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第126話 直前 結婚式場っぽいな

 僕らが宿泊してるメイプル館、その一階にてメンバーでテーブルを囲んでいる。

昨夜遅かったせいで皆少し眠たそうだが、この間ゆっくりし過ぎて食べ損ねた記憶

がまだ新しいのか、全員なんとか眠い目をこすりこの場に揃って居た。


「アル、昨夜の事、ちゃんと説明してもらえるのよね?」


 シャルの目が少々座ってて怖い、言外に隠し事なんてしないだろうなって言われ

てるみたいだ。


「えーっと、昨夜尋ねてきたのはイァイの近衛の副隊長のギリウスさん。ヨルグの

武器屋で、シャル達よりも前に知り合ってたんだ。この間、ドゥノーエルで二年ぶ

りに再会してね。オューに行くって言ったら、自分達も仕事で行くので向こうでも

会えたらって言われてたんだ」


 ふーんといった感じのシャル、何故こんなに追い詰められてる気がするんだ?


「それはいいわ、わかんないのは何でお城に呼ばれたのかよ。確か会って欲しいヒ

トが居るって言ってたわよね? お城で会ってもらいたいヒトって、かなり限られ

ると思うんだけど」


 ・・仲間内で隠し事はしないって約束したしなー。

でも、僕もはっきり誰って聞かされたわけじゃ無いんだよなー。


「多分なんだけど、イァイの・・その・・国王様じゃないかと思う」


 ・・なんかシャルの反応が薄い様な、もっとびっくりするかと思ってたけど。

やっぱり、宰相の娘さんだから王族っていっても、それほど遠い存在って意識じゃ

ないのかな?


「まあそうでしょうね、あのヒトも謁見って言ってたし」


 あっ、やっぱ気づいてたんだ。


「知りたいのはその理由よ、一国の王様がなんでアルに会いたがるのかよ。

もしかしてアレ? その武器の事なの?」

「そうかもね、というか、僕も知りたいくらいだよ」


 これはまあ嘘じゃ無い、国王の会いたがってる理由については状況から推測して

いるに過ぎないしね。


「・・本当? なーんか怪しいのよねー、まだ隠してる事あるんでしょ?」

「無い無い、僕にもわかんないって」


 こんなシャルとのやり取りがありながらも、朝食を口に運ぶ。

セルには前もって話してあるし、アーセは相変わらず無関心。

そしてアリーは、珍しくアーセに話しかけずに静かにしている。


 こうして朝食を終えると、メンバー全員僕らの部屋に集まってきていた。

特に何するって訳でも無いんだが、お城からの迎えの時間まで中途半端に余ってし

まい、アリーがアーセと一緒に居たいと部屋に入って来たので一人になるのはとい

うことで、シャルもまた同じ部屋に来ることに。


 僕はセルと、近々再開予定のダンジョン探索についての打ち合わせを。

女性陣は、シャルとアリーから使ってみたいという要望があり、『コールミラー』

を貸出すと、きゃいきゃい言いながらアーセを映して遊んでいる。


 事件の事は気になるが、僕らはつかの間の穏やかな時間を楽しんでいた。


◇◇◇◇◇◇


 ガスパは息を潜めている間、今朝の部下とのやり取りを思い出す。


「なに? 急遽だと? して相手は誰だ?」

「わかりません、ただ宰相からは、イァイの王族及びミガの王族が同席すると。

さらに自らの部下五名に加え、近衛の隊長と副隊長そして宮廷魔術師筆頭に、その

場に出席する様にとお達しが出ております」

「それだけの面子・・、他国の王族を出迎えるにしてもちと大仰じゃな」

「はい、そもそも此度の婚儀に際してまして、他国より祝辞は届いておりますが、

王族が訪問するとは知らされておりません」


 ふむと黙考するガスパ。

ここは、ミガ国王都オューにある王城の一角にして、誰にも気取られる事の無い暗

く静かな場所。

最後の仕上げのその時まで、ゆっくりと爪を研ぎ待っているだけの予定だった。


「重ねて宰相より、気になる言い回しによる指示というか注意がありました」

「・・・・ん? なんじゃ?」


 ガスパは一旦思考を中断し、この件に付随する事柄であろう報告を続ける様に促

した。


「曰く、「その場では、取り乱すことなく気をしっかりと持って見る様に」と、申

し含められました。しかも、謁見場所は室内では無く迎賓館の庭園です」

「なに? それは真か?」

「はっ、私も耳を疑いましたが間違いございません」


 なぜ明日そのような事をするのか、その真意は測りかねるが、これは注視する必

要がある、ならばとガスパは考えをまとめ部下に命じた。


「わしがこの目で見定めるしかないか・・、なんとかして場所を確保せよ」

「しっしかし、それでは」

「言うな、リスクは承知しておる、それを推してでも確認する必要があるのだ。

ここまで順調ではあるが、最悪の場合計画の変更もあると心得よ」


 この計画の唯一にして最大の懸念事項、不明な事の多いそれについて、未だこち

らの知らない事がもしもあるようであれば、この練りに練った計画といえども水泡

に帰する可能性がある


 ・・とそう考えてはみたが、残された時間はあまりにも短い。

これで決めきれなければ・・、とにかく何が起こるのか見てからじゃな。

幸いにして、このタイミングであればギリギリ変更も可能。


 こう考えながら、ガスパは王族が出払った後の城の国王の私室に居た。

その部屋の窓からは、迎賓館の庭園を一望できる。

そして、眼下にその場所を見下ろしながら、静かにその時を待っていた。


◇◇◇◇◇◇


 迎えの馬車がメイプル館に到着したのは、外気が温まりだした10時半だった。

流石に御者は近衛隊士ながら、またも呼びに来たのは副隊長のギリウスさんだ。

でも確か昨夜の話だと、迎えが来るのは11時だったはずだけど?


「いかにも、ですが不測の事態があってはと愚考し、早めに伺った次第でして。

あっ、勿論出発は11時で構いませんよ。私が勝手に早い時間に来ただけですから

な」


 苦笑しながら、ギリウスさんはそう話してくれた。

僕はメンバーと話し合い、このままお待たせするのもなんだし、どうせ行くならこ

ちらとしても早い方がいいかと、予定よりも早い時間の出発を申し出た。


「おぉ、それは願ったりです。ささ、どうぞこちらへ」


 そう言いながら馬車へと案内してくれる、四頭立てのしっかりとしたものながら

も、王家の紋章などはついていない。

どうやら、近衛騎士団が所持している馬車らしい。

言われてみると、出入り口は金属鎧を着こんでいても大丈夫なように、かなり大き

く作られている。


 中に乗り込むと、長椅子の様な座席が向かい合わせで二列ある。

ここに、僕ら五人とギリウスさんの計六名が、三名ずつ対面して座った。

立派な馬車ではあるけれど、豪華という訳では無く武骨さを感じさせる。


 すべてが鉄でできているのは、金属鎧を着用した隊士達の重量を支える為であり

且つ、戦闘時に敵の攻撃を防ぐ盾として用いる用途で、こうした造りになっている

とギリウスさんが教えてくれた。


 こんな馬車で王都の中央通りをお城へ向かっていると、なんだか自分がえらくな

った気がしてくるから不思議だ。

元々メイプル館は、比較的中央に近い立地だった事もあり、それほどかからずに門

まで到達してしまった。


 憂鬱さばかりが先に立っていたこの日も、ここまでくると滅多に無い経験なだけ

に、もう少しこんな気分に浸っていたくなる。

そんな事を考えている間にも、馬車はどんどん進んで行政機関の建物を抜け、お城

の敷地へ入る第二の門まで到達した。


 小高い丘の上にあるお城までは、ゆるやかな上り坂が続く。

どれもこれも初めて見る景色に心奪われる、ふと車内を見渡すとどうもそれは僕ら

兄妹だけみたいだけど。


 馬車の中はとても静かだ、セルとシャルは見慣れているのか落ち着いているし、

ギリウスさんも僕の質問に答える以外では口を開かない。

おかしいのはアリーだ、彼女は馬車に乗ってから一度もアーセに話しかけない。


 向かい側に座っているのでアーセを見つめてはいるが、いつものように軽口を叩

いたりちょっかいかけてくることが無いのだ。

緊張・・じゃないな、なんだろう? これが素なんだろうか。


 時期的に花が咲き誇るとはいかないながら、敷地内の建物までの道すがらには、

綺麗な女性や勇ましい騎士の石像が並んでいて、目を楽しませてくれる。

ゆっくりと馬車が減速しやがて止まった先には、黒い御揃いの服を着た女性が大勢

で、出迎えてくれていた。


 緊張しつつ両側に並んだ女性の間を進み、目の前の建物の中に入る。

・・・・圧倒された、高級感漂う内装に、・・場違い感が凄い。

なんだか下っ腹がキュッとなる、正直調度品とか全然わかんないんだけど、きっと

とんでもないんだろうなー。


 これまで見た中で一番豪華だなと思ったのは、この間ガウマウさんを訪ねて行っ

た『望楼閣 テェジク』だったけど、ここはそれよりも上な気がする。

どこがどうってのはわかってないけど、入ってすぐの所が吹き抜けになっていて、

絨毯はふかふかだし、派手な色遣いは無いけどどれも重厚というか趣があるという

か、とにかくとんでもないってのはだけはわかった。


 案内の女性に付いて行って通されたのは、第一控室で『つぼみの間』というところら

しい。

ここには、僕ら五人とギリウスさんも一緒に入った。

これからの事についての、説明をしてくれるんだそうだ。


「ここまで御足労いただきましてありがとうございます、それではこの後の事を説

明させていただきます。これよりイァイ国レンドルト王に謁見していただきます」


 ・・やっぱ王様だったか。


「えー、実は少々変更がございまして、アルベルト殿以外の方々には控えの間にて

お待ちいただく予定でしたが、急遽ご一緒していただくことになりました」


 ? なんでだろう? 皆にも用事があるのかな?


「そして場所はご案内いたしますが、ここの庭園にて行います」


 なぜに外で?


「時間になりましたら知らせに参りますので、それまでしばしこの場にてお待ち下

さい」


 それだけ言って、ギリウスさんは部屋を出て行ってしまう。

残された僕らは、誰もがただぽかんとした顔を浮かべるだけだった。


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