表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/156

第98話 出方 やらかしてませんように

 リンドス亭での昼食の後、ホーエル商会へ行くまでの時間つぶしに雑談の真っ最中。

僕は一人テーブルを離れて、厨房に居るキアラウさんの元へ行き簡単な挨拶をしていた。

今回はたまたま依頼で訪れただけで、まだまだ目的は果たしておらず時間がかかるがそれはまあ置いておくとして。


此処まで来てなんだが、今日は泊まれないのでこれで失礼する事への断りを入れていたのだ。

離れて一月ひとつきも経ってないんで特に積もる話は無いんだけど、それでも二年拠点としていたここには愛着がある。

それだけにゆっくり宿泊したいところだが、魔核鉱石を買い付けたらそのまま馬車で国境を越えて今日中にドゥノーエルに移動しておきたい。


リンドス亭に泊まって明日の朝の移動となると、また国境の検問でかなりな時間をとられてしまう。

キアラウさんは、最期に鍛冶師のベルモンドさんの所へは顔を出した旨伝えると、「おう」と一言だけ告げ仕事に戻っていった。

ロナさんとナルちゃんにも、今日はこれでと別れの挨拶を、するとナルちゃんにちょいちょいと手招きされ二人で奥へ。


「お姉ちゃん情報そのいち!」


右手の人差し指を一本立てて、突然僕の顔を覗き込みながらはじまった。


「お姉ちゃん、文官になって自立する働く女性を目指すって学校入ったのに、この間のお休みに来た時お母さんにお料理習いだしたんだよ」

「へー」

「誰の為なんだろうねー」

「ちょっ、ちょっとわかんないなー」

「ふーん」


なんだろう、笑顔の裏に意味深な感じが窺える。


「お姉ちゃんん情報その二!」


まあいちってわざわざ番号ふったくらいだから、当然次もあるよな


「なんかねー、最近特に肩こりがひどいんだってー、どうしてだと思うー?」

「・・べっ勉強が大変なんじゃないかな?」

「アルさん知ってるー? お胸の大きな女のヒトはすっごい肩こりなんだってよー」

「ふっふーん、そうなんだー」

「そうなのよー、よかったねー」

「なっ何が?」

「またまたー、とぼけちゃってー」


こんな調子で、延々とその五まで聞かされてしまった。


◇◇◇◇◇◇


 それじゃあと皆でリンドス亭を出て、馬車を走らせホーエル商会へ。

馬車を停め中に入ると、すぐにビンチャーさんが出てきてくれた。

相変わらずの満面の笑みで、用意してくれていた魔核鉱石をだしてくれる。


「助かりました、ありがとうございます」

「こちらこそ、お役に立てたようでなによりです」


 預かったお金で支払いを済ませ、馬車へ魔核鉱石の入った樽を運び入れていく。

ついでにと、オューの商人ギルドのトニッツアさんから預かった、ヨルグのお店の店頭価格を記入する用紙を見せて協力をお願いした。

これ本当はこっそりと僕がやらなきゃならないんだけど、上手い事会話しながら器用にこなすなんて出来そうにない。


ライバルとは言わないまでも、同業者に知られるのはあんまり歓迎すべきことじゃないんだろう。

流石にビンチャーさんも苦笑まじりだけど、なんとか了承してもらい書いてもいい品目の指示をもらって仕上げた。

助かっちゃったな、一通りの依頼に関する事柄は終わったんで、最後に挨拶をとビンチャーさんの元へ。


「ところでアルベルトさん」

「はい?」


こちらが切り出す前に、ビンチャーさんから話しかけられた。


「お時間のある時でかまいませんので、オューにある私どもの支店に顔を出してはいただけませんか?」

「それは構いませんが、何があるんでしょうか?」

「いやなに、別件ではありますがお忘れですか? こちらを出発する際に依頼をお願いしたいと申し上げた事」

「それは、ええ、覚えています」

「再会できたのも何かの縁、今後は是非ともお願いしたいと思いまして」

「はあ、まあメンバーの了承がとれてタイミングが合えば」

「ええ、勿論それで結構です」


 どうしてビンチャーさんは、僕みたいな若造をそこまでかってくれているんだろうか?

一応エイジに相談しておいた方がいいかな?

そう思っていたが、いぶかしげな僕の表情を読み取ったかのように、答えはすぐにかえってきた。


「商人として、優秀な傭兵の方とは縁をもちたいと思うものですよ」

「はあ、そう言っていただけるのはありがたいですが、正直僕程度ならゴロゴロいるんじゃないですか?」


ビンチャーさんの判断基準がわからない、前回も今回も普通に依頼やっただけなんだけど。


「フフ、それは追々と、今後ともよろしくお願いします」


なんか含みがありそうな、まあでも助かったのは事実なので改めて感謝の言葉を。


「本日はありがとうございました、こちらこそお願い・・、あっ! そうだ」

「? なんですかな?」

「あの、つかぬ事を伺いますけど、ビンチャーさんはオューへは行ったことがありますか?」

「ええ、先ほど申し上げた通り向こうには支店もございますので、仕入れの関係で何度か行ったことはあります」

「それでは、ご存知でしたらでいいので一つ教えていただきたい事があるんですが」

「はあ、なんでしょうか?」


丁度いいので聞いておこう、なんかの役に立つかもしれないしね。

今度こそビンチャーさんと別れ、ホーエル商会を後にした。

そのまま馬車で移動し、ヘイコルト商会まで戻ってきた。


「じゃあ、僕が荷物の番してるから四人で行っといでよ」


 皆が興味ありそうだったんで、賭場へ行って来ればと提案した。

僕は馬車で留守番だ、勿論入る際の手筈もレクチャーしておいた。

ヘイコルト商会の馬車を停める柵に、しばらく置かせてもらおう。


「にぃは行かないの?」

「買い付けた魔核鉱石や皆の荷物もあるからね、僕はさっき行ったから残るよ」

「にぃが行かないなら、アーセも残る」

「そんな・・、一緒に行きましょうよ、アーセちゃん」

「行かない」


アリーは軽くショックを受けてるようではあったが、大人しくセルとシャルと三人で路地に入っていった。

思いの外ごねなかったと思いつつ、久しぶりの兄妹水入らずで話をした。

アーセが最近家に手紙書いて無いんで、オューに戻ったら書くとかそんなたわいもない話しを。


◇◇◇◇◇◇


 その頃賭場に足を踏み入れた三人は、興味津々で賭けの内容が書いてあるボードを見ていた。

端から順に見ていって、当然の様に中央の例のオューの依頼で目が留まる。

互いに顔を見合わせて、やっぱりそうだよねとばかりにアイコンタクトし、再びじっくりと読んでいく。


「まさかとは思うけど、あれ、アルが自分達の事書いてくれって言ったんじゃ無いわよね?」

「当たり前だろ、俺らはあの依頼受けられないし関わらないって皆で決めたじゃねえか」

「そうよね・・、でも、じゃあなんで名前載ってるのかな?」


 セルフェスとシャルフェスの兄妹のこの会話も無理からぬことで、アルベルトが自分が見た時の事を話さなかったからであった。

別段秘密にしていたわけでは無い、リンドス亭での昼食の後の雑談の折に、アルベルトがずっと席を外していたからである。

キアラウとロナルーシェに挨拶したり、ナルールに奥へ連れ込まれたりで、メンバーと話す機会が無かったので言いそびれていたのだ。


 さらに何事かを小声で兄妹が話し合っている中、ミアリーヌは一人「少し向こうを見てきます」と二人の元を離れた。

ボードを見ているフリで、辺りの客たちを見回す。

その中で、あたりをつけた男の元へ行き話しかけた。


「こんにちは、昼間からこんな太陽も見えない中で大変ですね」

「! どっちみち月も見えませんから、昼も夜もかわりませんよ」

「そうですね、ここでは星も見えないでしょうね」

「・・で、何ですか?」

「これを例の所へ」

「わかりました」


そう伝えて、ミアリーヌは男にメモを手渡しそそくさとその場を離れた。

渡された男は、くしくも午前中にアルベルトと話していたビリーことウィリアム、彼は苦虫をかみつぶしたような顔でドアの中に引っ込んだ。

このような、国の諜報機関の連絡の橋渡しとして動く事で、国からの取り締まりの目こぼしを受けている面が賭場を開催する組織にはあった。


◇◇◇◇◇◇


「なーんで教えてくれなかったのよ、アルー」


 シャルにそう言われても、忘れてたというかなんというか。

僕らはヨルグでやるべきことを終えて、お隣ドゥノーエルへ入る国境の検問に並んでいた。

賭場へ行かなかった僕とアーセがそのまま御者台に、そして三人が後ろに乗っている。


 僕はビリーさんに受けた説明を元に、エイジに指摘されたダンジョン入口の職員から情報を得てるんじゃないかという話をする。

なるほどと、三人にはある程度の納得はしてもらえたみたい、アーセは相変わらず何のことかわからないらしく不思議そうにしてるけど。

こんな風に、御者台に居る僕と後ろにいるシャルで会話している内に、まだ早い時間だった事もあり順番がきて、無事国境を通過する事ができた。


 昨日と同じく旅亭ウイゴウに宿泊、混まない内にとお風呂へ行く事に。

期待に満ちた目を僕に向けていたが、アリーには僕らの部屋での留守番をいいつける。

かくして、力なく見送るアリーを残して僕らは四人で公衆浴場へ。


 なぜ僕らの部屋での留守番かというと、ヨルグで買い付けた魔核鉱石の入った樽は大事な依頼の品なので、そのまま馬車に置いておく訳にはいかない。

なので、先ほどエイジの操魔術で僕らの部屋に運び込んであるのだ。

かなりな重量なので、手で運ぶのはきついがこれなら楽勝という訳である。


 たわいもない会話を交わしながら歩いていたら、公衆浴場に着いた。

アーセとシャルと別れて、セルと共に男湯へ。

のんびりと湯船につかっていたら、セルに話しかけられた。


「実は賭場でアリーがちょっとの間だが俺らと離れてな、目で追ったんだがそこに居た男に何か渡してたんだ」


セルには、前もって相談してあるんでこの辺りは抜かりはない。


「という事は、何らかの報告をあげて今は指示待ちってとこかな?」

「おそらくはな、で、この後はどうすんだ?」

「うーん、賭場が連絡場所として使われてるんなら、これ以上単独で動ける状況作っても意味無さそうだし」

「風呂禁止令解除か?」

「そうだね、いい加減反省もしてるだろうしね」


 僕とセルは一足早くというか、いつも通り女性陣よりも先に出て宿屋に戻った。

物悲しそうに留守番をしていたアリーに、反省の色が見える事から今回の制裁措置は解除する旨通達する。

目に見えて明るい表情を取り戻した彼女に、念の為にくぎを刺しておくことに。


「いいかい? 仲良くするのはいいけど、相手の同意を得ない過剰なスキンシップはダメ、わかった?」

「はい、わかりました」

「・・本当? いつもお返事だけはいいんだよな」

「大丈夫です、ちゃんとします」

「うん、信じてるから期待を裏切らないでよ?」


もうあまりにもうずうずしているので、行って良いよと言うと脱兎のごとく駆けだした。

間に合うかどうか微妙なとこだと思うけど、まあダメでも明日は予定通りいけばガマスイだ。

あそこも公衆浴場はあるし、浴場付の宿屋もあるから問題ないだろう。


 セルとは部屋で、エイジがシュミレートした今後の僕への、向こう側からのアプローチについてを説明した。

それを踏まえた今後の予定として、このままオューへ戻り依頼を完了したら、まずは工房へ行き注文した品が完成しているか確認する。

その上で、すぐにでは無くしばらく具体的には三日ほど待機し、何の連絡も無いようであればダンジョンへ行くようにしようと同意を得た。


昨日の『雪華』のレイベルさんの話では、王族がドゥノーエルに到着するのは明日との事だった。

明日には僕らは此処を出発する、なのでおそらくはオューへの到着も僕らの一日遅れになる計算だ。

式が終われば、イァイの王族はすぐに国元へ帰るだろうから、向こうが動きやすいようにこちらが譲歩した形である。


ここまでは問題無い、そして違ってた場合も問題無い。

問題なのは、もしもそうだった時にその後向こうがどうでるかと、僕がどうするかという事。

向こうの出方についてのエイジの予想は泳がせる、そして僕自身は王家に入る意思は無い。


ここまでをセルと相談し、女性陣遅いなと思いつつまさかの可能性を、それこそまさかという思いでぼんやりと考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ