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第101話 脱力 平和だねー

 進行方向ほぼ正面に朝日が昇る、薄暗い中出発した僕らの馬車を明るい光が照らしてゆく。

国境都市ドゥノーエルを出てどれくらい経っただろうか、途中休憩する事も無く御者を交代しつつ移動中に馬車で朝食を済ませる。

昨夜セルが買って来てくれたものだ、昼食は休憩がてら宿場町ガマスイでとる予定にしている。


 王都オューで行われる、ロイヤルウェディングに伴う催し物見物の客とかち合わない様に、宿で朝食もとらずに出てきた。

空いている内に出来るだけ距離を稼ごうと思っていたんだが、考える事は同じな様で混んではいないものの、そこそこな数の馬車が同じ方向に進んでいる。

少し当てが外れたものの、見物客の大多数はもっとのんびり来るはずだから、目論みとしては間違っていないはず。


 現在御者は僕、なので隣にはアーセが控えており、その後ろには標準装備としてアリーがいる。

魔物に時間をとられることも無く、順調に本日の旅程を消化しつつある。

この布陣で馬車移動時の最近の傾向としては、僕の知らない事をアリーに教えてもらう事が多い。


「イァイ国は、国境を接しているのがミガだけだから重要視してるよね?」

「そうですね」

「一方で、ミガ国はカーとエーウとも国境を接しているじゃない。

そっちの二つの国とは、ミガはどんな関係性なのかな?」

「私の聴いたところによると、カー国とは良好らしいですよ。

カーもイァイと同じく、国境を接しているのはミガだけですからね。

以前から経済交流は盛んです、ミガからは鉱物資源をそしてカーからは主に海産物を、それぞれ取引する事が多いようです。

それに、ミガの現国王の妃はカーの王家から嫁いできてますしね」


なるほど・・、ん? カー国とは?


「その言い方だと、エーウとはあんまりって事なの?」

「といいますか、わからないというのが正確な所ですね」

「わからない?」

「はい、長年国境を接している隣国でありながら、縁戚関係はなし。

ヒトも物資も、行き来が無い訳ではありませんが、それほど活発では無いようです。

かといって、現状特に何か問題が生じてる訳でも無い。

明確な敵対関係では無いと思いますが、あまり親しいという訳でも無いと言う所でしょうか。

エーウは反対隣りのテロンと仲が悪いですから、ミガに対しては現状静観しているといった感じかと」


国際情勢なんて気にしたこと無かったから、勉強になるなー。

アリーも僕らと一緒に行動してるんだから、知識を仕入れたのはその前って事なのかな。

いつもこんな調子なら、パーティーの知恵者って感じでカッコイイのになー。


「アーちゃん、凄い。物知り」

「あぁ、アーセちゃんにそう言っていただけると、天にも昇る気持ちです」


・・凄い恍惚な表情、本当に昇天してんじゃないのか?

しかし、そうなるとカーの国からはそれなりな見物客が来そうだな。

反対に、エーウからはほとんど移動してくることは無いって事かな?


【ねえエイジ、エーウからはあんまり来るヒトいなさそうだよね?】

【それはどうかと思うぞ】


 話の流れで軽く肯定されるかと思いエイジに話しかけてみたが、反対意見があるとは思わなかった。


【さっきのアリーの話では、エーウとはあんまりヒトの行き来が無いみたいだったけど?】

【普段はって事なんだろう】

【自分とこの国関係無いのに、そんなに結婚式見に来るかな?】

【結婚式には興味ないだろうけど、御前試合を見に来るんじゃないかと思うぞ】

【? そうなの?】

【エーウは一角人種が多い国だ、『角』の奴らは血の気が多い。

種族全体として、魔術の適正は低いが体格が一番大きく筋力も高い。

なので、魔術競技大会に興味は無くとも、闘技大会には興味津々だろう。

今回は、純然たる大会では無いと言っても、強者が集まるのに違いは無い。

そうとなれば、国中からって事は無いにしても、ある程度のヒトは見に来るんじゃないかと思うぞ】

【そっかー、じゃあ余計に道も宿も混みそうだねー】

【ああ、おそらくはだかな】


 言われてみれば、前にサーロン村でファライアードさんに絡んでたヒトも『角』だったなー。

キシンさんも、どっちかというと好戦的というか血の気が多い感じだしなー。

やっぱ、『角』のヒト達ってそんなんばっかりなのかな?


 そんな事を思いながらも、馬車は順調でもうしばらく行くとガマスイというところまで進んでいた。


◇◇◇◇◇◇


 その頃、ミガ国の国境都市ドゥノーエルには、イァイ国の王族一行が到着していた。

昨日の時点で、お隣のイァイ国城塞都市であるヨルグに到着していたので、かなりゆっくりとした移動である。

それは、嫁ぐ第六王女ユーコミン・ホースロウ=イァイに配慮した結果であった。


 旅の主役であるユーコミンは、此度ミガ国の王家に嫁入りすることとなる。

そうなれば、今後おいそれと他国へと出かけられる立場ではなくなる。

まあ、現状でも王家の一員である立場上、同じではあるのだが。


 そこで、長い間離れる事になる祖国に別れを告げるように、昨日一日をヨルグで過ごしたのだった。

しかし、彼女は別にこの街には思い出や思い入れは無い。

すでに、生まれ育った王都ファタへの別れは旅立ちまでに済ませてあった。


 だから、ヨルグでゆっくりした本当の理由は、旅の移動疲れをとることにあった。

イァイ国王都ファタからの馬車での旅、ただ馬車に揺られ移動するだけとはいっても、体を使わない事が逆にストレスにもなる。

無理をすれば、式の当日に疲れを残したり体調を崩したりしてしまう、そうなったら目も当てられない。


 旅程は余裕を持って計画してあるので、予定通りのんびりとした中休みがとれた。

今日からは、仕切り直して旅の再開となる。

いよいよ、ミガ国へ入り会場となる王都オューを目指すのだ。


 これまでは自国内という事で、宿泊する場所では国軍の兵士が警戒にあたっていた。

此処から先は友好国とはいっても他国、兵士を連れて行く訳にはいかない。

其の為、これまでは一行に先行して安全を確認していた近衛騎士団がその任に就く。


 さらに、万全を期す意味で護衛の傭兵団も雇っていた、『雪華』である。

先行していた近衛騎士団との打ち合わせを終え、傭兵団『雪華』もここから護衛として旅に加わるのだ。

そうして王家一行は、ここで早めの昼食をとり、本日の宿泊地である宿場町ガマスイへ出発する。

 

 『雪華』団長パルフィーナは、街道を進む馬車の中から周囲を警戒していた。

とはいうものの、旅の途中で襲われる可能性はかなり低いとみている。

魔物は、先んじて駆除されているだろうから、残るは盗賊などによる襲撃だ。


 確かに、王族の乗る馬車は豪奢な作りで、いかにもお金を搾り取れそうではある。

しかし、ひと塊として移動している一団の規模を見れば、そんな気は失せてしまうだろう。

とてもではないが、何もできない内に取り押さえられてしまうのが、容易に予想できるはずだ。


 ただ、宿泊する場所特に夜はそういう訳にもいかない。

どう考えても、全員で寝ずに見張る事は出来ないだろうから、当然少人数での交代制となる。

悪事を計画する者にとっては、移動中よりも何かをするのに都合が良いだろう。


 あくまでも本番は夜、そう思い団員にはすでに馬車の中で、交代で寝るように指示している。

これは、事前に近衛騎士団にも話をとおしてある事だ。

そのような理由で、今パルフィーナと共に起きているのは妹のマリテュールだけだった。


「お姉ちゃんは、ユーコミン様には普通に話せるよね」

「? 何の事?」


 団長の妹であり実質団の№3である彼女は、姉が王族である王妃や第六王女と親しく言葉を交わしているのをまじかで見ていた。

勿論、気安い仲などという事は無く、あくまでも王族と護衛の責任者としてではあるが、それほど緊張しているようにも見えない。

話をしている内容も、仕事上の業務的な連絡事項だけでは無く、少ないながら世間話などもしている。


 同性である自分から見ても、第六王女のユーコミン様は小柄で華奢で可愛らしくこんな考えは不敬かもしれないが、大きく分類すれば自分と同じタイプに思える。

そしてそれは、姉の好みのタイプのど真ん中なのである。

家族であり身内の自分はともかく、姉が意中の相手と上手くコミュニケーションをとれないのは、最近執心している『羽』の彼女とのやり取りをみてもあきらかだ。


 それだけに、不思議だった。

なぜ、ユーコミン様とはあんなにフランクに普通に接していられるのに、彼女とはあの有様なのかと。

普通は逆だと思うのだ、王族に対して緊張し上手く話せないならともかく、なんでなんだろうかと疑問だった。


「意識して無いから良くわからないけど、仕事相手だからって無意識にブレーキかかってるのかも」

「じゃあさ、アーセちゃんが何か仕事依頼してきたらお話しできる?」

「うーん、たぶん無理、見てるだけで幸せな気持ちになって言葉が出てこないんだ」


確かに、見ているとそんな感じはする。


「もっと会う回数増えれば慣れてきて、お話しできるようになるかな?」

「かもしれないけど、変わらない気もする」

「そっかー、でもオューに着いたら叉会えるかもだから、そうしたら食事にでも誘ってみれば?」

「・・マリが付いてきてくれるなら」

「わかってる、ちゃんと応援してるからね」

「うん、頑張る」


 穏やかな日差し、天候にも恵まれてイァイ国王家一行の旅は順調に進んでいた。


◇◇◇◇◇◇


「おぉ! 速いなー、これまでで最高速度じゃないか?」


 ガマスイでの昼食の後、僕らの馬車は街道を快調に飛ばしていた。

先ほど休憩したばかりで馬が元気なのと、昼からガマスイを出た多くの馬車で街道が混まない内にと、スタートダッシュをしていたのだ。

街道を移動する際は、途中途中で散発的に魔物が現れて、それを駆除し死体を焼くのに時間をとられたりする。


 しかし、この一大イベントに備えて街道沿いは大規模に魔物の駆除が済んでおり、そのおかげで無駄な時間を掛けずに済んでいた。

明日もだが、本日も距離を稼がなければならない僕らにとっては、とてもありがたい状況だ。

舗装はされていないものの、事前に整備されているのか路面は凹凸も少なく、速度を上げても揺れが少なく快適だ。


 現在御者はアリー、今日は移動時間も距離も長い事から、僕とセルだけでは無く彼女にもローテーションで御者を務めてもらっている。

その隣には、彼女が御者をするにあたっての条件として、アーセが腰かけている。

仲間内で条件なんてというところではあるが、こうしないと後ろにいるアーセを気にしすぎて前方不注意になり危ないのだ。


 だから、この条件というのは嫌がる彼女にやってもらう為では無く、彼女一人では心配なための必須要件なのである。

いつもは、女性に御者をやらせるのはあまり好ましくないという事で、僕とセルとの二人で行っている。

なぜならば、アリーのようなとても(変態だが)美人な女性が御者をしていると、よからぬことを考える輩から狙われかねないからだ。


 余計な面倒事を背負いこまない為にも、この布陣は別れて行動する時以外は、長い距離を移動する場合だけにとどめている。

そんな訳で、僕とセルとシャルの兄妹の三人が後ろで待機し、おしゃべりに興じていた。

話題はオューで行われる御前試合、まあシャルは試合の予想よりもガウマウさんに興味があるだけみたいだけど。


「御前試合ってことは、王様の前で戦うんだよね?」

「そうだな、何かの行事がある時にだけ行われる、特別な試合だな」

「セルとシャルは見た事あるの?」

「いや、ミガで行われるのは初めてじゃないかな?」

「あたしも闘技大会は見たことあるけど、御前試合ってのは見たこと無いわ」

「試合形式とか出場選手って知ってる?」

「わからんな、その辺の情報は仕入れて無いしな」

「誰が出ようとガウマウさんが出るんだから、優勝は決まったようなものよ!」


 うれしそうだなシャル、本当にガウマウさんが好きなんだなー。

御前試合か、シャルは何とかして見るって言ってたし、僕らも観戦することになんのかな?

そう言えばと思い、エイジに話しかけてみた。


【ねえエイジ、御前試合ってどんな風に行われるの?】

【正式な大会じゃ無いから、明確な規定みたいなものは無いんじゃないか?

おそらくは、四、五組がそれぞれ試合をして終わりぐらいだろう。

特に優勝を決めたりって事は無く、あくまでもその技の冴えを見てもらうってとこだと思うぞ】

【じゃあ、ガウマウさんの試合は見れて一試合かな?】

【たぶんな】


そっかー、でもガウマウさん以外にはどんなヒト達が出るんだろう?


「ねえ、僕ガウマウさん以外全然知らないんだけど、どんなヒト達が招かれてるのかな?」

「俺も詳しくはないからな、シャル、お前なら見当つくんじゃないか?」

「そうねー、前回大会の優勝者のジルベスターさんは当然として」

「えっ? 前回の優勝者ってガウマウさんじゃ無いの?」

「違うわよ、ガウマウさんはその前の大会で優勝して五連覇したから、殿堂入りして前回の大会には出場して無いのよ」

「殿堂入りとかあるんだー」

「ふっふーん、ちなみにその時のガウマウさんの闘いっぷりったらねー」

「そりゃ後にして、今はアルに他の面子教えてやれよ」

「ぶー」


 ぶーたれるシャル、相変わらずセルの突っ込みは的確だ。


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