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空へと至る埋没

作者: 悲夏

 僕は空を見上げている。

 水色の、所々が白に覆われた空が、昨日よりも、それより前の記憶よりも遠く思えた。

 空が高くなったのか。僕が縮んだのか。どちらもありえない事。

 空が遠く感じると原因を、現実的に考えるなら?

 例えば周りを壁に囲まれていたら、例えば周りに何も無かったら、例えば落とし穴に、例えば高台に……。

 今僕はそれらの状況のどれでもない。

 僕はただ空を見上げている。

 ここは見知った町の見知った道。

 通り沿いに商店が並ぶ。特にあのパン屋は主婦層からも近所の学生からも支持を集めている。

 あそこの洋菓子屋も、手作りのビスケットやら色々が人気だ。

 知っている町なのに、空だけは遠く。空は町の一部では無いのだから、分けて考えるべきだが。

 この町はビスケットの缶で、空という蓋が僅かに開けられたような……そんな感覚だろうか?

 それなら僕はビスケットか。蓋が全く開けられた時に差し込まれる指に摘まれて、僕は何処かへ拐われる。

 空と町の狭間から僕達を見ているナニモノカの一存で、僕達は見知った町を旅立っていく。

 上位存在とも言えるべきナニモノカの口に運ばれ噛み砕かれ飲み込まれ消化されるのか。

 なんと滑稽な話だろう。僕は人間自体が最も上位な存在であると思っていたのに、缶の中のビスケット、外界を知らず。蓋は開けられ呆気なく食べられる。


 ……。

 ところで何故空は遠くへ行ってしまったのだろう。僕は缶の中で震えるビスケットでは無いのだから、その答えにもきっと辿り着ける筈だ。

 僕は今まで何をしていた?現時刻は昼過ぎ、起床は午前8時。

 起床して外に出てから今まで、僕は空を見上げる事をしなかった。

 生活の中で空を見上げる事は、意外と無いだろう?大抵ただ視界に入るだけ。ただ、向こうの空が見えるだけ。

 そして今、空を見上げた瞬間に、空は遠くへ行ってしまった。

 もしかしたら、しばらく前から空は遠ざかってしまっていたのかもしれない。

 僕が気付かない内に、静かに。


 ……。

 僕はさっきからずっと空を見上げている。

 不思議と首も背中も腰も疲れないし、痛まない。

 地面に仰向けに寝転がって空を見ているような感覚。

 僕は見上げる事が快適過ぎて、逆に億劫に感じてしまっているが、辺りを見渡してみる。

 空だけを見ていても、空が遠ざかった理由は分からないかもしれないし……。

 僕は正面を向いた。ああ、やはりこの姿勢も快適だ。

 僕は巨大な石の前に居る。これは?

 僕は大きな建物の前に居る。これは?

 僕は大きな人の、その下に居る。これは?

 これは、どういう事だろう?


 ……。

 幾つかのファンタジー的世界を旅した(読んだ事を追経験したと捉えるのなら、旅をしたとも言えるのでは無いだろうか?)経験から推測するに……。

僕は縮んだ?小人の域まで?いや、そうでは無いんだろう。

 視界の下の方は地面。いやこれは当然なのだが、それの占める面積が違う。

 下を見れば自分の首から下は無く、首から下はただ地面である。

 僕は首だけになって、目をギョロギョロと動かしているのか?だからずっと空を見上げていても、身体の何処も疲れないし、痛まなかったのか?当然だ、だって首から下が無いのだから。


 ……。

 感覚はある。右手が動いている。左手が動いている。右足を前に出す。前に進む。左足を前に出す。前に進む。

 見えないが、確かに存在している。

 ちょうど、僕は埋もれてしまっている。のだと思う。

 空が遠い。しかし空が遠ざかったのでは無く、僕が遠ざかったのだ。

 足元から見上げる空は、記憶の中の空よりも遠く、狭い。

 空は不変。どちらにせよ届かない空だ。どっちでも同じでは無かろうか?

 僕は空を見上げながら、色々な事を考えようとするのを、必死に止めようとしていた。


 ……。

 僕はどうして、足元から空を見ているのだ?

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