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第110話 顕現 やっぱとんでもねえ

 東門が破壊され、そこから侵入してきた暴徒共は隊形を崩さなかった。

三列に並び歩いてくる奴らに向かい、警ら隊員や軍の兵士たちがその歩みを止めようと攻撃を開始する。

レイベル以下2名の団員も、奴らに負傷した者達が目を付けられないようにと、自分達に注意を向けさせる為その場を離れ斬りかかった。


 おかしいと、初めてレイベルが感じたのはこの時だった。

好戦的な性格とは裏腹に、彼女の戦闘スタイルは防御重視である。

これは、団での戦いの中で彼女が自然と辿り着いた型であった。


 団長のパルフィーナは、男性にも引けを取らない程の体格と膂力により、長柄のハルバードを振るう典型的な攻撃役アタッカーだ。

他の団員たちは、全員が女性という事もあり魔術を主体に戦う者が多い。

そうなると、それらのフォローに回る事が多くなり、このような型に落ち着いたのだ。


『尻尾』である彼女の特性は、その俊敏さである。

いくら防御重視といっても、盾をかまえて防ぐのではその特性を生かせない。

そこで、素早い身ごなしで敵をかく乱し自身への攻撃は躱しながら、味方への攻撃は防ぐ事の出来る武器を必要としたのだ。


彼女が選んだのは左右にそれぞれ持つ、拳を守る為のカップガードが付いた二本の十手の様な櫛型の短剣だった。

この武器によって、相手の攻撃をいなし防ぎ時には破壊して、味方を守ってきたのだ。

そしてこの時の様に、けがをした者を守りながら戦うというのは、彼女の得意とするシチュエーションでもある。


 彼女が仕掛けたのは、並んで歩いている奴らの左側面から。

まずはこちらに注意を向けさせるために、その中の一人の左肩へけん制の突きを放った。

この時の驚愕により、反応が遅れたせいで敵の攻撃を受けてしまう。


通常、相手がヒトであれ魔物であれ、攻撃されれば躱すか受けるか何らかの動きがみられる。

闘いを重ねてきた彼女は、その相手の反応を見てそこから手を替え、有効な手を繰り出す事が出来る。

しかし、敵は一切の保身を行わずそのまま攻撃を受けながら、こちらへタイムラグ無しで反撃して来たのだ。


これまでの経験では、攻撃を受けた衝撃や痛みで、相手への反撃にはどうしても間が出来るものであった。

それが、まるで痛みを感じていない様な、後の事を全く考えていない振る舞い。

こちらの攻撃を受けながら、横薙ぎに振るわれたメイスをわき腹にもらってしまった。


メイスと革鎧の間に、ギリギリで左の短剣を盾代わりに滑り込ませたおかげで、骨は折れて無いようだ。

その後、何度仕掛けても相手の反応は同じ、ターゲットを変えようと同じ様にこちらの攻撃に意を介さず反撃してくる。

いくら防御重視で回避するのに慣れているとはいえ、攻撃しながらではその反撃のすべてを躱しきるのは無理だった。


バラバラに対処していたのでは、埒が明かない。

今度は他の2名の団員と協力して、何度となく攻撃を仕掛けるが敵は歩みを止めない。

やはり誰もがさきほどと同じ様に、こちらの攻撃を無視して反撃してくる。


「レイねえ!」


 そう呼びかけてきたのは、上体を起こしたマリテュールだった。

レイベルは心の中で舌打ちをする、そんな大声を出してそちらに敵が向かったらどうする、と。

が、その思いとは反対にマリテュールは再び声をあげた。


「レイねえ下がって! 大丈夫だからこっちに来て!」


◇◇◇◇◇◇


 どういう事か訝しみつつ、大きな声を出したのが堪えたのか、再び横になってしまったマリが心配だった。

とりあえず、戦闘を中断しあたし達は負傷した者達の元へと駆けつける。

ほとんどの者の呼吸が整っているのに安心しつつ、マリに話しかけてみた。


「マリ、平気か? どこか痛むところは無いか?」


小さな頃からの付き合いで、姉妹の様な関係だったマリの事が心配だった。


「まだちょっと苦しいけど、たぶん大丈夫」

「そっか、それでさっきのはどういうことだ?」

「レイねえ、あのヒト達の目を見た?」

「・・いいや、横合いから仕掛けてたからほとんど見てねえや」


一体マリは何が言いたいんだろう、一生懸命に息を整える姿を見つめながら答えを待った。


「見て」


 そう言ってマリが指さしたのは奴ら、相変わらず三列の隊形のままだ。

? こちらには目もくれず、前方に立ちふさがった警ら隊員や軍の兵士と交戦している。

こうして離れてみるとよくわかる、奴らは立ちふさがるか攻撃されない限り、一切手を出す事が無い。


しかも、前方で戦う味方に加勢するでも無く、倒れたら後ろの者が前に出てくるだけ。

腹を突かれようが腕を斬り落とされようが、動けなくなるまで襲い掛かってくる。

さきほどまでは、自身が戦いの高揚感に浸ってた事もあり小さかった脅威を、俯瞰する事により冷静に見てとれた。


「見てわかると思うけど、行く手を阻んだり攻撃を仕掛けたりしなければ、こちらに向かってくることは無いわ」

「そりゃそんな感じだけど、どうしてそうだと思うんだ?」

「・・普通じゃ無い、行軍中ならともかく戦いの最中に、あそこまで隊形を維持する意味があるとは思えない。

にもかかわらず、ずっとあのまま」

「・・なんか意味があるってーのか?」

「たぶん、でもそれは戦いにおいて効果的だとか、戦術上の事じゃ無い気がする」

「は? んじゃなんだってんだ?」


 マリが言うには、姿かたちはヒトだけれど、とてもヒトとは思えない。

戦い方がヒトでは無い、かといって獣でも魔物でも無い。

まるで生き物とは思えない、意思や感情がまるで読み取れない人形を相手にしているようだ、と。


 そこまで聞いてマリを見ると、顔を青くして小刻みに震えている。


「おい、どうした? マリ」

「・・怖いの、どうしようもなく怖いのよ」

「大丈夫だ、あたしが守ってやる」

「ううん、そう言う事じゃ無いの。

あれは・・、あれはヒトじゃ・・ヒトだという事を無くされてるわ」

「マリ?」


マリは、自分をかきいだくように、腕を回して震えに耐えている。


「少ししか見れなかったけど、あの眼には何も映っていない。

戦いの恐怖も興奮も覚悟も何も、ただうつろに風景を見てるだけ。

まるでヒトである事を奪われたよう」

「・・ああ、たしかにそんな感じすんな。

・・・・ん? 奪われた? あれは誰かがあーしたってのか?」

「うん、だってあの人数の全員が急にあんな風になるとは思えないもの」

「どうやってだ?」

「私にも具体的な方法はわからない、でも、おそらく封印術の一種じゃないかと思う」

「封印術・・」


 そうつぶやいた時、周りで皆が聞き入っているのが見えた。


「皆動けるか? このままここに居ればあたし等には危険は無いだろう。

だが、向こうに何かあったんじゃ意味がねえ。

きついかもしれんが、動けるようなら本隊に合流しよう!」


◇◇◇◇◇◇


 村の西に位置するイァイ王族が宿泊している宿屋、その周囲では近衛騎士が暴徒の前に立ちふさがっていた。

かがり火に反射する銀の光沢、全身を金属鎧で固め盾を持つ近衛騎士は守る事に特化している。

その騎士に向かって、暴徒の最前列の男が採掘道具であるマトックを振り下ろした。


頭上に盾を構えこれを何とか耐え凌ぐ、すると騎士の横合いから後ろに控えた別の騎士が槍を突きだした。

何の防具も身に付けていない男の腹に、深々と槍が突き刺さる。

しかし、男はそれに怯んだ様子も無く、平然と今度は横から薙ぎ払ってきた。


再びこれも盾で防いだものの、余りにも意外だったので力に押されて倒れてしまう。

槍を持つ騎士は、男の腹から引き抜きすぐにまた攻撃を繰り出す。

だが、腹を刺されたというのにお構いなしに間合いを詰めてくる相手に、長柄の武器を長所を失ってしまう。


そして、フロントを守る騎士が居なくなったことにより、暴徒たちの操魔術による無数の石つぶてを浴びてしまった。

着込んだ金属鎧がこれをよく防いだが、さらに浴びせられた火の精霊魔術により、鎧が灼熱の凶器に変えられてしまう。

この攻防を見ていた、近衛騎士団団長のバグスターは言葉を失った。


 敵は、攻撃を受けても何の痛痒も感じていないかのように、攻撃の手を休めない。

しかも、恐怖を感じないのか無造作に間合いを詰めてくる。

そして最も異常に見えたのが、暴徒の誰一人として声を発しない事。


口上はおろか、雄叫びも勝ちどきも兵を指示する声も、さらには悲鳴やうめき声すらあげない。

奴らの髪や服が焦げている、これはこちらからの攻撃によるものでは無かった。

向こうが火の精霊魔術を放つ際に、前方に居る味方に何の躊躇も無く撃っているのだ。


そして、それに対して文句を言うでも無くただ焼かれるままになっている。

異常な光景に思考が停止する、一体自分達が向き合っている相手は誰なのか。

有効な手立てを見出す事が出来ず、部下に対する指示が滞ってしまった。


「ここまでだな、バグスター」


 はっとして後ろを振り向くと、そこにはイァイ国王レンドルトが居た。

さきほど、部下四名に命じて西門へお連れするよう指示したはず。

見れば、国王の後ろに申し訳なさそうに片膝をつく部下が見えた。


「なんとかして一人でいいから捕えろ、そしてすぐさま全員下がらせろ」

「お止め下さい、我々がこの命に変えましても・・」

「あんなのが相手じゃ無駄に犠牲が出るだけだ、急げよ、これ以上はやらせるな!」


バグスターは、この場でこれ以上口論している場合では無いと、すぐさま国王の命令を部下に指示した。

そして、捕えた一人を引きずりながら近衛騎士たちが後退して行く。

前進を続ける暴徒、その前に露払いとして四名の騎士を従えたレンドルトが立ち塞がった。


 指輪をはめた右手の甲を前方に向け、高らかに召喚の言葉を発する。


「古の盟約に従い此処に顕現を命ず、出でよドラゴン、ホワイトゴルドよ!」


指輪の台座に爪で留められている、白色のセンターストーンから靄が噴き出す。

それが一つの固まりとなり、徐々に形成されていく姿は、体高10m程の二足で立つ魔物だった。

蜥蜴が直立したような形の全身を鱗が覆い、二本の腕と一本の尻尾そして大きな翼を持つ、見るからに兇悪そうな顔つき。


それが、神々しく白く光り輝く体の色とミスマッチしていて、初めて見る者は皆動くのを忘れ見入ってしまう。

が、このような未知の魔物を前にしても、暴徒たちの前進は一向に止まらない。

それどころか、有無を言わさず操魔術と精霊魔術で攻撃を仕掛けてきた。


「グゥルルル、グゥルァー!!」


鬱陶しいとばかりに砲声を上げ威嚇するドラゴン、しかし暴徒は怯まない。

明らかに無謀な体格差で、手に持つ武器で攻撃してくる。

其の戦意は驚嘆に値するが、ドラゴンの鱗はそのどれもを難なく弾き返す強度を持っていた。


 召喚主である国王とドラゴンとの間には、極薄くではあるが意識がリンクしている。

これは、感覚を共有している訳では無く、相互的なものと違い一方的に命令を伝えるためのモノだった。

これを介して、国王は声に出さずにドラゴンに命令を伝える。


(「ブレスで一掃せよ!」)


するとドラゴンは、その大きな口を開け青白い閃光を放った。

高さ10m程の位置から放たれたブレスは、斜めに前方を通過しそのまま地面に穴を穿つ。

直撃した地面は、ジュウジュウと音をたて水蒸気が立ち昇っている。


高温のガスが、地面までを溶解させたのだ。

そんなモノを浴びて、ヒトが生きていられる訳も無い。

暴徒たちの前方に位置した者は頭を、最後尾の者はその全身を炭化させその場に倒れた。


しかし、高い位置からの死角となった最前列の者三名程が、無謀にもドラゴンに向かい攻撃を続けている。


(「薙ぎ払え!」)


国王の命令に従い、ドラゴンは尻尾を横に薙いだ。

吹き飛び建物に体を打ち付けられた三名、その内二名は動かなくなったが残る一名が動き出した。

足が動かないのか、這いずってドラゴンの元まで行こうとしている。


 その異常な執念と行動は、国王をすら絶句させた。


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