第102話 待機 旅は順調だけど
「後はそうね、破壊力抜群の一撃を持つコンロートや魔術のスペシャリストのエリエッティ。
電光石火な突きの名手、短槍使いのライジンなんかが有名どころね」
「なんか色々いるんだね」
「そうよ、これに前回優勝のジルベスターさんを加えた四人が、前回大会のベスト4って訳よ」
「ふーん」
シャル先生の、御前試合に出場する選手予想を馬車の中で聞いていた。
詳しいというか、よっぽど好きなんだなー。
ついでに、対戦予想もしといてもらおうかな。
「シャルの予想では、誰VS誰になりそう?
やっぱり、ガウマウさんとその前回の優勝者のジルベスターさんってヒトが闘うのかな?」
しばらく間をとって、シャルが話し出した。
「うーん、それはないんじゃないかな。
ジルベスターさんは、前々回の決勝でガウマウさんに敗れて準優勝だったの。
それで、ガウマウさんが出場しなかった前回で悲願の初優勝を遂げたってわけ。
ご自身では、ガウマウさんと対戦して自分があの時からどれくらい強くなったか、知りたいと思ってるかもしれない。
でも、衆人環視の中で負ければ、せっかくの前回優勝者って肩書に傷がつくかもしれない。
それは主催者側も望んでいないんじゃないかと思うの。
だって、これは最強を決める大会じゃ無くて、いわばお祝いごとなわけでしょ?
わざわざそんな禍根を残す様なのじゃなくて、もっとお祭り的に盛り上がるようにしてるんじゃないかしら。
だから、ある程度実力差のある相手と闘って、その四人とガウマウさんに華々しく勝利してもらう。
そんなような、対戦カードが組まれるんじゃないかと思うわ」
・・凄い考察、こう言っちゃなんだけどシャルが賢いとこ初めて見た気がする。
「すげえな、お前もちゃんとした事言えるんだな」
「なによー、失礼しちゃうわね!」
セルも感心してる、これまで兄としてよっぽど苦労したんだろうな。
ふと前方を見ると、アリーもアーセと一緒で幸せそうだ。
シャルの意外な一面を見せつつ、馬車は次の村へと急いでいた。
◇◇◇◇◇◇
ここまでも、薄暗くじめじめとしていて不快指数がとても高かった。
それでも、ここよりはましだったとラムシェは前方を睨みそう考えていた。
ここは、オューのダンジョン第7階層、その入り口付近である。
「だー、ちきしゃー、こんなん絶対無理に決まってんじゃんかよー!」
おおよそ、多くの団員を束ねる団長とは思えない声で、リバルドが叫んでいた。
傭兵団『月光』が、このダンジョンの最下層を目指して、都合二度目となるアタックをかけているのだ。
1・2層は敵が出ない、3・4層は敵が出るものの強さはそうでもないので、この団の精鋭を揃えたメンバーにはさしたる問題も無かった。
5・6層も、精霊魔術の得手な者を連れているので、苦も無く踏破出来た。
そもそも、1層から6層までは事前に情報を仕入れているので、特に問題視していなかったのだ。
事実、最初にこのダンジョンに潜った際も、5層まで到達し情報に誤りが無いのを確認していた。
しかし、問題はこの第7階層である。
厳密に言えば、ここの階層についても事前に情報はあったのだ。
ただ、それは階層の特徴だけであり、その解決策については白紙の状態だった。
それがわかっていながら無策で挑んだのは、単に団長のなんとかなるだろうという、能天気な性質によるところが大きい。
挑む前そして実際にその目で見ても、ラムシェ自身にも有効な手は浮かばない、せめて経験者にアドバイスをもらえたら。
そんな事を考え、頭にある傭兵の姿を思い浮かべると、リバルドから声がかかった。
「おいラムシェ、余計な事すんじゃねえぞー」
この男は本当に勘だけはいい、確かに以前にそれで団の危機を救った事もある。
しかし、ここではその勘もあまり意味をなしていなかった。
ここにいるのは、『月光』団員から選りすぐり選抜した八名。
この、魔物相手ならば無双してのけるメンバーが、完全な手詰まりとなっていた。
◇◇◇◇◇◇
汗ばむ日差しが和らいで、若干風が涼やかに感じてくる午後。
御者はセルに交代となり、女性陣三人と僕が後ろでのんびりしていた。
何故おしゃべりしないでのんびりしているかというと、アーセが寝てしまったからである。
僕とアリーが御者をしている間、アーセは続けて御者台に座っていた。
そのせいで疲れたのか、後ろに引っ込んだら途端に眠くなってしまったらしい。
現在、僕の膝を枕にすやすやと寝息をたてている。
アリーは強硬にその役を僕からもぎ取ろうとしていたが、アーセ本人がさっさと僕の足を枕に眠り、動かない事であきらめてしまった。
そうはいっても、今も至近距離でアーセの寝顔を堪能し、時折手を伸ばして頭や体を撫でて僕にカウントをとられてたりしていた。
シャルは、この中で唯一御者台に座らないので、逆に話疲れたのか静かに過ごしている。
こうなると僕も特にする事も無く、暇を持て余していた。
まあ、何かしようとしてもアーセが寝てる限り動けないんだけど。
そしてこういう時の定番として、エイジとの魂話をはじめる。
【ねえエイジ、龍って普段どこに居んの?】
【なんだ? どういう意味だ?】
【王様の持つドラゴンリングによって龍が呼び出される訳でしょ?
それ以外の時、いつもはどこで暮してるのかなって】
【いないよ】
【えっ?】
【だから、どこにも居ないんだよ】
【どこにも?】
【そっ、あれはダンジョンの魔物と一緒で、いわば疑似生命体なんだと】
【そういう意味かー、前に野良じゃ居ないっていうから、じゃどこに居んのかなって思ってたんだー】
【ドラゴンリングを装着した者、つまりは王の魔力を元にして体が形成されるらしい】
【それって、死なないって事?】
【そうだな、勿論致命傷を与えればその場から消えるが、また一定量の魔力が溜まれば出現させる事ができる】
【便利なもんだねー、そりゃあ活用したくもなるか】
【活用?】
【エイジが前に言ってたじゃん、王様が世襲なのはリングのせいだって】
【ああ、まあな】
【そんだけのモノだったら、常に傍に軍隊居るみたいなもんだもんね】
【まあな】
なんとなくわかってきた。
戦争が起きないのって、たぶんそのドラゴンリングのせいだ。
各王家にあるって事は、何かの理由で仕掛けたら相手は当然龍を出してくる。
だって、まず負けないし例えやられても、時間を掛ければ復活するんだもんね。
逆に龍相手に敵も同じく龍を出して来たら、相打ちならまだしもどちらかが負ける可能性もある。
そうなったら、最悪第三国の介入もありえる。
だって、そこの国に龍が居ないとわかれば、もう行く手を阻む者はいないって事だもんね。
リスクが無いとわかれば、侵略もあるかもしれない。
逆に、龍を失うリスクがあればきっと動かないはずだ。
それが怖いから、どこも仕掛けられないで、結果的に平和が保たれてるのかも。
つまり、龍を失うって事は国を失う事とイコールなのかもしれない
征龍の武器についてもそうだ、どこかの国にそんなもの持たれたんじゃ切り札を使えなくなる。
わかってたつもりだったけど、この剣の価値と存在する意味を再確認出来たな。
◇◇◇◇◇◇
ワタガー山鉱山作業所には、その日の作業を終えた労働者たちが引き揚げてきていた。
通常五人一組で班を作っていて、作業の終了時に班長がその日の作業の進捗状況をまとめる。
それを、全体を統括している専門家チームが所属する部署に提出し、次の日の班の組み合わせと向かう坑道を決めるのだ。
あまり長い間同じ者同士で班を組ませると、何かよからぬことを企むやもしれんとの配慮により、班のメンバーはほぼ毎日ローテーションしている。
それというのも、労働者の大半が刑罰を受けてここにいる受刑者だからである。
しかしその中に有って、班長だけは専門家が務めているが。
坑道から引き揚げてくると、申し訳程度でつけている布の口当てをとる。
そして、汗を拭いたタオルと共にその布を、洗濯かごにそれぞれ入れていく。
採掘道具やヘルメットを所定の位置に戻し、その後新しいタオルと下着を受け取り、風呂場へ向かうのだ。
広々とした大浴場は、天然温泉をひいている。
豊富な湯量にものをいわせて、源泉かけ流しの贅沢仕様である。
しかし、初めのうちはともかくとして、毎日の事なので特に皆ありがたがることも無い。
まずは洗い場で、比喩では無く真っ黒になった髪と体を洗っていく。
そうして、汚れを洗い落とした状態でようやく湯につかるのだ。
であるにもかかわらず、湯船にはられた乳白色の湯はすぐに、にごった色になってしまう。
洗い方が悪いのか、はたまたこびり付いたものが温泉の効能ではがれていくのか。
風呂でさっぱりとした後は、食堂へ移動し夕飯となる。
そんな時でも表情はやはりすぐれない、今日の疲れを引きづっているのか。
はたまた、明日からも延々と続く長い刑期に絶望しているのか。
しかし、監督管理する警ら隊の者の中で、常と違う事に気づいた者がいた。
確かに受刑者たちの表情は暗い、いつもの光景ともいえるほど見慣れた景色だ。
だが、なぜか受刑者以外の表情もすぐれないのだ。
鉱山の専門家たちや、同僚である作業場に詰めていた警ら隊員たち。
彼等もまた表情が抜け落ちたような、暗い顔のまま会話もなくただ食事をしているのみである。
鉱山で何かあったのか? 一番最初に思いついたのがこれだった。
落盤事故? いやそんな報告は受けていない。
予定していた採掘量にとどかなかった? それだけでこうなるだろうか。
予想外に固い岩盤に阻まれて作業が滞っているとか? それにしても報告が上がってくるはずである。
怪我をしているようにも見えない、となると体調不良だろうか。
それにしたって全員一度にか?
答えを出せずにいるうちに、一人二人と食事を終えて食堂を出て行く。
丁度いい、受刑者たちが居なくなったら、何があったのか問いただそう。
ほどなく、受刑者たちは潮が引く様に全員食堂からいなくなった。
そのタイミングを見計らって、給仕の女性に酒を持ってこさせる。
受刑者たちには当然飲ませることは無い、警ら隊やここに詰めている鉱山の専門家たちの特権である。
嫌な事は酒でも飲んで忘れるに限る、それに何かあったのなら酒でも飲ませれば口も滑らかになるというものだ。
それぞれについだ酒に口をつける、さあ、じゃあこれから色々となどと思った矢先。
酒を飲んだ者が全員意識を手放した。
そこに、一見して種族的特徴が見当たらない女性が二人入ってくる。
二人は、手分けをして今日鉱山に向かわなかった者たちに、何らかの術を施していく。
全てのやるべきことを終えて、上司らしき者から部下だと思われる者へ、最終指示が下される。
「よいか、お前に託された作戦が此度の計画の第一歩となる!」
「はっ!」
「明日一日は兵の休養と準備に使い、明後日の朝六時出発としろ!」
「はっ!」
この後も、細々とした業務連絡が続き、上司は最後にこう言いつけた。
「お館様の悲願成就まで後わずかだ、お前は自分の責務を果たす事だけ考えよ!」
「はっ!」
そう告げると、上司の女は食堂のある棟から出て行った。
そのまま敷地の外へ出るのかと思いきや、なぜか鉱山へ向かって行く。
月が雲に隠れた暗い夜、誰の目にも触れられぬまま彼女はそのまま鉱山に入って行った。
松明代わりのヒカリダケを貼りつけた棒を掲げ、坑道を奥へ奥へと進んでいく。
やがてたどり着いた、何でもない坑道の途中の壁を無視して、中へ入ってしまった。
そこは、坑道の暗さを利用して、布地に岩肌を模して描いてある、カムフラージュされた横道だったのだ。
そして彼女は、一路この計画の前線基地へ急ぐ、この吉報を携えて。




