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第142話 萌芽 敵さえ認識できれば

 喧騒冷めやらぬ闘技場を後にして、僕はレイベルさんについて行く形でお城へと

向かっていた。

先に脱出した国王様達は、どこへ向かったのかわからない。

黙ってついて来いと紙に書かれていたので、僕は無言で歩いているがレイベルさん

もまた一言も発しない。


 これはやっぱり、敵に操られて自我が無い状態でしゃべれないんだろうか?

警備のヒト達は、大半が国王様達に着いて行ってしまったのか、まばらにしか残っ

ていないようだ。

僕らは、レイベルさんが先導している形なので、警備のヒト達にも顔を知られてい

るのか、特に呼び止められる事も無くただただ歩き続けていた。


【エイジ、これからどうなるのかな?】

【……正直わからん、ただ、アルが操られたら最悪だな】

【その時は、エイジが代わりに僕の体動かすって出来ないのかな?】

【それもわからんよ、大体実際どうやってるのかがわからないんだから。

術なのか薬なのか、それとも何らかの機械によるものなのかも不明だしな】


 少々緊張感の足り無い魂話だけど、暗くなるよりは全然ましなはず。


【しかし、アルを人質にしてレンドルトを脅すのかと思いきや違うって事は、敵は

やっぱりアルが目的だったって事だな】

【でもさ、ずっとイァイの王族狙ってた訳でしょ? 

大体僕がそうだって判明したのはさ……】

【つまりは、あの場に居た誰かが黒幕若しくは内通者って事だろうな】

【このままだとお城に着きそうだけど、そうするとミガの誰かって事?】

【……微妙だな、わざわざこんなミガ国の象徴みたいな城へってのは、どうにも違

和感が残る】


 うーん、ここまできて正体隠すかなって気もするけど、エイジが言う事もわかる

しなー。


【ねえエイジ、いくらなんでも、レイベルさんがミガのお城へ入るってのは、流石

に入口辺りで止められるんじゃないのかな?】

【ああ、案内役が交代するようならミガ国の誰かの犯行、代わらないとすればすで

に城の中が制圧されてるって事で、ミガ国以外の奴が犯人って事だろううな】


 どちらにしても、この後すぐにご対面って訳か。


◇◇◇◇◇◇


 その頃、騒ぎの元となった『グラシーズ円形闘技場』では事態が収拾していた。

階段に立ちはだかっていた有名選手たちは、軍と警ら隊の人海戦術で押し込んで辛

くも鎮圧し身柄を拘束。


 闘技場から観客席に向けて精霊魔術を放っていた者達も、警備の手によって取り

囲まれて捕縛された。

この後にも何か? と警戒されたが幸いにして特に何も起こらずにいる。


 ただ、短い間とはいえ無防備な観客達に向けて放たれた精霊魔術は、多くの怪我

人を生んでしまっていた。

其の後の、狭い階段に逃げまどう観客達が押し寄せたことにより、将棋倒しとなっ

て階下へと落ちてしまった者も合わせて、現場は野戦病院の如く怪我人が溢れてし

まっている。


 そんな闘技場の最上層に、アルベルトを除く一行が取り残されてしまっていた。

あの時、アルベルトが部屋を出た後に続いたのは、最も体が大きかった事で観戦席

の中で一番後ろに陣取っていたキシンだった。


 彼が部屋を出た途端、目の前には『雪華』団長のパルフィーナが居た、ハルバー

トを大上段に構えた形で。

そのまま振り下ろされた斧の部分では無く、柄の所を片膝を付くように沈み込みな

がら、咄嗟に頭上に己の左右の片手剣を交差させて受け止めた。


 しばしの力比べでこう着した状態も、態勢を整えたキシンがパルフィーナを打ち

負かす事でその場は決着となる。

取り押さえたパルフィーナに縄をかけて拘束したのは、皮肉にも『雪華』の女性団

員達であった。


 力に関しては女性よりも優れた男性、しかも種族としても最も力があるとされる

『角』であるキシンにとっては、奇襲である初撃さえ防いでしまえば武器のみでの

闘いに於いて、パルフィーナ相手に後れをとる要素は無い。


 しかし、すでにその時点で周りを見回してみても、アルベルトの姿は何処にも無

かった。

それまで、入口付近で闘うキシンの体のせいで外に出られなかった面々も、ようや

く部屋の外へと出られたものの、アルベルトが居ない事に気付く。


 すぐさま探して合流したいところではあったが、警備の関係者からこの騒ぎを起

こすのに手引きした者を探り出す為、出入り口を封鎖の上観客達のその場からの移

動を禁じるとお達しを受けてしまう。


 アルベルトがイァイ国王の直系である事は、イァイの近衛隊の者ならば全員認識

している。

そこで、ゼマ国女性工作員カプリはナルールをトイレで捕えて意識を奪い、気分が

悪くなったようだとして医務室へ運ぶとその場から連れ出した。

そうしておいて、次にトイレを見回りに来たパルフィーナとレイベルに傀儡術をか

け手駒とする。


 事が起きる直前に、最上層から直通で出口へと繋がる通路付近にいるイァイ国の

近衛隊の者に、「アルベルト様を極秘で避難させるようにと指示があった」と告げ

退路を確保する。


 この場はミガ国の警ら隊と軍の兵士が多く集まっていたが、貴賓席はそれぞれに

近くに直通通路があり、ここを使うのはアルベルト一行のみだとして、あえてイァ

イ国の近衛隊にこの場の警備を割り振ったのは、警護総責任者であるフェリディオ

であった。


 本来、近衛隊の隊長や副隊長に確認の指示を仰ぐ所、すぐさま聞こえてくる観客

の悲鳴によって緊急事態だと判断し、通行の許可を出す。

其の為、アルベルトが『雪華』副団長のレイベルに連れられてきた事にも、告げに

来た女性工作員カプリを『雪華』の団員と勘違いしていた事もあり、何の疑問を抱

く事も無かったのであった。


◇◇◇◇◇◇


 一方その頃、イァイの王族及びミガ国皇太子のリントと宰相フェザードは、共に

混乱する闘技場を後にして、迎賓館へと避難して来ていた。


 セルとシャルの父親であるミガ国宰相フェザードは、皇太子リントを連れて城か

ら隠し通路を抜けて王都の外へと逃亡する事も考えたが、十分な警護の人員を確保

できていない現状で、もしも外で待ち伏せされていては対処しきれないと判断し、

一旦ここを避難場所と定めたのだ。


 また、ミガ国皇太子リントとイァイ国第六王女ユーコミンはこの度婚姻する。

そうなればもう身内であり、それならば一緒に行動するのが当然との想いもあって

の事だった。


 ここ迎賓館には、闘技場から着いて来て守ってくれていたミガ国の警ら隊員と軍

の兵士に加えて、イァイ国の近衛隊士及び宮廷魔術師が防備を固めてくれている。

特に、宮廷魔術師は御前試合の観戦を辞退した事で、この場に全員が揃って居た。


 元々、宮廷魔術師というのは王族が精霊魔術で攻撃された際に、それを相殺若し

くは防ぐ事で近衛隊と共に王族の盾となる事であった。


 宮廷魔術師達が闘技場へと行かなかったのは、貴賓席がある最上層は建物の構造

上、直接精霊魔術で狙われることが無いという理由が第一。

続いて、武器を使った試合自体に興味が無いというのが第二。

しかし一番大きな理由は、貴賓席には『魔散石』が設置してあるので、居たところ

で役に立つ事が出来ないという情けないものであった。


 それはさておき、ここ迎賓館にはそもそも御前試合の観戦を予定していない、イ

ァイ国からここまで王族の身の回りを世話してきた侍従などもおり、武力では無い

ものの安心感を与えるという意味では、心強い布陣が敷かれていた。


 他方、ミガの国王であるジャートルは、未だ闘技場の最上層に留まっている。

これは、すでに皇太子を避難させている事と、この上層までは攻撃されないであろ

うという予想と、実際に騒ぎが沈静化してきている事の三つの理由による。


 最上層の南側にある警護本部で差配をとる、警護総責任者フェリディオと共に事

態の成り行きを見守っていた。

怪我人の治療を指示しつつも、いつまでも観客達をこの場にとどめておくことは出

来ないとして、フェリディオは出口にて警ら隊員が簡単な聞き取りをした後は、順

に解放するよう言いつける。


 このように、現場は次第に落ち着きを取り戻しつつあった。


◇◇◇◇◇◇


「そうね、私も同意見」

「わかった、ならば動くぞ! 用意を整え次第現場に向かう!」


 その言葉を受けて、警ら隊員たちが慌ただしく動き出す。

ここは、警ら隊本部にある合同捜査本部、副官のシャリファの同意がとれた事で、

警ら隊総隊長であるジムニードが号令を下した。


 警ら隊本部があるのは、中央庁舎の法務省庁舎2号館という『グラシーズ円形闘

技場』にほど近い場所である。

其の為、情報はリアルタイムとまではいかないまでも、それほどかからずに入って

くる。


 ジムニードは警ら隊総隊長として、本来であれば闘技場にて王族警護の任に就く

所だが、警護総責任者としてフェリディオが就任した事で現場を彼に任せ、自身は

捜査本部に詰めて副官のシャリファと共に、これまでの証拠や考察などによりこの

度の事件の捜査を進めていた。


 そんな中で入って来た闘技場での一連の騒ぎの一報、其の後も現場での動きを逐

一報告させた。

ジムニードとシャリファの二人は、この場で情報を受け取りつつ今回の事件の持つ

意味や、今後の展開を話し合いながら予想していく。


 ほどなく収まった現場に於いて捕縛されたのは、これまでの二件と同じ暴れるの

みで何もしゃべらない者達。

この事から、今回の事件も先の二件と同一犯と断定する。


 しかしながら、これまでと決定的な違いが一つ。

それは、襲撃対象が王族では無いという事。

この事から、追撃があるのではと緊張が走ったが、ここまでは特に動きが無いよう

だ。


 となると、今回の事件は何を目的として行われたのか?

此処までの二件から、この事件の犯人がただいたずらに騒動を起こし、無差別に殺

傷しようとしたとは思えない。

 

 意味があるとすれば陽動、という事はこの騒動を隠れ蓑にして、犯人は何らかの

動きを見せたはず。

そう考えるに居たり、まずは早急に王族の所在と現況について調べる様にと、部下

を放った。


 ミガ国王ジャートル陛下は、闘技場の警護本部にて事態を見守っている。

レイビー王妃とリント皇太子は、宰相フェザードと共に迎賓館に到着。

ここには、イァイの王族全員すなわちレンドルト国王とローラースー皇太后それに

ユーコミン第六王女も居る。

全員が無事でありその事は喜ばしいが、この時点で敵の狙いがわからなくなってし

まう。


 そこで、何か現場で変化があったかを調べさせたところ、面白い事実が浮かんで

きた。


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