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第123話 愚痴 休息中

 陽が沈みつつある夕暮れ時、段々と暗くなっていく中で、王都オューは喧騒の最

中にあった。

イァイ王族襲撃事件、とりあえず事態は収束したものの、犯人を捕らえても首謀者

は未だわからず。

現場検証がそこかしこで行われたが、黒幕に繋がる証拠は何一つ得られなかった。


 捕縛した者への尋問も行われてはいるが、暴れるばかりで話も出来ない有様。

当然新事実は見つからず、所持品を調べてみても身元を特定できるものは無し。

今の所確たる証拠はないが、オューで捕えられた者達がチョサシャ村で捕えた者達

とほぼ同じ行動をとっている為、背後では同一の組織叉は個人が糸を引いていると

見られている。

それと、現時点では事件に関わった犯人側で確認がとれている者全員が、『二本』

触角人種であるという事くらいだ。


 幸いにして王族にけが人は無し、ミガ国兵士とイァイの近衛隊士に若干名の負傷

者が出たものの、死者はでなかった。

それでも、王都という王族が住まう地で起きた事、またその驚愕する手口からも一

日も早い解決が望まれた結果、警ら隊及び軍関係者が総動員され奔走していた。


「すまんレンドルト、面目ない」

「頭を上げろジャートル、お前に責があるとは思ってねーよ」


 ここは迎賓館第二控え室『ようの間』、学生時代からの旧知の仲であるミガ国国

王のジャートル・グラシーズ=ミガとイァイ国国王レンドルト・ホースロウ=イァ

イの二人は、余人を交えずあくまでもプライベートな立場で話をするとして、側近

も席を外す中対峙していた。


 普段中々会う機会が無い国王同士ではあるが、学生時代に育んだ友情は20年以

上経っても変わらない。

通常、国賓を招いた当日の夜は、歓迎の意を込めて晩餐会を催す。

しかし、到着早々あのような事があり、さらに一昨日も襲撃にあった事により、レ

ンドルト本人は問題無くとも、同行している母と妹の心労は大きいとして、辞退を

申し出てミガ国側からも了承を得ていた。


 死傷者数は今日に比べて一昨日の方が桁違いに多いのだが、チョサシャ村では戦

闘時は避難していたし、村に戻った時に行われていた死体の処理も、当初イァイの

近衛隊が指揮していたので、王族の目に触れさせない様にとの配慮から、皇太后と

王女はそれらを目にすること無く宿屋に入ってしまっていたのだ。


 それが今日は、生々しい現場を目の当たりにしてしまった。

自分達から、さほど離れていない近衛隊士に火の玉がぶつかり転倒するさまを。

そして、その火の玉が黒い塊がヒトが燃えていたのだと、地面や盾にぶつかる度に

飛び散る血によって理解させられた後は、悲鳴を抑えているのか胃からせり上がる

ものを我慢しているのか、終始無言でただ口を押さえ屈んでいるのが精一杯な様子

であった。


 寝込むほどでは無かったが、少し落ち着かせたいというレンドルトの申し出によ

って、宿泊する迎賓館の一室に食事を運んでもらい、家族のみで済ませていた。

気安い間柄であるレンドルトとジャートルは、話をするにも本来城の自室に互いを

招く。

だが、同じ敷地内にあるとはいえ、傍を離れるのは家族を不安にさせてしまうとレ

ンドルトが気遣い、ジャートルが迎賓館を訪れる形になっていた。


「ったく、どこのどいつだ! ユーコの嫁入りに粉くれやがって!」

「まったくだ、うちとしても腹に据えかねる! 

この国の威信にかけて目に物見せてくれる!」


 二人しかいない事もあり、誰に気遣う事も無く学生時代に戻ったかのように、好

きなだけ不満を言い合う。

レンドルトは、比較的近しい者の前では感情を出す事が多いが、ジャートルは例え

宰相と二人きりであっても、一切言葉を荒げる事は無い。

ミガ国の者からすればありえない光景ながら、国を挙げての催しに水を差されあま

つさえ、国賓である旧友と息子の嫁を襲われたのだ、ジャートルもこれにはとても

では無いが冷静ではいられなかったのだ。


 そうしてひとしきり時が経ち、頭が冷えてきてようやく冷静に考えを巡らせるよ

うになっていった。


「しっかし、狙いがわからねーな」

「ああ、今日のもこちらでは無くそっちを狙ってたみたいだが、心当たりは?」

「ねーな、大体そんなんがあったらキッチリ済ませてから来るよ」

「うちの宰相にも聞いてみたんだが、こちらの情報網にも何も引っかかって無いら

しい」

「母上やユーコな訳無いだろうから俺狙いなんだろうけど、うーん、まったく身に

覚えねーんだよな」


 この大陸には国が六つある、その中には自国から距離が離れていてあまり行き来

が無い、国交を結んではいてもあまり親しいとは言えない国はあっても、表だって

いがみ合っている国は無かった、少なくとも相手国の国王を害する計画が実行され

るような。

其の為、レンドルトがいくら首をひねっても、答えは出ないままだった。


 元より彼は武官に近く、体を動かすのを得意とする反面、考えるのを苦手として

いる。

逆にジャートルは学者肌で、文官の様に事務仕事が得手であり、思索にふけるのが

常だった。

自国で起きた事件であり、双方の資質からいっても、この件はジャートルが率先し

て解決への方策を探る事で、互いに合意する。


 顔を合わせて話し合っている内に、気持ちを落ち着ける為に飲んでいた酒がすす

んでいく。

こうなると昔話に花が咲き、話が弾んでいった。

そんな流れから、レンドルトが切りだす。


「実はな、明日ここに客を招きたいんだが、いいか?」

「客? おいおい大丈夫か? 今日あんな事があったばっかりなのに」

「身元は確かだから問題ねーよ」

「なんだってまた、わざわざ今ここでなんだ?」

「たまたまさ、ここに居るってーから丁度いいと思ってな」

「一体どんな相手なんだい?」


酒も手伝ってか、レンドルトはいたずらっ子のような表情で続きを話した。


「実はな、もしかすっと俺の息子かもしれん奴なんだ」

「お前・・、あいつというものがありながら! どういう事だ!」

「いや誤解、誤解だって、結婚する前なんだから浮気じゃねえよ」


 ジャートルの言う「あいつ」とは、すでに病気により他界しているレンドルトの

元妻であり自分の妹の事である。

妹との間には残念ながら子供は出来なかった、そしてレンドルトがただの一人も側

室を作らなかったのを知っていたので、妹の存命中に浮気していたのかと憤慨した

のだ。

多少しどろもどろながら、レンドルトからミガ国へ初めて留学する前の話だと聞か

され、ジャートルも妹と知り合う前だったという事で、渋々ながら矛を納めた。


「それで頼みがあるんだがなジャートル、お前も一緒に立ち会ってくれねーか?」

「私が? 明日は公務は休みで体は空いているが、部外者である私が立ち会ってい

いものなのかい?」


 元々一昨日にイァイの王族が到着予定だったので、昨日今日はレンドルトと旧交

を温めようと、仕事は入れていなかったのだ。


「実はな、おそらくはそうだろうとは思うんだが、はっきりと俺の息子だって証拠

は今んとこねえんだ」

「今いくつだって?」

「17歳だ」

「それは・・、逆に今になってよく特定できたな」


 レンドルトが、事の経緯をざっと説明していく。


「そうか、親父さんが・・・・」

「俺も、てっきり自分が振られたんだとばかり思ってたんでな」

「そこまではわかった、それで私が立ち会う理由とは?」

「確認するのに、一番確実な方法をとろうと思ってな。

報告では、穏やかな気性らしいし敵対してる訳でも無いから、こちらに危害を加え

るような事は無いと思うが、一応抑止力は必要だろう?」


と、ここまでを聞いてジャートルは何をするのかを察した。


「なるほど、そちらも男子継承だったものな」

「そう言う事、で、頼めるか?」

「いいだろう、そう言う事なら立ち会わせてもらうよ」

「よっしゃ! 助かったぜ、あんがとよ」


話の流れから、自然と話題はレンドルトの息子かもしれない男の事に。


「で、その子は今何してるんだい?」

「傭兵だとよ、これが『羽』なのに剣使ってるってんだからな」

「そりゃまた・・、血のつながりを感じさせるな」

「おまけに操魔術の腕も相当らしくてな、かなり等級上げてるらしい」

「なんだ、もう親馬鹿か?」

「ぬかせ」

「はっはっはっはっ」


 ひとしきり笑った後、ジャートルは真面目な顔で問いただした。


「それで、違ってたらそれまでって事なんだろうが、もしもそうだったとして、そ

の後はどうするつもりなんだい?」

「んー、報告だけじゃわからんからな、しばらく様子見して経過観察ってとこか。

あー、勿論あのくそ退屈な授業を受けさせることになるがな」

「お眼鏡に叶えば、後継者殿の誕生という訳かい?」

「ああ、そうなりゃ俺も肩の荷が下りるってもんだ」


 レンドルトは、グラスに残っていた酒をぐいっと勢いよくあおった。


「さてと、この辺でおひらきといこうや、母上やユーコが心配するといけねえ」

「そうだな、それじゃまた明日・・、そうだ! 明日の立会にリントやうちの文官

達を同席させてもいいかい?」

「そりゃ構わんが、どうした? なんか引っかかる事でもあんのか?」

「いやいや、次期国王のご尊顔を拝す貴重な機会だからな。

それに、もしかすると見れるかもしれんだろう?

だとすれば、それこそ滅多に無いだろうからな、出来るだけ多くの者に見学させた

いと思ってさ」


 こういう所は変わらないなと、レンドルトは一つため息をついた。


「ったく、相変わらず抜け目ねえな。

いいぜ、まあ減るもんじゃ無し存分に見てくれや」

「感謝する、ふふ、こうなるとこっちも本物であることを祈ってるよ。

それじゃおやすみ」

「ああ、明日な、おやすみ」


 こうして、両国の非公式会談という名の雑談は終わりを告げた。


◇◇◇◇◇◇


 深夜、日付が変わるかどうかという時間、真っ暗な街道の先に灯りが見えた。

不夜城という程では無いが、王都オューはこの時間帯でも営業している店はある。

真っ暗な中にある灯りは、ヒトの営みと温もりを感じさせた。


「やーっと見えてきたわね」

「ここからじゃ、何かあったよーには見えねーな」


 馬車の後ろで、シャルとセルが会話するでも無くそれぞれ口を開いた。

僕は一人御者を務めながら、とりあえず何も無さそうで良かったという事と、いい

加減お腹減ったなと思いながら近づく東門を見つめている。


 こうして僕らは、ヒョウル村からオューへと戻ってきた。


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