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第143話 波動 嫌な嫌な嫌な感じ

 合同捜査本部にもたらされた、闘技場における事件の前と後で変化した事。

それは、現場から姿を消した者が複数人いるという事実だった。

勿論、迎賓館に避難したミガとイァイ両国の王族と宰相フェザードは除く。


 まず、貴賓席に招かれていたアルベルトという『羽』の男性と、ナルールという

女性の二名。

同行した者達からの聞き取りでは、この二名は事件に巻き込まれたのだと主張して

いるそうだ。


 最初に闘技場で騒ぎが起きる直前に、アルベルトという者が全員に声をかけて、

ここから出ようと告げ自らが真っ先に部屋を出たらしい。

他の者もその後に続いたが、部屋の出口で小競り合いがあり収まった時にはすでに

アルベルトの姿は無かったそうだ。


 彼の足取りだが、貴賓席近くの直通階段を見張っていたイァイの近衛が、そのま

ま階段へと通したらしい。

これは、こちらの捜査員が現場のミガ国の警ら隊員に聞いた話だ。

なぜならば、イァイの王族が全員迎賓館に避難しているので、その近衛の者もそち

らに行っていて、まだ本人に直接話が聞けていないからである。


 あの階段を通ったとなると、すでに闘技場の外に居るのは間違いないだろう。

だが、仲間と離ればなれになっているとあらば、互いに安否が気になるところ。

事実、闘技場に残っている仲間達からは、彼の無事を確認してくる者が多かったそ

うだ。


 この様な場合、自分の後ろからついてくるはずの仲間がいなければ、階段の途中

若しくは外に出たところで待っているのが普通だが、彼の姿はどこにも無い。

最初に声をかけている事から、単独行動をするつもりだった訳では無いのだろうと

思われるが、今のところ彼の行動の理由はどうにもはっきりしない。


 ナルールという女性は、その前に手洗いに行ったきり戻っていなかったらしい。

これについては、傭兵団『雪華』の団員とおぼしき女性が、気分が悪くなったらし

いので医務室へ運ぶと、背中におぶった状態で通行を求めてきたので、直通では無

い内部の施設へつながる階段の通行を許可し降りて行ったという目撃証言がある。


 しかしながら、医務室には該当する女性はおらず、今現在行方が知れない状態で

ある。

この事を『雪華』に詳しく聞こうとしたが、こちらはこちらで混乱を極めていた。


 団長のパルフィーナは、貴賓席のアルベルトの仲間に対して攻撃を仕掛けた事に

より捕縛されたが、何を聞いても返答は無くこれまでの犯人達と同じ症状らしい。

さらに、副団長のレイベルはアルベルトを先導しており、一緒に行方がわからなく

なっている。


 そもそも、このアルベルト一行は何故貴賓席に招かれているのか?

彼の仲間には、フェザード宰相の息子と娘もいるらしいが、それは貴賓席を使わせ

る理由たりえない。


 団長のパルフィーナをみるに、どうやら『雪華』は犯人に利用されたようだ。

となると、副団長のレイベルがアルベルトを先導していたというのは、どこかに連

れ去ったという可能性がある。

これは、姿が消えたナルールという者も同様だ。


 そうなると、犯人側の狙いはこのアルベルトとナルール両名若しくはどちらかと

いう事になる。

つまりは、この両名の足取りを追う事で犯人にまでたどり着くかも知れない。


 早速必要な手配をし、ここから未だ見ぬ犯人に対する足掛かりとする。

闘技場直通階段の出口は門の内側、門番からはそのような人物が出て行ったという

報告は無い。

という事は、この敷地内に潜伏しているという事になる。


 だとすれば、内部に詳しい内通者がいる可能性が高い。

とりあえず門の内側ともなればヒトの数も多く、目撃情報も少なくない筈。

これでしばらく待てば情報が集まり、犯人の尻尾を掴めるだろう。


 しかしながら、ここで現地から新たな情報が寄せられた。

それは、観客達が随時解放されていっているという知らせだ。

騒動も一通り収まったとみて、これ以上拘束している訳にはという事らしい。


 だが、これはどうにも得心しかねる。

確かに、いたずらに観客達を拘束し続けるのは、どうかと思われる。

だがまだ襲撃が終わったと決まったわけでは無い、犯人側から終結の声明が出た訳

でも捕まった訳でも無いのだ。


 しかも、ここまでの流れの中で浮かび上がる内通者の存在、これが特定できてい

ない状況での観客の解放というのはいただけない。

と、ここで現場からさらに追加の情報が届いた。


 もたらされたのは、選手控室から女性の遺体が発見されたという知らせ。

あそこは当然関係者しか入れない区画、にもかかわらず闘技場職員にこの女性を見

知っている者はいなかったらしい。


 この女性がどこの誰なのか? そこで何をしていたのか?

誰に殺されたのか? そしていったい誰がそこへ引き込んだのか?

この捜査本部にまで届いているのだ、当然現場にもこの情報は伝えられている事だ

ろう。


 そうなると、ますますこのタイミングでの観客の解放はおかしい。

まずは闘技場関係者と警護の者達の中から、内通者を探り出すべきだ。

そうで無ければ、観客達の中に犯人につながる者がいた場合、見逃されてしまう。


 こちらで分かっている事は、現場でも勿論掴んでいるだろう。

それでいてこの動きは、何か策があっての事だろうか?

……このタイミングではおそらく無い、今は迅速な行動が事件解決に結びつく時。


 であれば、腑に落ちないのはこれらの指示を出している者という事になる。

つまりは、警護総責任者であるフェリディオ、彼に問いただす必要があるだろう。

と、ここまでの考察を副官のシャリファに説明した結果、同意を得る事が出来た。


 いざ出動の段になって、シャリファがジムニードに念を押したのは、逃がさない

ようにや抵抗するかもしれないという注意では無く、やりすぎない様に、これのみ

である。


「あくまでも現時点では重要参考人よ、間違ってもしゃべれないなんて状態にはし

ないでね」

わきまえている、やっと掴んだ手がかりだ、これを逃してこの様な事件を長引かせる

ほど悪趣味では無い」


 今現在、捜査本部に居る中で一名を除いて、残り全員を連れジムニードが現場へ

と急行する。

残されたシャリファは、迎賓館に避難している宰相フェザードに確認をとる為に、

ペンを走らせる。

 

 それは一つには、フェリディオを重要参考人として身柄の拘束をする事。

もう一つは、捜査本部の見解ではあるが、犯人側が狙っていると推測されるアルベ

ルトとナルールの両名は一体何者なのか。


 捜査本部は、これまで霧の中だった一連の事件について、ようやく一筋の光明を

見出していた。


◇◇◇◇◇◇


 こちらは、闘技場の貴賓席のある最上層に未だ取り残されている、アルベルトと

ナルールを除く一行。


「落ち着けアーセ、騒ぐと余計にここから出られなくなるぞ。

アリー、そのままアーセ捕まえといてくれな」


 セルフェスの言った通り、アーセナルはミアリーヌに文字通り抱きとめられて、

身動きを封じられている。

普段であれば役得とばかりに笑顔となりそうなミアリーヌではあるが、今回ばかり

は神妙な面持ちを崩さないでいた。


 アルベルトの姿が消えて、一番動揺したのはアーセナルだった。

普段大人しく物静かなことから、周囲には常に落ち着いている様に見えていたが、

ことアルベルトに関してだけは直情径行気味だったなと、キシン以外のメンバーは

過去の事柄を思い出していた。


「でも、じゃあこれからどうするの?」

「今はアルからの連絡を待つ以外出来ないな。

とはいえそれじゃしょうがないから、此処を出られる様になってからの動きを決め

ておこう」


 セルフェスとシャルフェスの兄妹の会話に、他のメンバーが無言で頷く。


「まずは現状の確認だ、アルはこちらと連絡をとろうと思えばいつでもとれる。

しかしここまで音沙汰なし、アルが戦闘に於いて早々後れをとるとは思えない。

そうなると、此処にいない事からおそらくはナルールさんを人質にとられていて、

動きがとれない状態だと思われる」


 セルフェスは一度言葉を切り、皆の顔を見回してから再び口を開く。


「闇雲に動き回ってもアルの居所はわからないだろう。

それどころか、不審人物としてこっちが捕まってしまうかもしれない。

だからとりあえず、迎賓館に行ったらどうかと思う。

イァイの何度もメイプル館に来てくれた近衛のヒトなら、俺たちの事を知ってるだ

ろうから、アルが行方不明だって事と探すのに協力して欲しいって話したらどうか

と思うんだ」


 キシンも事情は聴いていたので、特に口をはさまずに聞いていた。


「他に何か思いつく事は無いか?」

「……ねえ、お父さんには、その、言わなくていいの?」

「どこに居るかわからないし、さっき警備のヒトに聞かれた事の報告があがるだろ

うから、特にこっちから知らせなくてもいいだろうよ」


 現在、父と気まずい関係にあるシャルフェスだが、ミガ国宰相である父に知らせ

た方がと思い口にしたが、兄のセルフェスから不要と断言されてしまった。


「キシンさんは何かありますか?」

「……ねえな、勝手が違い過ぎてどう動いていいかさっぱりだ」


 セルフェスが少し遠慮気味にキシンに問いかけるも、他国であり単に客として来

ていただけのキシンとしても、答えは持ち合わせていなかった。


「アリーは? 何かあるか?」

「とりあえず迎賓館に報告へ行くのは賛成します。

それ以外は、その報告次第で何か指示があるかもしれませんので、現時点では特に

は無いですね」


 ミアリーヌは、諦念をにじませた表情でそう答える。

セルフェスは、この場に居る最後の一人アーセナルにも聞いてみた。


「アーセは何か意見あるか?」

「……パルフィーナさんに会いたい」

「? パルフィーナさん? 会ってどうするんだ?」


 他のメンバーは皆一様に不思議がっている。

さきほど捕縛された際は、かなり暴れてどう見てもまるで話が出来る状態とは思え

なかったのだ。


「会って、お話してみる」

「お話って、あれ見てたろ? とてもじゃないけど話せそうに見えないぜ?」

「お部屋で挨拶した時は感じなかったんだけど、さっきは、こう、何か変な感じが

したから、気になって」


 今一つ、アーセナルが何を気にしているかはわからなかったが、単独行動はしな

いというパーティーの取り決め通り、ひとまず全員でパルフィーナに面会出来ない

かを聞くことに。


 アーセナルは、あの時感じた嫌な波動を思いだし、ブルっと身震いした。


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