第112話 論説 そんなんじじいから聞いてねー
王都オューの定宿であるメイプル館、その僕らの部屋にメンバーが集まっての話し合い。
というよりも、僕が聞いてきたことを伝える連絡会といったところ。
それを聞いたアリーは、神妙な顔つきをしていた。
「アリー、何か気になる事でもあるの?」
「・・詳しい状況はわからないんですよね?」
「うん、少なくともここのヒト達には知らされて無いみたい」
「タイミング的に、イァイ王家一行が巻き込まれていないかと思いまして」
・・そっか、これにはまるで考えが及んでいなかったので、びっくりさせられた。
何が起きたんだろう? とは思っていたけど、その目的は予想して無かったな。
もしや狙いは王家? 国王なのかその家族なのか、でも一体誰が・・。
・・なんだろう? 面倒だなとしか思って無かった王族だけど、何かあったかもとなると心配になる。
エイジが覚醒したら意見が聞けるように、出来るだけ情報を仕入れておいた方がいいかな。
そんな風に考えていたら、しばらく考え込んでいたセルが、おもむろに口を開いた。
「・・何が起きたのかわからないのもそうだが、誰がどんな方法で解決したんだと思う?」
「それはやっぱり、警ら隊や軍がなんとかしたんじゃないのかな」
「だったら、わざわざ早馬走らせてまで援軍求めたりしないだろ。
あれは、現状じゃ対処しきれないって判断での処置だと思うんだよ。
だとしたら・・、アリーの懸念通り王家一行が居たとすると、近衛騎士や『雪華』がって事かもしれんな」
言われてみれば、確かにそうかも。
「でも、疑問が残るんだよな」
と、セルは自分の説にも納得いかないらしく、疑問を口にした。
「どういう事?」
「一言でいえば特性だな」
「? 全然わかんないんだけど」
「『雪華』は何のために雇われてるのかって事さ」
「そりゃあ、王族を警護するって役目でしょ」
「そう、そして近衛騎士も王族を護る為に同行しているはず。
そんな一行に危険が迫ってるとして、警護する者達はどうするのか」
「どうって・・、襲ってくる奴らが居れば戦うんじゃないの?」
ここで僕の答えに対して、セルに目で促されたアリーが説明してくれた。
「彼らの一番の使命は王族の安全、であるならば必ずしも戦うとは限りません」
「えっ? じゃあどうすんの? 逃げるの?」
「それも選択肢の一つでしょうね、まあそもそもは危険を回避するのが一番ですが」
「でもさ、逃げちゃったらその後誰が事態を解決するのさ」
ここからはまたセルがバトンタッチして答えた。
「まさにそこなんだよ、疑問なのは」
「そこ? 誰がってこと?」
「ああ、援軍を要請したって事は現状の兵力では足りないって事だろ?
例えそこに近衛隊や『雪華』が居合わせたとしても、現有兵力で無力化できない程の事態に、わざわざ介入するとは思えない。
彼等は事態を解決するのは二の次、一番は王族を危険な目に合わせない事だからだ。
振出しに戻って、じゃあ一体誰が事を収めたのかってな」
そこまで言うと、セルはアリーと合図するように視線を交わす。
・・なんかこの二人気が合うみたいだな、なんとなく二人に授業受けてる気になってきた。
シャルとアーセも大人しく聞き入っているし。
「とまあ、普通ならここ止まりで推測は終わりとなるだろうよ」
「何? まだなんかあんの?」
そう僕が言うと、セルにため息をつかれてしまった。
「アル、お前がそんな事でどうするよ」
「えっ?」
「・・その腰に差しているのは何だって話だよ」
「腰って『嵐』と・・あっ、えっ? じゃあ龍が使われたって事?」
「その可能性がある」
「だって、さっきの話じゃ関わり合いにならないって言ってたじゃん」
「それはあくまでも王の側近たちの話だ、王自身はそうとは限らない。
他国の村とはいえ、ミガの国王とは友人関係にあるし、なにより妹が嫁ぐ先でもある。
解決する手段を持ち合わせていないならともかく、あるんだったら使うって可能性はあるだろう?」
確かにそうかも、ドラゴンリングって指輪だよな、だったら普段も身に付けてるだろうし。
龍か・・、カックイイんだろうなー、ちょっと見たかったかも。
エイジは見た目どんなか知ってるのかな? 後で聞いてみよう。
「とりあえず、この話はここまでだな」
セルが言うには、これ以上は判明している事実が不足していて、考えても答えは出ないだろう。
この件は、すでに終わったのかそれとも続くのかも、現時点では判断できない。
後は、おそらくは夕方近くに来るであろう、第二報を聞いてからにしようという事になった。
話が途切れひと息ついたタイミングで、くぅーと可愛らしくお腹が鳴る音が。
アーセだった、そーいや僕より早くに目を覚ましてたもんな、そりゃ腹も減るか。
これにより、食事を昼まで我慢するという案は、提案前に却下となった。
「アーセちゃんのお腹が減るなど、あってはならない国家の一大事です」
いつものようにアリーが大騒ぎしだした結果、軽いものを買ってくる事に。
外に食べに行っても、ここと同じように買い上げられてるとしたら、無駄足に終わりそうだし。
なにより、まだ依頼を終えていないので魔核鉱石が入った樽が手元にあるままなのだ。
出かけるならこの大荷物を抱えたままになるし、エイジが覚醒していない現状ではそれは出来ない。
という訳で、買い出しのメンバーは言い出しっぺのアリー、自分が原因だからとアーセも行く事になり、じゃあとシャルも加わり女性陣が皆で行く事に。
なので、当然留守番は残った僕とセル、三人は元気に部屋を出て行った。
◇◇◇◇◇◇
【おはようアル】
そうエイジが声を掛けてきたのは、女性陣が買いだしに出発した少し後だった。
【おはよー、やっぱりだったね】
【そうなのか? 相変わらず自覚ないんだが】
【うん多分、実は僕らも寝過ごしちゃって、さっき起きたとこなんだけどね】
大体いつもは6時頃に目を覚ます、エイジも同じくらいだ。
でも寝過ごした今日は、おそらくはもう8時頃だと思われる。
昨日は約一時間馬車を飛ばしてたから、その倍の時間覚醒が遅れるという仮説が証明された結果となる。
早速セルにエイジが覚醒した事を伝え、エイジにはさっきまでの話をしておいた。
【ほう、なるほどな、その辺までは俺も同意見だな】
【どういう事? まだ先があるの?】
【誰がってのは俺もわからん、あっ、解決した方じゃなくこの件を画策した方な。
だが、この結果からどうやっての部分は、おぼろげながら推測できる。
ちょっと長くなるけど、我慢して聞いてくれ。
まずはワタガーで何か異変が起きた、現時点では何が起きたか不明だ。
それに関連しているかどうかわからんが、チョサシャ村が襲撃され多くのけが人が出た。
この、チョサシャ村を襲撃した奴らの黒幕を仮にXとする。
Xが何の目的で村を襲ったのかはわからないが、これはかなりイレギュラーだったと考えられる】
・・なんだか難しい話になりそう。
この後の話に付いて行けるかちょっと、いや、かなり不安が残る。
なので、エイジには申し訳ないけど、ちょこちょこ中断してもらいその都度セルに説明しておく事にする。
【なぜなら、村に防備を備えさせ、間に合わなかったかも知れんが援軍要請までさせてしまっている。
怪我人が多かったという事は、村に何がしかのダメージを与えたかったからだ。
これから襲撃する村に、予め何かあると知られてしまっているのは、あきらかにXにとってマイナスだろう。
とても計画通りだったとは思えない。
では何故、チョサシャ村では襲撃に備える事が出来たのか?
それは、ワタガーで異変があったという報告を受けたからだ。
つまりは、ワタガーでの異変が発覚した事で、イレギュラーが起き襲撃が決行されたといえる。
ということは、ワタガーで何かをした者とXは同一人物若しくは同じ組織だと思われる】
ここまでで一旦中断、セルに再び説明する。
【おそらく、Xはチョサシャ村を襲撃する予定だったんだろう。
そして、其の為にワタガーで何かをしていた。
何かとは何か? チョサシャを襲うのにワタガーで画策していた事とは?
見た目で異変が起きてるとわかる、しかし何が起こっているのかの説明がつかない状況。
ワタガーにあるのは、採掘される鉄鉱石と受刑者や鉱山労働者といった人的資源だ。
襲撃の際に使う武器を作るのに鉄をというのは解り易い、だが無くなっているのが大量にだとしたら、説明がつかないという事は無い。
逆に、少量だった場合異変が起きてるとは気づかれない。
そうなると、残るのはそこに居る受刑者や労働者たちだ。
彼等が見当たらない様ならそう報告される、だが実際はそうじゃない。
彼等は現地に居たんだ、だが常の状態には見えなかったという事だろう】
さらに続きそうなので、ここでまた中断しセルに説明を。
【一番可能性が高いのが、作業所の占拠だ】
【ちょっと待って、それ前にエイジ自身が無いって言ってなかったっけ?】
【ああ、だがそれは受刑者だけで行う場合だ、第三者であるXが関与しているとなると話は違う。
Xが、チョサシャ村を襲撃する為にワタガー作業所を占拠していたとなると、その場に居る者達を兵隊として送り込むのが目的だと思われる。
だが、これをするにはあまりにも難しい問題がある。
それは、どうやって言う事を聞かせるかだ。
確かに、人質をとれば鉱山労働者を従わせる事が可能だろう。
こっそり忍び込んで、賄をする女性などを盾にすれば、手を出せなくなるはず。
でもそれは、目的を聞かされるまでの事でしか無い。
村の襲撃を命令されれば、少なくとも警ら隊員は被害の規模を天秤にかけ、その場で強硬策に出ると思われる】
まあ、そうかもしれないけど。
【でもさ、武装解除させられてたら、言う事聞くしか無いんじゃないの?】
【それは無理がある、なぜならば兵隊として活用する予定なんだ、武器を携行させ魔術も使える状態にしておかなければならない。
ただ、その状態ではいつでも反抗が可能で、計画に組み込むには不確定要素が強すぎる。
まして、受刑者は言う事を聞かないだろう。
もしそれに加担すれば、襲撃した際に殺されるか、生き残り捕えられても死罪は免れない。
そんな彼らに命令を実行させるとしたら、襲撃をさせたとしたらそれはどんな方法だ?
俺には、とてもじゃないが真っ当なやり方での方法ってのに思いあたる節が無い。
となると、荒唐無稽かもしれないが、Xにはヒトを操る術が使えるという事になる】
セルにエイジの言った通り説明する、だけど、なんだか空想の出来事みたいで実感が沸かない。
ヒトを操る術? どんなに嫌がっても命令を聞くようになる?
そんなの本当に出来るのかな、エイジを信用しない訳じゃ無いけど、余りにもあんまりな話だ。
【今後はそれに備えて、これまでよりも警戒して行動しないとな】
【ちょっと待ってよ、備えるったってどんな方法かもわからないんだよ?
どうしろってのさ?】
【俺にもわからんさ、ただな、ヒトの意思を捻じ曲げるんだ、それほどお手軽な訳は無いだろうよ】
【? どういう意味?】
【つまりだ、普通の状態でいきなりやられるとは思えないって事だ。
おそらくはだが、相手の意識を奪うか身動きできない様にするんじゃないか?
そうしておいて、何らかの手段で操れるようにする。
封印術の上位の術って思えば、想像しやすいんじゃないかと思うぞ。
だとしたら、まずは決して単独行動しない事。
そして、知らない奴に声を掛けられたら、例え道を聞かれたとしてもあまり近づかず、常に臨戦態勢を保つ。
加えて、食事など口にするモノには注意を払うってとこかな】
・・なんだか世知辛いというか、とにかく気を抜かない様にって事なのかな。
何度目かになるセルへの説明、あーエイジが僕の体を操れたら話してもらえるのにー。
あっ、これいい考えかも、やり方解ったら是非エイジにやってもらおう。
【ねえ、エイジがそのヒトを操る術使える様になったら、僕の体使って他のヒトと直接話せるようになるんじゃない?】
【そら出来るだろうけど、俺は操魔術以外は精霊魔術も封印術も使えないんだぞ。
そう都合よく、そんな術だか技だかが使えるようになるとは思えんよ】
【だめかー】
【そんな事より、共有しておくべき大事な情報がある】
女性陣が買い出しから戻ってきたのは、エイジがそんな事を言い出した時だった。




