第99話 引取 どっちかなんだよなこういう場合
僕とセルは、ミガ国の国境都市ドゥノーエルの今夜の宿、旅亭ウイゴウの部屋で話し合いを続けていた。
王家がらみのあれこれは一旦切り上げて、話題はその後のダンジョンアタック、第7階層の攻略についてだ。
前回は、入口から覗いただけで完全にお手上げ状態、その後メンバーで話し合いを重ねてなんとか方策を考え付いた。
これは、セルの知り合いの工房に作ってもらっているモノにすべてかかっている。
今度こそという気持ちを語ったり、本当にこれでいけるのかという不安を払拭したり。
そんな中シャルが部屋に戻ってきた、なんでシャルだけ? そう思っていたらばつが悪そうに話し出した。
「あのね、お風呂で『雪華』のパルフィーナさん達と会ってね、昨日と同じく普通にしてたんだけど途中でアーちゃんが来てね」
「あー、なんとなくわかるというか、聞きたくないというか」
「聞いてよ! それで、その、ちょっと険悪な感じになって」
「えー、それなんとかならなかったの?」
「無理! 湯船につかってたのに鳥肌たったのよ! 絶対に無理!」
どんな状況だよ、それでなんでシャルだけなんだ?
「それでね、怖くなってその場から逃げたヒト達の中で通報したヒトが居たらしくて」
「もう本格的に聞きたくないんだけど」
「警ら隊が来て連れてかれちゃったの」
シャルは自分の役目は終わったとばかりに、僕をどうするの的な目で見ている。
「連れてかれたって、パルフィーナさんとアリーが? アーセは?」
「本当はその場に居たマリテュールさんとあたしもだったんだけど、それぞれ責任者を連れてくるってことで一旦解放されたの」
「待って、その責任者って?」
シャルは頷きながら僕を指さしている、・・嫌すぎる。
「はぁー、お風呂許した途端問題起こすとは」
「あっ、やっぱりアルに行ってもいいって言われたってのは本当だったんだ?」
「うん、まあ反省してるみたいだからいいかなって」
しかし、偶然とはいえ今日もパルフィーナさん達に会うとはなー。
「結構時間早かったから、『雪華』の皆さんとはかち合わないと思ってたよ」
「実はね、聞いたとこによると、昨夜レイベルさんとアルとセルが飲んでた場所あるでしょ?」
「うん」
「あそこでパルフィーナさんが見張ってたらしいの」
「見張ってたって・・、もしかしなくてもアーセ目当てで?」
「みたい」
盛大にため息が出た、まあ今回はともかく変なことするわけじゃ無いからまだいいけど。
と、ここまで話を聞いていたセルが口を挟んだ。
「ちょっと待った、アーセはどうしたんだ? その二人ならアーセが言えばいう事聞くだろ?」
「あー、うん、それがねー、アーセちゃんのぼせちゃってねー」
「は?」
「えーっと、パルフィーナさんがアーセちゃん大好きなのは知ってるよね?」
「そらまあ、な」
「でも、アーセちゃんの前だとパルフィーナさん全然しゃべらないんだよねー。
それで見かねた妹のマリちゃんが、お姉ちゃんはこう思っててとか、お姉ちゃんはこんなヒトでとかアピールしててさー。
律儀に聞いてたアーセちゃんが、少しボーっとしてるなーと思ったらグデっとしだしてねー。
じゃあもう上がろうってタイミングでアーちゃんが来ちゃってー、私のアーセちゃんに何したみたいな事になってー」
・・もうこれ以上は聞いてもおなじだろうな、それよりも早めに行った方がいいか。
「じゃあ、えっと、警ら隊の詰所に迎えに行けばいいの?」
「うん、ちょっと騒ぎにはなったけど、特に物を壊したりけが人が出たとかじゃ無いから、厳重注意ってことで許してもらえたんだけど。
双方がまだ険悪な感じなんで、保護者というか責任者に連れ帰って欲しいって」
「それで、アーセはどういう状態?」
「うーん、たぶん安静にはされてると思うんだけど」
「? たぶんってどういう事?」
「あたしが居る時は、アーちゃんがずーっとアーセちゃん抱いたまま離さなかったから」
ちょっと引っかかるけど、まあ守ってるってことで今回は不問にしとこう。
「わかった、じゃあちょっとアーセ迎えに行ってくるよ」
「・・そんなに怒んないでよ、ちゃんとアーちゃんも連れて帰ってよね」
「一晩くらい猛省を促す意味でも、向こうにお泊りしてもらった方がいいと思うんだけど」
其の後セルにも「まあまあ」と宥められて、仕方なく二人を留守番に残して宿屋を出た。
街の主要機関が並んでいる北西方面へ、今夜の宿を求める人波と逆行して進んでいく。
まったくアリーは、なんで最年長が一番手がかかるんだ。
【エイジー、アリーに効果的なお仕置きってなんかないー?】
【そりゃあアーセがらみが一番だけど、もうほとんどやっちゃったからなー】
【そうなんだよねー】
【まあ今回のは、アルの監督責任もあるからお咎め無しでいいんじゃないか?】
【えー、なんで僕のせいなのさー】
【アルはこのパーティーのリーダーだからな。
リーダーたるもの、メンバーの安全確保は第一条件、その際に必要なのは無用なリスクを避けるリスクマネジメントだ。
昨夜の時点で『雪華』がドゥノーエルに居るのは確認できたんだ、だったら事前にアリーに紹介しておく事もできたはず。
少し厳しいかも知れんが、この事態は避けられた可能性もあるってこった】
【・・わからないじゃないけどさー、そこまでしなきゃだめ?】
【アリーのアーセに対する異常な執着は、それこそわかってたはずだろう?】
【うー、めんどくさいなー】
【今日風呂解禁したのもアルなんだから、ここは大きな心で許してやれよ】
【うー、わかったよー】
なんとなく軽くへこみながら、警ら隊の詰所に到着。
入って受付で用件を告げ案内されると、そこには『雪華』副団長のレイベルさんが居た。
一緒にという事で、僕が来るまで待たされてらしい、申し訳ない。
互いに世話が焼かされるなと苦笑し、係りのヒトに案内してもらい取調べする部屋へ。
中は宿屋の二人部屋くらいの大きさで、隅に机が一つありそこには記録する係りのヒトが座っている。
二人は椅子に座っているが、その他のヒト達は取り囲むように立っている。
その中で二人は、まるで反省していないのか火花を散らすように睨み合っていた。
パルフィーナさんは鬼の形相で、片やアリーはアーセを抱きしめながら見下すように見据えている。
どんな幸せも逃げてくほどの盛大なため息がでた、僕とレイベルさんの二人から。
「あの、こちらの二人とパーティーを組んでいるアルベルトと申します。
この度はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
今回の事は良く言い聞かせますので、お許し願えないでしょうか」
レイベルさんも向こうで、同じように謝罪してる。
「あーっと、うちの団長がやらかしたみたいですんませんっした。
こっちで引き取るんで、もういいすかね?」
僕もレイベルさんも、ネチネチと色々言われたけどまあ今回はと許してもらえた。
こっちの二人に言ってくれよと思いつつ、やっと解放されたアーセが抱きついてきた。
本人曰くまだちょっとクラクラするというので、そのまま抱っこして帰る事に。
ダンジョンでアーセをおんぶする事はあったけど、抱っこなんていつ振りだろうか。
小柄とはいえ、アーセもそれなりなんで結構腕に負担が来るんだが、なにか気に入ってる様子で僕の首に腕を回してほっぺをすりすりしてくる。
それをうらやましそうに見る二人、どんだけ心奪われてんだよ。
今後の為にも、一旦ここで双方歩み寄って・・、は無理でも一応の仲直りをさせた方が。
そう思ってアリーに言ってみたが、どうもおさまりがつかないようで、まだ鼻息が荒い。
パルフィーナさんも、臨戦態勢をといて無いというか、何なんだこの二人は。
もういい加減面倒なんで、手っ取り早くアーセに仲を取り持たせる事に。
「アーセ、もうすりすりしない! 二人仲良くするように言って」
抱っこしてる関係上、二人に意見させるのにアーセの顔が見えるように僕は後ろ向きになった。
アーセはすりすりを止められたのが不満なのか、ちょっと膨れ気味だ。
うぉ! わが妹ながら至近距離で上目づかいで見られると、ちょっとドキッとするな。
はっと思い首だけ後ろを向けると、そこにはとろけそうな表情の二人がいた。
まったく・・、趣味が合うんだから仲良くしてくれりゃあいいのに。
アーセに促し、一言言ってもらう。
「二人仲良くして下さい」
ついでに、握手してもらうようにも言ってもらった。
これで、なんとかわだかまりなく・・って、勝負はじまっちゃってるじゃんか。
流石にパルフィーナさんは余裕の表情、片やアリーはかなり厳しそう。
・・じゃない、慌てて手をほどかせた、何やってんだよこの二人は。
今度はさっきと逆で、勝ち誇ったようなパルフィーナさんと、くやしそうなアリーの表情。
これ以上は無理そうだな、早いとこ引き離した方が良さそうだ。
もう帰ろうとしたら、アリーがもう我慢できないとばかりにアーセに話しかけた。
「アーセちゃん、さっきのすりすりをこのお義姉ちゃんともしましょう?」
「ダメ」
「アーセちゃーん」
このやり取りを聞いていたパルフィーナさんが、徐に僕に話しかけてきた。
「姉弟なの?」
僕を指さして聞いてくる、アーセを含めて三人がそういう関係なのかって思ってるのかな?
たぶん、アリーのおねえちゃんって言葉が引っかかってるんだと思うけど。
「違いますよ、姉って言うのはただ自称してるだけです」
まあ確かに同じ有翼人種だし、僕とアーセも特に顔が似てる訳じゃ無いからな。
「あっ、以前説明した通り僕とアーセは兄妹ですよ」
より正確には、兄妹同然に育ったなんだけど。
パルフィーナさんは、なんか得心がいったみたいな表情を浮かべているように見える。
じゃあまたと、『雪華』のお二人と別れて宿屋へ戻る事に。
アリーは、アーセの気を引こうとしきりに話しかけている。
余り反省の色が見えないので、「戻ったら話しあるから」と軽くおどしをかけておいた。
ようやく大人しくなったアリーを従えて、警ら隊の詰所を出て通りを歩く。
すると、向かい側から全身鎧の男のヒトが同じ格好の二人と歩いてきた。
この先は僕らが出てきた警ら隊の詰所くらいしか無いけど。
一体何の用事なんだろうと思っていたら、すれ違いざま呼び止められた。
「失礼、もしや、アルベルト殿ですかな?」
振り返ると、立派な髭を携えた男性がこちらを見ている。
確かに見覚えあるけど誰だったっけか?
すると、エイジに話しかけられた。
【アル、前に武器屋で俺が『吽』壊した時の、えっと確か・・近衛隊の副隊長してるってのじゃないか?】
【! そっか、名前はうーんと・・そうだ!】
「あの、ギリウスさんですか?」
「おお! 覚えていて下さいましたか、久しいですな」
「はい、お久しぶりです」
なんでこのヒトこんなとこに居るんだろうか?
近衛隊・・ってああ! 王族が来るからその警護で先乗りしてんのか。
「ギリウスさんは何でこちら、というかこの場所にいらっしゃるんですか?」
「いやー、職務でしてね、詳しくは申し上げられないんですが、仕事上前もって打ち合わせする相手がこちらにいると聞きましてな」
・・・・それってもしかしなくても、『雪華』の団長と副団長の事かな?
「そっそうなんですか、たっ大変ですね、はは」
なんか色々、すんません。




