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第97話 親切 確かに胡散臭い

 とある食事処の地下にあるこの場所は、一階よりもテーブルやイスなどの物が置いて無いせいか、かなり広く見える。

ざっと見渡すとここには15名ほどが居る、とはいってもその中でお客さんが何名なのかはわからないんで、盛況なのかどうか判断が難しいところだ。

そんな中で、僕に話しかけてくれた親切?なおじさんにまさかなという気持ちで、最も気になる名前について聞いてみた。


「アルベルトパーティー? ああ、ありゃあ聞いたとこによると、ここヨルグのダンジョンで新記録になる8層までたどり着いた奴ららしいぜ。

なんでも、今はオューに居てやっぱりあそこでもダンジョン潜ってるらしくて、もしかすっとって一部の奴らに期待されてるらしい。

あんまり知られて無い大穴みてーだからな、ん? そーいやあんちゃんもアルベルトっつったか?

なんなら賭けてみるか? 当たればでっけーぞー、当然はずれりゃ全部パアだがな」


 ・・もしかしてとは思ってたけど、やっぱり僕らの事だよな。

でもどこから情報得てるんだろうか? もしかしてアリーとかかな?

そうじゃないとすると誰だろうか? 特に今オューに居るってのは、メンバー以外にはキシンさんとビンチャーさんにしか伝えて無いんだけど。


【ねえエイジ、どこから情報漏れたのかな?】

【・・メンバーやキシンじゃないだろう。

もしそうだったら、ヨルグのダンジョンは8層じゃなく10層って事になってるだろうからな。

アル達が8層まで到達したってのを聞いた事があるのは、まずはダンジョン入口の職員とその時居合わせた奴ら。

後は、リンドス亭でビンチャーと話した時とその時周りに居た奴らだな。

ただし、オューでダンジョンに潜ってるって事まで知られているとなると、これはダンジョン入口の職員から情報得てるってのが最も可能性が高いな】

【それは誤魔化しようが無いもんね】

【ああ、しかし思ったよりもしっかりした情報網持ってるみたいだな。

ご丁寧にパーティーメンバーの人数と種族まで載ってやがる】


このおじさんの話し、少なくとも僕らに関する事は何一つ間違った情報が無い。

ってことは、これまでの事もかなり信用出来るかな?

エイジとの魂話の後そんな事を考えていたら、「どうした? 黙りこくっちまってよ」と話しかけられた。


「いえ、何でも無いです」

「さっきはけし掛ける様な事言っちまったけどよ、あんちゃんここ初めてなんだろ?

だったら無理しねえで、勉強のつもりで今日は見るだけにしてもいいんだぜ?

こういうことろに長く通ってるとよ、そいつの分を越えてあげくスッカラカンになって破滅してく奴もよく見るんだ」

「・・はい」

「自分じゃ冷静なつもりでも、いつの間にか熱くなって持ってる金全部突っ込んじまったりな。

若い奴にゃ特に多いんだ・・、そうだ! あんちゃん、彼女か姉さんか妹はいねえのか?」


突然どうしたんだろう? 


「あの、妹がいますけど」

「そうか! そいつぁいい! ちっと周り見てみろ。

女連れがいるだろ? いい恰好したくて連れてるのも中にゃいるが、慣れてる奴ぁあれでブレーキかけてんだ。

どうしたって一人じゃ熱くなってつっこんじまう、そんな時冷静に止めてくれる相手だな」

「どうして女性なんですか?」

「身内の女っつうのは、打算なく心配してくれる。

タイプにも因るが、どっちかってーと男よりも金にシビアなのも多いしな。

もっとも賭けで散財するくらいなら、自分においしいものでも驕ってくれって言うのもいるだろうけどよ。

あんちゃんも今日のとこは大人しくしといて、今度来る時に妹連れてくるんだな」


ずいぶん親身になってくれるな、ありがたいんだけどここまでくるとなんか怪しく思えてくる。

もしかして、この後授業料だとかいってお金請求されるのかな?

まずは、出方を見る意味でもお礼を言っておかないと。


「ご教示いただいてありがとうございます」

「んな堅っ苦しい事いうなよ、おれとあんちゃんの仲だろ!」


さっき出会ったばかりなんだが・・。


「あの、どうしてこんなに親切にしてくださるんですか?」

「ん? なんつーか、そうだなー・・、ここは楽しむとこなんだよな。

普段の仕事とか悩みとか忘れて、手前てめえ自身の才覚でもって損した儲かったってよ。

そんな場所で深刻になられたんじゃあ、こっちも楽しめねえってこった。

だから、あんちゃんの為つーよりも俺の為つーことよ」


心配してたけど、なんか普通にいいヒトっぽいな。


「わかりました、今日は見るだけにしておきます」

「ああ、それがいいぜ、まあなんだ、あせらんでもここは逃げねえし自分のペースで楽しむこったな」

「はい、今日の所はこれで引き揚げます、色々とありがとうございました」

「おお、またなあんちゃん、俺ぁ大体ここに居るからよ。

今度会ったら気軽に声かけてくんな! じゃあまたな!」


御帰りはこちらの表示どおりに奥へ、すると上へ続く階段があった。

帰りは、来た時とは反対側にあるこの階段を上るらしい。

上り切るとドアがあり、開くと入口とは反対側の路地に出た。


◇◇◇◇◇◇


 ビリーと名乗った男は、アルの背中を見送った後大きく息を吐く。

一通り周りを見回すと、賭けの対象が掲示してある黒板の向かい側にある扉を開けて中に入った。

そこには数名の男がおり、ビリーが中に入ると軽く会釈してその内の一人が近づいてくる。


若頭かしらお疲れ様です」


 ビリーことウィリアムは、この賭場を仕切っている組織の幹部にあたる男だった。

トップ層は定期的に各地を巡回しているが、彼はここヨルグを仕切っているいわば支部長的な役割だ。

よどみなく歩くと、自分専用の肘掛の付いたゆったりとした革張りの椅子に腰かけ、長い息を吐き張りつめた精神を弛緩する。


 彼がアルに声を掛けたのは、好意だけとは言えないが純然たる仕事の為という訳でも無い。

トップ層が各地を回るのは、従業員の勤務態度や客層の見極めそして現地での評判や問題が無いかなど。

さらに、室内に掲示してある賭けの内容や倍率が適正かなどの見極めである。


 そして、チェック項目の中で大きいのが、賭けによって身を持ち崩しているような者たちの数。

自業自得とはいえ、後々これが組織の存続を危ぶむ要因となる。

つまり、国が見過ごせなくなるような事態になる前に、出入り禁止にするなり生活が改善するまで賭けを受け付けないなどの処置を賭場ごとの裁量で行っていく。


 其のために、一人一人の客の状態を把握する事が必要となる。

そんな中、最もハマりやすく危ういのが若い男だ。

根拠のない自信と計画性の無さから、最初はともかく段々に深みにはまり抜け出せなくなってゆく。


 しかし、それでも最初は泳がせるというか見守って、適切な指導をするのは損を取り戻そうと(その者にとっての)大金を賭ける時である。

ここでの客を漏らさず覚えているビリーが、初めて来たアルに声をかけたのはどんな人物か興味が湧いたから。

アルが、表示されているアルベルトパーティーのリーダーと、特徴が一致した事からの純粋な興味だった。


 すなわち、身長170㎝ほどの『羽』の男性で、革のベルトに剣をさげているという報告。

特に、『羽』で剣というのは珍しいので入って来た時に一目でわかった。

そこで、一部でうわさの大穴くんはどんなもんかと、探りを入れて見ようと思ったのだ。


「どうでしたか? あの若者は」


側近とおぼしき男が、ビリーに向かい声を掛けた。


「中々なもんだな、猪突猛進の腕自慢ってわけじゃなさそうだ。

礼儀正しく知らない事には慎重で、初めて会った相手の話を聞く耳ももってる。

しかもあれて腕がたつってんだから、うちの組織に欲しい位だ」


ビリーの機嫌のよさに後押しされるように、側近の男は再び質問した。


「それでは、かなり確率が高いと?」

「んー、まだそこまではな、もう少しは見て見ないと判断しかねる。

でもまあ、本命視するには名が売れて無いが、対抗位には格上げするかもしれねえな」


倍率については、集めた情報を精査し専門チームによる検討の結果設定されている、その中で重要視されるのがそれまでの対象者による実績である。

但し、最終的には上役の判断で決定する、ビリーはその際の自身の勘を大切にしている。

それは根拠の無いあてずっぽうという訳では無く、そのほとんどは実際に自分で当事者と会ったり、賭けの対象を実地で体験したりする。


そんな数値に置き換えられないファクターを加味しているのだ。

ビリーにとってのこれまでの経験から、上方修正すべきかという迷いが生じていた。

一度戦闘してるところを見て見たい、ふとそんな思いを抱いてもう一度長く息を吐いた。


◇◇◇◇◇◇


「アールー」

「ずいぶんゆっくりだったな」


 賭場から出て向かい側のヘイコルト商会の万屋へ向かうと、表側に馬車が停めてあり待ち合わせの二人が居た。

待たされたのが若干不満&不機嫌気味なシャルと、店とは反対側から向かってきたのが不思議そうなセルの二人。

ごめんごめんと軽く謝罪し、ギースノさんと話した内容を伝えた。


「えー、面倒くさいー、ここで全部揃えてくれれば早いじゃんよー」

「俺にもいまいちよくわからん、なんでそんな手間かけにゃならんのだ?」

「うーんと、僕にもよくわからないんだけど、一応そう言う事になったんでとりあえず移動しない?」


道を知ってるのが僕だけなので、御者をセルと交代して三人でホーエル商会のお店へ向かった。

セルもシャルもまるで納得いってなさそうだけど、僕にも経緯は説明できても理由はわからないんでどうにもならない。

そう離れてない事もあり、短い時間で聞かされたのはヨルグに入るのにかなり待たされたって事くらいだった。


そんな話をしている内にホーエル商会の万屋に到着。

ここに来るのは、アーセとアリーと三人でゴナルコへ『バンサーギー』を仕留める依頼を受けた時以来だ。

ここでの知り合いはビンチャーさんだけなんだけど、呼んできてもらった方がいいか迷うな。


確か、仕入れ担当って言ってたけど買い付けの方でも口きいてもらえるだろうか。

そんな事をつらつらと考えていたら、お店の奥からビンチャーさんが出てきた。

よかったとりあえず相談してみよう、店内の商品を確認してるらしいビンチャーさんに入口から声をかけてみる。


「おはようございますビンチャーさん、アルベルトです、覚えていらっしゃいますか?」

「!? おはようございますアルベルトさん、勿論覚えていますよ、ご無沙汰しています」

「こちらこそ、あの今ちょっとよろしいですか?」

「はい、なんでしょう?」


オューで依頼を受けて、魔核鉱石を合わせて大金貨300枚分購入しに来た旨伝えて聞いてみた。


「どうでしょう? こちらに在庫があれば是非購入したいんですが」


少しの間考え込んだ後、輝くような営業スマイルでビンチャーさんが話し出した。


「わかりました! 正直この時期にそれだけの数となると厳しいんですが、他ならぬアルベルトさんの頼みとあっては断れません。

そうですね・・、午後一番には揃えておきますので時間になったらお越しいただくという事でどうでしょうか?」


軽くセルとシャルに目線で訴え、問題無い様なので返事をした。


「ありがとうございます、それで結構です、無理を言ってすいませんでした」

「いえいえ、困ったときはお互い様ですからね。

それでは、商品の手配をしてきますので失礼いたします、また後程」

「はい、それでは午後に伺いますのでよろしくお願い致します」


よしよし、これで目途が立ったな後は帰りの道中か。

僕らは一旦馬車を商人ギルドへ向け、入口で待っているアーセとアリーの二人に合流。

全員で今度はヘイコルト商会へ訪れ、皆には馬車で待っててもらい僕が一人で説明に行った。


すでにギースノさんは出かけた後だったけど、魔核鉱石の件でというとちゃんと通じた。

ただ、店員さんの「そうですか、そうなりましたか」っていう言い方がちょっと気になったけど。

一通り用事が済んだんで、全員でお昼を食べに再びリンドス亭へ戻ってきた。


 ロナさんとナルちゃんに迎えられ、お昼を食べながらの報告会を。


「アーセ、手紙はちゃんと商人ギルドのえーっと・・、そうそうキビルニンさんってヒトに渡したか?」

「ん、だいじょぶ」

「お義兄さん、私とアーセちゃんの黄金ゴールデンコンビに不可能はありませんよ」

「んな大げさ・・、まあ本人に渡ってればいいよ」


まずは、別行動で商人ギルドへ手紙を届けに行ったアーセとアリーに確認を。

これは厳密には依頼では無いけれど、依頼主からのお願いだからちゃんと出来たか聞いておかないとね。

すると、セルから質問を受けた。


「アル、あの店の向かい側から出てきたのって、どこ行ってたんだ?」


そりゃあまあ気になるよね、僕はギースノさんに聞いて賭場を見に行ってたと説明する。

アーセはきょとん顔でわかってなさそうだけど、セル達三人は興味を魅かれたらしい。

セルとシャルは単純に行ったこと無いって理由みたいだけど、アリーの「皆で行ってみましょうよ」って一見乗り気みたいなのは、なんだか他に含みがありそうな気がした。


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