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第100話 発端 環境は整えないと

「して、アルベルト殿は何用ですかな?」


 約二年ぶりに再会した近衛隊副隊長のギリウスさんに、警ら隊詰所にほど近い路上でこう質問された。

まさか本当の事は言えないし、うーん、まあ言ってもいいんだけど。

とりあえず、アーセにも挨拶させようと立てるか聞いて下におろした。


「妹のアーセナルと申します、兄がいつもお世話になっております」


三人を前に、丁寧に腰を折り挨拶するアーセ。

ギリギリ暗くなる前とあって、まだしっかり相手が見える。

僕が抱っこしてたんで、初めて顔を見たギリウスさん達はパアっと明るい表情を浮かべた。


「これはご丁寧にどうも、ギリウスと申します、いやーしかし愛らしいお嬢さんですな」


何故かアリーがどや顔で鼻息荒くしている、それより挨拶してくれと促した。


「初めまして、私はミアリーヌと申します」

「・・どうも、ギリウスです」


? なんか違うな、礼儀正しい印象のギリウスさんにしては違和感がある。


【アル、すっとぼけとけよ】

【やっぱなんかあるよね? 何?】

【見ての通り面識あるんだろう、アリーは普通にしてるがギリウスの態度で丸わかりだ】

【宮仕えって大変だね】

【この場は何事も無くやり過ごせばいいだろう】

【うん】


 何にも気づいてませんよというふうに、ギリウスさんに話しかけてみた。


「僕らは明日オューへ向けて発つんですが、ギリウスさん達もオューですか?」

「おぉ、そうですか、ええ私たちも向かう予定です」

「では、向こうでまた会えるかもしれないですね」

「そうですな、お時間があれば是非またお点前を拝見したいものです」

「ええ、機会があれば、それではこれで失礼します」

「あちらで会えるのを楽しみにしておりますぞ、それでは」


 こうして、僕らは三人で旅亭ウイゴウへ戻った。

僕らの部屋でまずは、留守を守ってくれたセルとシャルに説明を。

そして本題とばかりに、少々落ち着かない様子のアリーに話しかけた。


「さてアリー、何か申し開きはあるかな?」

「・・・・無いといいますか、あるといいますか」

「詳しくきかせてよ」

「問題を起こし、お義兄さんの手を煩わせたのは申し訳ないと思っています。

ただ、もしまた同じことがあった場合、私に自分を押さえる自信はありません」

「・・わかった、僕から今回も含めて今後について話させてもらうよ」

「はい」


アリーが神妙にしてる、もう二度とアーセとお風呂に入れないとか思ってんのかな。


「仲間として、アーセを心配して行動した事は嬉しく思う。

だけど今度からは、アーセに何かあったとしても事をおこす前に、ちゃんと事実関係を確認する事。

今回の場合、シャルがその場に居合わせたわけだから、何があったのか聞けたはずでしょ。

それと、『雪華』の皆さんとは今後もどこかで会う事があると思う。

その時に、仲良くしろとまでは言わないけど、せめて問題を起こさないように、わかった?」

「はい・・・・、?」


なんか目で訴えられてる気がする、それだけですかって、最近きつい事言いすぎたかな?


「くれぐれも、『雪華』とは特に団長のパルフィーナさんとは揉めない様に」

「勿論私からは何もしないと誓いますが、あの怪力女が仕掛けてきた場合は反撃していいんですよね?」


怪力女って・・、あん時の握手相当痛かったんだな。


「・・その言い方は何か引っかかるな、あえて向こうに手を出させる方法が手の内にあるのかい?」

「滅相もありません、いざという時に備えての確認ですよ確認」


・・なんか怪しいな、ここは保険かけとこう。

アーセの横に行って耳元でこしょこしょとお話、目を見ると頷いたので了承を得たとしてアリーに向き直った。

何事かと探るような眼差しでこちらを見ているが、まあ聞けば分かる話だ。


「どちらに非があろうと、どちらから手を出そうと、今後パルフィーナさんと何かあった場合は、しばらくの間アーセを『雪華』に預ける事にする」


この世の終わりのような顔をしたアリー、まあアーセの了解は得たけど『雪華』には何の話も通して無いからありえないんだけどね。

でも、話をしたらそれこそ大歓迎で受け入れられそうで、それはそれで怖い気もするけど。

流石にここまで言っておけばおかしな真似はしないだろう、アーセを失う以上の抑止力は今のとこ思いつかないしね。


 この話はここまでって事で、いい時間なので降りて夕飯を。

大丈夫だとは思うけど、一応念の為って事で僕が留守番で残り、四人を部屋から送り出した。

魔核鉱石は重いし、外に食べに行くわけじゃ無くここの一階で食べるんだから、もしも何かあっても対処できると思うけど。


それでも絶対は無い、手間を惜しんで馬鹿を見るより安全確実をモットーにしないとね。


【中々いい裁きだったな、リーダーっぽかったぜ】


エイジに褒められた、にしても失礼な。


【っぽいって事無いじゃん、リーダーなんだからさー】

【悪い悪い、でもまあいい落しどこだったと思うぞ】

【そういえば気になってたんだけどさ】

【ん? なんだ?】

【ギリウスさんとアリーってどんな関係なのかな?】

【推測になるが、直接のかかわりは無いんじゃないかと思うぞ。

近衛騎士と諜報機関じゃ、指揮命令系統が違うだろうからな。

ただ、城勤めの近衛騎士とはいえギリウスは副隊長だ。

一兵卒とは違って役割の中には、他の部署との打ち合わせや連絡などもあるだろう。

其の辺りで何度か見かけたことがあるとか、そういうくらいのものだと思うがな】

【ふーん、じゃあギリウスさんはアリーの仕事の内容はわからないのかな?】

【だと思うぞ、知ってたらもう少しは演技しただろうからな】


そんな任務の最中に、警ら隊のやっかいになるって・・。


【? どうした? アル】

【なんでもない、ちょっとオューに着いたら大変かなって思っただけ】

【一応三日くらい様子を見るってことにしてたけど、向こうからアクションを起こさないようなら、ギリウスを訪ねてこっちから行くってのもありかもな】

【うん、どっちにしろ早いうちに決着つけちゃいたいからね】


 その後も、エイジと色々な事について魂話かいわしてたら、女性陣が三人部屋に戻ってきた。

セルは一人で一階のテーブルで、僕の席を確保してくれてるらしい。

本当はアーセが残るって言ったらしいんだけど、そうするとアリーもってことになって部屋に残るのがセルとシャルの兄妹になる。


なんか最近この組み合わせが多いというか、いつものようにアーセが僕にくっついてくるとアリーがアーセに張り付いてくるので、どうしてもこの三人と二人になるケースが多い。

そうはいっても、それ以外では男女で行動するケースが多いので、頻度と面子が変わらないのは同じなんだけど。

とにかく、お腹もかなり減ったので女性陣に部屋を任せて、僕は下へ食事に降りた。


 すぐにセルを見つけてテーブルに、一人ワインを飲んでいる横で僕は食事をはじめた。


「明日からの日程について話があるんだが」


そうセルに話しかけられたのは、もう少しで食事が終わる頃だった。


「日程って、どっか寄るところでもあるの?」

「そうじゃなくて、普通に移動すると明日の朝ここを出てガマスイで泊まるだろ?」

「そうなるね」

「で、明後日の朝に出て途中で一泊して、翌朝に出発してオュー着ってわけだ」

「うん、それでそれがなんだっていうのさ」

「どう考えても混むんじゃないかと思ってな、それも入口で順番待ちする位ならまだしも、下手したらオューの宿屋が一杯になってとれない可能性がある」

「あー、確かにねー」

「まあ最悪はうちに泊まってもらってもいいんだが、どうもシャルは戻りたく無いらしくてな、出来れば宿屋ですませたいんだ」


この間お許しを得たってことだったけど、この分じゃ半ば喧嘩別れ的な感じなのかもなー。


「それで案としては、ちょっと急ぐのとかなり急ぐのと二つある」

「具体的には?」

「これはどっちもなんだが、三日かかるとこを二日に短縮する。

ちょっとの方は、明日はガマスイを通過してその先で一泊する。

そして少し無理する形になるが、翌日は終日移動して夕方というか夜になると思うがオュー着って寸法だ」

「うん、ちょっときついけど無理ってほどじゃないね」

「ああ、で、かなりな方は同じ二日だが、明日無理してガマスイの二つ先まで足を伸ばす。

さらに翌日は暗いうちに出発して、まだ門が混んでない内に抜けようって作戦だ」

「うーん、それはかなり無理あるね」

「そうなんだ、さっき四人で話し合った時にはちょっと急ぐ案の方でまとまったんだが。

最終的にはリーダーに決めてもらうってことで、話が終わったんだよ」


どっちっても、かなりな方は流石に厳しい、となるともう一択だなこりゃ。


「ちょっとの方で行こうよ、現実的にそっちでしょ」

「だな、それじゃ俺は今のうちに明日の朝飯買っておくよ」

「あっ、僕も行くよ」

「食ったばっかだろ? いいって、そんくらい俺一人で」

「悪いね、じゃ頼んだ」

「おう、すぐ戻るよ」


 こうして、明日からはそこそこな強行軍で進むことが決定した。


◇◇◇◇◇◇


 ミガ国の王都オューの東にあるヒョウルの村、この村の西から北にかけてそびえているのがシーノア連峰。

以前に、アル達が『ヌージー』のタマゴの採取に訪れたキオア山がその一角を占める。

ここからさらに西、ミガ国の中央を走り南北をほぼ分断しているのがケノッヘ山脈だ。


 国境都市ドゥノーエルから街道沿いに王都オューへ向かう際に、常に左側に見えているのがこの山脈である。

そんな山脈の中でもヒトの手が入っていない山もあれば、恩恵にあずかり無くてはならない資源を与えてくれる山もある。

鉄の原料となる鉄鉱石が採掘できる山、貨幣の元となる金山や銀山及び銅山、火山にほど近い村では温泉を掘り当て暮らしに役立ててもいた。


 その中で、鉄鉱石を掘る鉱山では労働者として犯罪者を使っている、それは最も需要が高くその為量を確保するのに多くの人出を必要としているからであった。

死罪は免れたものの罰金では済まない犯罪者が、ここで言い渡された刑期の分労働に従事するのだ。

鉱山の中に入るのは男性のみ、女性は食事を作ったり洗濯をしたり衣服を繕ったりしている、ちなみに暮している場所の掃除は男女ともに行う。


 王都オューから西に一つ目のグーカト村、そして二つ目のチョサシャ村とのその中間に位置しているのが、ワタガー山という犯罪者が掘っている鉱山である。

街道から見て北に位置する此処には、常時100を前後するほどの労働者がいるが、その中で犯罪者は約半数ほどで残りは専門家であった。

それは当然で、いくらなんでも専門的な知識のいる作業を犯罪者だけで出来るわけも無いのである。


 それ以外に、女性の受刑者が10名ほどそして、この地の受刑者を監督管理する警ら隊の者が10名生活している。

受刑者は、全員封印術により魔術を封じられ、額に封印紋を浮かび上がらせている。

当然、武器になりそうな鉱山を掘る時の用具は厳重に管理されており、周りは一歩敷地を出ればいつ魔物に襲われるかわからない場所。


 そんな環境下では、反乱は元より脱走も滅多に行われない、死ぬよりはここの方がましという訳である。

まれに、仕事中に専門家を人質にとり逃げ出そうとする者もいるが、魔術を封じられているのは受刑者のみ。

なので、自衛として人質にとられた場合は、操魔術を用いて最悪受刑者を死に至らしめても罪には問われない決まりがある。


 鉱山の専門家や警ら隊の隊員たちは、何も何十年もここで過ごすわけでは無く、一定期間で交代していく。

対して受刑者たちは、当たり前のことではあるが刑期を終えるまでは解放されない。

そんな中において、労働者への福利厚生はずさんなもので、国のお達しは特に何もしないであった。


 慰問団が訪れるでも無ければ、休日が設けられているわけでも無い。

ただひたすらに、毎日同じことの繰り返しで起きて食事して仕事へ行き、戻って風呂に入り食事をして眠る。

唯一、風呂だけは天然の温泉でありここだけは贅沢といえる。


 しかし、鉱山の労働は過酷であり機械などは無く手掘りなため、爪の黒さはいくら洗っても落ちない。

それどころか、刑期を終える前に胸(肺)を悪くして命を落す者もいる。

そんな劣悪な労働環境の中、特に受刑者たちは日々笑顔も無く、表情が抜け落ちたような顔で仕事をしていた。


 だから、中々気づかれなかったのだ。

長い時間をかけて、静かにゆっくりと準備が整っていくのを。

王都オューから少し離れたこの地にて、王家を揺るがす事件が今はじまろうとしていた。


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