第131話 国盗 国を得て何をしたいんだ?
午後、室内には暖かな日差しが差し込み、昼寝にはもってこいな時間帯。
迎賓館から戻り、中途になっている依頼についての話し合いをはじめるのに、メン
バー全員が僕らの部屋に集まっていた。
「えっと、まずはこの後ホーエル商会のジェニファーさんを訪ねて、途中経過の報
告をしてきたいと思います。まあ、経過って言っても一度ヒョウルの村に行って、
何もせずに戻って来たってだけなんだけどね」
僕の話にセルが補足をする。
「確かにアルの言う通り、現時点では特に成果も無いんだから報告する必要も無い
んだが、受ける際には昨日現地に向かうと言ってあるからな。期限を切られた依頼
じゃ無いといっても、一応は予定を伝えておく方がいいだろう」
それについては、誰からも反対意見は出なかった。
ただ、その後続けてセルが言った意見には考えさせられる。
「そこで報告へ行く前に改めて話し合いたいんだが、この依頼このまま受けていい
と思うか?」
「いいと思うか? ってどういうこと? 何かダメな理由があるの?」
すかさずシャルが疑問を投げかける。
「忘れたのか? ヒョウルの村がもぬけの殻になってた事。アレの原因が騒動を起
こしている黒幕のせいだとして、再びあそこへ行って危険が無いと思うか? 俺と
しては、何の解決していない状況であの方面に行くのは、どうも気が進まないんだ
けどな」
そうだった、すっかり忘れてたよ。
「そういえば、あの件は何の解決もみてなかったね」
「ああ、詳しい事はわからんが状況からみて、今回のイァイの王族を襲ったのは、
操られたヒョウルの村のヒト達って可能性が高いと思う。俺らとすれ違った馬車に
その黒幕たちが乗ってたとしても、あの村が完全に安全だと決まった訳じゃ無いだ
ろう? もしかしたら、配下か上司かはわからんが一味がまだ潜んでいるかもしれ
ない。そうだとすると、出来れば近づきたくは無いって思ってるのは俺だけか?」
皆が口をつぐみシーンとしている、そうだ、敵の手がまだわからないんだ。
それがわかるまでは、迂闊に危険に近づくべきじゃ無いよな。
「ちょっと各々で考えみよう、何かあってからじゃ遅いんだ。敵がどういうやつか
とか、どんな方法でヒトを操っているのかとか、この後何が起きるかなんかをさ。
何も無い今の内に対策を講ずるなり、原因を探るなりしておいた方がいいんじゃな
いか?」
そう言って、セルはこめかみを指でトントンとした。
・・・・なーる、エイジの意見が聞きたいって意味か。
となればっと。
【エイジー】
【だから、まずは自分で考えろって】
【うー、えーっと、村のヒト達が全員いなくなってたんだから、えー、・・・・や
っぱわかんないよー】
【まあな、今時点じゃあまりにも手がかりが無くて、論拠の乏しい推論しかたてら
れんわな】
【そうなんだよね、ヒトが居ないってだけで他に何にも見つからなかったもんね】
【これは俺の考えであって、真実だという保証はどこにも無い、そう思って聞いて
くれよ】
・・珍しく弱気だな、まあでもわかってる事少なすぎるもんな。
【わかったよ、で、エイジはどう考えてるのさ】
【まず仮定ではあるが、チョサシャとオューでの一連の件は全てXの仕業とする。
手口は不明だが、チョサシャではワタガー作業所のヒト達を、オューではヒョウル
の村のヒト達を操って行われた。その両方で狙われたのが、イァイの王族だ。Xの
標的が、全員なのか特定の誰かなのかはわからんがな。問題は、誰が何のためにや
ってるかだ】
うん、ここまでは理解できる。
【犯人として考えられるのは、王家に怨みを持つ者。若しくは、王家が滅ぶかその
内の誰かが死亡した場合に得をする人物。しかし、やり口からみて特定の誰かをっ
てより、王家そのものを滅ぼそうとしているようにみえる、一見な。でもその実、
確実性の無い手口はそれを否定している。大体、ヒトを操るなんてこちらにわから
ない方法を用いる程の犯人にしては、二件ともずいぶんずさんなやり方な気もする
んだ】
ずさん? どういう意味?
【もっと他に方法があるって事?】
【ああ、権力者には大抵護衛がついてる。その上で対象を害そうとするならば、最
も多く用いられるのは暗殺だ。対して今回は、防がれるのが前提の襲撃に思える】
【・・そういえば、チョサシャでの事は龍を使わせるためだったんじゃないかって
言ってたね】
【そうなんだ、今回も余りにも確実性が低い事から、狙っているぞという脅しや陽
動に思えてしまう。警戒を解く訳にはいかないが、これまでの二件のような大掛か
りなやり方以外についても、十分な配慮をしないと敵の術中に落ちそうでな】
陽動って事は、狙いは別って事か・・。
【これが陽動だとすると、真の狙いは別にあるって事?】
【もっともありそうなのが、国王を操り国を意のままにするっていう、いわゆる国
盗りだな】
【イァイ国を? じゃあ犯人は誰? ・・まさかミガ国が?】
【いや、おそらくだがそれは無い。いくら国王を傀儡にして好きに出来るといって
も、国がすぐに破たんしては何にもならない。国内国外の政策などで国を健全にコ
ントロールするには、相応の知識と能力が必要になる。国王は普通政治には直接か
かわらない、その辺は宰相はじめ文官達の領分だ。だが、何も口出ししないのであ
れば、それこそ何のために国王を操るのかがわからなくなってしまう。となれば、
首謀者はミガの政府の中央に近い、高い政治能力を持った者ということになる。だ
が、ミガの国王とイァイの国王が親友同士だというのがネックになる。いくら上手
に操っても、親しい間柄ではぼろが出る。これだけ手間暇かけて成し遂げるのに、
そんなにすぐ綻びそうなほつれのある案件、少し目端が効く様であれば手を出した
りはしないだろう】
そんなもんなのかな?
【じゃあさ、ミガの王族だったら?】
【だとすると、ミガの王族の誰かがヒトを操る術を持っていることになる。だった
ら、とっくに他の事に使ってるだろうよ。例えば、あのダンジョン最奥への依頼と
かにな。征龍の武器は、下手したら自身の拠り所である龍を滅ぼす事が可能だ。是
が非にでも手に入れたいからこそ、あんな破格な依頼を出しているんだろうよ。だ
ったら、死罪が確定している犯罪者を操って、罠とか関係無くつっこませるなりな
んなりしてるはずだ】
うーん、そうすると・・。
【じゃあ、実はイァイがミガを乗っ取ろうとしてるとか?】
【これまでの事は、自作自演ってか? それも無いだろうよ。今日ちょっと話した
のを見ただけだが、あの国王はそんな陰湿な計画を立てたり陰謀を巡らすってタイ
プじゃないだろ】
まあ、それは僕もそう思った。
【犯人Xは、イァイやミガの国の者では無い。その目的は、国王を操り人形にして
国を盗る事。そしてそのターゲットは、イァイの国王かミガの国王のどちらかって
のが、今の所わかってる範囲での推理の限界だな】
【? 王家を恨んでるっていうのは、なんで無くなったの?】
【完全にゼロとは言い難いが、イァイ王家に怨みがあるなら、出来るだけ苦しませ
たいと思うはずだ。ヒトを操れるならば、イァイ国内で色々な問題を起こした方が
効果的だ。それに、二度の襲撃で助かったとはいえ、殺されてる可能性もあった。
恨んでる奴が、その相手をそんなに楽に殺すって事も無いだろうよ】
なるほど、さてと忘れない内にここまでの話を皆に伝えないと。
「とまあ、僕が考えてるのはこんなところなんだけど、どうかな?」
一通り説明し質問が無いか待ってみた、途中途中でエイジに確認しながらだった
んでかなり時間かかったなー。
ここで、セルから再度の提案がなされた。
「それで元に戻るが、皆はこの依頼どうするべきだと思う?」
「あたしは反対、変な事に巻き込まれそうだしさ」
「そうですね、わざわざ危険だと思われる場所へ行く事も無いと思います」
「にぃが行くなら行く」
女性陣の意見は反対2で条件付き賛成1、まあそうだよね。
「アル、どうだ?」
この間にエイジと相談した結果を言ってみた。
「保留でいいかと思うんだ、勿論断っても支障ないと思うけど。何にも起きて欲し
くは無いけど、事件が起きるとすればこのイベント期間中だろうから、とりあえず
はこのイベント期間が終わったらやるって事で、先方に伝えたらどうかな? その
時点で解決していなければ、その時にまた話し合うって事でさ」
この僕というかエイジの案が通って、先方に延期する旨話すことになった。
そうと決まれば、まだ暗くなるまで時間があるのでホーエル商会へ出向くことに。
部屋を出て一階に降り、休憩しているベルフィラさんに一言入れて外へ出た。
何も全員で行く必要はないんだけど、僕が面識もあるしリーダーだから行く事に
すると、いつもの様にアーセが付いて来てアリーがそれに付いてきて、必然的に残
るのはセルとシャルの兄妹って事になる。
だけど、シャルはセルと二人ってのはもう飽き飽きしてて嫌だという事で、結局
は全員で馬車に乗ってホーエル商会へ向かう事になった。
◇◇◇◇◇◇
午後の柔らかく暖かい日差しの元、迎賓館の一角は未だ怪しく燃えていた。
「ギリウス、次期殿との直接のやりとりは貴様に任せる」
「はっ!」
「とはいえ、我らも一度機会を設けて御挨拶申し上げねばな」
「ええ、私も次期殿がお使いになった操魔術には興味を魅かれます」
彼らにとって、アルが腕が立つなどという事はほぼ関係が無かった。
王族の方々に直接戦闘させるなど、本来御法度であり護衛として恥ずべきことであ
るとの矜持を皆が持っている。
「国王陛下には俺から具申しておく、ギリウス、配下からそうだな・・、六名選ん
で二名ずつ交代で次期殿の常の護衛とするのだ、人選は任せる」
「はっ! しかし隊長、鎧はどういたしましょうか? 我ら近衛の者が居るとなれ
ば一定の抑止力にはなるでしょうが、逆に次期殿の存在を知られてしまう事にもな
ります。事件が解決していない以上、ここは秘密裏にお守りした方がと思うのです
が、いかがでしょう?」
「ふーむ、確かにな・・・・、では鎧は外して行くように」
「はっ!」
ここで近衛の隊長であるバグスターは思案する、そういえば・・。
「ギリウス、確か報告では次期殿は不思議な通信具を持っていると言ってたな」
「はい、AA-2に因りますと、面識のある相手であれば距離に関係無く会話が出来
るとか」
「それで毎日連絡してもらえないか、次期殿に頼んでみてくれ。イァイの王族が狙
われているので、もしかすると次期殿にも何かあるかもしれない。だから、オュー
に居る間だけでいいので、一日の終わりに無事の連絡を入れてもらえると助かると
言って、なんとか説得して見てくれ。そうなれば、こちらも少しは安心できる」
ここでひとまず話し合いを終えて、ギリウスはメイプル館へと出発して行った。




