第149話 中身 ……なんでわかった?
セルフェス達一行は、闘技場を後にしてまずは門まで走った。
アルがここから連れ出されていれば、急ぎ追わなければならないと。
到着し門番に確認したところ、誰一人としてここの門を通った者はいないとの事。
まずは一安心、これでアルが門の内側にいるのが確定だ。
続いてどうするか話し合い、迎賓館へ行く事に決定した。
これは、アルが行方不明なのをイァイの王族や近衛隊のヒト達に知らせる目的が一
つ、二つ目にミガ国のジャートル国王が迎賓館へ行くと言っていたのが気になった
からである。
出来れば、知らせに行く者とアルを探しに行く者に分けて動きたかったが、まだ
まだ何があるか油断できない以上、全員で行動する事を選んだのだった。
最も、セルフェス以外はこの敷地内のどこに何があるのかを把握していないので、
別れたところで迷子になる事必至なのだが。
そうして、一つ固まりで迎賓館へ移動する。
しばらくして到着すると入口に居た近衛隊員に、面識のある副隊長のギリウスを呼
んでもらう事に。
やって来たギリウスに対して簡単に経緯を説明すると、すぐさま詳細について尋ね
られ、二度手間で時間をかけるのを避けるために、直接近衛隊の隊長であるバグス
ターの下で報告を行った。
すぐに捜索隊を編成するギリウスと、国王に知らせに行くバグスター。
セルフェス達は、ここでの役目を終えたとしてアルを探しに外へ出る。
そこで見たのは、大きな銀の竜に相対する二人だった。
◇◇◇◇◇◇
「キシャァァァァァァー!」
「アル! ボケっとしてんな! 剣を抜け、征龍剣だ!」
「……はっ!?」
いきなりの竜の顕現と、現れた途端の咆哮により放心状態になってたみたいだ。
エイジに言われて、やっと体が動いた。
竜の声って、なんかヒトの体を硬直させる効果とかあるのか?
いかんなこんなんじゃ、こういう時こそ冷静にまずは相手を観察だ。
大きな体の割には甲高い鳴き声、イァイの白い竜とは色が違うだけじゃ無いのか?
僕は、エイジに言われた通りすかさず征龍剣を抜くも、エイジは何も持ってない。
「アル、『阿』と『雲海』借りるぞ」
「うん」
でも、征龍の武器じゃないと竜を攻撃するのは無理って言ってたのエイジじゃん
か、『阿』と『雲海』でどうすんの?
……っつっても征龍剣はいいけど、剣でこのでっかいののどこを狙えと?
首までは届かないし、かといって足斬りつけたくらいでなんとかなるのか?
「下がれ! アル!」
「へっ?」
いざ斬り込もうかというタイミングで、いきなりエイジに声をかけられた。
何かと思ったら、竜が動きだし右足を踏み出して体を捻るのが見える。
体が回転して背を見せたと思ったら、ブォォっと唸りを上げて尻尾で薙いできた。
危な、下がるのちっとでも遅れてたら、それだけで人生終わる。
向こうの方で国王の姿をした奴が、舌打ちするのが聴こえた。
尻尾が空振りに終わった竜が、今度はこちらを向いて少し顔を上にあげたような。
「キシン! 盾を構えろ! アル、こっちだ急げ!」
「!? ガウマウさんか?」
再びのエイジの叫び声、また竜の攻撃か?
って今返事したのキシンさん!? いつの間にか右後方にキシンさんや皆が居る。
そしてそこへと走り出すエイジ、っと僕も急いで行かないと。
ガウマウさんの姿のエイジの指示通り、その場で盾を構えるキシンさん。
「全員キシンの後ろへ行け! キシン踏ん張っとけよ、きついのくるぞ!」
遅れた僕がキシンさんの後ろに隠れると同時に、竜の口から放たれた真っ白い何
かが襲ってくる。
押し込まれない様に、キシンさんの腕や背中をエイジやセルが支えていた。
「キシン、剣持ってくぞ」
そう言ってエイジは、キシンさんに運んでもらった盾と対になっている、片手剣
の方の征龍剣を引き抜いた。
「アル、俺が右足でお前が左足、このブレスが止んだら一気に突っ込んで斬りかか
るぞ、いいな?」
「わかった」
「離れたら向こうが攻撃しやすくなる、出来るだけ引っ付いてろよ。
そのまま奴が膝を付いて、頭の位置が低くなるまで攻撃だ」
エイジがそこまで言ったらブレスが止んだ、すかさず突っ込むエイジと僕。
「キシャァァァァァァー!」
竜が吠えてくる、これは威嚇か?
そのまま突っ込んでいく僕らに向かい、踏みつぶそうとしてか足を踏み出してくる。
よりによって、僕の方へと。
ふん、いくらなんでも、あんなのに踏みつけられる程鈍く無いよ。
踏み込んでくる足を避けつつ、すれ違いざまに征龍剣を横に一閃する。
……もっと固いの想像してたけど、意外に簡単に刃が通ったな。
「アル! ぼけっとすんなよ! 続けて斬りつけろ!」
おっと、エイジも難なく斬れたらしく、何度も竜の足を斬りつけながら僕の様子
まで見てくれてるみたいだ。
竜がたまらず地面に膝をつく、これ案外簡単に済みそうだな。
これでジャンプするなりなんなりで、まあ無理すればなんとか首に剣が届く、後
は僕かエイジが首を斬り落とせば多分終わるなっと。
項垂れる様に首が下がってきて、もう少しもうちょいなんて結構気楽に考えてた。
これが油断ってやつなんだってわかったのは、竜がカパーっとでっかい口を開けて
僕を見据えて照準してるってわかった時だ。
……あっ、これ僕終わった。
盾を持ってるキシンさんは遥か後方、避けるのも間に合わないと思わされるほど、
竜の口の中に真っ白い光が収束しているのが見える。
僕がその場で固まって目を見開いていると、突然バクンと音をたてて竜の口が閉
じられた。
一体何が……、そう思っていたら竜の顎の下から『阿』と『雲海』が突き上げてる
のが見えた。
……そっか、ダメージは与えられなくても、こういう使い方もあるのか。
「ぼけっとしてんなアル! 常に動き回って斬りつけろ!」
再びのエイジの激に、今度こそ油断しまいと気合いを入れて斬りまくる。
斬りつけるとその切り口からは、靄みたいな白いのがにじみ出て消えていく。
……生物じゃないから血とか出ないのか、これは体を構成している魔力なのか?
足下に居る僕らには攻撃し辛いのか、竜は踏みつぶす以外の行動をとらなくなっ
てきた。
腕が短くて僕らまでは届かないし、口から何か吐こうとしてもエイジが操魔術で阻
止するから、他に出来る事が無いんだろうな。
なんか、竜に段々と覇気というか元気が無くなってきた気がする。
心なしか動きが鈍い様な……、これは斬りつけるたびに漏れ出してるのが効いて、
力を失っていってるのか?
いよいよ鈍重となった動きの竜に、止めとばかりにエイジが宙を舞う。
征龍剣を口にくわえて、『阿』と『雲海』を握って竜の頭上へと。
そこから、『阿』と『雲海』を手放し両の足の裏へと移動させ、口にくわえた征龍
剣を持ち直して、下へと移動しながら竜の首を両断した。
「ギッィィィィー」
断末魔の叫びをあげ、斬り落とされた竜の首は、僕のすぐ前に落ちてくる。
……なんだか恨みがましくこちらを見た気がする……、すぐに白い靄になって消え
てしまったけれど。
これで終わったのかな?
「にぃ!」
キシンさんの後ろから、アーセがこちらに駆けてくる。
ぽふっと僕に抱きついてきたので、心配してるかなと思い頭をぽんぽんして「大丈
夫」と告げる。
すると、なぜかきょとん顔で僕を見上げるアーセ。
どうしたんだろう? 向こうでは、シャリファさんの指示で国王の姿をしたあい
つが捕縛されている。
まるで抵抗しないところをみると、おそらくは魔力枯渇を起こしてるんだろう。
僕もあれ出しただけで、結構ふらっときたもんな。
ひとまずこれで安心だな、って今度はアーセが首をかしげて不思議そうに僕を見て
いるんだが、どうしたもんか。
「にぃ?」
「どうしたんだアーセ、何か気になるのか?」
アーセは、僕から体を離して小首をかしげている、何故に疑問形?
セルやシャル、それにアリーとキシンさんも僕の方へと駆け寄ってきた。
そこに、エイジが近づいてくると、シャルが目に見えて緊張しだしたのがわかる。
あー、見た目がガウマウさんだもんなー、そりゃシャルはカチコチになるかー。
セルに、ナルちゃんとレイベルさんは無事で、捜査本部で預かってもらってるから
と報告をした。
そんな話をしながらふと見ると、近づいてくるエイジに気が付いたアーセが、その
場で固まり動かなくなる。
はて? シャルはともかくアーセは特にガウマウさんを意識してはいなかったと
思うんだけど……。
アーセの挙動がどうにもおかしい、今度は僕とエイジを交互に見比べて何度も何度
も首をひねっている。
そうかと思ったら、僕から離れてエイジの傍に近づいていく。
そんなアーセを見て、アリーがすかさず割って入ろうとする。
僕との事はなんとか我慢できても、僕以外と接するのは許容できないらしい。
「アーセちゃん、お義兄さんとガウマウ氏はお話があるみたいですから、このお義
姉ちゃんと一緒にあっちに行きましょう?」
「や」
しかし、そんな事はお構いなしにアーセはエイジにぴったりとくっついた!?
身長差の関係で、アーセが見上げエイジが見下ろしている。
見つめ合っているが、エイジは事態についていけて無い様子で、若干不思議そうに
アーセを見ているみたいだ。
「にぃ?」
「……違うぞ、アルはそっちだ」
そう言いながらエイジは僕を指さすが、アーセは動こうとしない。
それどころか、がばっと両手をエイジの体に回してアーセが抱きついた!?
何事かと狼狽えるエイジに、アーセはこうつぶやいた。
「にぃの中に居たヒト?」