第137話 目力 なんでこんなににぶいんだ
眠い目をこすりながら支度して、一階へと降りる。
すでにテーブルにはシャルとアリー、それにラムシェさんとナルちゃんもいて、ど
うやら僕らが最期みたいだ。
互いに挨拶を交わし、楽しくおしゃべりしながら食事をする。
? なんかちょこちょこナルちゃんと目が合うな、なんだろう? なんか言いたい
事でもあるのかな?
はっ! まさか、マルちゃんから手紙かなんか預かってるとかかな?
……だったら昨夜の内に渡してくれるよな、まあいいか、どのみちしばらく一緒な
んだから、なんかあったら言ってくれるだろう。
「ほー、個室で観戦たあ豪勢なこったな」
「キシンさんもどうですか? 少し位見に行きませんか?」
「んー、ちっと見たい気もするが、出るの遅くなると厳しいからよ」
「でも他のヒトはともかく、ガウマウさんは今日じゃ無いとそうそう見れないんで
しょうから、一見の価値あるんじゃないですかね?」
「何?」
僕の言葉に食べてた手を止め、キシンさんは一言そうつぶやく。
その表情は、女性だったら間違いなく身の危険を感じるような迫力で、知り合いだ
し何もされないとわかってる僕でさえ、少し引いてしまう程の顔面力だった。
びっくりしただけで法に触れそうなあの顔つきは、僕の密かな憧れでもある。
いつの日にか、僕もあんな相手を圧倒するような強力で兇悪な顔面を手に入れたい
ものだ。
「ガウマウさん、招かれてたのか……」
「? 知り合いなんですか?」
「ああ、昔ちっとな」
「体調は万全みたいですから、期待できますよ?」
「何でそんな事知ってんだ?」
「昨日宿泊されてる所へ会いに行ったら、快く迎えてくれて一緒にお茶してたんで
すよ」
ほーおという擬音が当てはまりそうなキシンさんの表情は、思わず有り金全部を
渡しそうになるくらいの威圧感がある。
その後、僕とガウマウさんとの出会いを説明し、昨日どんな話をしたのかなどをつ
らつらと話しながら食事を続けた。
「そうだ、ラムシェさんもどうですか? 一緒に見に行きません?」
僕らのメンバーじゃ無いのはキシンさんと同じながら、なんとなく蚊帳の外っぽ
くなってるラムシェさんも、興味があるかと思って誘ってみる。
「うーん、興味が無い事はないけど、団のミーティングがあるから私はいいわ」
しかし、あえなくお断りされてしまった。
「ねえナル」
「ん? なーに? お姉さん」
「ナルは闘技大会は見た事無かったわよね?」
「うん、初めて」
ナルちゃんと話してたラムシェさんが、僕の方に向き直って話しかけてくる。
「アル君」
「はい?」
名前呼ばれただけなんだけど、ラムシェさん相手だとやっぱり緊張するな。
「ナルは初めてでよくわからないだろうから、色々教えてあげてね?」
「んーっと、何分僕も初めてなのでよくわからないんですけど」
「そんなに難しく考えないで、どっちが強そうだとかどういう攻撃しそうとか、其
の位でいいから、ねっ?」
言われてみれば、確かにナルちゃんは戦闘なんて全然わからないだろうしな。
「わかりました、僕で分かる範囲で解説しますよ」
ナルちゃんはラムシェさんに顔を向けていて、僕の方から表情はわからない。
でも、僕から見えるラムシェさんはとってもいい笑顔だ。
こうして見てると、仲の良い姉妹って感じでとても微笑ましい。
【アル】
【あっ、おはよー、何? エイジ】
急にエイジに話しかけられた、何だろう?
【おはよ、あのさ、この後御前試合見に行くだろ?】
【うん】
【ちっと荷物だけど、キシンに持って来てもらった剣と盾、あれ会場に持って行く
ようにしてくれ】
【ちょっと待ってよ、もしかして龍と戦うって事?】
征龍の剣と盾が必要になるなんて、じゃあ王家の誰かとっていうかどっちかと敵
対するの?
その前に、どちらかが龍を出してくるって話しなの?
【話したろ? 国王が操られた時の保険だよ】
…………そうだった、その対策のためにわざわざ手紙送ってここまで持って来て
もらったんだった。
【じゃあ、エイジは御前試合で犯人が何か仕掛けてくるってみてるの?】
【ああ、奴らはイァイの王家がオューに到着したその日に襲撃してきた。
日程をみると、その次に公の場に姿を現すのがこのイベントになる。
法則がある訳じゃ無いけど、今回が安全だという保障は無い以上出来るだけの備え
はしておきたい】
エイジとそんな魂話をしていると、皆食事を終えたらしく一旦部屋に戻ろうとい
う話になった。
【なあアル、ナルールの事はどうするつもりだ?】
ここまでの話の流れをぶった切って、突然エイジがそんな事を言い出した。
【どうって、ラムシェさんにも頼まれたから僕に出来る範囲で解説しようと思って
るけど】
【いや、そういう意味じゃなくってよ】
【ああ、確かに何かあった時には危険だよね、わかってる、ちゃんと守
るよ】
【そういう事でもなくてだな】
「アル、お前いつまで座ってんだ? おら、部屋行くぞ!」
いつの間にかテーブルに居るのは僕だけで、キシンさんに大声で怒鳴られてしま
った。
とりあえず、部屋で話して襲撃がある前提で皆に心構えだけでもしてもらおう。
◇◇◇◇◇◇
晴れ渡る空の下、王都オューにある御前試合の会場である『グラシーズ円形闘技
場』は、開始一時間前だというのに熱気に満ち溢れていた。
すでに観客席はほぼ満席で、空いているのは三つある貴賓席という名の部屋の内、
残りの二つだけとなっている。
この闘技場は、形はその名の通り円筒形で、俯瞰で見ると南北に長く東西が短い
楕円形だ。
収容人員五万人を誇るここは少々立地が特殊で、その約半分ほどが中央省庁の建物
が並ぶ門の内側に入っている。
これにより、民衆は観戦するのに門の外側にある五つの入場口から入り、王族は城
から直結している門の内側から直接会場入りできるようになっていた。
ミガの王族はお城を出て、迎賓館にてイァイの王族と連れだって専用通路を進ん
で行く。
周りを固めるのは、ミガ国の軍隊及び警ら隊員並びにイァイ国近衛隊である。
鉄壁の布陣もさることながら、警護する者には本日襲撃される確率は低いという見
方が大半であった。
まずは入場時、これは門の内側という事で門が突破されない限りは問題無い。
先の事件を教訓にして、本日門は閉じてあった、ちなみに鉄製である。
闘技場内では、王族は貴賓席と呼ばれる部屋にて観戦する事となっていた。
本日は人数が少ない事もあり、一部屋にて両国の王族が揃ってとなる。
犯人側で判明している数少ないうちの一つが、実行犯が皆一様に正気を失ってい
るがごとく、話がまるでできない事。
これを踏まえて、入場者一人一人に担当者が軽く声をかけて、反応が無い者は中に
入れない事を徹底している。
これにより、無理やり入場口を突破されない限り犯人側は闘技場には入れない。
少なくとも、こっそりと入場しておいて後から騒ぎを起こす事は出来ないであろう
と思われた。
貴賓席は当然警護を固める事から、何かあってもすぐに裏手から城まで避難する事
が可能となっている。
仮に、開始後に入場口から犯人側が入って来たとしても、速やかに安全を確保でき
るであろう。
また、一昨日の様な上からという奇襲も、ここへは不可能であった。
『望楼閣 テェジク』は門から見て東側、この闘技場は門からはかなり距離のある
西側に建てられている。
その事からテェジクからは届かない、周囲にはそれに見合う高さの建物も無い。
それらの事から、失敗する未来しか見えないとの見方で占められている。
あくまでも、本命はミガ国皇太子とイァイ国第六王女との婚儀の後の、王都のパレ
ードであるとの想いを持つ者が大半であった。
その為、警護する者達には真剣さはあっても緊張感が足りていない。
そして関係者が油断をしていたと知るのは、全てが終わった後であった。
◇◇◇◇◇◇
「ひぇぇぇー」
「シャルちゃん、大丈夫だよ」
僕らは御前試合の観戦に、メンバー五名とナルちゃんとキシンさんという総勢七
名で、闘技場の最上階にある部屋に通され、実際に試合が行われる下を見下ろして
いた。
観戦席は、闘技場をぐるっと囲んで何層にもなっており、その一番上に今回案内さ
れた部屋がある。
闘技場自体には来た事があるシャルも、この部屋は初めてらしく高い所が苦手な
為、中々下に目を向けられずにアーセの手を掴みひたすらびびっていた。
部屋とはいっても調度品の類がある訳では無く、他の席と隔てられて壁に囲まれて
椅子が並んでいるという造りとなっている。
まあそもそもこの高さには普通の席は無く、ここと同じような部屋がかなりの間
隔を空けて、いくつかあるだけみたいだけど。
通路には、これまた一定の間隔を保って警備のヒトが立ち並んでいるという、もの
ものしさだ。
さっきからキシンさんとナルちゃんの視線が痛い。
それというのも、ここに入場する際に受付でマントを見せた後の担当者の慌て振り
に加えて、すぐさまイァイの近衛騎士を名乗る全身鎧のヒトが駆けつけて僕の前で
跪き、ここまで案内してくれたからだ。
昨日の昼食会に同席したメンバーは、どういう事かわかってるから何も言わずに
いてくれたけど、キシンさんとナルちゃんはずっと腑に落ちないようで、僕に対し
て説明を求めるように目で訴え続けていた。
これどうするべきなんだろうか?




