4.とあるパン騒動
今日は寝坊してお弁当を作る時間がなかったために、私は購買でパンを買って食べることにした。
結構人気があると聞いていたけれど、人がいっぱいいたので私はなかなか商品を見れずにいた。
そしてやっと見れる頃になった時にはもう遅く、狙っていたパンは完売。
仕方なく売れ残っているパンを買って帰ろうとしたときに怒鳴り声は聞こえた。
「寄越せって言ってるだろ!金ならやるし!」
「だ、だってこれ……」
「うるせえな!先輩の言うことが聞けないってのかよ」
私の視線の先に映ったのは、小さい可愛い女の子が三年生の男子の怖い先輩にパンを寄越せと言われているところだった。
そんなこと言う男なんて最低だと思った。
だけれどそんなこと言える勇気なんてない。
でも多分この子も私と同じ一年生だと思うし、何とか助けてあげたかった。
私は持っていたパンを手に声を荒げている先輩へと近づいていった。
先輩は私を見て睨みつけてきた。怖い。
「何だよお前」
「あ、あの……私の持ってるパンならどうぞ」
「お前、ふざけてんのか?俺が欲しいのはそっちの数量限定のパンだよ。どうしてもって言うならもらってやらないこともないけどな」
食いしん坊か!
私はそうつっこみを入れたくなるのをなんとか堪えて、どうにかその場を収めようと考えていた。
「ちょっと、あんた邪魔!」
「ご、ごめんなさい」
急に女の子に邪魔だと言われて謝る私。
そんな私を見ながら、その子は私の目の前に立った。
「ちょっと、私の弟に用でもあるわけ?」
「パンをよこせって言ってんだよ」
「はあ?あんたみたいなゴリラにどうして私の可愛い浩二のパンをあげなきゃいけないわけぇ?頭おかしいんじゃないの!?」
「それが先輩に対する態度か!?」
「先輩だろうが後輩だろうが同級生だろうが、間違ったものを間違ってると言えないのは馬鹿よ!馬鹿!!」
「あ、あの……廊下ではもうちょっと静かにしませんか?」
「あんたは黙ってて」
「お前は関係ないだろ!」
廊下で怒鳴り合う二人にもう泣きそうになっている実は弟だった浩二君と私。
どうしたものかと考えていると、目の前にやってきたのは取り巻きをたくさん連れている九条先輩だった。
「どうしたんだい?」
「どうしたも何もないわよ!こいつ、私の弟のパンを奪おうとしてるの!」
「へぇ……そうなのか?」
「え、いや……パンをちょっと分けてくれって頼んだだけだぜ?そしたら……」
「どの口がそんなデマを……このゴリラ!」
「まあまあ。佐藤浩美さん、落ち着いて。君はちょっと話があるから」
「そ、そんな……」
一体なにがあるのだろうとちょっと好奇心が湧いてくる。
九条先輩は男の先輩を連れて、取り巻きの人たちと一緒に去っていった。
「あの、助けてくれてありがとう。名前はなんていうの?」
「えっと松野梓です」
「梓さんか。僕は佐藤浩二です。二年生です。よろしくね!」
「私は佐藤浩美。二年生よ。あんた、その……」
「何でしょう?」
「……あ、ありがとね。浩二のこと助けようとしてくれたんでしょ」
「いえ、何にもできませんでしたし……」
「それでも気持ちが嬉しかったって言ってんの!分かりなさいよ」
「は、はい」
佐藤先輩、どっちも二年生で顔もそっくりで……やっぱり双子なんだろうな。
でも浩二先輩はショートヘアだけど目が大きくて細くてアホ毛があってなんか可愛い。
浩美先輩はツインテールでつり目で目が大きくて、何かいわゆるツンデレって感じで可愛い。
何この姉弟。
「あんた、松野ってことは例の松野でしょ」
「例の松野って……なんですか?」
「何でもないわ。忘れてくれていいから」
「でも……」
「忘れなさい!」
「は、はい!」
「浩美姉さん、そんな言い方したら怖いよ」
「浩二、怖いと思った?浩二が怖いながら気をつけるねぇ」
「あ、あはは……」
「何がおかしいのよ」
「いえ、何も」
「浩二ぃ、私にもパン分けて~」
「え……。まあいいけど……」
わかった。
きっと浩美先輩、極度のブラコンか何かなんだ。
私はそう思うことにして、面倒そうなのでさっさと教室へと向かっていった。