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OZ  作者: ゆり
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僕の友達

『ユータ、サヨナラ』

 ――僕はあの日、友達を……OZを助けることが出来なかった。

 研究室を出てから走って無意識に向かった校舎南の人気がない場所。途中、学生達がチラチラと見てきたが、お構いなしで。

「OZ、ごめん」

 走っていたせいで息が荒く、近くにあった木に背を預けると、小さく呟いた。空に向かって確かに伝えるように。

「優太!」

「潤……くん?」

 自分の呼吸音しかなかったところへ走って追いかけてきてくれたのか、疲れて下を向いている潤。しかし次の瞬間、優太に目掛けて冷たい何かを投げてきた。

「これって」

 もちろんキャッチできず、頭に勢いよく当たった。

「お茶。これで頭を冷やせ」

 潤は自分も持っていたペットボトルを開けて一気に飲んだ。

「大丈夫か? あんな過剰反応するところ、久しぶりに見たぞ」

「ごめんなさい……」

「あやまんな」

 そう言って潤は優太の隣に立つと頭を軽く叩いた。

「なあ、局軍とお前。何があったのか?」

「……」

「無理にとは言わねぇよ。ただ、奏が心配していたんだ」

「すみません」

 謝るだけ。潤の声に若干怒りを感じたからだ。

「優太」

「……僕は、局軍の人達に初めて作ったロボット・OZを、違法ロボットとして連れて行かれました」

「え、」

 潤は優太の言葉に驚き思わず固まった。局軍に違法ロボットとして逮捕されたロボットは無実であっても、二度と帰って来ることはない。

「でも、僕が作ったのは人工知能で動くだけのロボット。違法プログラムなんてどこにもなかった」

「おい、落ち着け」

「仙堂先生が抗議してくれましたが、取り入ってもらえず」

 優太の声が震え始め、両手で自分の顔を覆った。仙堂先生は優太のロボットを作るときに協力してくれたロボット研究家で、優太の父親の恩師であった人。たまに大学で講義を開いてくれるから大学の生徒なら誰でも知っている有名人だ。

「僕のせいでOZは……」

「もういい」

 悲しみに耐えながら話す優太の頭に手を乗せて止めた。潤の優しさなのか、優太の顔を見ないようにそっぽを向いて。

「ありが、とう……」

「優太!」

 突然、優太の体から力が抜けたようにその場で崩れ落ちた。

「しっかりしろ! おい、」



『ユータ、ズット一緒ダヨ!』

 ――そうだね。OZと僕はずっと一緒。

 太陽が赤く光っている中、二人は指切りをした。しかし、

『ユータ……サヨナラ』

 さっきまで笑顔で指切りをしていた姿は消え、残るのは暗い闇の中に消えていく姿に優太は必死に腕を伸ばした。

 ――ちょっと、まってよ。いかないでよ。OZ!

「OZ!」

 暗闇が一瞬にして消えたかと思うと見慣れない白い天井にベッドの横には点滴が置いてあって自分の腕につながれている。部屋を見回すと窓の外は暗くなっていて夜の風景で、反対側を向くとカーテンが引いてあった。

「ここは……」

「起きたかい?」

 声が聞こえると同時にカーテンが開いて部屋の風景が見えたかと思うと白衣をきた男性が入ってきた。

「緒方……さん」

「お、私のことがわかるなら大丈夫だね。君が倒れたと聞かされた時はビックリしたよ」

 白衣の男性はにっこり笑ってベッドの横まで近付くと椅子に座った。

「今日は非番だったけど君が倒れたと聞いて黙っていられなくて、大急ぎで来てしまったよ」

「すみません……」

「あ、怒ってないから気にしないで。今日は平日だから家族で旅行するとか考えてなかったし、むしろ優太君に久しぶりに会えてよかった。まあ、倒れたとかじゃなくて、普通に会いたかったけどね」

 緒方は笑いながら言う。彼は優太の主治医で精神科医。最初の主治医だった先生が移動になった為に彼がいままで担当してきた。

「あの、僕は……」

「君は大学で倒れたんだ。君の従姉の華菜さんが救急車を呼んでここに運ばれてきたんだ」

 優太が聞こうとしたことに気付いたのか欲しかった答えが返ってくる。でもまたみんなに迷惑をかけてしまったことが心に突き刺さった。

「優太君、また迷惑をかけてしまったと思ってるのかい?」

「えっと……」

 自分の考えを見透かすように緒方に言われ落ち込む。しかし緒方はわずかな反応も逃がさない。

「昔、言ったよね? 君の病気はその心の弱さが引き起こしているのだと。君は他人に迷惑をかけることを怖がっている。だから君の病気は直らないんだ」

 若干きつい言葉。しかし優太にはこのくらい言わないと聞かないということを緒方は分かっている。優太の精神病の正確な名前は分かっていない。主に発作が起きると呼吸困難になる。そしてひどい時は気を失う。

 ――優太君は昔より強くなった。だけどまだ足りないんだ。彼の心を支えるものが。確かに華菜さんという従姉がいても本当の家族じゃない。いつか、優太君の心を幸せにみたしてくれる誰かがいれば彼はきっと。

 緒方はへこむ優太の頭に手をのせて撫でた。

「落ち込まないでくれ。ゆっくりでいいんだよ。これまでもそうしてきたじゃないか」

 緒方がそう言うと優太は「はい」とうなずいてまた目を閉じて眠ってしまった。



「こんなにくるなんて聞いてないです……」

「仕方ないじゃない。いつも研究室に引きこもっていたロボット業界随一の天才がめったにない講義をするんだもん」

 優太が倒れた日、華菜は申請書を取りに行ったが、優太が倒れた為、本人のサインがなかったので講義は優太が家に帰って次の日となった。

 いきなりのことに優太は動揺を見せていたが、午前中に準備を済ませていざ講義にのぞもうとした。しかし始まる十分前に緊張のあまりに講義をする部屋に訪れた優太は部屋の中で待つ人数に驚いてしまった。

 ――奏ちゃんが言ったときは先輩だけだったはずなのに、一年生から四年生までいる……。しかもここはこの大学の中で一番広い教室だ!!

 目の前の講義室は他よりも一回り大きくなっていて、それが今満員になるほど詰めかけている。だから一学生なら驚くに決まっている。

 ――どうしよう……、こんな大勢の前でなんて僕はできな……、

「こんなに大勢いたらできないとか思ってる?」

「!?」

 隣で様子を見ていた華菜に思っていたことを当てられて驚いた。しかし、華菜はそんなことは気にしていない。

「無理にとは言わない。だけどやるって決めたんだから、最後までやってきなさい」

 そう言って華菜が優太に触れようとすると、優太は体をビクビクと震わせた。

 ――相変わらず、臆病者ね。

華菜は一息つくと、優太の頭をそっと撫でた。

「華菜……さん?」

 その行動に驚いてみると優しい顔をしてニッコリ笑う。

「大丈夫、優太ならできるよ。お姉様の言うことを信じていってこい!」

 バシッと背中を叩き勇気つけ、ドアを勢いよく開けた。その音に気付いたのか、待っていた生徒たちは自然と静かになって席に座った。

 ――皆、僕が来るのを待っていてくれた人達、頑張ってみんなの期待に応えないと。

 優太は華菜の言葉で自信を持ったのか焦らず壇上まで歩いて行った。



「ほっ本日、講義をおこなわせていただきます。間宮優太です。おっお願いします」

 緊張しながらも優太は頭を下げた。すると学生達はそれに応じて挨拶をして、優太の講義は始まった。

「僕が四年前発表したロストウイルスシステムについてまずは簡単に話していきます。ロストウイルスシステムとは、ウイルスの様にコンピュータデータを読み込ませるシステムで、簡単にいうと瞬時にデータを変えるということです。四年前の目的としては、パソコンなどに発生したウイルスを簡単に除去することをでした。しかし、研究しているうちに色々なことが分ってきました」

 プロジェクターの所には実例を現した映像が流れた。

「これはウイルス除去のテスト映像です」

 流された映像には実際のシステムの画面とウイルスによって仕様不可になったパソコン。

「四年前の時点では、ケーブルなどの繋げるものが必要でしたが、無線でデータを正確に送ることが可能になりました。その結果、遠隔操作によるウイルス除去システム仕様可能となりました」

 若干緊張気味な声だが、ひとつひとつ丁寧に話す優太に対し、生徒たちもノートにメモをとるなどをして、真剣に聞いている。そのくらいここの学生にとってはそそられる話なんだ。

「しかし、研究していく内に段々改善されたせいで、簡単に利用できるという欠点があります。簡単にすればするほど……」

 優太が話す間、学生たちはそれぞれ話を聞きながら隣の人と少し話したりとみんな真剣に優太の話を聞いていた。そんな中で、

「ちょっといいかい?」

「どうした?」

 部屋の中で一番奥の席に座っていたレオが小声で潤と奏に話しかけてきた。

「どうしてこんなに離れた場所で聞いているんだい? 優太の講義ならもっと前で聞いてもいいんじゃないか?」

「ああ、それか。あいつ、知り合いとか目の前にいたりすると、変に自分にプレッシャーをかけるから、なるべく遠い所で聞くことにしているんだよ」

「そっか…。講義中で申し訳ないが、一つ聞いていいか?」

 何か考え事をしていたのか、レオは真剣な顔をしていて、潤はその顔に思わず気圧されて素直にうなずいた。

「二人は優太のことをどう思ってる?」

「え?」

「は?」

 レオの言葉に思わず驚きの声を二人は出してしまった。

「どどどうしたの? いきなりっ」

「唐突になんだよ」

 二人は動揺しながら聞き返す。奏は少し顔を赤らめているが。

「私は表の彼しか見ていないのかもしれない。頭が良くて、ロボットのことが大好き。そのことは分かっている。だけど私は、中身の彼を見ていなかったと思うんだ」

 そう言って悲しい顔をして優太の必死に説明する姿を眺めていた。

「優太のことをもっとよく知りたい。私は、彼ほどの才能を持っている人に会ったことがない」

 レオが話し終えると少し沈黙の時間が流れた。しかし、

「……私は、尊敬してるよ」

「え?」

 奏が静かに言った。ぎこちなく話す優太の姿を微笑ましく見ながら。

「いつもは頼りない感じだけど、今こうして人前で話してる。こんな大勢の前で話すなんて、優太君にとってはとても怖いことなのに」

 優太の精神病はとてもじゃないが、大勢の前で話せるものではない。一回でも動揺すればすぐに発作をおこしてしまう。

「段々と回復に向かっているけど、必死に克服しようとしている。これってすごいことだと思わない? 苦手なのに、逃げずに立ち向かっている」

「奏……」

「それに優太君はロボットのことになるとおもちゃをもらった子供の様に目をキラキラ輝かせるの。そんな無邪気なところを見るのが私は好きなんだ」

 奏はとびっきりの笑顔を向けて言い、それを見たレオは固まって声が出なくなってしまった。

 ――そんなふうにおもっていたのか……。だけど、

「俺も優太の事は尊敬しているけど、最後のは奏の惚気だな!」

「は!? 惚気じゃないわよ! まだ付き合ってないし!!」

 横から入ってきた潤の言葉に赤面しながら反論した。しかし、奏の怒鳴り声が室内に響き渡った。

『浅野さん、どうかしましたか?』

 すぐに口を押えるが、優太にも聞こえたらしく、奏の方を向いて聞いてくる。

「すみません、なんでもないです!」

 大きな声で奏は必死に顔を隠しながら言った。それを聞いて少し首をかしげていたが、優太は再び話に戻った。

「急に大きな声出すなよ。優太に迷惑かけるな」

「潤が悪い!」

 さっきのことが面白くて潤が笑いをおさえながら言うと奏はそっぽを向いてしまった。

 ――面白い……。優太は幸せ者だ。こんなにも思ってくれる人がいるんだから。

 レオは二人のやり取りに嬉しくなって小さく笑った。

 その時、

 スピーカーから大きなジャミング音がして、プロジェクターの映像が強制的に変わってしまった。

「何事だ!」

「何よこれ!」

生徒たちはもちろん、急な出来事に動揺し、騒ぎだした。

「うそ……だよ、ね?」

 雑音だった音が整われ、画面にロボットが映し出された。そしてそれを見た瞬間、優太は驚愕した。

『人類ヨ。我々ハ、コノ世界ヲロボットノモノニスル!』

 その言葉を合図に後ろに控えていたロボット達が歓声をあげた。

「なんだよそれ」

「ロボットが反乱?」

「そんなこと、あるわけがない……」

 その場にいた生徒たちは事態のことに理解が出来ず、混乱し始めた。

 無理もない。だって過去にこんな事例はない。それに感情を持たない、人間に指示されたこと以外は出来ないはずのロボットが人間に反旗を翻すなんてことは絶対ないのだから。

「そんなこと…あるわけない。だって…」

 優太はその場に崩れ落ちるが画面から目が離せなかった。

「優太、しっかりしろ!」

 さっきまで席に座っていたはずの潤が、優太の傍に駆けよって力を失った体を支えた。しかしそんなことに気付いていないのか、固まったまま動かない。

「なんで…OZが…」

 ――OZ? どっかで聞いたことが…ってOZってまさか……。

「なんで君がそこにいるの! OZ――!!!」

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