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第9話 決意 相談できる人がいる幸せ

 アルベルト13歳。


 この所は週に2度ほど、シュミッツァーを相手に稽古している。

対人戦でのスキルを磨くというか、いかにして相手に力を出させぬまま斬り伏せるかを目標にしている。

シュミッツァーには、当ててかまわないと言ってあるが、アルの方は寸止めだ。


【アル、シュミッツァーの呼吸を読むんだ、吸って吐いているその動作を】

【わかんないよー】

【良く見て! 一瞬ならともかく、長く対峙してれば必ず呼吸をしているはずだから】

【それで、どうするの?】

【出来るようになったら、息を吸い込んだ時と吐いた時の両方で仕掛けて、どう違うのか肌で感じるんだ】


 剣を持っての動きは大分様になっている。

足捌きも滑らかだし、シュミッツァーもやりづらそうだ。

技は心配ない。

これで、土台はできた。

となれば、後は実践あるのみ、出来るだけ多くの模擬戦をして色んな人たちと対峙して、武器ごとの対処や駆け引きなど引き出しを増やしておきたい。


 早朝稽古が終わり、軽く汗を拭いて朝食へ向かう。

当然のようにこれまではいつも一緒だったが、今日もアーセはすでにいない。

実は、現在のロンド家の家族構成は、アルから見て祖父母と父と母、次兄モンブルトはすでに隣のニケロ村に婿養子にいってしまいいない。

そして妹アーセに長兄ソルダーブルトに義姉のナタリア、それに加えて長男夫婦に子供が二人誕生している。

姪のアメリア3歳と、ベビーベッドですやすや眠る甥のハルタブルト1歳である。

この、姪と甥にアーセが夢中なのである。

可愛くて仕方ないらしい。

甥はまだまだ泣いてるだけの赤ん坊で、泣いてはミルクを飲み泣いてはオムツを替えてもらい泣いては、まあなんかしてる。

あまりアーセの出番が無いので、しばらくハルタを愛でてからアメリアにかまうのが、いつものパターンだ。

アメリアも、ちょこちょことアーセの後を付いて歩いている、家族の皆が頬を緩ます微笑ましい光景が広がっている。

アルも勿論、この姪と甥の事は可愛らしく思っており、生まれた当初はアーセと一緒によく見に行っていた。

だが、度々行われるナタリアの授乳シーンが、まぶしくて恥ずかしくて見ていられなくて、あまり近づかなくなってしまっているのだ。

その点、アーセは女性同士なのでなんとも無かった、お得である。


 アルは朝食を済ませると、しばらく休んだ後に村の外に出かける。

毎日村の周辺を自主的にパトロールし、魔物がいれば狩り獣がいれば狩り、なにもいなければ散歩という事になる。

害獣駆除は本来成人してからでないと受けられないが、アルについてはこれまでの実績が実績なので、特例として単独での受注が認められている。

書類上は、父のフィンブルトが受けたことになっている、その辺はルドマイヤーがすべて整えているので問題ない。

繁忙期には家の手伝いをするが、基本日頃は特にやっていない。

これは先日、父の許しを得るために家族の前で話した、「成人(15歳)したら旅に出る」というのが認められたためである。


 将来どうするか?

これは、成人が近づくにつれアルが考えていたことである。


◇◇◇◇◇◇


 時は遡り、アルベルト12歳の時。


「よぉアル! 来る気になったかー?」


ギースノの護衛で一緒に村に来た、『月光』のリバルドがアルに何回目になるかわからない勧誘をしていた。


「リバルドさん、こんにちは、またですか? その気はありませんよ」


そしてアルは、同じ数だけ断り続けている。


「なーんでだよー、面白れーぞー傭兵稼業はー」

色んなとこ行けるしー、強いやつには出会えるしー、戦闘は多いしーおまけに金が稼げるんだぜー。

こんないい商売他にねぇーぞー」

「それ全部命がかかってるんじゃないですか? 僕はそんな根性無いですよ」

「おめぇーくれー強けりゃーでぇーじょーぶだって! 一緒にぶいぶいいわそーぜー」


 あの時から、毎回ではないが何回かに一度、護衛としてギースノと共にイセイ村に来ているリバルドは、すっかりアルと顔見知りになり、元来の垣根を感じさせない人当たりの良さで、気安く話しかけてくる存在になっていた。

リバルドは、対抗意識はあるものの、アルの強さは認めている。

あれから、何度か害獣駆除に同行して自分の目で確かめて、こいつは本物だと確信し団長に言われたからではなく、自分の本心としてアルを口説いていた。


「こんにちは、アルくん」

「こっこんにちは、ラムシェさん」

「傭兵は、あのバカがいうほど気楽な仕事じゃないけど、やりがいはあるわ、きみの腕なら文句無しなんだけど」

「あっあの僕、まだ将来の事はちゃんと決めて無くて」

「そう、無理にとは言わないけど、君なら大歓迎だからその気になったら、いつでも連絡頂戴ね」


そのやり取りを見ていたリバルドが口をはさんだ。


「なーんかアル、俺の時と違うじゃねーかよー、なんとなーく顔赤いしよー」

「そっそんな事ないよ!」

「おっ、何ムキになってんだよー、もしかしておめーラムシェに惚れてんじゃねーのかー」

「らっラムシェさんは、その綺麗だからなんか話すの緊張しちゃって」

「ふふ、ありがとうアルくん♪」

「ばっかじゃねーのー、御世辞に決まってんじゃんよー」


ラムシェは、使ったのはタオルではあったが、切れ味鋭いスゥイングとスナップを効かせた一撃を、リバルドの後頭部にお見舞いする。


「痛ってえー、何しゃーがんでー」

「うるさい馬鹿リバルド、アルくんに変な事言わないの!」

「ちぇー」


こうして、たまに息の合ったコンビ芸を披露してくれる、楽しい人たちの仲間になるのも、悪く無いかなと思ったりもする。



 別の日。


「ねぇおばあちゃん」

「ん? なんだい、アル?」


アルは、祖母であるパトリシアに話を聞きに来た。


「おばあちゃんは、若いとき王都で侍女をやってたんでしょ?」

「そうだよ、もう40年以上前になるかね」

「どうして侍女になろうとしたの?」

「そうさね、あの頃はとにかく王都へ出てみたかったのよ。

大きな町には色んな人種の人がいて、色んなお店があって、色んなものがあってとにかく刺激的で興味があったの」

「ふーん」

「とりあえず、目的らしいものも無くて、ただ行って見たかっただけだった。

そうしたら、王城で働き手を募集していて、今と違ってその時は特に推薦人とかいらなかったのね。

だから、試しに受けてみたら受かっちゃったの、たぶん人手不足で落ちた人なんかいなかったんじゃないからしら」

「じゃあ、特に侍女になりたくてなったわけじゃなかったの?」

「そうね、仕事自体は厳しかったけど嫌いじゃなかった、ただそれがやりたくて目指してたわけじゃなかったわ」

「じゃあ、後悔してる?」

「いいえ、だってそのおかげで旦那様に会えたんですもの」


祖父のシュミッツァーは、王城に勤める近衛隊に入っており、二人はそこで出会い結婚したのだった。


「でも、それは後からそうなったってだけで、仕事でしたことは無駄になっちゃったんじゃないの?」

「あら、そんな事無いわよ、お掃除もお洗濯もお料理の下ごしらえも、全部結婚してから役に立ったわ。

人生において、無駄な事なんてないのよ、経験した事はどんな事でもその人の糧となりチカラとなるわ」

「そっか」

「アルが一生懸命剣のお稽古しているのは知ってるわ、お願いだからそれは剣を持たない人には向けないでね、剣を持てない人の為に使ってちょうだい」

「うん、そうだね、ありがとうおばあちゃん」



 さらに、別の日


【あのさ、エイジ】

【どうした?】

【僕、どうしたらいいかな?】

【なんだ? 藪から棒に】

【やぶからぼうってなに?】

【あー、んっといきなりどうした?】

【うん、えっと、成人したらどうしようかなって思って】

【アルはどうしたいんだ?】

【それがわかんないんだ】

【わかんないって、やりたい事やればいいんじゃないのか?】

【だって、僕のやりたい事って困ってる人助けたいって事だよ、そんな仕事ないじゃん】

【無かったら作れば?】

【作るって仕事を?】

【仕事っていうか職業をだな、依頼を受けてそれを解決して報酬をもらう、害獣駆除と一緒だな】

【そんなんできるの?】

【できないだろうな】

【なにそれ? 真面目に聞いてよ! 馬鹿にしないでさ!】

【まあ聴け、例えば「この女の人が悪い人なんです、だから殺してください」って依頼があったとして、アルやれるか?】

【そんなん無理だよ、人を殺すなんて犯罪だよ、死罪になっちゃう、良くて鉱山送りだよ】

【でも、そいつが法律に引っかからないように何人も殺してて、今まさに依頼してきた人が殺されるってなってもやらないのか?】

【だったら助けるよ、当然じゃん】

【その違いはなんだ?】

【えっ?】

【最初は受けないって言って、後から受けるっていうのは何が違うんだ?】

【・・だって最初はどんなか知らなかったから】

【そう、知らないから判断できないんだ、今がまさにそうだ】

【・・・・】

【知らない事はわからないから決められない、だったら知る努力が必要だ何事においても】

【・・どうすればいい?】

【自分で決めるんだな、人の意見に耳を傾けるのは大事だが、振り回されないようにな】



 これも、また別の日。

村の広場では、ギースノが店仕舞いの為商品の積み込みを行っていた。


「ギースノさん」

「おや、アルくん、こんにちは」

「あの、ちょっとお話したいことがあるんですが、よろしいですか?」

「なんですか? なにか武器の注文ですか?」

「あっ、いやその、ギースノさんはなんでこのお仕事を選んだんですか?」

「は?」

「あの、ちょっと色んな人に話聞きたくて」

「はぁ、わたしなんかの話でいいんですか?」

「はい、お願いします」

「・・私はこれでも商会の跡取り息子ですからね、小さい頃からずっと商取引の現場にいましたから、自然とこうなりました」

「後悔とかないんですか?」

「はい、全然、この仕事は楽しいですよ、見たことも無い商品に出会えたり、見知らぬ人とお知り合いになったりと、毎日が発見と驚きの連続です」

「つらい事とか無いんですか?」

「それはまあ・・仕事ですからね、大変な事もありますけど、それよりも喜びの方が断然大きいです」

「天職に出会えたって事ですかね?」

「? どうでしょうかね、他の仕事を知りませんし、自分に向いてると思って選んだわけでも無いですから」

「そう・・ですか」

「どうしたんですか?」

「ちょっと色々迷っちゃって」

「ふーむ・・、アルくんは剣と操魔術を使いますよね?」

「はい」

「じゃあ、その腕を生かす仕事って何があるかご存知ですか?」

「えっ? それは、兵士と傭兵と後は・・警ら隊ですかね」

「他には?」

「他? ・・そんなもんじゃないんですか?」

「王都にある闘技場の闘士やダンジョンを探索してお金を稼ぐ人、それに訓練学校の兵士コースの実務教官に盗賊なども腕っぷしを求められます」

「はあ」

「ようするに、道は一つじゃないし私も知らないだけで、まだまだあるかもしれない、知れば選択肢も広がるんじゃないですか?」

「なるほど、知る事が大事ってことですね」

「迷いが増えるだけかもしれませんけどね、でも選べるって事は幸せな事ですよ、それしか無いってのよりは、少なくとも自分の意思で決められるんですから」

「わかりました、ありがとうございました」

「どういたしまして、今後ともよろしく御贔屓ごひいきに」


◇◇◇◇◇◇


 色々な人たちに、色々な話を聞き、アルなりに一つ一つ考えてみた。

自分がやりたい事。

自分ができる事。


 リバルドさんとラムシェさんには、傭兵団に入らないかと誘われた。

でも、傭兵が実際どういう事をする人たちなのか、僕はよくは知らない。


 おばあちゃんは、昔王都へ行って侍女になった。

僕は、王都へは行ったことが無いし、侍女の仕事もいまいちわからない。


 エイジには、自分で考えるように言われてしまった。

知らないなら、知る努力が必要だって言われて、その通りだなって思わされるも、何をどう調べればいいかわからない。


 ギースノさんは、商人として生きる事に後悔は無いと言っていた。

僕が、職業についてよく知らない事を指摘された。


 結論、僕は知らない事が多い。

知らないならどうすればいいか?

知るためにはどうすればいいか?


 リバルドさんたちとギースノさんは、色々な所へ行っている。

おばあちゃんも、王都へ行っていた。

エイジも、こことは違うところから来た。


 僕も、色々な所へ行き色々な人たちに会い、色々なものを知ればなにか掴めるかもしれない。

少なくとも、何も知らないままここに居るよりも、先へ進めるかもしれない。

決めた!


【エイジ、聞いて!】

【どうした?】

【僕、旅に出る、ここを出て色んな所へ行ってみたい!】

【そっか、そうする事にしたのか、頑張ったなアル! よく自分で答えを出したな、えらいぞ!】

【えへへへへ~、これからもよろしくねエイジ】

【なんだ? 改まって?】

【だって、旅に出たら家族とは離ればなれで、僕にはエイジしか身内がいなくなるから】

【そんな事か、大丈夫さ、なんたって俺とは離れたくても離れられないんだから、そんな気に済んなよ!】

【うん!!】



この時のアルの決断が、これから先で巻き起こる、アルとエイジに降りかかる数々の事件と運命を決定する事になった。


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