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第一話死後の世界④

「行きますよ……?」

 一人ぼーっと突っ立ている俺(客観的判断)に少しの配慮があるのか、彼女はこちらへ振り返りながら問いかける。


 まだ神からも彼女からも、重要なことは何一つ聞いていないのに、この状況は過酷すぎやしないだろうか?



「ハァ……」

 溜息をもらしながらも、俺は一人先行する彼女を追いかける。このまま置いて行かれたのでは堪ったものじゃない。



 この暗い森を熟知しているのか、彼女は迷うことなく真っ直ぐに歩を進めている。

 なんとかその後を付いて行くのだが、まだ肝心な自身の置かれている現状を俺は理解できていない。

そもそも、このまま彼女の後をついていくことが正解なのだろうか? 

 彼女を本当に信頼してもいいのだろうか?



 疑心暗鬼に為った俺は、ゆっくりと歩を止める。


「お、おい!」

 背後から発せられた声を受け、彼女もその歩みを止めた。



「何ですか……?」

 彼女は煩わしそうに振り返ると、まるで異様なものでも見るような視線をこちらに向ける。




「せ、説明してくれないか? わからねぇことが多すぎる」


 そうだ。今必要なのは食料でも住居でも、ましてや衣服でもない(流石に裸でもマズいだろうが)。俺が今必要としているのは情報なのだ。


 本能を残した原始人ならいざ知れず、現代人の俺にとっては情報がないのでは安全な食い物の判別方法も、住処の作り方も何もわからない。


 さらに言うなら、そもそもそんなものがこの世界にあるのか、そもそもそれが必要な世界なのか、そんな根本からわからないのだ。

 

 だから俺は問いかける。


「説明してほしい。君で無理なら神に繋いでくれても構わない。頼む」



「はぁ……わかりました……。神様は今お仕事中ですので私が答えます……」


 彼女は、まるで厄介事を背負い込んでしまったという感じに大きくため息をつくと、しぶしぶ承諾してくれた。


「とりあえず、歩きながらでいいですか……?」


「あ、あぁ」

 億劫そうに出してきた彼女の提案を、俺は承諾してゆっくりと歩みを再開させる。



「そうですね。まずは何から話しましょうか……」


 そうして彼女は語っていく。自身について、この世界について。




 彼女の言う処によると、まずこの世界は神世界と言われる世界らしい。


 もちろん本来ならそんなこと彼女が知るはずもないのだろうが、彼女は特殊な職業柄度々耳にすると言っていた。



 そして、ここからは個人情報が多くなり、語ることが躊躇われるので少し割愛して重要なところだけを抜き取って話すことにしようと思う。



 彼女の名前は杜守茉莉(もりまもりまつり)。代々【祀り人】という職業をしている杜守(もりまもり)一族の正統な後継者だという。

 この【祀り人】とかいうめでたそうな職業は俺も初耳だったからきっとこの世界特有の物なのだと俺は推測する。


 これで神の言っていたことも少しは信憑性がありそうだ。



 なんだか詳しい事には、世代を追いながら神に仕えるの仕事とし、今俺達の居る【神祀りの杜】を守護するのが役目らしい。しかもこれでいてしっかり金ももらえているらしく、ハロワに通ってる人が聞いたら泣いて羨ましがりそうな話である。(ってか、【祀り人】とか言われると、神輿の上で大きな団扇を振り回している人な気がするのは俺だけじゃないはず)



 さっきチラッと出てきた【神祀りの杜】というのはここを含め全国に多々あり、理由こそ不明なものの、神の降り立つ神聖な場所として、法律で関係者以外の侵入が禁じられているのだそうで、立ち入ったものには正式な処罰が課せられるのだそうだ。


 今までの説明を読解する限り、この世界は宗教色が強いといった感じが窺える。


 あれ? 確認するけど俺、一応関係者だよね? 神がここに召喚したんだから不可抗力だよね?




 とりあえず、関係者どうたらの処罰は今考えていても仕方がないと諦める。

 そりゃまぁ適度には重要なことなのだろうが、異世界な時点で程度は予測できないし、あれこれ杞憂したところで意味はないと思うからだ。


 だから、俺は今やるべきことをやる。




「なるほど。大体は掴めてきた気がするよ」


 理解したことを気だるげなそうな彼女に指し示す。


 そういや、初めて会った時は気を張ってたみたいだけど、素はこっちなのかな? 彼女からは、本来なら異世界転生を果たす側の様な効率主義さが感じられるよ(良い意味で)



「なんか失礼なことを考えてそうな顔ですね……。」

 ジッと顔を覗き込むようにした、彼女の口からこぼれた言葉。


 内心ギクリとしながらも、俺は平静を装って口笛を吹く。



「ハァ……神様に似てわかりやすい人ですね……。まぁそれに関しては不問、とりあえずは理解が早くて有難いということにしましょう……」


 呆れたように彼女は微笑むと、その視線の方向を再び自身の進む先へと戻す。



 そういえば、まだどこに向かっているのか聞いていなかったことに俺は気づいた。


 とりあえず刑罰関係じゃないことを祈りながら、彼女へと再び質問を投げかける。


「そういや、どこに向かってるんだ?」


 一応逃げられる体制を確保しながら、彼女からの返答を待つ。


 さっきは負けたけど、逃げていいなら勝つ自信はある。



 もしかすると、負けない自信があるといったほうがいいかも知れないけど……


「とりあえずの行先としてはこの世界の現状を確認できそうなところです……。さっきの電話からするとまだこの世界についてもわかって無いようですし……」



 気配りは効くのか、もしくは観察力が高いのか、彼女はこれでいて案外人のことが理解できていそうだ。


「失礼……。あなたではまだこの世界について理解できてい無さそう。が正解でした……」



 なんだろう彼女を心の中で褒めると心を抉るような言葉とかが返ってくるんだが。

 なに? ツンデレエスパーなの? それともメンヘラエスパーかな?




 とりあえずもう褒めるのはやめよう。





 俺が静かに決意を固めている間にも彼女は歩を進めている。


 慌てて彼女の跡を追いかけると、突然開けた場所に出てきた。



「こ、ここはッ!?」


 俺の瞳に飛び込んでくる開放的な風景。


 幾重にも重なった木々はすっかりと視界から消え去り、目の前には打って変わったコンクリートジャングルが広がっている。


 そびえたつビル群の間には抜けるように大きな道が伸び、それに沿うようにして某ハンバーガー屋を筆頭に様々な店が立ち並ぶ。

 そして、そこにはさっきまでの静けさが嘘の様な、所狭しと動き続ける人々の姿があった。




「なッ!?」


 視界に映ったその景色は、俺から驚愕の声を引き出す。



「驚きましたか……?」

 彼女は驚く俺を見てか、まるでいたずらを仕掛けた子供の様に、微笑みながらこちらへと振り返る。


 正直に言って、俺は声が出ない程に驚いていた。


 考えてみてほしい。


 俺はそれなりの文明レベルを確認できるものは見ていたが、それでも異世界だと神から通達され、それを心のどこかで信じていた。そんな俺がこの風景を見てしまえば驚愕するほかないだろう。



 さらに言うなら、今の俺はきっと周囲が思っている以上に驚いている。



 俺の前に広がる風景。それは、

「なんで、この街がここに……!?」


 俺が良く見慣れた風景だった。



 見慣れた風景というのは何も比喩じゃない。


 俺の眼前に広がる風景は、確かに見慣れた景色だ。


 はっきりと断言しよう。

 俺はこの景色を見たことがある。


 前の世界においてここには駅の北口があった。


 今抜けてきた森の出口は、ちょうど改札から降りてくる階段が設置されていたはずの位置であり、学校への登下校時毎日俺が見ていた風景と同じものが俺の前には広がっている。


 そこは、忘れるはずもない、いつも俺の隣にあった生まれ故郷の街だった。


第一話はこれにて完結です。

次回からは第二話となります。


少し更新ペースが早かったので、第二話の方はちょっとゆっくり書いていこうと思っています。

次回第二話!類似した世界!

お楽しみに!

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