第一話死後の世界②
「謀ったナァァァァッ!! あの自称神がァァァァァ!!!」
そうして現在に至るわけなのだが、何を謀られたかというと
「俺はどこに転生するのか聞いていない! ここはどこだァァァァァァ!?」
見知らぬ土地の不気味な森に一人取り残されてしまった俺は、羞恥など知ったこともなく心のままに思い切り叫び声をあげる。
しかし、俺の言葉に返事をしたものは風の音だけだった
「はぁ、ホントどこだよここ……」
改めて見ても、左右どころか全方向に木々は続いているし、荷物の類も殆どない。(一応服は着用してました)
背筋にヒヤッとするものを感じながらも俺は重い腰を上げる。
動かないことにはどうしようもないか……
◆
足が重い。筋肉は細かく断裂し、太ももはパンパンになるほど乳酸が溜まっている。
「どこまで続いてんだよ……」
進んでも進んでも先は見えず、疲労だけが体に蓄積されていく。足はフラフラになり、喉はカラカラに乾ききっていた。
「くそっ……こんなことなら普通の能力にしとくべきだった……」
俺は過ちを犯した。「コピー能力は最強である」この持論こそ崩れてはいないのだが、コピーする相手がいない今、この能力は無いに等しい。
こんなことになるのなら軽いエンチャントや、いっそのことサイコキネシス系のほうが使い勝手もよかったように思える。
「し、しくじった……」
棒になった足が崩れ、俺は地面に倒れこむ。
「……こりゃ、またすぐあの神様に会うことになりそうだ」
苦笑しながら放った自虐ギャグにも結局ツッコミはない。
当然と言えばそうなのだが、それでもどこか寂しさを覚える。
ゆっくりと寝返りを打ち、木々の隙間から覗くはるかな空を仰ぐ。
「こうして見ると、どこか見慣れた空……うぉ!?」
突然視界に入り込んできた人の影。太陽を背にしているため性別すらわからないその人は、俺の顔をまじまじと見つめ、怪訝そうに口を開く。
「ここで何してるの……?」
柔らかく、あたたかなその女性の声は、まるで夢を見ているように俺の心を優しく包み込んだ。
緊張で張りつめていた糸が音を立てて切れる。安堵感からか涙が溢れ、目尻を伝いながらこめかみを濡らしていく。
「なんで泣いてるの……?」
はなから答えを聞く気がないのか、その女性は俺が答える前に次々と疑問を投げ掛け続ける。
「あなたは誰……?」
「ちょ、ちょっと待て……せ、せめて話す前に水を、水をくれ……」
俺は慌ててその女性を制止し、水を求める。
流石にもう喉の渇きがキツくなり、質問に答えている場合ではなかったのだ。
「水……? これでいいの……?」
女性はごそごそと背負っていたバックを探り、中からペットボトルを取り出すと、俺の前に置く。
彼女は俺の瞳を見つめたのちに、
「いいよ。それ飲んじゃって……」
そう告げた。
俺は無我夢中でペットボトルに手を伸ばし、一思いに飲み干す。
喉に染み渡る水分に、俺は転生した時よりも生き返った気分に浸る。
うん、水で浸るって我ながらうまい表現だと思う! 流石俺だね!
「落ち着いた……?」
眼の奥を覗きながら女性は問いかけてくる。
改めて顔を見ると世界に存在しているのが不思議なくらいに彼女は美麗だった。
長く伸びた真っ白な髪はどこかほんのりとピンク味を帯びていて、切れ長の瞳は濃い桃色。恰好は少し変わっていて神主服と巫女服を合わせたような不思議ないでたちだが、それでいて負けないくらい整った顔立ちをしている。
この美しさを表すにはどんな言葉を選んだらいいのだろう? 例えるなら、そうそれは異世界に迷い込んだように(by転生者)
まぁペットボトルが出てきたところを見るとファンタジーな可能性は低そうだが。
「だ、大丈夫……?」
返答がないことを疑問に思ったのか、彼女は首を傾げながら再び直接的に問いかけてくる。
「わ、悪い! ちょっとボ~っとしててさ。助かったよ!」
慌てながら取り繕ったように返事を返すと、彼女は打って変わったようにボソッと呟いた。
「むしろ……私と会わないほうがあなたにとっては良かったかもね……」
彼女の陰った顔に俺は不安を感じ、言葉に詰まる。
それを察してか、彼女は明るい笑みを見せると話の修正に取り掛かる。
「それで、……えっと~……とりあえず名前……いい?」
「あ、そうですね……俺は道澤敬陽です。年齢は十八歳。特技は空手かな?」
自己紹介など小学生以来久しぶりのことだったが、適当に思いついた情報を並べることで割とそれらしい文にできた。
というか、転生したのに転生前の名前でいいのか? 普通名前変わるよな……
「道澤敬陽……。あなたは何故ここにいる?」
真剣な顔で問いを発する彼女。
ってか、自己紹介したのがこっちだけってどういうことだ……
流石に名前を聞くなら先に名乗れとは言わないけど、せめて名乗ったんだから名乗ってくれ! 一人恥ずかしいじゃねぇかよ……
「あなたがここにいた理由は何だ……?」
詰め寄るように、きつい口調で彼女は問いかけてくる。
しかし、「気付いたらここにいたから、自分でも理由がわからない」とか「神がここに転生させただけだから、理由なら神に聞いて」とか言ったら明らかに不審者扱いを受けることになるだろう。
あぁー! なんて答えりゃいいんだよ!
一人苦悩し続ける俺の様子を窺ってか、彼女は説明を付け足していく。
「ここは周知のとおり立ち入り禁止区域。なぜあなたはそこにいる……?」
「立ち入り禁止区域?」
初めて聞いたその情報に、俺は思わず疑問を口にしてしまう。
あの神様がいたら「質問を質問で返すなぁー! 疑問文には疑問文で(略)」と言われてしまいそうな俺の答えだが、彼女はそんな切り返しをするわけでもなく、驚いたように瞬きを繰り返す。
しかしそれもつかの間、彼女の顔は一気に険しいものとなり、
「お前はいったい何者……?」
完全に警戒心剥き出しで彼女はこちらを見つめる。
今の会話に、それほどまでに敵意を差し向ける理由があったのだろうか?
心当たりがあるとすれば常識の差異ぐらいなものだろう。
異世界でもある程度文明が発達しているのなら、ペットボトルのようなものが存在していてもおかしくはない。そして、異世界なら常識の食い違いがあってもおかしくはないのだから、彼女の敵意はそこに由来するものだ。
これは非常に不味いことになった。
「答えろ……お前は何者だ」
彼女は腰に吊るしていた小刀を抜くと切っ先をこちらへ向け、真っ直ぐに俺の瞳を見つめたまま問いを続ける。
こうなってしまうと、ここからは慎重に言葉を選ばざるを負えない。もはや賭けレベルの心理戦だ。
チョークプレイヤーは彼女、オープンカードは文明の進化レベルといったところ。降りることは出来ず、一方的に命を掛け金としてベットされた不条理な賭け。
ここから重要になってくるのはブラフと敵のハンドをどれだけ暴けるか。
さぁ第一手だ。
新たな登場人物が出てきた第一話死後の世界②。
彼女の名前はもう少しで出ると思いますので、色々と推測を進めながら待っていていただけるとありがたいです。
冒頭に出てきた能力に関してですが、皆様の場合は何を望むでしょうか?
自分が能力を貰えたら〜って考えていくと楽しいですよね!
最後が『某ゲームがないのは人生じゃない』(訳あってるかな?)みたいになってしまいましたが、別に国盗り合戦はしません(予定)のでご安心を(笑)