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OZ  作者: ゆり
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ちっぽけな背中

 僕は十年前、友達を失った

「OZ、待ってよ!」

 暗闇の中にいた僕に光を与えてくれた友達

「ユータ…」

 僕は叫んだ。だけど友達は大人達の手で僕の手の届かないところへ連れていかれる

 僕は友達を追って走った

 しかし子供だった僕には友達を助けることは出来なかった

 人の小さな欲望のために友達が犠牲になる

 悲しかった

 もう二度と友達に会えない

 初めて僕に楽しいという気持ちを教えてくれた友達に

 僕は絶対にこの日を忘れない

 いつか必ず僕は…


「ロボットとは、人の代わりに動く機械。そのことを皆さんは理解しているだろうか」

 ある大学の広い講義室で大勢の学生が壇上の上で話す教授の言葉を聞いていた。

「この大学では現代のロボット技術の更なる向上のために若い者に技術を広めることを目的にしている。しかし考えてほしい。私たちは何のためにロボットを作るのか。私は個人の自由を忘れずにいてほしいと私は思います」

 現代のロボット技術は昔とは違う。人工知能と呼ばれる人の頭脳のような働きをする知能がある研究家によって急激な進化をとげたおかげで現代では当たり前のようにロボットが人の生活にいるようになった。家庭では家事、会社ではお茶出しやパソコン操作、お店ではレジ打ちなどすべてロボットが人の代わりに行うようになっている。

「みなさんには分かってほしい。ただ楽なものを作るのではなく、自分の個性をいかしたロボットを作ってください」

 教授が話し終わると学生達からは歓声が上がり、演説ともいえる教授の話にその場の誰もが共感した。



『ゆう…た…』

 暗闇の中、見知らぬ女の人の声がする。

 ――誰…この女の人…、なんで血だらけなの…?

 女の人は手を近づけてきてそっと頬に手を添える。

『ゆうた……人を……しんじては……ダメ』

 ――え……?

『あなたのそばに……いる。気をつけて……』

 ――何を言ってるんだ……? この人は……誰?

『あなたは……生きて……』

 ――誰なの?

「優太―――!」

「!」

 自分の前で血を流しながら呼んでくる女の人とは違う声が耳に響いたかと思うと目の前の暗闇は消え、太陽の光が目に差し込んできた。

 ――ここは……、僕は寝ていたのか……。

 当たりを見ると自分は芝生の上で寝っ転がっていることが分かり、目の前には自分のよく知る女性が立っていた。

 ――大学の中庭……。

「なにボーっとしてるの。ここは外よ。何でこんなところでお昼寝なんてしているのかしら」

 女性は少し顔をひきつっていて何やら怒っているようだ。

「華菜……さん、どうかしたんですか?」

 恐る恐る聞くと華菜と呼ばれた女性はその場にしゃがんで寝ている腕を引っ張って体を起こさせた。そして優太の両肩をつかんで真っ直ぐ顔を見てきた。

「どうかしたんですか、じゃない。大丈夫? うなされていたけど」

「あ……、はい」

 真剣な眼差しで言ってくる彼女の目に一瞬驚いてしまい、あいまいな答え方になってしまう。華菜自信が心の底から心配をしているということが身に染みて感じた一言だことばだったから。

「そう……ならよかったわ」

 返事を聞くとホッとしたのか少し肩の力が抜けたように落ち着いた。

「うなされていたんですか……僕は」

「ええ。私が来た時には顔を真っ青にして」

「そうなん……ですか……」

「なによ。その他人行儀な感じは。自分のことなのに」

 華菜は呆れた様子で言ってくる。しかしさっき見ていた夢が気になったのか優太は下を向いて考え込む。

 ――あの夢は一体……。見たことのない場所で血を流す女性。僕には覚えがない。どうしてこんな夢を毎回みるんだろう。

 赤い血を流した女性の夢を優太は最近よく見ている。だからそのことが気がかりでしょうがない。だって自分には覚えがないのに血を流した女性が自分の名前を呼んで来たらそれは誰だって恐ろしくなるに決まっている。

 ――僕はもしかしてあの女の人に会ったことがある? でも……。

「こら! 難しい顔しない」

「痛っ……」

 眉を中央に寄せて考えているとその様子を見ていた華菜が頭を軽くチョップしてきたかと思うとニッコリ笑った。

「あんまり深く考えすぎると疲れるわよ。ただでさえ優太は体力がないんだから」

「華菜さん、ひどいです……」

「ひどくない。それよりこれ」

 へこむ優太を無視し、バッグに手を入れて取り出したのは封筒に入った手紙みたいだ。

「病院から?」

「そう。この前の健康診断の結果じゃないかしら」

 優太は渡された封筒の封を開けて紙を取り出した。そしてそこに書かれていたのは、

「精神科カウンセリングの進め……」

「また来たの? 毎回よくひっかかるわね」

「……すみません。これは努力してもうまくいかないんです」

 ――そう……これだけはいつもうまくいかない。

 優太は子供の頃、或る事件に巻き込まれた。その時のことがトラウマになってしまい、大人になった今でも精神の病気にかかっている。

 ――僕はどうしたら強くなれるんだろう……。

 そんなことを考えるといつも頭に痛みが走る。自分は弱い。そのことが身に染みて分かる。そんな気がしていた。

「優太くーん!」

 二人が話しているとそこへ女子大生が一人手を振って駆け寄ってきた。

「奏ちゃん?」

「優太君探したよ! 研究室に行ったらいないんだもん」

 ずっと走っていたのか息をきらしている。少し間をあけて呼吸を整えると奏は優太に持っていたファイルを渡した。

「なんですかこれは? なっ」

 素直に受け取ってファイルを開けながら言うと開いて直ぐに見えた言葉に思わず固まってしまった。その反応を見て隣から華菜もファイルを覗き込む。

「何々どうしたの……ってあれま~」

 『間宮優太さんに講義をしてもらいたい』と大きく書かれていて下には署名が書かれていた。しかも何枚もページをめくっても学生の名前がずらりと書かれていた。

「先輩に頼まれたの。優太君はいつも「僕には皆さんの前で話せるくらい優れた人間ではありません」って言って交わすから署名を集めて講義をしてもらおうって話になって、私に優太君にこのファイルを渡すように頼まれちゃったの」

 申し訳なさそうに言う奏をよそに華菜はニヤニヤ笑っている。

「学生達、仕掛けてきたわね。どうする? 天才くん」

「……天才じゃないです」

「何言ってるの。あなたはこの日本一を誇るロボット技術校のメカニック大学全校生徒の中から選ばれた成績最優秀者なのよ?」

 国立メカニック大学。日本国内で最も高い技術を誇るロボットの専門校。毎年この大学では全校生徒の中から一人成績最優秀者を理事長自ら選び、選ばれた学生は理事長から研究室を与えられ、特別待遇になる。

「でも優太君は先輩たちに何の講義をしてほしいって言われてたの?」

「……四年前、僕が発表したウイルス型システムについてです」

「ロストウイルスのこと? あれは確か優太がまだ研究してるわよね?」

「理論上で証明しただけなのでずっと研究を進めていたんです。つい最近、実験は成功したんですが」

 話ながら優太は自分のケータイタブレットでシステムのプログラムを確認した。

「僕はまだこの話をするのは避けたいんです。もっと応用して色々なことに利用できないか研究したいですし」

「優太。無理にとは言わないけど、もう少し人と触れ合うのを増やした方がいいんじゃないかしら? あなた自身が人を遠ざけるからカウンセリングの進めがくるのよ」

「……」

 顔を伺いながら華菜が言うと動かしていた手を止めてタブレットをバッグの中にしまった。

「…わかりました。講義をします」

「よし! えらい」

 華菜は満面の笑みを浮かべて優太の背中を叩いて立ち上がる。

「講義の準備をします。華菜さん、講義の申請書を書いてもらっていいですか?」

「わかったわ。書類を取りに行ったら研究室に行くわね」

 華菜はこの大学で二十五歳という若さで准教授を務めているため、色々顔が利くから書類等は華菜に頼むようにしている。だからそのことをわかっていて書類を取りに走って行った。

「僕は研究室に行きますが、奏ちゃんは研究室でお茶でもどうですか? いい茶葉が送られてきたんです」

 奏の方に顔を向けて笑いながらいうと奏も笑って「行く!」と言って優太の後をついて行った。

「今回の講義のことOKしてくれてありがとう。先輩たちが喜ぶよ」

「いえ、華菜さんの言葉に乗せられてしまったので、できる限り頑張ってやります」

「それでも嬉しいよ! 人と話すのが苦手な優太君が講義をしてくれるなんて」

 二人はそんな話を聞きながら二人は校舎から少し離れた建物に入って行った。優太は人との交流が苦手で理事長が気を遣って誰も使ってないこの建物の研究室にしたらしい。本校舎より少し古びた外装になっているが中はハイテクな機械などが置いてある。

「「あははは!」」

「え?」

 建物の中に入るとすぐにある研究室のドアを少し開けると笑い声が二つ聞こえてきた。

「誰かいる?」

「この声は潤君かな? あともう一人は…」

「優太!」

 優太が勢いよくドアを開けた瞬間に大きな影が優太に突っ込んでくる。

「その声は……レオくん?」

 名前を呼ばれた整った顔をした人物は優太の背中に手を回して抱き付いてきた。

「久しぶり! 元気だったか?」

「何でここにいるの!? 確か世界中をとびまわっているんじゃなかったの…」

「それは中止して日本に来たんだ!」

 ここに居るはずのない人物を目にしてビックリしているのにその本人は気にもせず腕の力を徐々に強くしてくる。

「苦しい…」

「レオ、いい加減にしないと優太が死ぬから離せ!」

 苦しむ優太をみて後ろで座っていた人がレオの二人の腕をつかんで離れさせた。

「潤! 優太とのスキンシップを邪魔しないでくれないか?」

「何がスキンシップだよ! ここは日本だ!」

「国なんて関係ないね。優太は私のライバルであり、友人なんだ。スキンシップは人との触れ合いで大切なことだ!」

「大切じゃねぇ! 他のことがあるだろ」

 潤の鋭いツッコミがとび、レオもそれ対抗していて二人のコントに置いて行かれてしまった優太と奏は呆然と立ち尽くしていた。

「二人すごいね。久しぶりに会ったはずなのにこの息の合い方」

「お二人は少し似ていますよね」

 さっきから潤と言い合いしているのはロボット業界じゃ知らない人はいないほど有名なロボットの研究家で若手の中で優太と並ぶ天才、レオナルド・カデンツァ。これを短くして優太たちは「レオ」と呼んでいる。

 ――レオ君は相変わらず元気だな~。僕には真似できない。

 優太はそんなことを思いながら潤たちのやり取りを見守る。するといきなり潤たちの言い合いが止まり、レオは優太達の方を向いてきた。

「二人ともすまない。こんな言い合いをしているところを待たせてしまい、お詫びにお見上げの紅葉饅頭をこちらで食べよう」

 レオは二人を席の方にすわらせると「潤も座りたまえ」と言って半ば無理矢理座らせた。

「紅葉饅頭って思いっきり日本の食べ物……」

「細かいことは気にしてはダメだよ」

「細かくねぇよ」

「二人ともやめなさい」

 二人の言い合いが始まりそうになって奏が少し怒った表情で言うと二人とも黙ってその場で大人しくなった。そんなこんなで四人はレオの紅葉饅頭と優太の新しいお茶を飲みながら休むことになった。


「この茶葉おいしいね」

「この前理事長から頂いたんです」

「確か優太は理事長とお茶仲間だったよな~」

「そう言えば、レオ君は何でここにいるんですか?」

 お茶を楽しむ中優太が最初に思った疑問を言う。するとレオは持っていたコップをコースターに置いた。

「優太、君に頼みがあるんだ」

「頼み?」

 さっきまで潤と言いあってたようなふざけた顔は一切なく、真剣な眼差しを優太に向けてきた。

「私と……一緒にロボットを作ってくれないか。二人でこのロボット業界を変えるんだ」

「え…?」

 突然の言葉に優太は固まってしまう。

 ――なんて言った……? 変えるって……。

 レオの言葉に混乱してしまい頭をかかえているとレオは優太の両手をテーブル越しにつかんできた。

「君は私に話してくれたことがあった。今の世界のロボット業界は間違っているって」

「それは……」

 優太とレオの出会いは四年前行われた世界最大のロボットの技術コンテスト『ワールドロボコンテスト』。そこで二人は自分の持っている知識、技術を競いあった。その縁で二人は友人になり、ともにロボット技術を競うライバルになった。

 優太は基本人見知り滅多に自分と仲のいい人としか話さないが、レオの持前の明るさとコミュニケーション能力により、優太はレオに心を開いていた。だから優太はレオに言った。自分の中にあった思いを。

「君は言った。この世界のロボットがかわいそうだと。現代、ロボットは人口の三割ほどいてその数はもう把握できないほどに多くなった。だからこの世界にロボットの法律が出来てロボットの為の警察までできた」

 国際ロボット連盟。ロボットの技術共有と法律を守るために発足された連盟。ほとんどの国が加盟している。もちろん日本も。そんな連盟では加盟する際、絶対守らなくてはいけないことがある。それはロボットの警察を作る事。ロボットの法律を守らせるためである。日本に存在するのは、日本ロボット局軍事部という名前で、通称『局軍』と呼ばれている。

「日本にも確かあるはずだよね。彼らは君にひどい仕打ちをしたらしいじゃないか。初めて作った大事なロボットを君は「言わないでください」

 ずっと黙って聞いていた優太は重い口を開いたかと思うとその声は震えていて、彼自身も自分の胸を押さえながら肩を震わせている。

「レオ君……、僕は……できない」

「どうして!?」

「できない!」

「優太君!」

 優太は一言いうとその場から出て行ってしまった。奏が呼び止めても見向きもせずに。

「どうしてなんだ…。連盟を憎んでいる気持ちは一緒なのに」

 レオはそう言って拳を机に叩きつけた。怒っているんじゃない。これは、

 ――悲しみ。どうしてレオ君も優太君も、そんな顔をしているの。

 わからない二人の心に奏はただそれを見ることしか出来なかった。






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