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第111話 未知 普通は敵だと思うよな

 チョサシャ村の西門を出て100m程の街道に、王族を守護し『雪華』の団員を従えた団長パルフィーナが居た。

国王たちとの話し合いの折、外から聞こえてきた騒ぎによって、予め決められていた行動を起こしたのだ。

彼女の場合は、国王の母親であるローラースーと妹であるユーコミンの二人を、速やかに村から避難させる事。


とりあえずここまでは無事に済んだ、とはいえ状況は予断を許さない。

何よりも心配なのは、東門へ派遣した団員達とりわけ妹のマリテュールの安否。

何故彼女たちが戻る前に暴徒がこちらに来たのか、一番考えたくない予想を無視して無事を祈った。


 夜も遅い事もあり、街道に留まっても通行の邪魔にはならない。

とはいえ、村の中と違って何の灯りも無いところでは、不安ばかりが募る。

そんな心細さを加速させるように、魔物とおぼしき砲声が聴こえてきた。


「グゥルルル、グゥルァー!!」


声がしたのは確実に村の中から、一体何が起こっているのか。

供の者達と『雪華』の団員達は、その声を聞いて震え上がった。

しかし、ローラースーは逆に気持ちが落ち着いていく。


(そう、使ったのねレンドルト)


そう心で語りかけると、向かいに座り未だ不安そうな娘に話しかけた。


「もう大丈夫よユーコ、レンドルトがやってくれました」

「? お兄様が? 何をですか?」

「もう賊は退治されているでしょう、誰か? パルフィーナを呼んで頂戴」


ローラースーは、パルフィーナを呼びつけるとこう告げた。


「おそらく、すでに敵は駆逐され村の中は安全になっているはずです。

どなたかに見てこさせて頂戴。

多分近衛の誰かが、こちらに知らせるのに向かってると思うけどね」


そう微笑むローラースーに、パルフィーナは半信半疑ながら団員に偵察を命じた。


◇◇◇◇◇◇


「なんなんだありゃあ・・」


 本隊に合流するべく、村の東門付近から西へ移動していた『雪華』団員と宮廷魔術師たち。

怪我人が多い為闘いに巻き込まれ無い様に、暴徒が進む道では無く路地を移動していた。

そんな彼女たちの目に映ったのは、建物の高さを越える村の中に居るはずの無い魔物の姿。


まだかなり距離があり、こちらの通りでは無く暴徒が進む道の方向ではあったが、そのあまりな迫力に思わず全員足を止めてしまう。

この場をまとめる立場の『雪華』副団長のレイベルも、最初に一言発しただけで何の指示もせずに、ただ見上げるだけだった。

見た事の無い状況が時間の認識を狂わせる、どのくらい経ったか感覚が曖昧な中、突然にあがる砲声。


「グゥルルル、グゥルァー!!」


皆、体を固くしている中、輝くような青白いモノが魔物の口から放たれた。

建物の影になっていて地面は見えないが、方角からいうと暴徒に向けてのものだと思われる。

しかしとレイベルは考えた、いきなり現れた魔物が暴徒に攻撃する? そんな都合のいい話があるか、と。


動き出す魔物を見て、すわ次はこちらに来るかと身構えるも、その場で半回転した後姿がかき消えてしまった。

倒れたにしては音が聞こえない、あの巨体が身をかがめたところで建物からはみ出るはずだ。

にもかかわらず、どこを見渡しても見つける事は出来なかった。


 確認しようと怪我人をその場に残して、レイベル以下動けるもの二名で偵察したところ、どうやらすべてが終わったらしい事が見てとれた。

あの魔物も暴徒も見当たらない、動いているのは近衛騎士のみ。

そして、宮廷魔術師に囲まれている国王の姿を見て、その周囲から近衛の騎士の姿が離れている事で危険が去った事を実感していた。


 一安心しまずは同行している一名に、残してきた者達の元へ事態が収束した旨伝言に走らせる。

レイベル自らは、国王と傍に居る宮廷魔術師筆頭のケリジュールに、東門で起こった事を報告する為に向かった。

まずは手の者の無事を喜ぶ国王、ケリジュールに至ってはこちらに引き上げてこない事から半ばあきらめていたらしく、部下の姿を見た時には涙ぐんでいた。


◇◇◇◇◇◇


 イァイ国王家の切り札たるドラゴン、それが姿を消し数瞬周囲一帯が静寂に包まれる。

目の前で見せつけられた近衛騎士たちは、誰もが口を開く事も無くただその場で棒立ちするだけだった。

そんな中、彼等は暴徒の生き残りが這いずる音で動きを取り戻す、とはいえ危急な事態が去った事で動作自体は緩慢さが満ちていたが。


 ただあまりほのぼのともしていられない、けがをしている者はともかくとして、動ける者は暴徒の捕縛並びに怪我人の搬送などに駆けだしていく。

幸いにしてこの村に住む村民への被害は無い、これはあらかじめ襲撃があると予測されていたので、前もって村の西側へ避難していたので全員無事だったのだ。

建物にしても、焼かれて壊された東門以外は、多少壁に傷がついた程度で済んでいる。


その分惨いのは、警ら隊員と軍の兵士たちだった。

正面から暴徒とやり合い、数が少ない事から文字通り全軍による突撃を敢行したのだ。

その結果、軍の指揮官であるケントス及び警ら隊長のスハイラー両名も、深い傷を負ってしまっていた。


 現場担当者として無傷の者が居ない中、最も厄介だったのは生き残り捕縛された暴徒の扱いだった。

彼等には何を話しかけても答えが得られない、その上こちらへの攻撃を止める事も無い。

足が動くうちは止まることは無いし、手足を縛っても操魔術でそこらにある物を飛ばしてくる。


ならばと、封印術を施し魔術を使えなくし、これで大丈夫だろうと尋問しようとすると、相手の喉に噛みついてくる始末であった。

捕えられた中にも無傷の者は居ない、というよりも、相当のダメージを与えない限り捕えられなかったという方が正しい。

しかし、治療しようにも少しでも拘束を解けば攻撃してくることから、封印術を施し手足を縛りさるぐつわをかました上で、そこらに転がしておくより他無かった。


 そんな有様なので、とにかく手が足りない。

レンドルトは、国王である自身を守護するためとはいえ、付き従っていた四名の内の二名の近衛騎士に、自分の元を離れ近衛騎士団団長であるバグスターの指示に従い動く様命じた。

これは自ら見た光景から判断し、残存する敵勢力は居ないと結論付けたのだ。


残る二名には、こう指示を出した。


「お前は、母上とパルフィーナに安全が確保できたので村に戻る様にと伝えに行け。

それとお前は、村の住民が避難している所へ行き、もう危険は無いから片付けを手伝うようにと村長に要請してこい」

「「はっ!」」


そうしている内に、宮廷魔術師たちが国王の元へ集まってきた。

彼女らは、周りの複数の建物の上階に散開して配置され、開けた視界を確保し精霊魔術で敵を狙撃する役割を担っていたのだ。

王を守護するとはいっても、地上ではどうしても味方が邪魔で思う存分魔術の腕を生かせない為の配置だった。


実際は、ドラゴンの出現によりその役割は果たせなかったが。

王の元から近衛騎士が離れるのが見えたので、それぞれの判断で建物から出てきたのだ。

近衛騎士が王の元を離れる、それはすなわち当面の危険が去った事を意味する。


その証拠に上から見た限り、周囲に敵の姿が無かった、おそらくは戦闘が終結したのだと感じての行動であった。


◇◇◇◇◇◇


 朝を迎え自然と目が覚めた、昨夜は疲れていたので早めに眠ったせいか、かなりすっきりとした気分だ。

予想通りというか、自らの宣言通りにエイジは覚醒していない。

アーセを起こさない様に、ゆっくりとベッドを降りようとしたが、すでに目を覚ましていてこちらを見ていた。


「どうした? 眠れなかったのか?」


昨夜は馬車泊だったので、セルは未だに就寝中。

僕も今目が覚めたとこなのに、アーセが起きていたのは何か不調でもあったのかと思ったのだ。

しかし、アーセはふるふると首を横に振り答えた。


「お昼寝したから」


あーなるほど、そーいや昼間僕が御者やってない後ろに居る時に結構寝てたもんな。

それで早めに目が覚めたのか、うん、段々意識がはっきりしてきた。

今何時だろう? 外はいいお天気で日差しも高くまぶしい。


・・アレっ? もしかしてこれ不味く無いか?


「アーセ、ちょっと下に行ってくる」


 僕は急いで身支度し、部屋を出て階下へ。

すると、がらんとした店内に食器を洗う音が響いていた。

恐る恐る厨房を覗き、中に居る女性に聞いてみた。


「あの、もしかして朝食終わっちゃいました?」

「あらーアルベルトさん、ごめんなさい、今日はもう時間で片づけちゃいました」


やっちまった、朝食の時間に間に合わない程寝過ごすとは。

いつもセルに頼っていたけど、そりゃみんなと同じように疲れてんだもんな、寝過ごしもするか。

こうなったら外へ食べに出るか何か買ってくるか、とりあえず部屋に戻ってセルやアーセと相談してみよう。


「あっ、アルベルトさん」


そう思い部屋に戻ろうとしたら、食器洗い中の女性に呼び止められた。


「朝食ご用意できなくてごめんなさい」

「いえ、こっちが寝過ごしたんですから」

「本来なら宿泊しているお客様の為に取り置くんですが、今日は残っているモノすべて買い上げられてしまって、賄も残って無いんですよ」


ん? 買い上げられた?


「あの、どういう事でしょう?」

「なんでも、大量に食料が必要だという事で、今朝早くに軍の方が来てある分すべて買い取ると言ってきたんですよ」

「軍が?」

「はい、お隣の村で何事かあったらしくて、そちらに送るのだとか」


・・出がけに騒いでた、ワタガー作業所の異変ってやつかな?


「何が起きたんでしょうね?」

「詳しい話はわからないんですけど、どうやら解決はしてるみたいですよ」

「そうなんですか?」

「そうおっしゃってましたね、でも、怪我しているヒトが多いのと、片づけやなにやらで食事の用意まで手が回らないんですって」


 怪我? って事はワタガーで起きた何かによって、村が襲撃されたって事かな?

すると、エイジは可能性が低いって言ってたけど、やっぱり反乱が起きたのか。

・・いやそうとも限らない、ワタガーが誰かに襲撃を受けて、そいつらが村を襲ったってのもあるかも。


「それで、緊急事態だから今席に居るお客様の分を出したら、残りは全部引き取らせて欲しいって事で持って行かれてしまいまして」

「そうだったんですか」


会話を終え、部屋に戻るとセルがベッドで上体を起こしていた。


「おはよ、セル」

「・・ああ、おはようアル、アーセ」


 起き抜けでまだ眠気が抜けて無さそうなセルに、下で聞いた事を伝える。

食事の時間が終わったことに対しては残念がっていたが、その後の話には真顔で聞き入っていた。

寝起きから完全に覚醒したのか、いつもの調子で話しかけてくる。


「・・そうか、だとするとあの時の早馬での援軍要請は、間に合わなかったのかもな」

「そうなの?」

「ああ、おそらくはな、時間的に考えて昨夜の夜半過ぎには事は終ってたんだろう。

対して、あれから編成し出発したとしても、こちらからチョサシャ村への移動にはかなりかかる。

・・ただまあそうなると、別の疑問も出てくるけどな」


セルが少し思案しているようだったので、その間にと思いアーセに女性の部屋を見に行かせた。

まだ寝てるようなら無理に起こす必要は無いけど、目を覚ましているようなら部屋に集まってくれと。

共に行動する仲間内で、情報の共有は基本だって前にエイジにも言われてたしね。


 少しして、シャルとアリーがアーセと一緒に部屋に入って来た。

軽く挨拶をして、二人にも下で聞いた事を話してみる。

食事を食べそびれた事は、特にシャルが大いに嘆いていたけど、やっぱり興味を魅かれたのは何が起こったのかって事だった。


「じゃあ、あの時出発せずにあの村に居たら、その何かってのに巻き込まれたかも知れなかったって訳ね」

「うん、絶対とは言えないけど、あの後街道へ出るのを止められてたらそうなってただろうね」

「うーおっかない、運が良かったわね」

「本当、あの不確かな状況下で出発するって判断したのは正解だったよね」


 シャルと僕との会話の最中、アリーは何事か考え込んでいる様子だった。


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