第130話 忠誠 気になる事ばかり
お昼を過ぎて気温も上がってきた、そろそろ食事を終えて30分ほど経っただろ
うか。
僕ら四人が居る控えの間に、アリーが入って来た。
神妙な面持ちで、僕の前に片膝を付いて頭を下げている。
「お時間宜しいでしょうか、少し話を聞いていただきたいのですが?」
「その前にその姿勢止めてくんないかな、さっき聞いてて知ってるでしょ? 僕は
今のまま変わる気は無いんだ、今まで通りにしてよ」
「しかし・・」
「いいから、でないと話し聞かないよ」
「・・わかりました」
渋々といった感じで、アリーは立ち上がった。
「うーん、話しづらいからさ、椅子に座ってよ」
「しかし・・、はい、わかりました」
やっと向い合せに座り、落ち着いて話が出来る体勢になった。
「これからの事なんですが、今まで通りこのパーティーに参加させていただきたい
のですが、宜しいでしょうか?」
「・・あのさ、そもそもアリーの進退について何かあった訳じゃ無いんだから、今
まで通りでいいんじゃないの? ねえ?」
僕がセルに目を向けると、すかさず返事をしてくれた。
「ああ、俺は構わないよ、シャルはどうだ?」
「あたしも別に、アーちゃんが抜ける必要は無いと思うよ、ねっアーセちゃん」
「ん、にぃに何にもしないんならいい」
「ありがとうございます」
・・なんか今いち意味わかんないな。
【エイジ、どういう事なのかな?】
【おそらく、アリーの使命というか受けてた命令は、アルをイァイの国王の元へ連
れて行くって事だったんじゃないか? ファタへ行って欲しいって言ってたろ?】
【うん】
【それがさっき実現したんで、本来は任務完了なんだろうけど、アルが王族入りを
拒否したから、引き続き監視する必要がでてきた。それで、本来ここまでのつもり
だったけど、この後もって話なんじゃないかと思う】
・・なんというか、向こうの都合だからこっちに言われても困るな。
「あのさ、アリーに聞く事じゃ無いかもしれないけど、僕達いつまでここに居れば
いいのかな?」
「もう少々お待ちを、ギリウス氏がいらっしゃるでしょうから」
「ギリウスさんが? 何しに?」
「おそらく、今後の事についてじゃないでしょうか」
今後? ってやっぱこれで縁もゆかりも無しとはならないか・・。
にしても、アリーがこのままって事は僕を引き続き監視するって事だとして、それ
以外に何を言ってくるんだろう?
国王様には会ったんだから、今更ファタへって事は無いはず。
そうすると・・、おっと、ギリウスさんがきたみたいだ。
どんな事言われるのかと身構えたが、特に何かを強制されるようなことは無くて、
今後の僕らの予定の確認だった。
動向を把握しておきたいってとこかな? まあ特に隠す必要も無いので素直に答
えた。
まあ今の所、オューのダンジョンへ潜る以外には決まってる事も無いんだけど。
ああ、ガウマウさんの試合を見に行くのも言っておかないとか。
「御前試合ですか・・、失礼ながらすでに席は確保されてるのですかな?」
ギリウスさんは、ヨルグで初めて出会った時からこんな口調なので、僕の素性が
明らかになった後でも変わらないのはとても接しやすい。
そういえばどうなったのかなとセルを見ると、無言で首を振っている。
あれ? 確か実家のコネでなんとかって話じゃ無かったっけ?
この間はそれが理由で行ったはず、話して無いって事は無いだろうから、宰相家と
いえども手に入らなかったって事なのかな?
うーん、僕としては見れなきゃ見れないで別にいいんだけど・・・・。
どうなるのかな? 明日は一応会場へ行って当日券探すんだろうか?
「これからなんですけど・・、あの、なんか不味いですかね?」
「とても人気のある催しですから、席をとるのにこれからとなると、かなり厳しい
のではないかと思いまして」
まあそうだろうなー、そう思いつつシャルに目をやるとバッチリ目があった。
? 何故かもの凄い目力で見てくる、なんだ? 僕なんかしたかな?
【エイジ、なんかシャルがとんでもない目つきで見てくるんだけど?】
【アル、そうなんでもかんでも反射的に俺に聞くんじゃなくて、自分でも推し測っ
てみろよ】
【えー? ・・御前試合に関する事だとは思うけど、・・席?】
【だろうな、話の流れからして、御前試合の入場についてなんとかしてもらえない
かってこったろ。
ここはギリウスを通じて席をとってもらえないか、聞いてみろってとこだろ。
王族であるアルが言えば、前日とはいえなんとかなるはずってな】
【・・なんか立場は拒否しておいて、権力だけ利用するみたいで嫌だな】
【俺が言ったのが正解と決まった訳じゃないけど、もしそうだとしてアルが何もし
なかった場合は、もんの凄い説教というか文句言われ続けると思うけど、後悔しな
いか?】
・・なんだか容易に光景が思い浮かんでしまった、となればっと。
「あのギリウスさん、厚かましいようですけど明日の御前試合の席って、なんとか
なりませんか? 立ち見でもいいんで、五人分お願いしたいんですけど」
保身にはしってしまった・・、想像した途端ぶるっときたからさ・・、だってあ
ーいう時のシャルって本当に怖いんだもんなー。
「わかりました、確約はできませんがなんとか話をしてみます、手に入るようでし
たらお宿の方へ届けておきますので」
ありがたい、ちょろっとシャルの方へ目を向けると、満足そうに頷いている。
まだ完全に席がとれたった訳じゃ無いんだけど・・、これでダメなんて事になった
らと思うと・・、ギリウスさん! 何とかして下さい!
その後は特にどうと言う事も無く、これにて終了となった。
はぁー、これで少しは肩の荷が下りた・・かな?
とりあえずこの建物の中は落ち着かないので外へ出る事に、うーん、まだ敷地内と
いえども外に出てくると終わったって実感沸くなー、帰りも馬車で送ってもらえる
との事で早速乗り込んだ。
中途半端に半日空いちゃったなー、うーん、イベントは明日からだし今日はのん
びりするか、もしくは剣の型稽古でもしよ「アル」うかな・・ってアレ?
「なに? シャル」
走り出した馬車がお城の敷地を出ようかというタイミングで、突然シャルから話
しかけられた。
御前試合の席のお礼かな? いやいや、まだお願いしたってだけでとれた訳じゃ無
いしな。
そうすると、後何が「アル」あったかなって・・。
「なに? セル」
今度はセルから話しかけられた、なに? 同じ話し?
「あたしが先に声掛けたんだから、後にしてよ」
そう文句を言うシャルを無視して、セルが話を続けた。
「ホーエル商会に顔出した方がいいんじゃないか? 依頼自体は何時でもいいって
ジェニーは言ってたが、あの時に翌日には向かうって言ったしな。向こうも気にし
てるかもしれんぞ」
・・忘れてた、そーだまだ依頼終わった訳じゃ無かったんだ。
勝手に引き返しただけだもんな、あーでも明日から行くって言ったらシャル怒るだ
ろうなー。
そうすると、明後日出発って事になるのかな? っと皆と相談しないとか。
「なーんで先に話すのよー!」
シャルが不満顔だが、パーティーとしての事だと理解しているからか、文句のト
ーンは抑え気味で声も小さめだ。
その間も馬車は進み、メイプル館に到着した。
流石に帰りの御者はギリウスさんでは無かったが、同じ近衛の隊員らしく全身金
属鎧を着こんだヒトを見送って中へ入る。
まずは僕らの部屋に全員集まって、依頼についての話し合いをはじめた。
◇◇◇◇◇◇
一方その頃、先ほどまでアル達の居た迎賓館、その中でも最も大きな『茎の間』
という、本来は各種の行事を行う部屋というよりホールといった場所。
ここは現在、イァイの王族が逗留中は近衛隊の臨時の詰所として、ミガ国側から提
供されていた。
交代で体を休める隊員たち、その中においてある一角は熱を帯びている。
運動をしているわけでは無い、激しい議論を交わしているのでも無い。
内に秘めた想いの強さが、熱を伴って放出されているように感じられるのだ。
この場に集いし三名、近衛隊の隊長バグスターに副隊長のギリウス。
そして、宮廷魔術師筆頭であるケリジュールたちは、その想いに身を委ねていた。
「すると、明日は御前試合の観戦という訳か」
「はい、入場券をご所望でしたので、先程なんとか都合をつけていただきました、
後程お宿の方へ届けてまいります」
彼らは王族を守護する者たち、それぞれがその仕事に誇りとやりがいそれに、あ
る種の使命感をもってその任に就いていた。
国の象徴であり根幹でもある王家、それをあらゆる危難から遠ざけ救うのが我らの
願いであり、其の為ならばこの命さえも投げ出す。
それぞれが、別々の人物ではあるが王家の者に見いだされ徴用された経緯を持つ
が故に、一層の覚悟を以って王家に仕えていた。
そんな彼らにとって、第六王女が嫁ぐこと自体はおめでたい事であり喜ばしいが、
護衛対象が減る事に一抹の寂しさを覚えてもいたのだ。
そこへもってきて、本日の謁見の義に於いて新たな王族が誕生した。
彼等にとっては、アルが自らの立場を肯定しようが否定しようが関係ない。
王家に対する崇拝にも似た忠誠心、それが熱くそれぞれの胸で燃え上がっているの
であった。
「次期殿と本日ご一緒されていた四名か、ふーむ、情報が足りないな・・、後で諜
報部の報告書の写しをもらうようにするか」
アルが明確に王族として迎えられることを拒否したので、皇太子と呼ぶ事は控え
ていたが、次代の国王として次期殿と呼称する事は全員一致で決まっていた。
「どうやら、『雪華』の連中が次期殿とは懇意にしている模様ですので、話を聞
いてみようと思います」
こうして、アルのあずかり知らぬところで、勝手に保護認定を受け護衛計画が立
てられていた。




