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第一話死後の世界①

一話あたりが長いかと思いましたので、本編は一話を複数に分けて掲載したいと思います。

誠に勝手な判断ですので、纏めた方がいいという意見などございましたら意見をいただければ改善いたしたいと思います。


 耳をくすぐる高らかな鳥のさえずりに、顔に触れる爽やかな風の香り。

 俺はゆっくりと瞼を押し上げ、二度三度と瞬きを繰り返す。

 視界の端から端まで生い茂る木々。明るい新緑の芽吹きが世界を包む。地面には草の絨毯が敷き詰められ、辺りを飛び回る子鳥の音階が柔らかなメロディーを奏でている。

 

 と、まぁ幻想的な書き出しで始めようかとも思ったのだが、流石に描写の偽装になりそうなのでやめておくことにする。

 実際に俺の前に広がっているのは、枝葉が覆いかぶさり光さえ通さない木々に、足元から不気味に伸びる蔦の様な植物。湿気を含んだ大地は苔で覆われていて、カラスが不気味になく様と合わせると、そうそれはまるで童話に出てきそうなトロールの住む森そのものだった。


「ここ、どこだよ……」

 フラグだとは思いながらも、心の叫びを止めることは出来ず、止めどなく言葉は俺の口からぽろぽろと零れ落ちていく。

「森……だよな……」

 今一度自身の置かれた状況を見返す。

 俺はこの薄気味悪い森の中に倒れており、四方八方へと森は続いている。


 木々の隙間から若干の木漏れ日が見えるため今は昼間であることは理解できた。

 ゆっくりと体にも触れてみたがちゃんとそこには実態があり、別に霊体という訳でも無さそうだ。(あくまで俺の信じる霊体の定義だが……)


 俺は自身の置かれた事態を理解できた。

 一度深呼吸をして、心を落ち着かせ……

「謀ったナァァァァッ!! あの自称神がァァァァァ!!!」


 虚しく俺の声だけが森の中に反響していた。



    ◆

 ことの発端は遡ることほんの数分前(体感)。

 あの自称神とのやり取りである。


「お前は今日死んだ。これは事実じゃ」

 神の口から告げられた衝撃の真実。



「……そうか」

 俺は一瞬戸惑ったものの、あの鮮明な痛みを直ぐに思い出し、曲げ様の無い現実をゆっくり飲み下す。

 やっぱり、夢な訳ないか……




 ってことはだ、冗談どうこうを措いてもこいつは本物の神……もしくはそれに類似したもの……

 俺オワタァァァァァァ! その場のノリだけでやらかしたァァァァァ!!



「いや、まぁこっちにも少し不手際があったしそれはもういいんじゃが……」

「不手際だと!?」

 苦悩し続ける俺の心をまた読んだのか神がボソッと漏らした言葉を俺は聞き逃さない。

 血に群がる鮫やピラニアの様に、食い気味な反応をしながら問いを発する。


 神が出てきて不手際って悪い予感しかねェェェ!!


「うぉっ! びっくりしたぁ! なにその地獄耳! 動物並みの聴力でもしてる訳? そうそう、動物といえば……」

「おいこら、なんでてめぇはナチュラルに話を変えようとしてるんだ?」

 眼を逸らし、わざとらしい顔で口笛を吹いている自称神の顔を思い切り掴み、俺はがっしりと固定する。


「不手際ってどういうことだ? こ・た・え・ろ(ニッコリ)」


 脅しをかけるようなその一言によって、今にも泣きだしそうな神はぺらぺらと語り始める。


 いや、ちょろいなコイツ……


 神が言う処によると俺が死んだことは間違いない。が、その原因は運転手の居眠りでも、俺の飛び出しでもなく、神様とやらの不手際。


 それは、ちょうど俺の隣にいた極悪人の寿命を終わらせようとして、俺を殺したらしい。


「……」

 流石の俺も唖然としたよ。


「何してくれとンじゃァァァァァァ!!!」

 一瞬のタイムラグを挟んだ後に、俺の脳は全ての感情を含んだ叫びを爆発させる。

 そんな手違いで俺の人生は終わり、片や極悪人は今後も犯罪を繰り返す。世界にとっても俺にとっても最悪の結果……



「あ、ちゃんとその後、極悪人も殺したから安心して」

「安心できるかァァァァァァ!!」


神様のダークすぎる一面に俺は絶句した。(喋ってるけど)




「そこで、じゃ。貴様には異世界でのやり直し機会を与えようかと思うんじゃが、どうするかのぅ?」

 ホッホホーとそれこそ魔法使いのじいさんみたいに、神は含みを見せた笑みを浮かべる。



 なるほど、これは転生イベントか……ってか、なんでこのオッサン自分のミスなのに上から目線な訳? もう一回殴ろうか?


「ちょっ、わかった! わかったのじゃ! チートでもなんでもやらせてやるから! 殴るのはやめるんじゃ!」

 オッサン(神)は慌てふためくように条件を提示してくる。

 思考を読めるのだからかわそうとすれば、かわせるはずなのだが……


「そ、その手があったか!」

 オッサンは感心したように頷いていた。

 コイツはホントにバカなのか?



「とりあえず、チート能力貰えるんだよね~?」

 ニッコリと問いかけてみるが、神はしまったと云う様に青ざめている。


「貰えるんだよね?」

 指関節を軽く鳴らしながら再び問いかける。ってか問い詰める。


「は、はいぃ! で、できる範囲でやらせてもらいますぅぅぅぅぅぅぅ」


 自称神はアクロバティックな動きで土下座した。

 あっさりと神は陥落しました。

 脅しに弱いとか何処までちょろいんだよ……

 世界の明日が心配になるレベルでちょろすぎる神様(褒め言葉)に、俺は心を痛めながらも一つの能力を所望する。


「コピーした相手の能力をちょ~っとだけ上回るコピー能力が欲しいかなぁ~? あとは記憶ね~」


 そう、相手の持つ能力と同じ能力を持って、必ず相手よりも威力が上になるなら、これに勝るチート能力はないはずだ。もちろん複数回使用ありで。



「わ、わかった。お前には前世の記憶と、コピーした相手の異能をちょっとだけ上回るコピー能力を与えよう……し、しかしくれぐれも悪用するのじゃないぞ!」

 神は少し悩んだものの、案外スムーズに俺に能力をくれると約束してくれた。





「もし能力がなかったら、もう一回死んででも殴りに来るからな!」

 最後に念押しをして、俺は神が作った【輪廻の渦】に飛び込む。

 神が言う処によればこの【輪廻の渦】に飛び込みさえすれば、あとは自動的に転生するらしい。


 ゆっくりと暗い輪廻を超えて、俺は暖かい光へと進んでいった。

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