽい椅子にふんぞり返ってるヒトが居る。

やだなー、あれが僕の父親とか、どうも謙虚さが見受けられない所が嫌悪感を抱く

理由な気がする。

まあ、国王だからポーズってのもあるとは思うけど。


「ご無事でなによりです」


 こう声をかけてくれたのは、近衛隊の隊長をしているバグスターさん。

このヒトがギリウスさんの上司か、エイジ曰く髭ダルマな見た目ながら温和なギリ

ウスさんと違って、日に焼けた褐色の肌に深いしわが刻まれた顔つきで、鋭い眼光

を放っている。


 そのバグスターさんに促されて、国王はじめ王族の皆さんの前に進み出た。

昨日会食の場で、お祖母ちゃんと紹介されたローラースーさんと、叔母さんだと紹

介されたユーコミンさんは、「大丈夫だった?」とか「怪我はない?」と優しい言

葉をかけてくれるけど、国王は変わらず椅子に座って黙っている。


 もう用事無いなら帰ろうかな、そう思っていたらバグスターさんがこうつぶやい

た。


「陛下、どうなさったのですか? さきほどまであんなに心配してらしたのに、お

声をかけてあげないのですか?」

「……心配などしていない」

「そんな……、アルベルト様が行方不明だと聞かされた時には、三人がかりで止め

なければそのまま飛び出してしまいそうな勢いでしたのに」

「黙れバグスター、それは貴様の勘違いだ、俺は……、そうトイレに行きたかった

だけだ」


 ……なんなんだこのヒト、面倒だな。


「アルベルト様、宜しければ闘技場を出てからどうされたのか、聞かせていただけ

ませんでしょうか?」


 バグスターさんにこう言われ、捜査本部でシャリファさんに説明した様に、もう

一度最初から話をしていく。

皆さんしばらくは静かに聞いてくれていたが、最後のジャートル国王の姿の奴から

竜を出されて殺されそうになったくだりで、待ったの一言が入った。


「待て、どういう事だ? ジャートルが何故そんな事を……」


 そーいや国王同士仲いいらしいもんな、えっとじゃあここはちゃんと説明してお

かないと不味そうだな。

僕がお城の隠し部屋でじじいにやられた事、それに関するエイジの推測を話した上

で、シャリファさん宛ての手紙にあった、闘技場でジャートル国王がされた事、そ

してさきほどのエイジの推測に基づき、ジャートル国王の中身が違うかもしれない

という事を、ゆっくりと説明した。


「……俄かには信じられんが、だとすると、ジャートルの魂はどうなったのだ?」

「わかりません」

「…………」


 絶句する国王に、希望的観測でも気休めになるかと思い言ってみた。


「何しろ聞いた事の無い術ですし、全ては推測の域を出ませんが、可能性としては

そのまま失われたか若しくは、術者の体に入れ替わって入ったかもしれません」

「……つっつまり、互いの魂が入れ替わったと?」

「あくまでも可能性があるというだけで、大した根拠がある訳ではありません」


 と、ここでバグスターさんから質問を受けた。


「アルベルト様、その根拠とやらを教えていただけませんでしょうか?」


 えーっと、ガウマウさんの事をそのまま言うと、じゃあ中身誰なんだって話にな

るよなー、んー、どうすっかなー。


「奴らの口ぶりから察するに、少なくとも二通りのこちらの知らない術を使える様

でした。

一つは対象を操る事の出来る傀儡術、そしてもう一つが僕にかけようとして失敗し

た、術者の魂を対象の体に入り込ませて乗っ取るというか、乗り移る術だと思われ

ます」


 話の流れで、じじいが僕にかける術を傀儡術とは「別じゃ」と言った事や、背中

に手を当てている時に「どういうことじゃ」と失敗を思わせる言動をした事を説明

した。


「それらを踏まえた上で聞いていただきたいのですが、僕が囚われた先には死体が

ありました。

これは、自分の体からはじき出された僕の魂の入れ物にするつもりだったんじゃな

いかと思うんです」


 ガウマウさんのと言わなければ、死体があったくらいは言っても大丈夫だよな?


「ですが、それは少しおかしくないですか?」


 そうバグスターさんは質問してきた。


「仮に入れ替わったとして、元の、その、魂? ですか? 

それが生きているのであれば、後々真相を暴露されてしまう可能性が残ります。

犯人側が、そのようなリスクを冒すでしょうか?」


 なるほど、一理ある、でも、じじいのあの口ぶりからすると……。


「それがですね、僕の魂が入った死体は、後で改めて傀儡術で操るつもりだったみ

たいなんですよね。

自分の近衛として取り立てるとかなんとか言ってましたから」

「!? なんと卑劣な!」


 ……まあそれはガウマウさんに言ってたんであって、僕に言ってた訳じゃ無いん

だけど、そう言う事じゃないかと思うんだよな。


「ですから、ジャートル国王に術をかけた相手に、ジャートル国王の魂が入ってい

る可能性があると思うんですよ」


 あくまでも可能性があるというのは、推測ですよと再度付け加えておいた。

後になって違うじゃないかと言われても困るしね、エイジが居ればもう少し深い考

察ができたかもだけど、うーん、離れてみて初めてありがたみがわかるなー。


 なんてったって、生まれた時から一緒だから、なんか物足りないというか自分が

少し軽くなってしまったような気がする。

とはいえ、これが他のヒトにとっては普通なんだろうけど……。


 早いとこ慣れないとなー。


◇◇◇◇◇◇


 迎賓館周辺にはまだまだヒトが多い、おそらくイァイ国の近衛はアルやギリウス

と一緒に、建物の中に引っ込んだだろう。

だが、ミガの兵士や警ら隊員とおぼしきヒト達が、周りで忙しく動き回っている。


 さてと、いくらなんでもここじゃ落ち着かないな、どっか一人になれる場所に移

動しないと。

まずは、この腰に引っ付いているアーセをなんとかしないとか……。


 さっきの城の中の隠し部屋なら、誰も入ってこなさそうだし静かでいいんだが、

いくらなんでも勝手に入って使う訳にもいかんしな。

……しゃーねー、ここはてっとり早い方法でいくとすっか。


「アーセ、ちょっと手洗い行くから離してくれ」

「……ん」


 ふぅ、ようやくアーセが離れてくれた。

にしても、さっきのアルの中のヒトって……、どこまでわかって言ってんだ?

アーセは考え方が独特で、俺の予想とは悉く違うからよくわかんねーんだよな。


 まあそれは後で確かめるとしてだ、一番近い建物が迎賓館なんであんまり落ち着

かねーけどここで我慢するしかねーか。

セルに「ちょっと手洗いに、すぐ戻るから」とだけ告げておいた。

やっぱ見た目がガウマウだから、セルもよそよそしいってか、慣れない感じだな。


 建物に入り、手洗いの場所を聞いて案内は不要と一人で歩いて行く。

近衛のヒトは、さっきの俺とアルとで竜と戦うのを見ていたらしく、ひとりで歩く

のを認めてくれた、まあトイレまでだしな。

少し歩くと到着、ほー、やっぱりこういうとこは手洗い場にも金かけてんだな。

俺は手洗い場に他のヒトが居ないのを確認し、個室に入ってさっきアルから預かっ

た鏡を取り出した。


 さて、出来るかどうか、まあなんとなくいける気はしている。

こんな原理のわからん代物、どー考えても作ったのあのじじいだろーからな。

だったら、向こうにも繋がるはずだ。


 これでやっと色々聞けるぜ、十七年分たっぷり聞いてやっから覚悟しろよ。

本物か偽物か知らねーけど、俺を此処へ送った張本人だかんな、まあヒトかどうか

はわからんけど。


 個室の中で鏡を手に取り、コンパクト型になっている蓋を開け、こう呟いた。


「ワース」


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