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第11話 準備 不穏な動きが

 今日は、魔術の訓練それも、精霊魔術だ。

結論から言うと、戦闘にはまるで使えないレベルだ。


 体を動かすのと比べて、魔術の方は総じて苦手の様で、しばらく前からやってるものの、まるで上達の兆しが見えない。

こればっかりは、俺の方も元々の世界に無いものだし、こっちの知識はあるものの、一般的なアドバイスしかできない。

つまり、精霊と長い時間ふれ合って、対話するって事くらいしか言えない。

そして、そんな事くらいアルもわかっている、ちゃんと実践もしている、しかし特別効果があったように見えない。


【だーっ、やーっぱだめだー】

【悪いなアル、俺にもどこが問題なのか、どうすればいいのか全然わからん】

【エイジは悪く無いよ、どうも魔術はだめだー、向いて無いのかなー】


少しでも前に進んでいると感じられるくらいの、進捗度が見えればやる気も起きるってもんだろうけど、傍目に見ても上達してる気がしない。


【まっまあでも、最低限火は起こせるし、水浴びするほどは無理でも喉を潤すくらいの水はだせるんだし、ここは割り切って戦闘には使わないって事でもいいんじゃないのか?】


と思わずフォローに走ってしまった。


【ありがとエイジ、そんなに気を使わないでよ、大丈夫僕には剣があるからなんとかなるよ】


 ずいぶん頼もしくなってきた、こういう困ってる時こそなんとかしてやりたいんだが、情けない。

しかし、この世界は便利なようでなんだか物足りない気がする。

精霊魔術に操魔術に封印術、三つもあるようで三つしかないのがどうもしっくりこない。

元の世界には、魔術自体無かったからそれから考えたら凄い事なんだろうけど、逆にこれだけあれば他も開発できたりしないんだろうか?

無いものはどうにもならなくとも、魔術というか魔力があるんだから研究とかすれば、種類とか増やせるような気がする。

よく、ゼロを1にするのは難しいけど、それよりは1を100にする方が簡単だっていうし。

GAMEとかだと攻撃魔法とか治癒魔法とか、もっと多岐にわたってた気がするけど、やっぱ現実はこんなもんなんだろうか。


 でも、俺の中の知識にある、あの不思議としか思えないアイテムはなんなんだろう?

どう考えても、魔術の力でどうにかしてるっぽいんだが、何の魔術だかが全然わからん。

あんなものが実在するって事は、やっぱりこの世界にある魔術は、もっと色々な事が出来る可能性があるんじゃなかろうか。


◇◇◇◇◇◇


「うーむ、まいった」


 シュミッツァーとの模擬戦も、もう何戦したかわからない。

最近は、アルが負ける事は無い。


「気が付いたら目の前まで来ていて、なすすべがないわい、ありゃあなんかの技なのか?」


シュミッツァーは、あきれたような感心したような、お手上げといった風でアルに聞いてきた。


【エイジ、あれなんか名前あるの?】

【あれは、地面が縮むと書いて『縮地』の法って言うんだ、相手との距離が縮まったかのように錯覚させるって意味だ】

【カックイー】


「あれは、『縮地』っていって、距離が縮んだと錯覚させる技だよ」

「ほー、そんなものがあるのか、あれが決まれば敵なしじゃな」

「へへへー」


 稽古を終えて家に引き上げる。

夕食前に汗を拭き、先ほどの模擬戦の感想を言い合った。


【今日のは良かった、ずいぶん慣れてきたな】

【うん、おじいちゃんともすいぶんやったからね、同じ相手だと段々くせとかわかってくるから、出しやすいよ】


少しだが、同じ相手とばかりやっている事の、弊害が出ているようで、一応たしなめておく事にした。


【油断は禁物だぞ、実戦では相手に慣れる時間がそうそうあるとは限らないからな】

【そうだね、初見の相手に今日と同じくらいのレベルで使えないとね】


 よくわかってるな、感心感心。

念の為に、使用条件をおさらいしておこう。


【わかってると思うけど、いつも言っているように、地面の確認は怠るなよ、あれはあの足捌きあっての技で平地でないと使えないからな】

【うん、わかってる】

【それに、距離はいいとこ6mくらいが限界だぞ、それ以上だとおそらく意味無くなる、普通に対処されちまう】

【そうだね、離れている場合は、効果薄いかもね】

【最後に、使ってるアルにはわかってると思うけど、あれは相対してる一人にしか通じないからな、複数相手の時は覚えられてしまうリスクを考えて出さない方がいいぞ、よっぽと追いつめられれば別だけど】

【そんな簡単にばれるかなー】

【簡単じゃないかもしれないけど、アルの動きはこの世界では異質だ、それだけにとても効果的だが、それも相手に知られていたんでは半減してしまう、せっかくのメリットは有効に使わないとな】

【なるほどね、わかったよエイジ!】


よくぞここまで成長した、これで型はまがりなりにも出来上がった、もうちょっとしたら筋トレなんかも視野に入れていかないとな。


しかし、アルはエイジの感心する様を尻目に、不遜な事を考えていた。


『縮地』かー、ちょーっと難しかったけど、ま、楽勝でしょ! しかし、エイジはいるし剣聖はあるし、僕ってこの世界を守る為に生まれた、救世主とかなのかなー、巨大な悪とか立ちはだかったりするのかなー、旅に出るのが楽しみだなー。


◇◇◇◇◇◇


 旅立ちの日まで、まだ日はあるが、焦らないように荷物はすでに揃えてある。

装備する武器は、特製ベルトに収納されているので問題なし。

それ以外のものは、背嚢に入れて準備してある。


着替え用の服、上下一着。

下着、三枚。

靴下、三足。

タオル、二枚。

雨が降った時用の外套、一着。

水筒、一個。

フォーク、一本。

ナイフ、一本。

以上だ。


 アルに、【ナイフには名前を付けないのか?】と聞いたところ、どうもアルの感覚ではナイフは武器にもなるけれど、どちらかというと作業する道具という認識らしく、名前を付ける気がしないとの事だった。

結構長い付き合いながら、その辺はいまだによくわからない、名づけにもこだわりがあるらしい。


 村と村との間隔は、大人が一日歩いてつかないほどは離れていない。

その為、野営の道具などは必要ない。

これは、魔物が出るようなところで夜を明かすような、危険な事が無いようにと村づくりの際に、ある程度計算されて作られたらしい。


 交通手段としては、馬車があるが当然お金がかかるので、通常は使わない。

空飛ぶ絨毯でもあれば、ひとっ飛びで楽なんだが、そんな便利なものは無い。

当然アルも、徒歩での旅を予定している。


◇◇◇◇◇◇


 アルの旅立ちを直前に控えた夕食後、フィンはアルに話があると切りだした。

すでに、長男夫婦と子供たちは自室に引っ込み、アーセも部屋へ行ったので、この場には、祖父母と父と母しかいない。


「アル、お前が旅に出てからでは、話す機会が無いと思い今日話しておく事にした」


フィンが口を開いた、いかにも言いにくそうにしながら。


「覚悟して聞いて欲しい、実は、お前は俺とマージの実の子供では無い、俺の妹のルルリアの子供なんだ」


 アルは、内容を理解はしていたが、実感というものがまるでわかなかった。

ずっと、親子兄弟だと思っていたこの家で、自分だけ違うってことなんだというのはわかった。

だからと言って、これまでの事がなくなるわけでもない。

これまでも、エイジがいつも一緒だった、もうじきこの家を出てからも家族のみんなには会えなくなるけど、エイジは一緒だ。

だったら、結局どうだろうと、これまでと変わらないんじゃないかと思った。

ただ、気になったのは


「父親は誰なの?」


という事だった、さっきの話に出てこなかったからだ。


「わからない、ルルリアはいくら聞いても答えなかったんだ」

「その、ルルリアさんは、どこにいるの?」

「もういない、お前を生んですぐに死んでしまった」

「ふーん」


祖父母と父と母、アルを除く全員がアルがショックを受けているのでないかと、胸を痛めていた。

だが、アルは特に強がってる訳でも、気持ちに嘘をついているわけでも無く、自分の気持ちを正直に話した。


「話してくれてありがとう、それにこれまで育ててくれてありがとう」

「今まで黙っていて済まんな」

「ううん、旅に出る前に聞けてよかったよ」


アルは、返って清々しい気持ちになっていた。


「ねぇ、別にこれまでと呼び方とか変えないでいいよね?」

「あっああ、勿論だ」

「良かった、じゃあもう寝るね、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」



 アルが引き上げた後、フィンは深い息を吐き緊張を解いた。


「意外にあっさりしたもんじゃったな、お疲れさん、ほれ、茶でも飲め」


フィンは、シュミッツァーに促されて、マージに出されたお茶をぐいぃっと一気に飲み干した。


「本当、あんなに平静だったのは、何か気づいてたのかしら? まさか」


マージの疑問に、緊張が解け饒舌になったフィンが答えた。


「いや、違うだろう、思うに、旅に出る事を決めた時から、何があっても動じないようにと、常日頃から自分に言い聞かせてたんじゃないだろうか?

俺も、あんなに動揺も何もないとは思ってなかった、知らない間に成長してたんだなアルは」

「結構結構、外に出れば頼れるものは己一人、あのくらいじゃないと安心して見送れぬわい」


シュミッツァーが締めた所で、この場は解散となった。


◇◇◇◇◇◇


 -某国-


湿った空気、陽の光が届かない地下深くで、狂気をはらんだしわがれた声が響いていた。


「長かった、だがなんとか間に合った、ワシの命が尽きる前に実用化にこぎつけたのは、我らが覇を唱えるのを天が認めた証じゃ!」


「ガスパ様、して器はどう致しますか?」


傍に仕える宰相らしき男が、ガスパと呼ばれた老人にお伺いを立てた。


「そう急くでない、これは何度も行えるものでも無いのだ、慎重に慎重を重ねなければな、各地へ放った密偵の情報を取りまとめ、あらゆる事態を考慮せよ! これより六つの可能性の中で最も良いものの選定を開始する」

「はっ!」


いくつかの影がその場を離れ散って行った。


「我らが悲願成就の暁には、この大陸を血に染めてやる、すべてを塗り替えてくれるわ!」


長く燻り鬱積した心情を吐き出した事で、老人は冷静さを取り戻した、そしてこれまでよりも落ち着いた声で話しかけた。


「して、あちらはどのくらいで数が揃う?」

「はっ、五年いただければ、十分な数にとどくかと」

「長いな、出来るだけ急ぐのだ! 最低限の数がおればよい」

「ははっ!」


大きく息を吐き、ガスパは続けて問いかけた。


「あの姫のところはどうじゃ? 何か動きがあるか?」

「いえ、今のところそのような報告は入ってきておりません」

「ふむ、ならばよいが、あそこだけは何をしでかすかわからん、くれぐれも監視を怠るでないぞ!」

「ははっ!」


いましばらくの辛抱じゃ、待っておれよ安寧を貪る者どもよ、ワシのこの手で引導を渡してくれる。



こうして、大陸を覆う闇が誰に知られることも無く、静かにしかし勢いよく染み渡るように広がり出した。


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