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獣の国でお嫁さん  作者: つんどら
ちょっとそこまで冒険
21/28

21 大人げないです









巨大なベッドの上で、有馬は体を起こして俯いている。

それを囲むように、3人の魔族が立っていた。

「早く覚悟せんか」

「じきに魔王が来るぞ?」

「……私達は殺せと言われれば、拒めませんよ」

樹人のオーガス、吸血鬼のヴラディーク、悪魔のフィーリシア。

魔王直属の部下であり、それぞれが高い実力を持つ四天王の一員。

ちなみに残りの1名――夢魔のメリーディスは、先程から有馬の横に倒れ伏して熟睡中だ。

「……」

思い切り不貞腐れた表情の有馬は、黙って彼らの言葉を聞いていた。

ちなみにかれこれ数十分も説教紛いの説得が続いている。

「黙っててもどうにもならないぞ」

ヴラディークがそう言う。有馬は、わかってるし、と小さく呟いた。

説教されるのが好きな子供はいない。むしろ、言われるほど反発する。

怒鳴られていないだけマシだが、それでも腹は立つ。

「って言うか」

有馬は喉から搾り出すように言う。

「全面的に、あんたのせいじゃん、死ぬかもしれないのも」

恨みがましくヴラディークを睨み付け、人差し指を突きつける。

ヴラディークは嘲笑うように口元を歪めた。

「今更気付いたのか」

「最低! 最悪! 鬼畜っ!」

「……何だと」

「あと変態」

「おいっ!」

真顔での一押しに思わず怒鳴ったヴラディークの脇に、両側から肘が突き出される。

「大元帥殿は少し黙ってていただけますか」

「おうおう流石じゃのう、子供相手に怒鳴るとは」

大元帥とはヴラディークの役職である。これでも有事には魔領軍を率いる軍人なのだ。

ちなみにメリーディスは神官長、オーガスは術士長、フィーリシアは書記長である。

「っぐ……」

思いがけず1人だけ敵に回されてしまったヴラディークは焦った。

左右からの冷たい目、正面からの恨みがましい目。

そして更にもう一対、感情の読み取れない視線が加わる。

「……鬼畜外道」

寝言のような声がぐさりと突き刺さり、今度こそヴラディークは落ち込んだ顔ですごすごと引き下がった。

「……もういい。それで、どうするんだ」

「そうですよ。このまま平行線では困りますもの」

「一応隠匿してはいるのじゃが、気付かれないとも限らんしのう」

メリーディスが再びかくんとベッドに顔を埋めた。

有馬は援護射撃に若干感謝しつつ、ひとまず言う。

「……もう少し、考えさせてよ」

「ふむ……まあ、良い。1時間もあればよいか?」

こくり、と頷く。とはいえ選択肢は諾か死か、選ぶまでも無い。

故に有馬が自分を納得させる時間、と言っても良い。

「何か必要な物はございますか?」

「あー……あたしの服は」

「そちらのクローゼットと籠に入っております」

「じゃ、特に無い」

有馬がそう言うと、今だ意気消沈しているヴラディークを蹴って押しながらオーガスが出て行き、フィーリシアもきっちりとドアを閉めて退出する。

「……あれ?」

部屋には有馬と、眠りこけるメリーディスが残されていた。



有馬はひとまず、何をするにも頼りない絹の服を着替える事にした。

ベッドを降りて、柱に留められているカーテンを全て下ろし、寝ているメリーディスを閉じ込める。

(起きるなー……)

本来なら嫁入り前の彼女は男性と2人きりになるべきではないし、着替えなど絶対にアウトである。

しかし今は熟睡するメリーディスを起こして追い出す手間すら面倒だった。

有馬はとりあえず寝巻の下からズボンを履き、上からチュニックを被る。

そして服の中でもそもそとボタンを外し、脱いだ。

まさか異世界まで来てやるとは思っていなかったが、更衣室の無かった有馬の中学校ではこの着替えスキルは必須である。

「前開きで良かった……」

有馬はコートは着ずに手に持ち、とりあえず靴下と靴を履く。

「…………」

逃げるには適した格好になったが、逃げられるとは思えない。

何故かメリーディスは残されているし、部屋に居ないとはいえ何らかの監視はされているのだろう。

有馬は部屋を見回す。椅子の類は無く、本当に寝るだけの部屋らしい。

溜息を吐いてカーテンを潜り抜け、ベッドの端に腰掛ける。

(……あーあ)

考えるとは言ったものの、有馬の思考も平行線を辿るばかりだ。

契約するまでは、帰すつもりは無いのだろう。そして四天王が長く固まっていると魔王が勘付いて、この場所を訪れ、ジ・エンド。

――どう考えても、契約すれば全て丸く収まってしまう。

契約すれば、圧倒的に生存率が跳ね上がる。彼らは魔王の支配から逃れ、ついでに自分の戦力は増える。

(デメリットが無い……うーん。その後魔族の親玉として狙われたり……いや、人間が丸ごとかかってきても平気そうな気が)

勇者に魔王に神獣に精霊。

今の所、有馬を裏切る事が絶対に無いと言いきれる者たちだ。

そしてこの世界でもトップクラスの戦闘力を誇る者たちでもある。

――が、今は誰ひとり側に居ないのだから仕方ない。

(じゃなくっ、て、今だ今。今を乗り切れ)

有馬はもはや打開しようとは思わず、ひたすら自分を納得させようとした。

けれども、脅し急かしてきた彼らが恐ろしいと同時に不可解だ。

何故、彼らは直接的な恐怖を以って自分を従わせようとしなかったのだろうか。

有馬は、例えカッターナイフでも突きつけられれば一分も持たずに意思が折れる、と自負している。

「きみは」

気付けばメリーディスが幽鬼のようにゆらりと起き上がり、ゆっくりと這い寄って来ていた。

(あるじ)でなければならない」

闇色の目でじっと有馬を見ながら、やけにはっきりした口調で言う。

どうやら有馬の思考に対する答えのようだった。

「……どういうこと?」

「主を、害さない。大原則」

「まだ主じゃないし十分気分害したんだけど……つーか魔王ぶっころす言ってんのは誰でしたっけ」

「あれは王。主じゃない」

あっけらかんと言い放つ。

(や、王イコール主君じゃ……どんだけ嫌われてんの……)

まだ見ぬ、というか一生会いたくない魔王に若干同情した。

メリーディスはずるずると這い、体を起こして座る有馬の横に来る。

「……主、ほしい。契約、しようよ」

渇望と狂気の色が見え隠れする目。

有馬は本能的な恐怖を感じ、思わず後ずさる。

「っちょ、……、あの、怖いんだけど……」

「怖いもの、僕が、潰すから。何でもするから」

「…………目、目が怖いってー」

「抉る?」

「いやいやいやっ、そんなスプラッタはいらんって」

こてんと首を傾げる。両目くらいなら本当に捨てそうな気配がして、有馬は手が震えるのを感じた。

「ねえ……ねえ、契約、してよ、僕、ぼく、」

その目に今度は寂しさと懇願が宿る。

有馬は一転して切なげなその目を見て、う、と息を詰まらせる。

(……情緒不安定っつーか、何か、何なんだろう)

喜怒哀楽の要素が根本的に違うような気がして、全く感情移入がし難い。

けれど目の前のメリーディスは寂しがっているように見えた。訳は分からないが。

しかも彼は全く文句の付け所の無い美少年で、流石に見捨てる事は躊躇われる。

ヴラディーク達は立派な大人なので遠慮せず拒絶できるが、メリーディスにはなけなしの良心が働いてしまう。

「……うん」

ぶつぶつとうわ言のように言葉を紡ぐメリーディスに、頷く。

なんとなしに手を伸ばし、桃色がかった金髪を撫でる。

「よくわかんないけど、……ま、いいや」

流されやすすぎ、と自嘲気味に呟く。

「名前は、……えーと。……メア。よろしく」

「うん」

ナイトメアだからメア。

今までで1番単純な名前だが、メリーディス改めメアは嬉しげに微笑んだ。

「……弟みたいでいいか……じゃ、血」

有馬は若干和んだような顔で、左手を差し出す。

メアは再び真顔に戻って手の甲に口を付けた。ちくりとした痛みと共にメアの顔が離れ、ほんの小さな傷が残る。

「はい」

メアは右手の人差し指の腹に、親指の爪でさくりと傷を付ける。

「ちょ、切りすぎ」

明らかに過剰な傷から、ダラダラと血が流れる。

慌ててその手を取り、躊躇いがちに舐めとった。

「止血はー……」

「いい」

そのまま、何を思ったか指先を乱暴に絹の掛け布に押し付け、ぐるりと線を引く。

「っちょ! 何して――」

「逃げる」

血で描かれた円の中に、更に細かな文字を書いていく。

メアは書き終えた――血の魔法陣を布ごと切り取り、呆気に取られる有馬の腕と自らの腕をその布で結んだ。

「な、何で?」

「来た」

その言葉を言い終わらない内に、有馬が思わず飛び上がる程の轟音が響き渡る。

唖然としている有馬をひょいと抱き上げ、メアは詠唱した。

「《デア(解く)ディリ(除く)》」

――古代語? と首を傾げる間も無く、がしゃんと音がして目の前が開ける。

どうやら窓を割ったらしいと気付いたのは、空中に身を晒してからだった。

「ひっ……!!」

眼下に広がる広大な景色。欧風の街並みには、闘技場らしき建物や訓練場、騎士団か警備兵の詰め所、貴族の屋敷などが見える。

ヴラディークの真面目そうな性格を反映したように、城から放射状に道が何本も真っ直ぐ伸びていて整然とした印象を受ける。

が、有馬には観察する余裕が無いようだ。

「舌、噛む」

有馬よりも更に小柄なメアだが、見た目よりずっと力はあるようだ。

背中から生やした蝙蝠のような羽で、ばさばさと羽ばたきながら飛んでゆく。

「……っうわ」

必死に首を曲げて見た背後の城は、切り立った崖の上にあるようだった。

ヴラディークの雰囲気にぴったり合う美しい城だが、有馬達の出てきたあたりの屋根が見るも無残に崩れ落ちている。

更に見ている間にも爆発があり、思わず目を閉じた。

「魔王、来た。怒ってる」

「……死なないかな、あの人たち」

「死ねない。大事な手駒」

死なない、ではなく死ねない、という所に含みを感じた。

有馬は小さく唸りながら、落ちないように身を縮こまらせる。

「……このまま魔領の外まで飛ぶの?」

「それは難しい。途中で夢に入って休――……」

突然黙り込んだメアの視線の先を辿る。

そして有馬も口を噤み、ついでに引き攣らせる事となった。

「……ど、らごん……っすか」

遥か向こうから――地平線を遮るように飛んでくる、黒い竜。

その巨大な羽の先から反対側の先まで、100メートル程もあるかもしれない。

鈍く紫に輝く黒い鱗、無駄の無いスマートなフォルムの美しい竜だ。

(色違いリ●ードンとか……いや、ダークル●ア……ゼ●ロム……)

思わず脳内図鑑を参照した有馬を、ドラゴンの咆哮が現実に引き戻す。

何故かスピードを上げたドラゴンは、真っ直ぐ2人に近づいてきている気がした。

「こ、こっち来てるんだけど」

「……竜人族の知り合い、いる? 黒い髪、紫の目」

「へっ? ……あ、ああ! そっか! いる!」

竜人族というのは竜族(古竜とも)から進化した種族である。

生まれると同時に古竜の魂――竜魂(りゅうこん)が胸に宿る。

彼らは生まれた瞬間は親と似た髪や目の色をしているが、竜魂が宿るとその竜の色彩に変化する。

鱗の色が髪の色に。目の色は目の色に。

また、体の何処かに竜玉というものがあり、その色も瞳と同じだ。

「……ラル」

そして彼らの最大の特徴は、宿した竜魂の主の姿になれること。

有馬は向かってくる竜がランラクルだと確信し、じわりと瞳に感動を滲ませる。

「どうする?」

大陸を飛び立ち、海を経て魔領へ。

いくら何でもそんな距離を助けに来るとは思いもしなかった。

(……ああもう! 義兄妹の契りでも結んでやろうかっ!)

有馬は眼下の景色を見回し、広い場所を探す。

「あの闘技場に」

メアはこくりと頷くと、ゆっくりと降下を始めた。







ヤンデレが好きです。

メアは特に恋愛感情でデレている訳ではないです。


今回ちょっと短めですかね。


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