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プロローグ

至らぬ点は多々あると思いますが、読んでいただけるとありがたいです。

欲を言うなら感想がほしいなぁ〜(ワガママ)

プロローグ


 【異世界転生】

 周知の通り、今流行りのジャンルである。

 しかし、皆さんも知ってのとおり一口に【異世界転生】と言ってもケースは人それぞれ、様々な種類の転生があり、なおかつ転生者がおかれる状況も様々なのだ。

 ある者は異世界に召喚されるといった、転生というよりも転移に近いものを書き、ある者はゲームの中に入ってしまう、転生とも転移とも違ったストーリーを書いていく。

 もはや、【異世界転生】は既に【転生】の定義から外れ、造語から一つの概念へと昇華されている。

 もう【異世界転生】は転生という物差しでは測れない。

 何があるかわからないのが【異世界転生】だと認識してほしい。


 では改めて物語を開始しよう。

 これは、そんな異世界転生(仮)を果たした一人の青年……ってか俺が、異世界(仮)で何やかんや生きていく話である。


 なお、俺はこの世界を異世界とは認めない! こんな世界……


 嘘だッ!


       ◆

 体を伝う衝撃を引き金にして、痛覚が我先と主張を始める。

 宙を舞う肉体はまるで放り投げられた空き缶のように、ゆっくりと放物線を描きながら落下していく。

 大地が眼前にスローモーションで迫ってくる。

 体を揺さぶる二度目の衝撃は眼を瞑る暇さえ与えずにやってきた。

 気味の悪い音を立てながら、投げ出された体は地面に倒れこむ。

 肉体のあちこちが灼けるような痛みを放ち、脈はものすごい勢いで血液を吐き出し続ける。


 ーーあぁ、俺は死ぬのか……


 薄れゆく意識の中で、脳は冷静に自己分析をしている。

 アスファルトに広がった血液が顔を覆い、視界は真っ赤に染まっていた。

 ぼやけた世界に唯一鮮明な血の色。際立ったその色は、まるで異世界のようにこの世界から隔離されている。

 周囲を包む死の臭いに、今にも咽かえってしまいそうだった。


 さっきまで平穏な、平静な、平凡な、そんな時間が俺の横を流れていた。


 別に今までが幸せだったとは思っていない。しかしそれでも不幸ではなかったのだと改めて思う。

 そんな特筆するようなこともない人生に、突如として現れた鉄の箱。

 普遍的な、ごくごく見慣れたそれは、今日に限って異様さを放っていたようにも思える。


 道の真ん中を走っていたその鉄塊は、その進行方向をいきなり逸らして、真っ直ぐ、そしてそのまま、


 ーー俺を吹き飛ばした。


 驚いたよ。

 まさか俺に限って、

 まさかこんなことになるなんて、

 まさかこんなことが起こるなんて、

 まさか

 まさか

 まさか


 処理の追いつかない現実は、ただ死の恐怖だけを残して動きを止めた。網膜に焼き付いた景色が、途中停止された動画のように時間を切り取り、二度と動き出すことはなかった。

 別空間に一人取り残された俺はひしひしと死を感じていた。

 熱と痛みを放っていた傷口もすでに感覚が殆ど消え、血の気のなくなった身体は寒さに震えている。


 ーーこれが死……


 末端から徐々に力が抜け落ちていく。

 弱い呼吸音ももう聞こえなくなっていた。

 完全に麻痺した肉体は、どうやっても動こうとせず、俺はただただ絶命の時を待つ。


 ーーもしも


 望みを追い求める心に、しょせん可能性論だと言い聞かせありのままを受け入れる

 そうでもしないと気が狂ってしまいそうなほどに現実は残酷だった。


 死というものは恐ろしい。

 死という概念は恐ろしい。

 死という終わりは恐ろしい。

 死という不明は恐ろしい。


 DNAに刻み込まれたその感性に体が震える

 死がこちらに手を招いていた。

 いくら恐怖し続けても、いくら拒み続けていても、死は消えることなく俺を包み込む。


 俺はゆっくりと歩み始める。

 真っ暗な

 死の

 道を。



 そうして俺は息絶えた。

 人生という本にENDの文字を書き終えて、この世界を後にした。



    ◆



 はずだった。



「おお道澤敬陽(みちざわけいよう)! しんでしまうとはなにごとだ! しかたのないやつだな。おまえにもういちどきかいをあたえよう!」

 周囲を包み込む暗い闇の中、まるで仙人やサンタクロースといったような、真っ白い髭のオッサンによって目の前で繰り広げられるパロディ劇場。


 突っ込みどころが多すぎる……そもそもいったい誰だよ! このオッサン!

 

「わしか? わしは神なのじゃ!」

 キリッと決め顔で言い放ったそのオッサンに、俺は呆れるのを越して殴りたい衝動に駆られる。


 とりあえずここどこだよ! わけわかんねぇよ!

 

「ここか? ここは神世界にある神域なの……」

 あ、ありのままに今起こったことを話すぜ! 俺は奴の前で話を聞いていたと思ったらいつのまにか殴り飛ばしていた! な……何を言っているかわからねーと思うが……

 いや、ここら辺でやめておこう。今起きたことを簡潔に言うとドヤッと胸を張るオッサンにムカついて殴り飛ばしました。ごめんなさいもうしません。


「痛いな! なんなんだよお前! 思春期……」

 俺は左足に体重移動しながら腰を入れ、オッサンの顔面めがけて回転をかけた突きを放つ。

 見事にその突きはオッサンの顎を捉えると、脳を揺さぶりながらその体を吹き飛ばす。


 もうしないとか言ったのに殴り飛ばしちゃった! てへ! 

「てへ! じゃねぇだろォォがァァァァァ! 人の話はちゃんと聞け! わしは神じゃぞ!」

 五月蠅く喚くオッサンに俺は殴りたい気持ちを抑え、ローキックを放つ。

「痛いっ! いや殴らなければいいってわけじゃないから! っていうかいつまで蹴り続けるの! 脛すっごい痛いんだけど! ちょっやめて! 脛蹴るのやめて!」

 俺はとりあえず怒りを抑え、脛をしきりに押さえているオッサンに問いかける。


「それで、だ。お前は誰でここは一体どこなんだ?」


「だからわしは、か……みィィィ!!」

 同じ事を繰り返して言い続けるオッサンに、もう一回怒りの鉄槌を喰らわせてやろうかと思ったのだが、今度は寸前のところでかわされてしまう。


「ハァ……ハァ……いやマジであっぶね……」

「今度こそ真面目に答える気になったか?」

「いや、最初からわしは真面目だから! 冷静になるのはそっちじゃから! ほら、思い返してみてごらんよ! わし貴様の心を読んだりしたじゃろ!?」

 逆ギレを起こすオッサンに一瞬怯んでしまったものの、俺はすぐに思考を再開する。


 言われてみて初めて思ったことだが、確かに喋っていなかったことに対しても返事が返ってきていたし、心を読んだというのならそれは真実といえる……

「そうか……ってなるかよ! ESPが使える程度の超能力者、もしくはメンタリスト程度だろ? まぁあくまで可能性だけど」

「超能力者でもじゅうぶんすごいだろッ!?」

 唖然とした顔の自称神を名乗るオッサン。


 確かに超能力者でも凄いかも知れないが、さすがに超能力者イコール神って言われるのはちょっとって気がするんだが……

「だからわしは超能力者じゃなくて神なの! これ見ればわかるでしょ!」

 そういって自称神は右手を俺の眼前に持ってくる。

 そして次の瞬間、小さい破裂音とともに自称神の人差し指からライター並みの炎が上がる。

「ほらっ! こういうことも出来るんだからねッ! これで信じる気に……」

「パイロキネシス? それとも立体的ホログラムか? なんにせよ凄い科学力だな」

 自慢げに自称神は語っているが、これ見せられたから信じるってことにはならないと思うんだよね。


「こ、これだから最近の若いやつは……信仰心ってのはどこに行ったんだ……」

 目に見えて落ち込んでいる自称神(仮)に、俺は慈悲の心で励ましの言葉を贈る。

「うーん……はなからなかった?」

「ihbf殺wp!!」

 流石に炎は出せても黒翼は出せなかったようなので安心しながらも、怒りにのまれ思わずセロリ化しちゃった自称神様に、俺は改めて問いかける。




「で、本題は一体何だ?」





「そうじゃった。そうじゃった。まずは何から話そうかのう……」




    ◆




 この日交通事故によって一人の青年が亡くなった。

 彼の名は道澤敬陽。

 いわゆる普通な人間であった彼の死去を、悲しむ人間は意外に多く、葬儀にはたくさんの人が参列していた。

 参列者は、早すぎた彼の死に涙を零し、そして悔やんだ。

 彼を乗せた棺はゆっくりと火葬場へ向かう。

 頬を伝う涙は酷く冷たかったことを私は今でも覚えている。

 去っていく彼の亡骸に涙をこらえ添えた一言。







『ご冥福をお祈り申し上げます。』


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