解離1
翌日。
雨天の道を、雛由マヒルは傘も差さずに歩いていた。
白葉寮周辺の雑多な木立に雨音が反響している。
首にかけられたチェーンには、最終調整を終えたばかりのドライバの指輪が通されている。
「……。」
立ち止まったのはちょうどその風景が終わり、大通へ繋がる道へ差し掛かった時だった。
「やあ、雛由マヒル。」
すれ違い様に声を掛けられたマヒルは、いつからか点灯しなくなっている街灯の下、藍色の傘に振り返る。
「貴女は……」
「うん。先日、顔を合わせたばかりだったね。」
僅かに傾けた傘の下から現れたのは、一度目にすれば記憶に残る絹のような銀髪とシニカルな笑みを称える端麗な顔立ち。
雛由マヒルは、その人物に見覚えがあった。
「……食堂で助けてくれた……?」
「そうだよ。……まあ、"助けた"というよりはカフェオレを買いによっただけなのだけれど。」
ふと、彼女はマヒルの方へと歩みを進めると、彼の額に張り付いた前髪を軽く指で払った。
「……あ」
戸惑うマヒルに、彼女は笑う。
「ああ、すまない。酷く濡れているようだから。どうだろう、良かったらこの傘を使ってはくれないかい?短い道でもないのだろう。」
突然差し出された傘にマヒルは半歩下がる。
「あ……いえ。それだと貴女が」
「そのことなら心配要らないさ。実は、ここにもう一本予備の折り畳み傘があるんだ。
……それとも、こちらの方が都合が好いだろうか?それでも結構だよ。」
「……。」
マヒルは半歩引いたまま、その表情を見つめる。
読めない。
彼女は、明らかに自分がここを通るのを待っていた。
まさか、この傘一本を貸すためという訳でもあるまい。
マヒルは、彼女の提案に答えを出さないまま尋ねる。
「貴女は……いったい?」
「僕かい?……うむ、あまり名前を名乗るのは好きではないのだけれども……いやなに、やましいものがあるわけではないが、みんなこの名前を聞くと警戒してしまう。」
予想通り、彼女が名乗ることはなかった。
勿論、既にイメージスクリーンで彼女の生徒情報の確認を試みたが、結果は『非公開』だった。
「それよりも、雛由マヒル。緋島ケイジに仕掛けるらしいね。
かなりの相手だけれども、何か勝算はあるのかい?」
「どんな相手にだろうと必ず弱点はあって、必ず勝算はあります。
とにかく僕は、彼を潰さなきゃならない。」
「なるほど……君、面倒事になると随分と人が変わるんだね?
……それとも」
含んだ笑みを見せると、囁くような小声で言う。
「人が入れ替わる、なんて表現はどうだろうか?」
「……」
黙ったマヒルに、彼女は踵を返して歩き出した。
「さて、フラれてしまったことだし。お互いに道を急ぐとしようか。
呼び止めて申し訳なかったね、雛由マヒル。」
「いいえ、気持ちは感謝します。」
マヒルもそれに倣い闘技場への道へ戻る。
しかし、その途中で後ろから思い出したような声。
「そうだ、雛由マヒル。
もし、緋島ケイジに勝利したら、君はどうするんだい?」
「?」
彼女は首を傾げてる。
「いいや、そのままの意味だし、よく伝わらなかったのなら君なりの解釈で答えてくれて構わないよ。もちろん、考えていないのならそれでも結構だ。」
マヒルは数秒考えると、口ごもることなく答えた。
「まずは、ジンさんの魔剣を取り返します。
そのあとは緋島ケイジの出方次第です。」
「出方次第……か。具体的に?」
「……。」
ほんの一瞬だけ、雛由マヒルの目に完全な別人の光が宿った。
「わたしが……やる」
それだけを言い、マヒルは去っていった。
雨のなかに取り残された彼女は、傘から垂れる雨粒を見て一瞥して、そしてクスリと笑った。
「"わたしが"……ね。」
呟くと、彼女は制服の胸ポケットから『風紀委員会』の腕章を取り出し、それを右腕へと通した。
「決めたよ。決闘には手を出さない。」
腕章に仕込まれた通信用の魔動機から、再確認の声が伝わってくる。
「ああ、いいんだ。今回は僕たちの踏み込む余地は無さそうだ。
それに、僕たちが出ずに話が済めば、それ以上のことはない。この件には鷹野先輩だって関わっているようだから、急ぐ話でもないだろう。」
雛由マヒルの気配が薄れたことを確認すると、彼女はそのあとを追うように闘技場への道を歩き出した。
「僕たちがするのは"後始末"。終わってしまったことを処理する"後始末"。この件はまだ終わってはいないからね、暫くは待っていよう。
それでいいだろう?二人とも。」
歓声。
二模擬戦闘訓練場は、立て続けに切られた好カードに沸いていた。
「どいてっ!そこ予約席だっつの!ほらほらどけどけ、どけってばー!急いでんの私は、緊急事態!」
小学生並みの身長で人混みを掻き分けてきた児哭森ユウキは、席につくや息つく暇もなく身を乗り出した。
「まさかあの……バカバカバカ、バカーー!!」
ここにたどり着くまでは、突然発表された学内ニュースの内容が信じられなかった。
否、信じたくなかった。
だが、ステージを見下ろした彼女は否応なく現実を突きつけられる。
相対する二人の魔術師。
緋島ケイジと、もう一人
「いったい何考えてッ……ああ、もう!マヒルのバカ野郎ーーッ!!」
前日、再度の調整を終えたばかりのドライバを握ったマヒルがそこに立っていた。
「ルールは『無制限』……十分間戦い続け、『先に敗けを認めた方』の敗け……。戦闘中は連続的に修復魔法が発動し、戦闘不能には陥らない。
時間が過ぎても決着が着かなければ、三分のクールダウンを挟んで仕切り直し。最高で三回戦までだ。
間違いは無いだろうか?」
「ええ。」
マヒルはしっかりと頷いた。
「それにしても……『実戦魔法学部三年緋島ケイジへ。明日の午後3時、闘技場にて待つ。詳細は省く。』か。
掲示板への無差別コメント……あれには俺も驚かされた。
君は俺が思っていたよりもずっと……」
サーベルを抜いた緋島ケイジは興奮気味に口にし、それを不意に切った。
雛由マヒルは、それに目を細める。
「"ずっと"……?」
「はははっ!」
それに対し緋島は突然笑い始める。
やっとの事で肩を落ち着けると、片手を振る。
「いいや、止めよう。
君のような人間、陳腐な言葉ひとつで縛るには惜しい!
君が俺に決闘を挑んだ、それだけでいい!」
「そうですか。」
その声は、まるで氷のように冷たい。
ほんの一言で済ませると、マヒルは背筋を伸ばしたまま首にかけた指輪に手を当てた。
「ひとつ、始める前に聞いてもいいだろうか。雛由マヒル。」
「内容によります。」
緋島はそれを気にする様子もなく問う。
「君が俺と戦う理由が聞きたい。
友人への情、紅ヶ塚ジンヤの敵討ちといったところか?」
「三分の一くらい、あたりです。」
「ほう、ならばその残りは……いったい何だ?」
マヒルの目が一層鋭さを増す。
緋島ケイジでさえも、一瞬怯んでしまうほどの目付きだった。
「残りの半分は、アユムさんのため。
さらに残りは、これ以上貴方を放置するわけにはいかない。それだけです。」
これ以上の発言を許さないほどの威圧感を伴った言葉が、一瞬だけ場内を静まりかえらせた。
そして、その後に上がったのは先程とは別種のどよめき。
もはや、雛由マヒルの殺気にあてられたのは緋島一人ではない。
異様な雰囲気の中で、マヒルは人が変わった様に喋り続ける。
「人は……誰かを傷つけて、誰かに傷つけられて……そうやってしか生きていけないんです。
だから……緋島ケイジさん」
ーーどうか傷ついてください、僕たちのために
最後の言葉が聞こえたのか否か、緋島のこめかみが震えた。
「……どうやら。俺は勘違いをしていた様だ。」
「"勘違い"、ですか。」
「ああ。大きな勘違いだ。
君は……愚かだ。酷く愚かだ。」
「……愚か。」
「その通り、何故なら……」
カウントダウンが二秒を切る。
緋島が疾走を始めた。
「君は俺には勝てない!」
「……っ」
マヒルは指輪を手にしたまま息を吐く。
勝てるかは分からない。
だが
「リロード……」
負けるつもりもない。
「コード『ヒナヨリ893』……オペレーション!」
白いコートと、装具一式が全身で具現化される。
ブザー
ほぼ同時に、緋島の刺突が眼前に迫ってきた。
マヒルは目を開いたままそれを見つめる。
そして、唱える。
「……『加速』……level 3」
「っ?」
剣先から、雛由マヒルがずれた。
明らかに不自然なタイミングで。
「何を……ッ」
だが、その程度で混乱する緋島ではない。
素早く軌道を変えると、今度は肩から胸へと払う剣撃へと変化させる。
だが、またもや外れる。
「何の小細工を……!」
突き、払い、振り下ろし、斬り上げる。
だが、雛由マヒルはそれをことごとく回避して見せた。
まるで、こちらの意思を先読みしているかのように。
そこで早くも緋島は気が付いた。
攻撃を中断すると、再びマヒルから距離を取る。
「……もう諦めるんですか?」
「はは、まさか!」
緋島は、マヒルの体をくまなく見つめる。
そして、早くも見破った。
こちらの動きを先読みし、わざと引き付けてから回避。
それが可能な魔法。
「コード『アクセラ』。内世界干渉属性、第一系統《認識干渉》『加速化の魔法』。
感覚神経を一時的に魔力的回路と置き換え、伝達速度を大幅に上昇させる。」
緋島が目を止めたのは、マヒルの左目だった。
淡い魔力の残香が、ちょうど薄れて消えていったのが確認できた。
「対象は視覚による反応。君には……どの程度までかは知らないが、俺の剣をきちんと『見て』回避することができる。
だが、相当に癖のある魔法だ。今時こんな小細工を使う人間がいたとは……。」
「……。」
マヒルの表情は変わらない。
だが、これで正解と見て間違いないだろう。
「なに、対処の難しい魔法ではない。
幾ら小細工を積んだところで、実力の差は埋まらない!」
マヒルは、早々にひとつ目の作戦を放棄した。
暫く加速化の魔法で相手の動きを学習するつもりだったが、こちらの手品が見破られてしまえば意味がない。
マヒルの安定して使用できる加速化の魔法はlevel1から5まで、二倍から六倍までの段階。
だが、何れも加速するのは感覚神経のみで、肉体そのものを加速するわけではない。
下手をすれば意識だけが加速したまま肉体が動かなくなることもありえる。
最悪の場合は、無理矢理認識に追い付こうとした肉体が負荷に耐え兼ね、自壊する。
使いこなすにはそれなりの鍛練や適正が必要になってくる上、使用できるタイミングも限られてくる。
運よく適正に恵まれた彼だったが、それでもこの魔法を敢えて使用する人間が少ないことも納得できる。
弱点が決して少なくない魔法だ。
ここは早めに次の手に打って出るべきだろう。
マヒルは両手を出す。
「『ホーネット』『パピヨン』展開」
儀式化された魔動機がマヒルの手の中で展開される。
拳銃型魔動機『パピヨン』
短刀型魔動機『ホーネット』
両者とも児哭森ユウキと愛沢アユムの合作で、それぞれ"蝶"と"雀蜂"の刻印が施されている。
どちらも、マヒルに合ったよう入念に調整されている。
『蝶のように舞い、蜂のように刺す』
彼の有名ボクサーに準えての命名らしい。
そして、この魔動機も加速化の魔法同様にかなり癖が強い。
マヒルは裾を短めにとったコートを捌く。
脇腹から腰にかけて巻かれたベルトには、六本の長方形の箱が収まっていた。
拳銃用の箱形弾倉。
本来なら、魔動機の銃には必要のない筈の物だ。
そこから一本を抜き取ると、パピヨンへ装填する。
これを使うにあたってのユウキからの注意を思い出した。
『本来、銃型の魔動機の強味って言うのは『手数』。
ありったけの魔力を弾丸に変えて休みなく撃ち続けることで、相手に間合いの掌握、攻撃を許さないことだ。
だけど、この銃はその『手数』ってもんに欠けちゃってるんだ。
撃てる弾数は限られてるし、機構上休みなく撃ち続けるっていうこともできないわけ。
そのナイフもそうだけど、この銃は弱点に関しても強味に関しても、とにかく癖が強い。
それを巧く使いこなすには、まあ単に君のセンスにかかってるってこと。忘れてくれるなよ?』
弾倉一本に12発、計72発。
すべて撃ち尽くす訳にはいかないので、実質使えるのはその半分を少し切る程度。
マヒルは相手をもう一度確認する。
見慣れない操作に首を傾げている様だが、何か対策を取る様子はない。
マヒルは、少しばかり安堵した。
勝機が見えてきた。
雛由マヒルの取り出した謎の魔動機。
緋島は危機感こそ抱かないものの、その見慣れない武器と構えに眉を寄せていた。
銃とナイフ。
相容れぬ間合いを持つ武器を同時に構える姿は、もはや滑稽とも言える。
実戦的とは到底思えない。
だが、それでもその目が何かを企んでいるのは確かだ。
気に入らない。
緋島は苛立っていた。
才能の欠片もない小物風情が、実力に、家柄に、その地位に、全てに恵まれる自分に対し畏れも抱かず歯向かってくることが気に入らなかった。
それらを持ち合わせながら、敢えてその全てに背を向け『下らない』と一蹴した紅ヶ塚へのものとは別種の感情。
嫌悪。
否、それさえも上回っていた。
彼にとって、ただ地を這う虫けらにも過ぎない者が、小細工に小細工を重ねては小さな棘を向けてくる。
不気味だった。
今までに見たこともない、珍種の毒虫を見ているようだった。
「雛由マヒル……」
それを今自覚してしまった自分への驚き、苛立ち。
緋島は奥歯を噛み砕く勢いで軋ませた。
叩き潰さねばならない。
邪魔な虫は、今すぐに。
「消えろ……消え去れ!目障りな虫けら風情が!」
緋島は再び剣を振り上げた。
どれだけ足掻いたところで、相手は所詮虫けらだ。
実力の差は絶対に埋まらない。
奴は自分には勝てない。
それを何としても、今すぐに証明しなくてはならない。
だが削られる間合いの中で、雛由マヒルは怯むことなく銃口を向けてきた。
「はっ、その程度の飛び道具で何が!」
緋島は自らとの間に魔力の盾を生成したまま突進する。
あの程度の規模の銃ではこの盾は破られない。
そう確信していた。
しかし
眼前で銃声と破裂音が重なった。
半透明な盾を貫いた弾丸が、左肩を貫く。
「……なっ!?」
「……フッ」
そして、その次の瞬間には、ひびの走った盾を破りながら大振りの飛び蹴りが緋島の顔面を打ち抜いていた。
「ぐわっ!」
頭の中心が蹴りの衝撃で掻き回される。
派手に転がりながら、緋島はたった今起こった現象を処理しようと躍起になった。
何故だ。
何故、あの盾が破られた。
しかも、たった一発の弾丸で。
立ち上がりながら、緋島は盾の破られる瞬間を思い出す。
まるで衝撃を感じなかったのだ。
故に、反応することが出来ず、あの蹴りを見舞われた。
緋島は弾に貫かれた左肩を確認する。
鈍い痛みの残る肩には、既に修復が始まりかけている小さな焦げ跡があった。
おかしい。
あの盾を破られながら、この程度の傷で済むわけがない。
それに、この鈍い痛みの正体が分からない。
分からない、分からない。
背筋を得体の知れない不気味さが駆け上がってきた。
そして、それは緋島のプライドを大いに逆撫でし、その苛立ちに火をつけた。
「クソ、クソッ、クソッ!!
雛由マヒル!お前、何をした!?これは何の小細工だ!!」
雛由マヒルは、尚も冷めた表情で銃口を向けた。
「小細工には小細工なりの強味がありますから。」
それだけ言うと、雛由マヒルは再び射撃を再開する。
「ぬっ!」
今度は盾は展開せずに、振るった権で弾丸を叩き落とした。
しかし、それで防ぎきれない弾丸が次々と体の端々を突き刺す。
そのたびに鈍い痛み苛立ちが体を苛む。
「クソッ……クソッ!!」
この程度の損傷なら、修復魔法でどうともなる。
だからこそ、緋島の苛立ちはピークに達した。
「雛由ィィーーッ!!」
遂に、被弾覚悟で緋島が突進攻撃を仕掛ける。
このスピードとタイミング、いくら加速化の魔法で誤魔化そうと射撃を行いながらこれを回避するのは不可能。
膨大な魔力量に物を言わせて、肉体強化を全開に畳み掛ける。
「終わりだ、雛由マヒルッ!!」
緋島の剣が唸る。
だが、マヒルは臆することなく呟いた。
「ええ、終わりです。」
それと同時に。
ブチリ、と緋島の体の中で何かが破れた。
全身が麻痺、体が急に痙攣を起こしその場に膝をつく。
「な……何だ……!?何が……」
立ち上がろうと床の上で全身に力を込めるが、手足は検討違いな方向へ暴れるばかりで言うことを聞かない。
「何だ……何をした!?俺の体に何を……何を!!」
マヒルはそれを見下ろしながら、その体に再び銃口を向け、撃つ。
「ッ!!」
先程よりも激しい、体にじわりと染み込むような鈍い痛み。
「……僕の魔力は少し特殊なんだそうです」
銃口を向けたままマヒルは溢す。
「普通の戦略魔法を展開するのは難しいし、何らかの不都合が現れる。
普通に扱えるのは、精々構造が単純な魔動機が限界です。」
「何だと……?」
「僕の魔力は、魔法を破壊する。」
その言葉に、緋島の目が見開かれた。
「魔法の芯である儀式に僕の魔力を流せば、それが魔法として具現される前に、式が変質してしまう。
もちろん、そんなことが起きてしまえば魔法としては成立せず、その場で式は破綻する。」
マヒルはそこで、自らの魔動機を目の前に出す。
「そこで使うことになったのが、この魔動機。僕のこの性質を活かす武器です。
普通の刃や弾として魔力を精製する魔動機とは違い、魔力の性質をのこしたまま凝縮し形を持たせることができます。
予め"弾倉"という形で成形しておく必要がありますが、まあ僕には好都合でしたね。
つまり……」
再び放たれた銃弾が緋島の胸を穿つ。
「がっ!」
「僕の放つ弾は、貴方の魔法を破壊する、ということです。
弾から溢れる魔力が貴方に付加された魔法の儀式を変質させた。そして、あなたが大量の魔力が流したその瞬間に、遂に儀式が破綻し崩壊した。」
「雛由マヒル……クソッ……クソォォォ!!」
「あと……たった今気が付いた副次的な効果ですけど、もうひとつ。
魔力が精神からの影響を受けるのは常識です。だとすれば、その逆もまた然り。撃ち込まれた僕の魔力が貴方の精神に影響し、冷静さを失わせるようです。」
マヒルは緋島の眼前に雀蜂のナイフを向ける。
「敗けを認めるなら今です。
これ以上やるなら、強制終了を作動させます。」
「クソ……虫けら風情が……虫けら風情が!」
緋島の手が僅かに動き、自らの剣を取る。
「……?」
「消えろ!雛由マヒルッ!!」
まるで、彼のなかで何かが爆ぜたようだった。
満足に動かすことさえままならない筈の体が跳ね上がり、剣先をマヒルへと突き出したのだ。
だが、
「っ!?」
「……遅い」
腕が床から離れたその瞬間には、既に踏下ろしたマヒルの足がそれを押さえつけていた。
加速化の魔法により反応速度が倍以上に跳ね上がったマヒルに、不意打ちは無意味だ。
そして同時に、ホーネットの刃が緋島の胸を刺し貫いていた。
「……あ……あ」
マヒルが手首を捻ると、沈みこんだ刃が折れ、そこから儀式の崩壊が始まる。
毒蝶の弾丸よりも濃度の高い魔力が、体内に残った雀蜂の刃から相手を蝕んでいく。
ドライバの異常動作で強制終了がかかるのも時間の問題だ。
「僕の勝ちです、緋島ケイジ。」




