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第135話 経過 苦労してんな

 王都オューの迎賓館、イァイ近衛隊の臨時の詰所としている『茎の間』に、メイ

プル館からギリウスが戻ってきた。

早速、近衛騎士隊長のバグスターに報告を上げる


「隊長、次期殿の元へ伺い無事にマントを受け取っていただけました」

「ご苦労、これで安心できるな」

「はい」


 アルから御前試合の席を求められたのは、近衛隊としてはありがたい申し出であ

った。

チョサシャとオューでの事件により、イァイ王族がターゲットになっている可能性

は高い。

王族を警護する立場としては、分散しているよりは一つところに固まっていてもら

った方が助かるのだ。


 王族であるという証明はされたものの、本人からは王家に入る気は無いという意

思表示がなされた。

とはいえ、敵の狙いが分からない現状では、王族全員に等しく目を光らせておかな

ければならない。

先程レンドルト国王からも、内々にアルの身辺警護を命じられてもいた。


「明日は、次期殿に五名同伴しますので、都合六名が観戦にお見えになります」

「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

「どうした? ケリジュール」


 近衛隊詰所での隊長と副隊長の会話に割り込んだのは、同じ王族を警護する者と

して、情報を共有する目的でここに同席している、宮廷魔術師筆頭のケリジュール

だった。


「本日の会食の際に、次期殿の隣に座っていた女の子は、確か妹さんという事でし

たよね? あの方も明日はいらっしゃるのですか?」


 本来、近衛隊の隊長と宮廷魔術師の筆頭は同格の存在であると定められている。

しかし、年齢及び職に就いてからの年数が圧倒的に上な事から、ケリジュールは二

人に対しては常に敬語で接していた。


「そうだが、それがどうかしたか?」

「少し気になる波動だったもので、もしも時間があれば話を伺いたいと思いまして

ね」

「波動? ……というとあれか? 精霊との対話の時に出るあーっと……、確かそ

のヒト特有の魔力の特質だったか?」


 くだけた口調のバグスターが、以前目の前に座るケリジュールから聞かされた事

を思い出しながらつぶやいた。

近衛隊員は総じて精霊魔術を苦手としている者が多く、隊長のバグスターもその一

人である事から、まるでピンときていない丸暗記した内容をようやっと思い出して

の答えだ。


「はい、そうです。精霊とのつながりといいますか、対話する精霊の種類によって

異なる波動を感じるのですが、彼女はこれまで感じた事の無い波動だったものです

から、その、気になってしまって」


 宮廷魔術師は、精霊魔術に長けた者達で構成されている。

だが、筆頭という地位はその中で最強である事を意味しない。

求められるのは、統率する力と指揮する能力それに、精霊魔術に対する深く広い見

識と知識であった。

攻撃では無く迎撃若しくは防御をするいう宮廷魔術師の特性上、必要なのは発動す

る速さと放たれた攻撃を素早く解析し無効化するという、精霊魔術の種類やそれぞ

れの術の長所と短所を把握する頭脳こそが、最も必要とされる能力なのである。


 ケリジュールが現在筆頭の位置に居るのは、それらを備えている事のみならず、

余人の有していない精霊の波動を感じるといった、彼女だけの特殊で特異な感覚に

よるもの。

どちらかというと彼女は研究者タイプ、もっといえば精霊魔術マニアともいうべき

感性の持ち主で、常に珍しい運用方法や新しい術をこよなく求めていた。


 そんな彼女をして、これまで感じたことの無いと言わしめるアーセの波動は、ど

うやら解明したい研究対象として、謁見並びに会食の場においてアルよりも興味を

魅かれる存在らしかった。

但し、アルが会食の場で『魔散石』の設置してある所で操魔術を放ったのは、純粋

に驚かされ注目はしたらしいが。


「ふーむ、いらっしゃる時間が早ければそれなりに時間はとれるだろうが、見たと

ころそう長い時間次期殿の元を離れるようには見えなんだぞ?」

「時間は長く無くとも良いのです、まずはご挨拶して顔見知りに慣れたらと思いま

して」


 ミガ国国境都市ドゥノーエルで見た兄妹を思い出したように、副隊長であるギリ

ウスが言うと、ケリジュールはそう返してきた。

彼女としても、おそらくは研究するのに手元に置いておきたい衝動はあれど、それ

が無理だとあきらめているようだ。

それよりも、今後も兄妹がずっと行動を共にするのであれば、接触する機会も多く

訪れるだろうと予想して、良好な関係を築く第一歩とするのを目論んでいるのだろ

う。


 一方バグスターとギリウスの近衛隊勢は、アルをどうにかして王家に迎え入れる

事が出来ないかと、色々と動きを考えているようだった。

事あるごとに、待遇や扱いを王族に準じたものにしていく事によって、半ばなし崩

し的に取り込んでしまおうという目論みらしい。

そう考えてみると、今回の御前試合の席を貴賓席としたのも、護衛の観点からが一

番の理由だとしても、その辺りの思惑が働いたのも否めない。


 このようにそれぞれ多少の思惑はあるものの、アルを王家の一員として警護する

という点においては、王族に近しい者の中では共通の認識として浸透していった。


◇◇◇◇◇◇


 誰だろう? ノックの音がしたのでドアを開けてみた。


「!? ラムシェさん、どうしたんですか?」

「アルくん!? どうって……あたしもこの部屋を訪ねて欲しいって受付で言われ

て……」


 そこに居たのは、傭兵団『月光』の副団長ラムシェさんだった。

そういえば、あの依頼やるのにダンジョン潜るって言ってたもんなー。

約一週間ぶりに見たラムシェさんは、どこか疲労をにじませた表情をしている。


「あっ、受付にはあたしが頼んだの、久しぶりお姉さん」

「ナルール! どうしたのよ、こんなとこまで来るなんて」


 なるほど、ナルちゃんが伝言してたのか。

明日キシンさんと一緒に帰らないってのは、ラムシェさんに送ってもらうって事か

な?

でも、『月光』は競合依頼の最中でいつ移動するか、しかもヨルグに行くかもわか

らないのにどうするつもりだ?


 とりあえず、時間も遅くなってきたので皆で食事をしながらという事で、部屋を

出て一階に移動する。

そこでは、ずっとダンジョンに潜っていたラムシェさんに、先ほどキシンさんに説

明したように、チョサシャ村とオューで起きた事件について話しておいた。


「……そう、そんな事になってたなんてね」


 やっぱり全然知らなかったらしく、話を聞いてそうつぶやいたラムシェさんに、

逆に依頼の進捗状況を聞いてみる。


「どうですか? 7層はもう越えました?」

「全然ダメ、もうバカを除いてあきらめムードよ」


 うーんと、多分バカってのはリバルドさんなんだろうなー、団長なのになー。


「やっぱり厳しいですか?」

「ええ、あっアル君に教えてもらった7層までの情報はずいぶん助かったわ、だけ

ど7層はどうにも突破する作戦が出なくてね、あのバカが単騎で突っ込んで階段ま

ではたどり着いたらしいんだけど」


 えっ? どうやって抜けたんだろう?


「あれでも身のこなしだけは大したモノでね、全部の間欠泉を躱して駆け抜けたん

だって」


 あれを全部? 僕らは7層の入口しか見て無いから、あれが残りどれだけの長さ

あるのか知らないけど、あのフロアだけ極端に狭いとは思えない。

熱湯が噴き出すタイミングもまちまちだろうに、よくそんな事できるなー。


「だけどバカだから武器以外何も持たずに行っちゃってね、しばらくしたら戻って

きて「なんでついてこねーんだ」って、できるかってのよ!」


 ああ怒ってらっしゃる、あれを全部避けて行くなんて凄いと思うけど、相変わら

ずリバルドさんには厳しいなー。


「それで付いていけないって言ったら、「じゃあ一人で行く」って一人分の食料担

いで行ったんだけど、成功したのも身軽な状態でのギリギリだったみたいで、その

時は途中で熱湯浴びちゃってね、あきらめて戻ってきたのよ」


 多分、タイミングを見切ったとかじゃ無く、本当にその都度避けて進んでたんだ

ろうな。

知ってはいたけど、とんでもない身体能力だ。


「その次は荷物持ってじゃ抜けられないって、7層の入口で沢山食べて「ここから

は食料無しで最下層まで行くぜー」って飛びだしたんだけど、食事してすぐじゃ体

の切れが悪くてね、案の定いくらも行かない内に火傷して戻って来たわ」


 うーん、なんとも……、流石にそれはちょっとあれかなって思っちゃうかなー。


「7層の入口から観察してたんだけど、確かにそれぞれの穴から噴き出してくるの

は一定のタイミングだから、それさえわかれば進めるとは思うの」


 うん、それは確かにそうだとは思う、だけど……。


「ただね、入口から見える範囲はそれでいいとして、見えない所まで行くともう見

当がつかない。あのバカに確認してみたけど、途中に安全に休める場所なんて無い

って言ってたから、そうなるともう手が無くてね」


 そうなんだよね、あのフロアは天井まではえらい高さがあるんだけど、通路は狭

いし入口から見た限りでは、それほど進まない内にカーブしてて先が見通せないん

だよなー。


「実際にこの目で見れば何か思い浮かぶかもと思っていたけど、どうにもならなく

てね。迂回路は無いし、あのバカじゃない限り躱すのも無理だとすると、後はどう

防ぐかって事だとは思うんだけど、中々いい案が浮かばないのよ」


 そうなんだよなー、今更ながら『風雅』はどうやってあそこ抜けたんだろう?


「なんだか愚痴っぽくなっちゃってごめんね」


 ラムシェさんは、どこか困ったような顔つきで申し訳なさそうにそう言った。

まあでも最初に見た時より晴れやかな表情をしてる、ワインを少し飲んだのもあっ

て、頬がほんのり赤くなってるのも手伝ってるのかな。


 一通り話終わると、今度はラムシェさんが何でキシンさんとナルちゃんがここに

居るのかを聞いたり、僕らが何してたかなどの話をして和やかなうちに食事を終え

た。


 じゃあおやすみなさいと、二階に上がり各自の部屋へ。

僕らの部屋にはキシンさんが、そしてラムシェさんの部屋にナルちゃんが泊まる事

になった。

僕らの部屋は三人部屋で、僕とセルとアーセで一杯なんだけど、僕とアーセが同じ

ベッドで寝るので都合一つベッドが余る事から、女将さんのベルフィラさんに言っ

てここにしてもらったのだ。


 ラムシェさんは、元々二人部屋を一人で使っていたので、問題無くナルちゃんも

泊まる事ができた。

シャルとアリーは特に何も無くそのまま、ただアリーがキシンさんが僕らの部屋に

泊まると聞いて、アーセの心配をしていたというか、それにかこつけて自分と一緒に寝

ましょうと誘っていたけど、あえなくアーセに拒否されて落ち込んでいる。


 こうして各自それぞれの部屋で大人しく眠りに落ちたかというと、これが色々だ

ったらしい。

少なくとも僕らの部屋は、キシンさんの爆音いびきのせいで、疲れている筈なのに

全然眠れなかったのだった。


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