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第106話 発想 新鮮だ。

 ワタガー鉱山作業所の調査のために、警ら隊がチョサシャ村を出発し二時間程経った頃。

先頭を進む馬車の隊員が、進行方向から歩いてくる集団を見つけ馬車を停めた。

三列に並んで歩いてくるその集団の一番前には、自分達と同じ警ら隊員の姿が見える。


しかし、とてもでは無いがその姿に安心はできなかった。

後ろに引き連れているのは、疑いようも無く受刑者達だ。

それは服装を見てもあきらかだった、ただその理由がわからない。


本来、警ら隊の標準武装というのは、メイスと鎖分銅のみである。

ただ今回は、移動が馬車であるのと荒事を想定して、10名の隊員にいき渡る様に10本の槍を持って来ている。

それぞれが槍を携え、こちらに向かってくる集団に対して身構えた。


調査に来た警ら隊員は、元々何か異変があった事はわかっている。

それが何か分からないが、万一武力をもって事にあたるケースで後れを取らないようにと、槍を持ち込んでいるのだ。

だが、いくらなんでも同僚に槍は向けられない。


石突きの部分を地面に付け、穂先を上空に向けたまま呼びかけた。


「止まれ! 一体これはどういう事か説明しろ!」


充分に聞こえる距離と声量だったにも拘らず、集団は一向に歩みを止めない。


「止まれと言っている!

警告に従わない場合、攻撃するぞ! 止まれ!」


すでに槍を構え一歩踏み出せば当たる、そんな距離まで近づいて来ていた。

こちらの呼びかけに、まるで反応を示さない事に困惑する彼らの様子に頓着する様子も無く、集団から突然100を超える石つぶてが飛来する。

突然の事に盾を持たずにいる彼らに、それを避ける術は無かった。


「なっ、何を、ぎっ!」

「ぎゃっ!」

「ぐっ!」

「や、やめ、がっ!」

「きさ、げっ!」


武器を持ってはいても、話し合い前提でいる警ら隊員とこの集団とでは、事にあたる際の温度差があり過ぎた。

この集団は、初めから殺傷させる命令をされており、且つそこに一切の忌避も躊躇も感じてはいない。

かくして、調査を命じられた警ら隊員10名は、その任を達成する事が出来ないまま全員がその生涯を終えた。


それらの死体を、進むのに邪魔な障害物としてしか認識せずに、集団はペースを乱さずに通り過ぎていく。

その様は、異様というよりも不自然であり非合理的だった。

これが、受刑者たちの反乱であったり盗賊の仕業だった場合であれば、このようなことは無かったはずだ。


 彼等は、本当に何もせずに去って行ったのである。

そこに転がる槍もメイスも鎖分銅も、すべての武器を無視して進んでいく。

どう考えても彼等が持っている採掘道具よりも、槍の方が殺傷力が高く取り回しをしやすいはず。


それがまるで見向きもせずに、歩みを止める事はない。

なぜならば、命令されていないから。

彼等には、ヒトとしての思考能力が働いていない。


あるのはただ命令を完遂する事のみ、他の事にはまったく頓着をみせない。

警ら隊が乗ってきた三台の馬車、これがあれば村への到着も早まるだろう。

全員が搭乗するのは難しいとしても、体力の無い者などはこれに乗る事で、十分な状態で最後の命令を実行できるはず。


しかし、これにも食指を向けない。

兵士として、命令に忠実で逡巡なく実行に踏み切る、ある意味理想的な彼らの唯一の欠点が融通がきかない事だった。

そんな彼らは、誰も通る者のいない街道を村へ向かい歩いていく。


 じわじわと災厄が迫ってきている事を、住人達は未だ知らずに過ごしていた。


◇◇◇◇◇◇


 今朝ガマスイを出発した一行は、予定通りのペースで進んでいた。

すでに、かなり前に昼休憩を終えて、後は本日の宿泊地である村まで走るのみ。

全てにおいて順調だった、前方から早馬が凶報を告げてくる前までは。


ゆっくりとではあったが、この場にて緊急停止する馬車群。

ここまでにも、同じような事が何度かあった。

それは、喧嘩や馬車の横転で街道が塞がっている場合。


混雑する街道、そんな中すれ違う馬車が接触し横転してしまう。

また、道幅が狭くなっている箇所を、譲り合えば早いものを強引に押し通ろうと、言い合いになるなど。

その度に馬車を停め、事態が収拾するのを待って、再度走り出すのを繰り返してきた。


安全に配慮して、長い行列のほぼ中央に配置されている馬車の中では、先頭付近で何が起こっているのかはわからない。

しばらくすればまたこれまでの様に動き出す、そんな風にしか考えていなかった。

例え何が起ころうと、同行している者達が万難を排す、そう信じて。


 傭兵団『雪華』団長パルフィーナが先頭に着いた時には、早馬はすでに次の村へと走り出していた。

この場に居るのは近衛騎士団から団長のバグスターと副団長のギリウス。

そして、宮廷魔術師筆頭のケリジュールと侍従長のネイミアの四名。


「しかし、具体的に何が起きているか不明とは、対処のしようがありませんな」


早馬は、ワタガー鉱山作業所で何かはわからないが、事が起きたらしい。

そこで、何が起きても対処できるようにと、応援を要請する為に隣村へ行くところだったそうだ。

それが、王族一行を見かけたので急ぎ報告した後、再び出発したとの事。


「どうなさるのでしょうか?」

「どうって・・、どうにもしようがないんじゃない?

私たちだけならまだしも、お三方に野営していただくわけにはいかないんだし。

チョサシャ村へ行く以外に、選択肢は無いと思うけど」


侍従長の質問に答えたのは、ケリジュールだった。


「パルフィーナはどう? なんか意見はある?」


そのままの流れで、同性の気安さからケリジュールがパルフィーナに意見を求めた。


「同意する、詳細が不明なのは不安要素ではあるがな」


ここで、近衛騎士団長がまとめに入った。


「ここで留まっていてもどうにもならん。

このまま進んで、予定通りチョサシャ村へ入る。

そして、夜に戻るという調査隊の話を聞いて、具体的な対策を練る事とする、但し」


近衛騎士団団長のバグスターは、一度皆に向けていた話を切り、副団長ギリウスに問いかけた。


「ギリウス、事態が把握できない時我々はどう対処すべきか!」

「はっ、起こりうる最悪を想定しそれに備える事であります」

「よし、では各自持ち場に戻り、部下たちに説明し指示する事。

特に、村に入ってからは警戒を厳にな。

それと、ネイミア殿、お三方にはまだお伝えせずともよい。

詳細が分かり次第、国王様だけに報告するように、以上だ」


 話し合いが終わり、元の配置である最後尾付近へと戻るパルフィーナ。

何も起こらなければいいが、そう考える時点で何かを予感してもいた。

そんな団長の表情を見て、団員たちは緊張をはしらせる。


 穏やかな午後は夕方を迎え、冷たい風が吹く様になっていた。


◇◇◇◇◇◇


 僕らは最後に立ち寄る村を抜け、王都オューへと向かっていた。

懸念していたチョサシャ村から先の街道も、僕らが走っている時には何事も無く、ごくごく普通に進むことができた。

こうなると、後は目的地まで走る抜けるのみだ。


御者はセルに交代していて、僕はシャルとアリーとアーセと共に後ろで控えていた。

馬車泊でよく眠れなかったのと、しばらく御者席で体を伸ばせなかった事から、アーセはお昼寝中。

当然、アリーは至近距離で鼻息荒く見つめている。


「あたしの?」

「そう、どう思う?」

「そう言われてもねー、うーん」


僕はシャルに、一体ワタガー作業所で何があったと思うかと質問していた。

これは、エイジの頼みによるものだ。

同じ兄妹でも、いや、だからこそかもしれないけど、セルとシャルはまるで考え方が違う。


セルは、何事にも合理的で論理的だ。

一方シャルはというと、これが見事なくらい反対で、考え方はとても感覚的で何かする場合に理由は無いに等しい事が多い。

エイジは、自分の中では答えが出ない、そしてセルもおそらく同じだろうと予想したのだ。


だけど、シャルの発想はエイジにとってはとても面白いらしく、何かのヒントになるかもしれないとの事。

そこで僕が、今回の件についてシャルの意見は? と問いかけてみたのだ。

暫く考えたのち、シャルは自分の考えを話し出した。


「鉱山作業所ってことは、山の近くにあるって事でしょ?

だったら、魔物に襲われたってのがありそうじゃない?」

「でもさ、だったら何が起こったかわからないってのは変じゃないかな?」

「わかんないわよ、すっごく小っちゃい虫みたいなやつとか、透明なのかもしれないじゃ無い」

「あー、なるほどね」

「後はそうね・・、原因不明の伝染病で皆寝込んでるとか」

「全員が?」

「そう、見たヒトはただ寝てると思うだけで、医療の知識が無ければなんで起きないのかわかんないでしょ。

だから、全員寝てるって報告するわけにもいかないから、なんだかわからないって言ったんじゃないかな」


シャルは乗ってきたのか、どんどん新しい意見を出していく。


「それか・・、全員誘拐されて誰もいなかったとか」

「誘拐って誰に?」

「んー、謎の組織かな? 自分の所で働かせるために」

「身代金目当てとかじゃないんだ」

「後、鉱山掘ってたら何か地下に遺跡とか見つけて、全員で調査に行ってるなんてどう?」

「いや、どうって言われても」

「そうねー、後は来たヒト驚かせようとして、何か仕掛けたとかかな」

「驚かす? なんで?」

「こうなんていうか、退屈な毎日に刺激を求めたんじゃない?」


はぁー、よくもまあこんだけ色々思いつくな。


「凄く参考になったよ、ありがとう」

「どういたしまして、もっとあたしを頼ってもいいのよ?」

「はは、あてにしてるよ」


 なんだかシャルは鼻高々って感じだ、精霊魔術以外で頼られたのが嬉しいのかな?

僕はエイジにどうだったか聞いてみた。


【どうだった? エイジ】

【いや面白かったな、特に鉱山作業所だってのに、事故や脱走って発想が全く無いのが新鮮だ】

【んー、まあシャルだからね、それで何か気になるとこあった?】

【全部はずれてるとは思うけど、ところどころは参考になったよ】

【どんなとこが?】

【未知の魔物とか謎の組織とか、病気とか地下で何か発見したとかさ。

俺の思考にはあんまり出てこないもんだからな、面白いよ】


うーん、まあ面白いちゃあ面白いけど。


【実際アルだったらどうだ? 

どんな状況見たら、何か分からないけど異変が起きてるって報告する?】


えー、そんな事言われてもなー。


【うーんと、なんかで出払ってて誰も居なかったかな?】

【だったら、誰もいなかったって報告するんじゃないか?】

【あー、そっかー、うーん、思いつかないよー】


 なんだかわからないけど、異変が起きてる。

確かによくよく考えると変な感じだな。

僕には思いつかないなー。


 案外、シャルの言ったどれかが正解だったりしてね。


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