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第二話類似した世界①


「むかーし、むかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが傾いたマンションに住んでいました……」

「思ったよりも昔じゃない!?」


「おじいさんは山にあるゴルフ場の芝刈りに、おばあさんは有限会社川下の工場に、パート勤務としていきました……」

「ちょっと現代的!?」


「おばあさんがパート勤務に従事していると、上手の方からドンブラコ~、ドンブラコ~、と規格外に大きな桃がベルトコンベアに乗って流れてくるではありませんか……」

「もしかして桃太郎!?」



 白い壁に囲まれた会議室の様な部屋で淡々と昔話……だと思われる紙芝居を彼女、杜守茉莉は読んでいる。

 その不可思議なストーリーには俺のツッコミが留まるところを知らない。


 なんだよこの桃太郎……ってか、そもそも桃太郎自体がコレに向いていないだろ……


 突然の展開についていけていない人も多いと思う。

 詳しい説明は後でするが、割愛して話すと俺は転生者更生プログラムというものの一環を受けていた。


 転生者更生プログラムというのは、神が悪の心を持った転生者を更生させるために作ったプログラムという名前通りの物で、今はその第一段階『神プロデュース。童話から学ぶ猿でもわかる教訓☆』をやっているところらしい(他人事)。



 しかし、この転生者更生というのはどうにかならなかったのか、甚だ疑問である。

 確かどちらも生まれ変わる的な意味なはずで、凄く違和感を持ってしまう。


 やはりあの神は猿よりもバカなのだろうか?




「聞いていますか……?」


 不審げに尋ねてくる彼女に、俺はうんうんと首を縦に振って聞いていたとアピールする。

 もちろん、こんなツッコミどころしかない話をまともに聞いてなどいないが、暴力的な彼女のことだ、聞いてないなどと言ったら殴る蹴るになってしまうだろう。それだけは避けなければならない。



 彼女はそんな俺の様子を見てか、納得したそぶりで、

「ふざけないでください……」

笑顔を見せる。


 うん。やばい

 何がやばいって彼女の笑顔が超怖い。

 彼女の笑みに、俺はまるで蛇に睨まれた蛙状態、いやバジリスクに睨まれた蛙といったところだろうか。


 このままだと石になってしまいそうなので、俺は両手を挙げて降参の合図とする。



「スミマセンキイテイマセンデシタ。」

 カタカタと肩を震えさせ、片言になりながら謝罪の言葉を語って、俺はなんとかその場を片付けようとする。

 たまにはこうやって韻を踏むのもどこか面白いよね。


 あ、あくまで、ただ面白いと思っているだけで、別に彼女をバカにしようというわけではないから(必死)。



「何ふざけているんですか……?」

 怒り心頭に発してか、彼女は俺の前で仁王立ちになって拳を構えていた。


 俺は恐怖に慄き、腰を抜かすように地面に倒れこむ。


「い、いや、たまには韻を踏むのも面白いかなと思っただけで、別にバカにする気は……」


 慌てて言い訳を口にしながら、俺は体勢そのままに後退るのだが、

「ハァ……?」

彼女はまるでゴミでも見るかのような視線を向けると、指関節をバキバキ鳴らしている。




「バカにしてたってどういうことですかね……?」


語るに落ちるとはこういうことかと一人納得した俺は、次の瞬間宙を舞っていた。


 ば、バカ力過ぎるだろ……


「グハッ」


     ◆


 事の始まりは遡ること二日前。

 俺達が森を脱出した直後の話だ。


    ◆


「なんで、この街がここに……!?」

 俺はその見知った街で、受け入れ難い現実に思わずたじろいでいた。


「なんで、ここは異世界なんじゃなかったのか……?」

 口からポロポロと疑問が落ちていく。


 【神祀りの杜】などというものをこの目で見ていたのだから、頭ではこの世界が異世界だと理解していた。

 しかし、それでもその事実は驚愕するにふさわしいだけの物を持っている。



 まさかこの街ごと転移したのだろうか? 


 いや、それにしては人々が平常すぎた。


 街ごと転移していたのならば普通に考えて一緒に転移した人々はパニックに陥るだろう。それは見た感じとしてなさそうだ。


 となるとこの街はもともとこの世界にあると考えた方がいい。



 同じレベルの文明、共通していた硬貨、変化がないと言っていいほどに類似した街。

 そして、少しだけ異なった世界。


 神が、【異世界】という言葉を言い換えてまでして【異なった世界】といったところには、少しばかりの違和感を覚えたが、まさか異なった世界のほうが正解だったとは思わなかった。


 ここは、この世界は、異世界であって異世界じゃない。


 この世界の正体、それは並行世界。


……木の幹から分岐した一本の枝の先。


 それがこの世界の正体だった。


 



「どうしました……?」

 空気が読めていないのか、それともわざとなのか、彼女は純真無垢な瞳で一人苦悩している俺を見つめる。

 きっとこの世界の住民である彼女では、この事実に気づくことがないのだろう。


 だからこそ彼女はこうして平然としてられるのだ。



 まぁ、別に彼女が悪いという訳ではない。

 そう、俺が文句を言うべきはあのふざけた神様なのだ。



 ってか、並行世界……? 並行世界って能力あるのか?


 能力というものが一般的にないと仮定した場合、俺の能力は意味をなさない……並行世界は根本的な世界構造は変わらないはずなのだから、能力は無い可能性が高いと言える。




 最悪だ……。



「大丈夫ですか……?」

 返事がないのを心配してか、彼女は顔を少し曇らせながら再び問いかけてくる。



 とりあえずこのまま返事をしないでいるのも彼女に悪い。


 俺は一回思考を中断して、彼女に返事をする。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと神様に会いに行くだけだから」


 俺の返答を受けて、彼女はわけがわからないよといった顔をする。




 俺は視界の端に移っていた街路樹のところまでゆっくりと歩き、街路樹の周りに張られた立ち入り禁止のロープをほどいていく。



「ちょっ、何やってるんですか……!?」

 彼女はそんな俺のもとに慌てた様子で駆け寄ってくると、その行動を制止しようとする。

 きっと俺が危険区域に平気で立ち入ろうとするようなDQNにでも見えたのだろう。



「安心しろ。俺は別に危険なことがしたいわけじゃないから」

 そう、俺は別に危険区域に立ち入ろうとしてそんなことをしている訳ではない。



「じゃ、じゃあなんでそんなことを……?」

 俺の返答に彼女は不思議そうに尋ねてくる。



 別に答えなくても差し支えはなさそうだが、一応俺を心配してくれているのだ。敬意を払って答えておくことにしよう。


 俺の目的、それは、



「俺は一回死んで神様に会いに行くだけだか……」


「人生にリセットボタンはありませんよッ……!?」


 間髪入れずに彼女の口から強烈なツッコミが返って来る。



「大丈夫だよ。一回くらい死んでも転生できるか……」


「そんなことできませんよ……!?」

 彼女は正気に戻そうと考えたのか、慌てたように俺の体をしきりにゆすってくる。



「アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」

 俺の口からは、とめどなく笑いがこぼれていた。

 とても空虚な、軽い、軽い笑い声。


 


「め、目が死んでるじゃないですかッ……!?」

 ワタワタと動転し、何が何やらわからなくなったのか、彼女はその場を行ったり来たりしていた。


 言っといてなんではあるが、こうしてみるとこのリアクションは予想外。 当人を置いて一人慌てるなんて、どこか見ていて楽しく思えてくる(ゲス顔)。

 

 とりあえずは面白いのだから、今は正常でないふりをして彼女の様子を窺ってみよう。

 そう考えて、俺は街路樹によじ登っていく。




「何やってるんですかッ……!? 本気で危険ですよッ……!」


 彼女は豆鉄砲を喰らったような顔で制止を発するが、ここで止めてしまうと俺がふざけていたことを疑われかねないだろう。


 ここは俺の身の安全のため、彼女の面白いリアクションのため、木から降りないでおくことにするのが得策だ。



 そうして俺はさらに上へと登る。





 次の瞬間だった。


 立ち並んだビル群の隙間から強力な、いわゆるところのビル風が吹き荒び、木に登っていた俺の体を思い切り吹き飛ばす。



 たかが風、されど風であった。


 予想に反した風の威力で、真っ逆さまに俺は落下していく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 地面が音を立てるように眼前へと迫ってくる。


 既視感のあるそのヴィジョンに、俺の体は身じろぎ一つできなかった。


 ゆっくりと、ひどくゆっくりと落下は進んでいく。


 まさかこうしてまた命を落とすことになるとは思わなかった。


 これも天罰というやつなのかもしれない。そう考え静かに俺は瞳を閉じる。







   ふにょン



 顔に感じたマシュマロの様な弾力。


 地面に倒れこんだ俺は、生きていることを実感しながら、閉じていた瞳を押し上げていく。

 



 うん。なぜだろう。なんでかな? 


 押し倒すようにして、俺の下に倒れこむ彼女の姿。いや、正確には彼女であろう服装をした人の胸部が、俺の瞳に移りこむ。



 うん、顔見えないけどこれ絶対彼女だよね。


 そんな状況下においても俺の脳はどうやら冷静らしく、なぜさっきまでいなかったはずの彼女が俺の下にいるのかとか、ってか、思ってたよりも胸有るんだなとか、このままだと彼女に殺されるのではとか、いろいろな思考を再開させていた。





「う、う~ん……」

 軽い脳震盪でも起こしていたのだろうか? 若干の時間差を開けたものの、彼女もすぐに目覚める。



 俺は突然の起床に動揺しながら、反射的に飛びのいて両手をあげてしまった。

 普段の彼女ならこういう時に絶対に蹴りが飛んでくる。だからこそ自身の身を守るために本能的判断をしたのだろう。




 しかし、彼女の反応は予想と違った。


「よ、よかった……」

 俺の顔を見るようにして、彼女は安堵の言葉を吐き出したのだ。



 ここで、俺には一つの仮説が出てきた。

 もしかすると彼女は身を挺して俺を守ってくれたのかもしれない。

 そう考えると、突然俺の下に彼女がいたことと、彼女怒らなかったことに説明がつく。理由こそ不明だが、彼女はきっと俺を守ってくれたのだ。


 俺は一人納得すると、感謝の気持ちを持っていつかこの恩を返すことを決意するのだった。



     ◆


「何なんじゃァァァァ!」


 そのころ神は神域で激怒していた。


「道澤を助けてやったのは、あまつさえラッキースケベを起こしてやったのはわしじゃ! なんでわしに感謝しないのじゃァァァァ!」


 そう。道澤を助けたのは他でもない神の仕業だった。


 道澤の落下時に両者の一番安全なタイミングに合わせ、杜守茉莉を空間転移させることで、道澤を救うという離れ技を神はこなしたのだ。


 その本心こそ道澤に戻ってこられると面倒という神にあるまじき私情の入り混じったものなのだが、確かに道澤を救ったのは神。


 それなのに、道澤が感謝したのは神ではなく彼女、杜守茉莉だった。



「こうなったら何が何でも道澤を平伏させてやる。」

 


 神も静かに決意するのだった。

どうも、この間初めての感想がつき歓喜に揺れている芽津でございます。

間が結構開いてしまいましたが、今回が第二話初投稿です。

本格的に並行世界を自覚した道澤くんでございますが、彼にはこれから数々の試練を降りかからせようかと思っております。

②までまた間が開くかもしれませんが、そういう時は時間を潰すためにも、梱包材のプチプチを潰すか、感想を書いて欲しいです←

いざとなったらプチプチだけでも←

そういえば芽津は最近プチプチを潰しておりません。

というかプチプチを見ておりません。

プチプチ潰したいぃぃぃぃ(末期患者)

と、とりあえずカオスにならないようこれにて失礼しようかと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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