表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

一羽 ハーメルンの笛吹き女とにじむ狂気

一応タイトルの一羽は誤字じゃありません。

普通のMMORPG系の話を目指していたはずなんだけどなんか最初から明後日の方向に進んでる気がします。

「みっちゃ~んあと何匹倒せばクエスト終了~?」

「それくらい自分で数えなさいよ。全く……丁度目の前の集団を倒せば終わりよ」

「めんどくさいことは頼りになる相棒様にお任せですよ~さて、最後なら逃げるのやめて大技行っくよ~」

私の顔をした誰か(めんどくさいのでこれからは鈴姫と呼ぶことにする)はそう言ってモンスターの目の前にもかかわらず、手に持った小ぶりの笛を口に当てると演奏を始めた。

勇壮なそのメロディは初めて聞く曲だったが、魂に響くとでも言えばいいのだろうか?

ただの村娘に過ぎない私の心をすら震え上がらせるほどの迫力を持っていた。

とはいっても、もちろんモンスターはその曲に聞きほれて行動をとめたりなどしない。

むしろ足を止めて好機とみたのか今まで以上の勢いで私に向かって襲い掛かってくるだけ。

しかしその曲はモンスターにはただの雑音でも、千尋とみっちゃんと言う女性にとってはそうではなかった。

一瞬二人の上に鎧を着た神々しい女性の姿が現れ消えたかと思うと、それまでとは全く違う威圧感とでもいえばいいのだろうか?

そう、まるで名だたる騎士様のようなオーラを放ち始める。

そして、二人はモンスターの中を物凄いスピードで駆け抜け私に向かっていた集団を追い越し私の後ろで止まる。

私に見えたのは光に包まれて消えていくモンスターの群れと、その光を背負い突き進む一人と一羽の行進だけだった。



「よし、依頼しゅうりょ~やっぱり二人でやるとさくさく終わるねっ」

「ええ、そうでしょうとも。だってあんたほとんど何もしてないじゃない!」

そう、鈴姫は全く戦おうとはしていなかった。

千尋とみっちゃんとか言う女戦士にすべてを任せ、鈴姫は戦闘開始とともにヒュウと口笛を吹くと、盗賊もかくやといった感じでモンスターから逃げ惑い。それでいてちゃっかりと倒されたモンスターが落とすアイテムを拾うだけ。

そりゃ文句を言いたくなるだろう。

何せ攻撃しているモンスターが鈴姫を狙って走り回るのだから敵を攻撃する時狙いにくくて仕方が無かっただろうし。

何もしていないどころかむしろ邪魔をしていたともいえる。

「えっしてるじゃんルナが」

「ええ、そうねその子は頑張ってるわね。でも、あんたは最後に曲を吹いただけで後はずっとアイテム拾って邪魔してただけじゃないの!!」

「ええ~心外だな~ちゃんと最初に口笛を吹いて敵を引き寄せてたじゃないか~まあ、ちょっと予想以上によって来ちゃったから驚いて逃げちゃったけど」

確かに鈴姫は最初から最後までずっとモンスターを引き寄せていた。

まるでおとぎ話の笛吹き男のようにすべてを引き連れながら。

「何でそんなスキル取ってるのよ。あんたの魅力で使えばそりゃ引き寄せられるでしょうよ。通りで私がいくら挑発しても斬りつけても敵があんたに向かっていくと思ったわ。いい、あんたは防御力ほとんど0なのよ? 何で釣りの真似事なんてしてるのよ。ただでさえあんたは魅力が馬鹿みたいな数字で狙われやすいんだから。まあ、それにしたってあんなに引き寄せられるのはおかしいと思うけど。ともかくそんなことしてないで素直に支援してなさいよ」

「わかってないな~一発食らったらおしまいっていうスリルが楽しいんじゃん」

「全くあんたは。もう好きにしなさい。ただでさえCHR特化は敵に狙われやすい茨の道だって言うのにそれを加速させるなんて」

みっちゃんは諦めたのか深いため息をついて頭を抑えている。

私が言うのもなんだけど頭を抑えたくなる気持ちはわから無いでもない。

普通の神経をしていたら絶対に出来ない様なことをしているのだから。



「はあ、もういいわ。さっきはごまかされたけど、せめてあんたのスキル構成を教えなさい。それくらいならいいでしょ?」

「うん、もう大体わかってるだろうからいいよ~えっと、まずはアクティブスキルからね」


ーアクティブスキルー

口笛LV1ーヘイト上昇(CHRで効果アップ)

とんずらLV1ー自分一人だけ安全に逃げ出す(LVが上がるとPTに効果が及ぶ)

ワルキューレの行進LV1-女性の能力値を上昇させる(演奏)


普通の人が聞けば正気を疑ってしまうようなスキル構成だと思う。

鳥使いの鳥強化スキルではなくあえて効果の弱いが範囲の広いパーティー向けの演奏スキル。

それも一曲だけしか持っていないんだから。

「本当に頭が痛いわ。あんた何考えてるのよ。いいこと、次に訓練所に行くときは私も連れて行くこと。そうしないともうあんたとはパーティー組まないからね」

「う~ん、スキルを取るときなんか神様の声が聞こえたんだよ~このスキルを取りなさいってね~だから私は悪くないっ!!」

「また馬鹿みたいなことを。大体あんた無心論者でしょうに」

「はいはいわかりましたよ~(ほんとなんだけどな~)ま、それはともかく次はパッシブね」


ーパッシブスキルー

ハーメルンの笛吹きLV1-笛を装備しているとヘイト上昇(CHRで効果アップ)

演奏LV2-音楽系スキルに補正(CHRで効果アップ)

鳥使いLV1-鳥系モンスターを一羽連れて歩ける(鳥使い基本スキル)

笛使いLV2-笛を装備した時音楽系スキルに補正(CHRで効果アップ)


「ちょっとあんた本気で何を考えてるのよ!! 演奏と笛使いって両方ともハーメルンの笛吹きと口笛も強化するのよ! ただでさえ魅力が高すぎて敵を集めるのに。あんたが口笛吹いたらトップギルドのタンク役の人並みに敵を集めるわよ。でも納得ね。通りでさっき敵と戦ってるときいくら斬っても死ぬまでモンスターが私を無視したわけね。それだけのヘイトを稼いだらレベル一桁の普通の戦士の私が稼げるヘイトなんか比べ物にならないでしょうよ」

確かにさっきの闘いを見ていても鈴姫の周りに群がってくるモンスターはまるで呪いにかかっているかのようだった。

いくら斬られようが攻撃されようがそちらには一切目もくれずまるでゾンビのように鈴姫を目指して進んでいくんだから。

「もうスキル取っちゃったんなら仕方が無いけど、帰ったら今持ってるお金全部使って…ううん、私がお金貸してあげるから一番いい防具を買いなさい。いいわね?」

「あ、私STRとVIT1だからほとんど防具つけれないんだ。てへっ」

みっちゃんは頭を抱えてうずくまってしまった。

まあ、普通の神経をしていたらそうなるだろう。

正直正気の沙汰とは思えない。

「あ、ついでにルナのスキルも教えとくね~」

鈴姫はあくまでもマイペースに続けている。

「どうせあんたのことだからまたふざけたスキルなんでしょうね……」

もう、みっちゃんは完全に諦めモードに入っているみたいだ。


ールナー

ラッキーブルーバードLV5(MAX)ー幸運を呼び寄せる

飛行速度上昇LV1ー素早さアップ

鋭いくちばしLV3ー攻撃力アップ


「速度アップと攻撃アップはいいとして。アクティブスキルはどうしたのよ。鳥って風属性の範囲攻撃があるって聞いたけど? というか、何でドロップ率アップを最初に上げてるのよ。序盤の敵なんてどうせ良い物落とさないんだから最後に余裕があったら上げなさいよ。っていうかあんたSTR低いんだからアイテムなんてそんなに持てないでしょうに。でも、あんた自身のスキル構成に比べたらだいぶましだと思うけど」

「あ、よくわかったね。実はもうアイテムボックスいっぱいなんだ~だからそこらへんに残ってるアイテムはみっちゃん拾ってね」

「そういうことは早く言いなさい」

あわててアイテムをかき集めようとするが半分以上のアイテムが手に入れる前に消えてしまった。

「あらら勿体無いな~」

「勿体無いじゃないわよ。そう思うんならもっと早く言いなさい」

「だって~みっちゃんがスキル教えてっていったんじゃないか~」

ついに限界を突破したのだろうみっちゃんは拳を振り上げると何も言わずに鈴姫に殴りかかった。

「あ~ばよとっつあ~ん。『とんずら』」

「このっ、良いから一発殴らせなさい!」

「いやだよ~みっちゃんに殴られたら私しんじゃうし」

「ならいっぺんしになさい!」

「や~だよ~だ。って、剣を抜かないで。次はちゃんとしたスキル取るから斬らないでよ~」




何で私はこんな茶番を見させられているんだろう。

村はまだ廃墟状態だしこんなことしている場合じゃないのに。

正直何度体の支配を一瞬でも奪っていっそ舌を噛み切ってやろうと思ったかわからない。

でも、それをするわけには行かない理由がある。

私がこんな屈辱に耐えている理由が……

その為になら何もかも我慢するし何でもすると誓ったんだから。


そう、あれは今日ここに来る前に寄った訓練場で聞いた話がきっかけだ。

どの楽器を装備しようか迷った鈴姫が訓練場の受付の人に聞いた各楽器のスキル。

その中にそれはあったのだ……正直私のすべてをこの女鈴姫に差し出してもいい。

千尋すらも差し出しても良いと思ってしまったほどの禁断の果実が。


前提スキル演奏LVMAX笛使いLVMAXハーメルンの笛吹きLVMAX。

必要ステータスCHR40以上LV45以上。

魔物使い系の職業のみが使えると言う笛使いの禁忌。

「ネクロマンサーの笛」


もう神の祝福でさえ生き返らせない状態の死者をすらよみがえらせると言う禁断の秘儀。

正直素直に魔法使いからネクロマンサーになった方が早いし、条件も楽だからこれを覚える人は居ないスキルだって受付のお姉さんは軽く言っていた。

誰だってそう思う。

そう、誰だってそう思うからこそネクロマンサーになる方法は一般には公開されていない。

黒魔術ギルドに入れば成れるんだろうけど。

私にはそんなコネもお金も無い。そもそも私は魔法使いじゃないし。

だからこそ私は笛を極める。

だからこそ私は鈴姫に喜んで体を差し出す。

私が体を使ったのではLV45なんていう神話にしか出てこないようなレベルになることは出来ない。

いつか必ず死んでしまう。

一度死を決意した身だ死ぬのは怖くない……

ただ、私が死んだらもう二度とお父さん、お母さん、そして村の皆が生き返ることは無い。


しかし鈴姫が私の体を使っているのなら話は違う。

彼女の様なフレイヤーと呼ばれるもの(フレイヤーと言うくらいだからきっとフレイ神様の加護を受けている者のことだろう)達は死んでしまっても神様のご加護で経験と引き換えに簡単に生き返ることができるのだという。

つまり彼女が体を操る限りいつかはLV45なんて言う神話の中にすら足を踏み入れることが出来るかもしれないのだ。

それならば私なんて要らない。

千尋の安全すら要らない。


気がついたら私は鈴姫を押しのけて演奏と笛使いとハーメルンの笛吹きのスキルを申請していた。

考えてみれば、敵が近寄ってくると言うことはそれだけ早くレベルが上がると言うこと。

それならば今以上に敵をおびき寄せる口笛もと言った所で鈴姫に体を奪われてしまった。

本当なら鳥使いのスキルを強化して鳥の数を増やして火力も確保しておきたかったんだけど……その分の火力はみっちゃんとか言う女が変わってくれるみたいだから妥協した。


「待っててねお父さん、お母さん、皆……私がもうすぐ村を再建するから。だから、だから……お願い千尋私がまだ正気が残ってるうちに私を殺して……」


わずかに鈴姫のコントロールからもれてつむがれたその最後の良心がこめられた呟きは、しかし風に流され二人の喧騒が支配するこの場所では千尋の耳に届くことは無かった。

何というか、話を作るのって本当に難しいですね。一話目にしてもう話しを書く前に考えたあらすじの影も形も無いですし。ただの英雄譚みたいになるはずだったのが気がついたら魔王にでもなりそうですし…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ