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獣の国でお嫁さん  作者: つんどら
ある意味同棲生活
5/28

5 魔法と杖の精霊

昼食を食べるために部屋に戻ってきたフォルテは、僅かな違和感に気づいた。

目の前で座っている有馬は、一見していつもと変わりない。

しかし――

「……有馬、何かあったか?」

「え? いや、何も」

もぐもぐと、野菜を突っ込んだピラを齧る。

昨日と何ら変わりないように見えるが、纏う雰囲気がどこか違った。

「ふむ……まあ、いい。午後から魔法を教えるが」

「おおーっ」

有馬は能天気にも、歓声を上げた。

――フォルテが感じた違和感は、有馬の魔力が変化したことだ。

今までは無意識に放出されていた魔力が、不要な消費をしないように少し抑えられている。

この世界の者ならば普通は後者の状態になっているが、突然変化した事が違和感を招いていた。

暫くして食事を食べ終えると、クレイアが静かに食器を下げて部屋を出る。

代わりにシヴァが入ってきた。

「お食事は済みましたか」

「ああ」

「では、魔法の事を少しずつ説明いたしましょう」

実を言うと説明しなくとも、ロボが知識共有を行えばそれで済むが。

有馬は姿勢を正し、真剣に話を聞き始めた。一言たりとも聞き逃さないように。

その様子に和みつつシヴァは説明を始める。

「まず魔法の根底にある、魔力というものの説明から始めましょうか」

――魔力というのは、この世界の殆どの生き物が持つ力である。

生きる事に必要ではない力であり、生命力とは違う。しかし、命の危機に瀕すると生命力を補う事もある。

魔力の量や質は人それぞれだが、王族は決まって大きな魔力を持っている。

基本的に不可視だが、人によっては強い威圧感や冷気、暖気を感じさせる事もある。

体からあまり離れる事はないが、触れる事で魔力を与えたりするのは可能。ただし魔力を自在に操るにはやはり修練が必要だ。

「なるほど」

有馬はあっさりと納得した。確かに自分の世界には無いエネルギーだが、魔力やマナといったものは物語等で馴染みがある。

「魔力を感知する事は出来ますか?」

「感知って言われても。……うーん……あ、分かったかも。今のが魔力?」

シヴァが手を近づけ、魔力を放出する。ぼんやりとした冷たさがあった。

「ええ。それでよろしいです」

また空気の中にも、世界そのものの魔力――自然魔力(マナ)が含まれている。

そういった自然魔力と生き物の持つ体内魔力は、質や濃度は異なるが、基本的には同じ物質である。

具体的に言うと自然魔力の方が数段濃い。

つまり、ダイヤモンドと黒鉛ような同素体の関係だ。

体内魔力は“魔力”、自然魔力は“マナ”と呼ばれ区別される。

「ねえ、誰のでもない魔力があるんだけど、これは? なんとなく濃くて、ふわふわした」

「……はい?」

「マナじゃな。ブランカ(有馬)には感じ取れるか」

「うん……? うん」

魔力は誰にでも分かるが、マナを感じ取れる者は少ない。

無論マナを普通の魔法に転用できるし、自然魔法という類のものも使えるため、強い。

その存在は希少であり、ここ数百年は生まれていない。

「有馬、本当に感じ取れるのか?」

「いや、そう言われると自信が無いけど。マナって何?」

「自然魔力、つまり世界そのものが持つ魔力の事です。マナを感じ取れる者は少ないんですよ」

「へえー……」

ちなみにロボにもマナを感じ取る事は出来るし、使える。

始祖も同様に使えたらしい。

「さて、次は魔法についてご説明いたしましょう」


――この世界の魔法は、大きく分けて二種類。

まず、原始魔法。魔力をそのまま現象にする、というストレートな魔法だ。

仕組みではなく殆ど感覚で使うためか、学ぶ事も難しく、今は殆ど使用者が居ない。

そして、現代魔法。数千年前に完成したと言われる、比較的扱いやすい魔法だ。

種類としては、言語魔法と論理魔法、特殊魔法がある。

言語魔法は文章、論理魔法は式の組み合わせにより構築される。

特殊魔法はそもそもの仕組みが違い、種族の持つ特有の魔法等がこれにあたる。

また、道具や陣を用いるものは魔術、生物を召喚したり力を借りるものを魔導と呼び表す。


「言語魔法は、口に出す、あるいは文章を頭の中で組み立てる事で構築されます。

口に出さない場合は詠唱破棄と言いまして、これは中々高度な技術ですね。

雛形である呪文は本などに沢山記されていますが、必ずしもそれに従うという訳ではありません。

ある程度自由度があるのがこの魔法の利点です」

「ふむふむ……」

「論理魔法は、“魔法式”というものを使用します。

魔法式とは古代文字と数字を組み合わせたもので、発音は不可能です。

私達に備わった“魔法式構築領域”という場所に保存しておき、自由に引き出して発動できます。

利点は、発動の早さと手軽さ、正確さですね。咄嗟に威力を変えたり、構成を変えたりすることは難しいですが」

つまり文系と理系の違いとも言えるか。

纏めると、言語魔法は自由度が高いが発動速度は遅く、論理魔法は応用が難しいが発動速度は速い。

「魔法式構築領域、ってどこにあるの?」

「分かりません」

「え……」

「目に見える訳ではありませんし、どうやら物質としてある訳ではないようですし。

魔法に関する機能は心臓の上にあると言われていますが、ただの言い伝えですし」

いいのかそれで、と言いたげな目でシヴァを見る有馬。

しかしシヴァは涼しげな顔で微笑むだけであった。

「それで、有馬様はどちらを先に習いますか?」

「んー……どっちの方が簡単?」

「簡単かと言われれば、言語魔法ですね。ただし、後になると難しくなるのですが。

……論理魔法は、逆に最初は難しく後からは楽です」

「じゃあ、言語」

「かしこまりました。では、この杖をどうぞ」

シヴァが恭しく差し出したのは、茶色の杖。

先日の白い杖と似た形で、30cm程の長さである。

シンプルではあるが、上品な造りだ。

「杖いるの?」

「そうですね、無くても可能ではありますが。魔力を効率的に放出するためには有用ですね」

「ふぅーん。魔力の収束、みたいな?」

「そういう事です」

有馬は受け取った杖を、指揮するようにくるくると振る。

先端からきらきらと光が舞い、2人が僅かに反応する。

「……何をした?」

「え、何? まずかった?」

「いや……魔力は空気と同じで見えませんし、魔法を使う際の反応で輝いたりはしますが……何もしていないのに光るというのは変ですね」

「うーん?」

そう言われても、有馬はただ振ってみただけでしかない。

3人は顔を見合わせるが、答えは出ない。

ロボ(守護者さん)、なんかわかる?」

「うむ……手にした時点で杖は媒体となる。魔力に満ちた杖が、大気に満ちるマナを掻き回しただけじゃろうて」

「掻き回した……? マナは空気のようなものだろう? 動くのか」

「マナは流動する。そもそも空気も魔力も、目に見えぬだけで動いておる」

「目に見えないのですから、動いても分かりませんしね。

――興味深い。後で研究部に回しましょうか」

「いや、やめておけ。有馬の存在が――」

有馬はどうやら関係無さそうな話なのでスルーし、杖を弄っている。

杖の後ろの方には細かな彫刻が施され、緑色の宝石が嵌め込まれている。

(あの映画じゃユニコーンの鬣とか入れてたけど、そういうのかな?)

あの映画とはあの映画である。世界的に有名な某魔法学校だ。

じいっと見つめると宝石の中が揺らぎ、何かが見える。

更に見つめると、なんとなく言葉が聞こえた。

『――っ――よ』

「お?」

『ちょっと、じろじろ見ないでよー、恥ずかしいから』

どことなくほわほわした、声変わり前の少年の声である。

「シヴァさん、フォルテ」

「はい、何でしょう?」

「杖が喋った」

シヴァが笑顔のまま一瞬停止した。

彼はまじまじと有馬を見て、そして杖に目を留める。

そして思い出したように言った。

「……杖の、精霊でしょうかね? 御伽噺でしかありませんが」

「精霊?」

「長く使われた杖は、魔力が宿り、やがて意識を持つ精霊になるという話ですが……」

『おー、君、可愛くは無いけどステキな魔力だねぇ』

「へし折っていいかな……」

「……杖、替えてきましょうか?」

有馬はぎちぎちと杖に力をかけながら笑顔で首を横に振った。

『痛い、痛いよー、やーめーてー』

「いや、いいよ」

『折れるぅーっ』

「ますます不思議ですね」

「異世界人とはそういうものなのかもしれん」

「ですが、今までの方々にそういった事例は……いえ、そもそも魔法すら使えませんでしたし。」

「そうだな……有馬、それ以上は折れる」

「ああ、うん」

有馬はあっさりと杖から片手を離す。そもそも致命的に運動神経に欠ける有馬は、当然力も弱い。力を入れても折れはしないだろう。

「では気を取り直して。言語魔法の基本から始めましょう」

シヴァが白い杖と小さな石を2つ取り出す。

「私の真似をして唱えてください。《石よ、浮かべ》」

「《石よ、浮かべ》」

白い杖に指された石は浮かび上がるが、茶色の杖に指されたものは浮かない。

「……出来ない」

不満げに口を尖らせる。杖の精霊がからかうように笑うと、更に眉根を寄せた。

『おかしいや。君、使ってる言葉が違うんじゃないかなぁ』

「?」

「では、もう一度やっていただけますか?

声に魔力を込める感じですが、わかるでしょうか」

「うーん……《石よ、浮かべ》」

やはり浮かない。

(腹が立つけど、この杖の言う通りかね? そもそもどうして言葉が通じてるのやら)

「シヴァさん、言葉が違うんじゃないかな」

「言葉が? ……ああ! そうでした。あなたには翻訳魔法がかかっているんでしたね。ですが、よくお気づきに」

「この杖が、言葉が違うって」

「ふむ……すいません、少し貸していただけますか」

「うん」

有馬が杖を手渡す。暫くシヴァは宝石のあたりをじっと見つめたりしていたが、はあ、と溜息を吐く。

何も見えないし、何も感じられなかった。

『シヴァ坊や、さっきぶり』

「私には何も聞こえません。殿下はどうですか?」

「俺が使っていた時には何も無かったがな」

「……あれ、お下がりなの?」

「ああ。昔練習用に使っていた物だ」

(じゃあこの腹立たしいのはフォルテの魔力……いや……うん)

微妙な顔をして杖とフォルテを見比べる。

確かに最初の反応は失礼だったが、それからのフォルテはおおよそ紳士的である。

真面目で少し固い性格も、好ましいといえば好ましい。

(いや、杖は杖、うん……)

「では、やはりこの世界の言語を学ぶ必要がありますね」

「……それなら、我が教えておく」

「ええ? そうですか……まあ、守護者殿が言うのでしたら」

どうやるのか、と一瞬疑問を浮かべたもののあっさり了承する。

「では、論理魔法の方にしましょうか」

「うい」

正直なところ、どちらから始めようと構わなかった。

ただ、比較的最初が楽だと言うから言語魔法にしたのだが。

「まず、魔法式構成領域を知覚する事から始めなければいけません」

「うん……?」

魔法式構成領域。

難しい言葉を並べられると引いてしまうのが日本人である。

「そう難しく捉えなくてもいいですよ。……とはいえ、私達に説明するのは難しいのですが。生まれつき知っている感覚なので」

「うーん……呼吸の仕方を教えろって言ってるようなもの?」

「そういう事です。的確ですね」

「……どういう風に見えるの? 魔法式構成領域って」

「見える訳ではないんですが……難しいですね。頭の中にある感じです」

「うーん」

「文字が見えるんですよ。頭の中に勝手に浮かんでくるような」

有馬は目を閉じて、体から力を抜く。左手で片目のあたりを覆い、じっと集中した。

(――文字、文字が浮かぶ感じ)

なんとなく文字を思い浮かべる。古代文字と言うのだから、ヒエログリフや甲骨文字のようなものだろうか、とぼんやりとしたイメージを浮かべて。

『や、難儀だね。僕が手伝ってあげようか』

精霊が暢気にもそう言う。有馬は口に出さず、『ちょっと黙ってて』と心で思った。

すると精霊はそれが聞こえているかのように、『はいはい』と言う。

「……ん?」

「どうしました?」

「いや、なんでも」

心を読まれているのか、言葉が通じたのか。ひとまず深く考えない事にして、有馬はじっと集中した。

そのうちに気づく。何か、得体の知れない魔力が己に流れ込んできていた。

魔力は蜘蛛の巣のように広がり、何やら自分の魔力らしきものを時折つつく。

有馬の目の奥がじわりと熱くなり、一瞬の後に――

「うわっ!?」

膨大な文字列が脳内に浮かんでは消えてを繰り返し始めた。

目の前がちかちかと輝き、頭がじん、と痛くなる。

「大丈夫ですか?」

「う、いや、何か文字が――」

見えている、のではない。感じているとしか言いようが無かった。

脳裏に浮かんでは消える文字列が、やがて数を減らしていく。

『おっと、ごめんね――ちょっとばかしお手伝いしてあげたんだけどー』

ありがた迷惑だ、とばかりに杖を睨む。

くすくすと笑う気配がして、恨み言を言う気も失せる。

「そうですか。恐らくそれが領域ですよ」

「ふーん……あ、消えた」

頭の中の文字が抜けきり、安堵の溜息を吐く。文字に押しつぶされて気絶するかと思ったのだ。

勿論そんな事はありえないのだが。

「では、簡単な魔法式からお教えいたしましょう」

そう言ってシヴァは一冊の本を取り出す。表紙の文字は読めない。

「基本となる、《対象指定》の魔法式です。まずはこれを覚えねばいけません」

数ページめくったところに載っていた古代文字の羅列を、長い指先がなぞった。

有馬は溜息を吐く。数学の公式や化学式を覚えるのは得意ではない。

かといってそこまで苦手でもない。英単語は覚えられるのだし、他のものが記憶できない訳では無い。

ただ、やる気の問題という訳である。

「……覚えればいいの?」

「先ほどの領域に、その式が現れればいいです。そうすればもう忘れる事はないですから」

一体どういう仕組みなのか気になるが、頭の中にパソコンのようなものがあるらしい、と解釈する。

有馬は本を手に取って、指先で文字をなぞりながらじっと見る。

最初はつまらなかったが、途中で(これはつまり魔法書って事なのか!)と気づくなりやる気が出た。

未知の文字列も、そう考えれば面白く見えてくる。じっと形を見つめていると、意味が頭に流れ込んで来た。

「んー……?」

有馬は、はた、と気づいた。魔法式を見るのは初めてだが、無駄が多すぎるのだ。

約分されていない分数を見たような、あるいは整理されていない式を見たような気分。

釈然としないが、領域に魔法式が浮かび上がる。

「出来たけど」

「はい。では、次はその下の式です。というかそのページは全て覚えてくださいね。

上から順に、《範囲指定》、《発動》、《起動》、《停止》です」

有馬はそれらを見ながら、釈然としない気持ちを覚えた。

面倒だ。とても面倒くさい。面白いのだが、手順が多すぎる。

発動する際は組み合わせて一度にするのだろうけれど、全て一緒くたにしてしまえばいいのに、と思った。

しかし基礎は大切である。基本の式を覚えずして、応用は身につかない。

そう言い聞かせながらそれらを覚え、後で改造しよう、と心に誓ったのであった。



魔法勉強の時間が終わると、有馬は腕をうーんと上に伸ばした。

「なんか、疲れた」

なんとなく身体がだるく、疲れがある。

魔力は体力や生命力に直結してはいないが、消費すると疲労感がある。

有馬が疲れたのは、領域を維持し続けて多少魔力を消費したからだろう。

「そういえば魔力って、どうやったら回復するの?」

やっぱりエーテルとかエリクサーとかかな、と思いつつ聞く。

「魔力は、そのままでも少しずつ回復する。食事や睡眠を取れば一気に多く回復する。他人の魔力を流し込むと一番効率が良いが」

「ふぅん……流し込むってどうやって?」

「魔力を水に込めたり、難しいがそのまま固めたり。あるいは、直接――その……あー」

「粘膜同士を触れ合わせる事で尤も効率良く魔力が交換されます」

「歯に衣着せないね」

つまりキスやらあれやこれやで魔力が交換されるのである。

熟年夫婦の魔力が似通っている事が多いのはこのためだ。

同じ魔力を長期間に渡って摂取していると、魔力が交じり合うのだ。

「魔力そのものが、魔力を回復する機能を持っています。魔力がゼロになると、他人に魔力を注いでもらうか、暫く回復を待たなければいけません。注意してくださいね」

「ふむふむ。魔力を使い果たしたら、ちゅーっと」

「そういう事ですね」

「お前らな……」

呆れたように溜息を吐く。

笑う有馬の周りでちらちらとマナが輝き、杖の精霊も笑っている。

尤も、2人には聞こえないが。

『ねぇ、契約してよ』

「……なんか、杖が契約しろって言ってるんだけど」

「契約? ああ、媒体契約ですね。しておくといいですが、やり方は?」

「わかんないけど。媒体契約って何?」

「自分と媒体――杖との契約ですね。契約とはいえ、意思を持たない杖ですから正式な契約とは違いますが。

魔力を通し、杖を心臓の少し上につけるだけです」

有馬は言われた通り、体内を巡る魔力を杖に送り込む。

そしてその先端を、心臓の上あたりに付けた。

ぼんやりとだが魔力が通りやすくなったような気がするが、精霊は不満げに言う。

『違うよぉ、名前と血をちょうだい。僕は今血が無いから、魔力をあげるね。飲めばいいよ』

「名前と血を寄越せって言ってる。代わりに魔力をやるから飲めって」

「……古の契約ですか? 契約内容をきちんと確認してくださいね。死後に魂をとか言ってませんか?」

保険会社の人みたい、と有馬が忍び笑いを漏らす。

杖の精霊は話を聞いていたのか、のんびりとした声で言う。

『望むことは特にないよ。あぁ、有馬には精霊魔法を教えてあげる。魔導ってやつね~』

「要求は無し、見返りは精霊魔法の教授」

「おや、それはよかったですね」

「精霊魔法か。という事はやはり、その杖の精霊なのか」

『ぼくはー、元妖精族の魔導士なんだけど。獣人の王族を暗殺してこいって、悪い人間に命令されてね。

やだって言ったら、精霊化魔法をかけられて、石になっちゃったんだ』

「……」

はたして言ってもいい事だろうか、と迷う。

『それが、15年くらい前かなぁ? 石のままアニマラーナに運ばれて、杖に加工されて、フォルテ坊やの杖になったんだよ。

この人、原始魔法は使えるみたいなのに、現代魔法はいまいちでね~。お手伝いしてあげたのさ』

「精霊化魔法をかけられた、妖精族の魔導士だって」

色々と突っ込みたいところはあるが、ひとまず有馬はそれだけ言った。

シヴァが怪訝そうに眉を潜める。

「精霊化魔法も禁止魔法ですが……」

「人間に暗殺を命令されて、断ったらされたって」

「……ふむ」

フォルテの目が僅かに冷たい光を帯びる。

王族であれば暗殺の危険は常に付き纏うが、獣人族はやや特殊な種族である。

多種族、しかもそれぞれが群れのように集まるこの国は、王家を頂点に置くからこそ纏まっていられる。

しかし王家が消えてしまえば――横の繋がりは絶たれ、国は分離する。

新たな王家が立てられるより前に、種族ごとにばらばらになって国の体裁が取れなくなるであろう。

「ねえ、フォルテって原始魔法を使えるの?」

「……それもその杖が?」

「うん」

はぁ、と溜息をついてから喋る。

「始祖の直系の子孫には原始魔法が備わっている」

「へぇー」

「俺は生まれつき魔力量が多く、現代魔法よりは原始魔法に向いていた。だから下手だった」

「細かい作業に向いてない訳ね。原始魔法ってどういうの?」

「呪文や魔法式を介さず、意識によって直接魔力を現象に変換する」

「……うん。よくわからん」

「……現代魔法は、魔力を燃料として現象を起こす。原始魔法は、魔力そのものが現象になる」

「まあ、なんとなく分かったような」

つまりガソリンで車を動かすか、ガソリンを燃やすかの違いだ。

前者の方が安定して便利な上に低燃費だが、後者は応用力と威力に勝る。ただし魔力量が多くなければ使い物にならないが。

『ねえー、はやく契約しようよぉ』

「杖、元は妖精族でしょ? 名前はないの?」

『んんー、シェンカ・ルゥだよ。でも、名前はちょうだいね』

「杖の精霊の名前、シェンカ・ルゥだって。何か知ってる?」

ふむ、とシヴァが口元に指を当てる。

なにやら思い出しているようだ。

「妖精族に魔導士は多いですが、その中でも“ルゥ”の称号は最高位です」

「最高位……ふぅん……」

『けーいーやーくー』

「後で。……この気の抜けたようなのが最高位ってねぇ」

自分の性格は棚の上に放り投げ、有馬はつんつんと杖についた石をつつく。

「とりあえず、今日はこれで終わりにしよう。そろそろ夕食だからな」

「あ、そうだね」

有馬は時計を見る。壁かけ時計は無いが、暖炉の上に時計が置いてあった。

時刻は6時を回った頃で、そう思うと急に空腹を思い出す。

「……う、なんか、すっごいお腹すいた」

「初めて魔力を使ったからですよ。すぐクレイアが食事を運んできますから、それまでの我慢です」

腹を押さえて机に突っ伏す有馬を、微笑ましげにシヴァが見た。

ファンタジーらしくなってきました?

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