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第121話 空虚 今頃はもう

「何? ここ、なんで誰もいないの?」

「本当ですね、どうなってるんでしょうか」

「変」


 女性陣が揃って違和感を口にする、僕もそれにはまったくの同感だ。

ヒョウル村に着いたものの、本来居るはずの門番は居ないし、門をくぐ

り中に入ってきても、ここまで誰も村のヒトを見かけていない。


 いくらなんでもこれはおかしい。

ゆるゆると、村の中を見回しながら馬車で移動していく。

特に道が荒れている訳でも、建物が倒壊したり壊れたりもしていない。


「・・ねえ、なにがあったのかな?」

「わかりません、ですが、何が起きてもアーセちゃんは私が守ってみせます!」

「・・・・」


 シャルは不安からか、黙ってると怖いのかずっと疑問を投げかけてる。

アーセもただでさえ少ない口数がさらに減り、言葉を発しなくなってしまった。

・・まあ、アリーは平常運転だけど。


 このまま、普通にここに泊まって依頼をやるなんて事でいいんだろうか?


「アル、暗くなるまで村の中見て廻らないか?」

「うん、そうだね、皆も良い?」


 女性陣にお伺いを立て、全員が頷く中そのまま馬車でゆっくりと見て廻った。

村のヒト達が共同で使っている温泉、東側にある裏門や隣接する厩舎など。

しかしどこにも見当たらない、上まで登りはしなかったが、物見やぐらにも目を

こらしたが、村のヒトを見つける事は出来なかった。


「にぃ、あそこ」

「うん、居ないね」


 アーセが指さしたのは鶏舎、そう、ヒトが居ないのは他と変わらないけど、以前

に見た時には沢山いた鶏も一羽もいなかった。

厩舎を見ると、馬も一頭も居ない。

つまり、この村から生き物が居なくなっているのだ。


 手がかりは何も得られない、ただ異様な静けさがあるだけの村の中。

なにがどうなったら、こんな状態になるんだ?

魔物の襲撃にあったなら、もっと村が荒れてるはず。

大体、血の一滴も出さず村のヒト全員がどうにかなる戦闘なんて聞いたこと無い。


病気というのも無いだろう。

だったら、死体が残るはずだから。

という事は、自分の意思かどうかは別にして、全員が移動したって事になる。


 じゃあ、どこへ? 何の理由で?

答えが出ないまま周囲が暗くなり、何があるかわからないのでとりあえず捜索は

一旦打ち切りとして、僕らはいつもの宿泊場所へと移動した。


 そのまま、誰も見かける事も無くいつもの食事処兼宿屋に到着。

馬車を停め柵に繋いで中に入る、しかし建物の中にもやっぱり誰も見当たらない。


「ごめんくださーい、誰かいませんかー」


予想通り返答は無し、二階の各部屋もすべて見廻ったが、手掛かりは何も見つける

事は出来なかった。

僕らは、一階の食事処のテーブルを囲んで、話し合いをはじめる。


「セル、何があったと思う?」

「わからんな、あまりにも痕跡が無さすぎる」


そう、僕らは全員同じもの見ているので、結局同じ結論になってしまう。


「シャルやアリーはどう? 何か思い当たる事とかある?」

「うーん、何か村のヒト達が総出でやる、お祭りとか儀式的なものがあるとか?」


なるほど、着眼点としては面白い、だけど・・。


「あほ、門番まで居なくなる訳ねーだろ」

「なによー」


 軽くセルに一蹴されている、まあ僕もそれはそう思う。

実はさっき思いついてしまったのだ、自分で考えた自分の意思かどうかは別として

ってので、もしかしてって・・。


「なあアル、これお前が言ってたチョサシャの黒幕の、ヒトを操るって術なんじゃ

ないか?」

「うん、僕もそれしか無いかなって」


 やっぱりセルもそう思ってたか、これはエイジ起こした方がいいかな?

エイジは、予定では明日は山へ行くのに馬車を飛ばしてもらうつもりだったので、

早めに休んでもらおうと村が見えた時点で休眠してもらっていたのだ。


「ちょっと考えまとめてみるね、あっ、皆は話し合ってて」


 僕は、エイジを呼び出し話を聞くのにしばらく動け無さそうだから、初めにこう

言って考え込んでる風を装う事にした。


【エイジ、起きてよエイジ】


休眠にしたのとは逆で、今度は無理やり覚醒させる。


【おはようアル、これから朝飯か?】

【ううん、さっきエイジに休眠してもらってから、まだ一時間も経って無いんだ】

【・・えっ、どういう事だ?】

【実はさ・・・・】


 この村の中にヒトが居ない事、それだけじゃなく鶏も馬も居ない事を伝えた。

勿論、死体は無いし街も荒れて無いのも含めて。


【・・なるほど、そうなるとエックスに手駒にされた可能性が高いな】

【うん、セルも僕も同じ意見、で、エイジを起こしたんだ】

【だとすると・・、ちっ、しまったな、まああの時点じゃどうしようもないか。

・・・・時期が読めないな、そう遠くは無いと思うが】

【えっと何? 時期って?】

【ああ、何を狙っているのかがさ、この村から先には森と山しか無いんだ。

何かするとしたら、それは王都オューしか無い。

けどな、俺たちは今日馬車一台としかすれ違って無いんだ。

ここの全員が乗れる訳は無い、とはいえあの馬車はこの村から出たんだろう。

って事は、あれにはおそらくは黒幕であるエックスか、若しくは直接繋がる配下

が乗っていた可能性が高い。

そして、操られている村のヒト達は、もっと早くにこの村を出てどこかに潜伏して

いると思われる、事を起こすその時までな】


「ええーっ?」

「何よアル! びっくりするでしょ、やめてよ!」


思わず声が出てしまった、そういえば馬車とすれ違ったけど、そうだよな。

この先に道が無い以上、あの馬車はこの村からのものだったんだよな。

そうはいっても、あの時には村がそんな事態になってるなんて知らないしなー。


 丁度いいので、とりあえずここまでのエイジの話を皆に言っておいた。


「・・うそ、そんなのとすれ違ってたの?」

「私も気づきませんでした、アーセちゃんはどうです?」

「わかんない」


 うん、まあそうだよね、だってシャルは僕に文句言うのに夢中だったし、アリー

はアーセ見るのに夢中だったし、アーセはアーセで反対側の景色見てたもんね。


「俺は見たけど、特に変わったところも無かった印象しかないな」


御者を務めてたセルと、シャルにやり込められて現実逃避気味に外に目をやってた

僕と、その目を通して同じものを見てたエイジだけが覚えてた。

でも、僕にも特に不審には映らなかったんだけどね。


「潜伏・・、もうオューに入ってるって事?」

「どうかな? かもしれんし、そうじゃ無いかもしれん」

「どういう事よ? セル」


シャルの不安げな質問に、セルが答えていく。


「目立ちすぎるってこった、確かに先にオューへ入っていた方が、何かを起こすに

もスムーズにいくだろう。

だけど、この村の者全員はいかにも多すぎる。

こっちの門は、街道の先にヒョウル村しか無いってわかってんだ。

門番も、そんな大勢が一度に来たらおかしいと思うだろうよ。

だが、分散して入ってるってケースはありうる。

だから、現時点ではわからんってこったな」


 うん、セルの話は理路整然としててわかりやすいなー。

とまあ、僕は納得なんだけど、どうもシャルは納得いかないらしい。


「なんでよー。皇太子の結婚式に御前試合まであるのよー。

村のヒト達全員見に来る事だってあるでしょー」

「あほ、ただでさえ往復で丸二日かかるんだぞ。

イベント期間中に滞在する日数考えたら、全部で何日になると思ってんだ?

見に来るヒトは居るだろうけど、村のヒト全員がそれだけの間村をからっぽにする

なんてありえねーだろーよ」

「うー」


・・どうもシャルは、セルに対して反抗的というか、素直に言う事聞くのがしゃく

にさわるって感じで、まず否定から入るってのが多い気がする。

もしかして、あんだけ馬車の中で僕に言ったのに、まだ気が晴れて無いのかも。


【で、どうすんだ? アル】

【えっ? どうするって何を?】


 急にエイジに話しかけられてびっくりした。


【ここに居ればおそらくは安全だろうよ。

火の手が上がるのは、ここじゃないだろうからな。

だが、オューにこの異変を知らせに戻るとなると、何かに巻き込まれる事になる

かもしれん、さて、どっちをとる?】


 どっちって・・、僕としては知ってしまった以上知らせないのは後味悪いってい

うか、なんだか後悔しそうな気がする。

とはいえ、それで仲間が傷つく様なのはごめんだ。


 一番は、僕が単独行動で知らせに行くってのがリスクが少ないと思うんだよな。

いざとなったら、エイジに頼んで空へ逃げられるもんね。

そう思って、皆に説明して僕だけが行くってのを提案してみた。


「一緒行く」

「アーセちゃんの行くところが、私の行くところでもあります」

「確かに言う事はわかるが、敵の手の内が分からないんだ。

単独行動は危険だ、そういう風に決めたろ?」

「あたしは絶対に御前試合見に行くからね!」


とまあ、全員の反対にあってしまった、アリーのは反対とはちょっと違うけどね。

そんな訳で、依頼は今回は見送りという事で、着いて間もないヒョウル村を出た。

すでに辺りは暗くなり、ヒトの見当たらない村の中は、一つの灯りも無い有様だ。


 今日はゆっくりして明日の朝にしたいところだけど、何かあってからじゃという

事で、夜を徹して移動する事に。

魔物は狩られてて出ないだろうから、そのあたりは楽できる。


 急ぎだったら人目も無い事だし、エイジに飛ばせてもらいたいところだけど、

何があるかわからない以上出来たら覚醒状態を保ってほしいので、ここは普通に

地上を急ぐ事とした。


◇◇◇◇◇◇


 エイジは一つ懸念を抱いていた。

あの時にすれ違ったのが黒幕だとしたら、何故こちらに何もせず見逃したのかと。

方向から俺たちがヒョウル村にへ行くのはわかってたはず、そしてあそこへ行けば

誰もいないって事がばれて、それをこちらが知らせれば何がしかの計画に支障がで

る恐れがあるとわかっていただろうに。


 それが、向こうからは何の反応も無いという事は・・・・。


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