表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の国でお嫁さん  作者: つんどら
おいでませ獣の国
1/28

1 永久就職

ここはとある異世界。獣人達が住む、アニマラーナという大陸国家があった。

この国の歴史は長く、はっきりとはしないが数千年。この世界でも有数の歴史を持つ国であった。


さて、この国の王家には、一つの奇妙な風習があった。

5代毎に異世界人を召喚し、国王の伴侶とするというものである。

風習とはいっても宗教的意味合いは無い。列記とした、極めて切実な問題だ。

獣人は文字通り獣と人から生まれ出でた種族である。普通、その血は半々程度で安定している。

ところが王家の血は何故か安定しない。獣人同士で子を作り続けると、何故やら5代ごとの国王の子供が奇形になる。

ただの獣だったり、意思だけ持つが人の姿になれなかったり、そもそも獣でも人間でもない姿をしていたり。

解決するために人間の伴侶を取ったりもしたが、結果は芳しくなかった。

この世界には純粋な人間が少なく、殆どに何かの血が混じっていて、純粋な人間はそれこそ太古から続くどこぞの王家くらいしか居ない。

――生まれた子がますます異常な姿で、獣人たちは頭を抱えた。

そうして試行錯誤の末に達した結論――それがつまり、異世界から純粋な人間を召喚すること。


双方に好ましい状態とするために、召喚する相手は数々の条件を兼ね備えた者になる。

一つ、他種族との混血が無い純粋な人間である事。

一つ、王位を継承する者と性別が違う事。

一つ、生殖機能に不全が無く、健康である者。

一つ、恋愛感情を持つ相手が居ない者。

一つ、他人や物に過剰な執着を持っていない者。

この他にも様々な項目があり、これらを考慮して魔法が選定していき、そうして1人が選ばれる。


5代毎に繰り返される儀式。

それがこの度も、行われようとしているのであった。







春の匂いが遠ざかり始める、5月20日。

黒髪を腰の辺りまで伸ばした、美人とも不細工ともつかぬ造形の少女が、のんびりと歩いていた。

名前を有馬(ありま)、苗字を城崎(きのさき)という。偶然にも両方温泉地の名前だが、本人も親もそこまで考えてはいない。

体形はやや太り気味ではあるが、まあ中肉中背と言えよう。身長は153cm、体重は……言わないで置く。

胸はそこそこあるが、全体的に見ればその胸も脂肪の一部としか捉えて貰えないような体形である。

化粧はしておらず、黒髪に隠れた額には少しニキビが浮いている。両手の爪は素っ気無く切られ、特に気は使っていないようだ。

(また太ったか)

そう思いながら見た腹部は、数ヶ月前より出ているように感じた。虚しくはあるが、その程度の変化には感慨すら無くなって来た。

もうじき16歳になる彼女は、新しい環境に辟易気味であった。そこそこ楽しいし、なんとか友人も出来たが、やはり中学校が恋しいのである。

ついでに言うと、今までより行動範囲が広まり小遣いも増え、買い食いのしすぎで少々太りつつある。

(あーあ、何かこう……何だ?)

もやもやとした気持ちのまま歩き続けていると、前方の景色がゆらりと揺らいだ。

その中から、男の声が聞こえてくる。

『汝、アニマラーナ王の伴侶となる事を了承するか』

「はい?」

思わず聞き返す。が、それはどうも了承と取られたようであった。

次の瞬間、肩に掛けていた鞄もろとも、少女はその場から姿を消していた――


「っ痛!」

どんっと音がして投げ出される。思い切り尻餅をつく事となり、有馬は目じりに涙を滲ませた。

「少々ずれたようですが、成功です、殿下」

「ああ、よかった……大丈夫か? 手を」

痛む尻を撫でつつ、鞄をひとまず下ろし、有馬は条件反射的に顔を上げて差し出された手を取り、

「……失礼な」

自分の顔を見た途端に顔に落胆を浮かべた男を見て、思わずそう呟いた。

「!? す、すまない」

慌てて取り繕うが、初対面でがっかりした顔をされると流石の有馬も怒りはする。

その感情を顔に出さないように努力しつつ、有馬は部屋を見回した。

壁にかかったタペストリー。窓はなく、一面灰色の石で出来ていて、天井に丸い石がついていてそれが発光している。

ひんやりした空気は地下室を感じさせたが、確証までは持てない。

目の前に男が2人、他に人は居ない。

片方は失礼な男。肩口程までの少し跳ねた銀髪に所々白が混じっているが、まだ20代前半か10代後半に見える。目は深い青。

もう片方は、やや白に近い銀の長髪を横で結った、アイスブルーの瞳の男。年頃はもう1人と同じくらいのようだ。

「状況は把握されていますか?」

「は? あ……伴侶になれって?」

「そういう事です。なかなか物分りのいい御方で安心しましたね、殿下」

「そうだな」

有馬は、失礼な男の方が偉いのだなと検討をつける。そしてつけた後に文句を言おうとして、長髪の男に遮られた。

「手紙は読んでいただけましたか?」

「ちょっと――へ? いや……手紙?」

「はい。そちらで一般的な方法を選んで送った筈なのですが――もしや、届きませんでしたか。申し訳ない」

口元に手を当て、そんなものがあっただろうかと考え込む。そして思い至り、ポケットから携帯電話を取り出し、メールボックスを開いた。

そして数日前に届いた、送り主不明のメールを探し出す。

「これ、のこと?」

「そうです。ちゃんと届いていたようですね」

件名、『あなた様は王の伴侶に選ばれました』。ぶっちゃけて言うと、怪しすぎて開きもしなかったのだ。

読んでみれば、確かに伴侶がどうたらと書かれている。有馬は溜息を吐いた。

「……読んでなかった。ごめんなさい?」

謝ったが、よく考えたら自分が悪くない事を思い出してか疑問形になる。

「いえ、ここで理解してくださればそれで構いません。むしろ、混乱して暴れたりなさらないので私も安心しています」

(暴れてたらどうする気だったんだろう)

その笑顔に薄ら寒いものを感じ、有馬は目を逸らした。

逸らした先に見えたのは、タペストリー。出入り口らしいものは見当たらないが、その裏にあるのだろうか。

「あのさ――いきなり、嫁になれって言われても、今一理解できないんだけど」

「それはこれから説明しますから、一先ず上へ参りましょう」

微妙に不満を込めて言った筈だが、長髪の男はどこか反論できないような笑顔でそう言って、タペストリーの方に歩いていく。

有馬は溜息を吐いた。説明すると言われては、聞くしかない。そしてこの男が反論と拒否を許してくれない可能性は高い。

長髪の男は腰のあたりに差してあった、飾りのついた白く細い試験管のようなものに触れる。ぱちんとボタンを外し、覆っていたベルトのようなものを取って中から杖を取り出す。

真新しい白のチョークのような色の杖には、蔦が這うような模様が描かれ、太い側の端に輝く水色の宝石が嵌っている。

(魔法の、杖?)

それは確かに、映画などで見るような魔法の杖にそっくりであった。指揮棒(タクト)のような形で、有馬はかの魔法学校(ホ○ワーツ)を思い出した。

(……魔法、って。ないない)

有馬は小説が好きだ。読むことも書くことも。時代小説からファンタジーまで何でも読む。しかしながら、彼女はリアリストであった。

物語は、まるで夢だ。その奥深さを知れば知るほどに、目覚めた後の世界の味気なさが彼女を現実的にしていく。

魔法はない。エルフはいない。喋る犬猫もいない。騎士もいなければ、錬金術師もいない。

(……妄想にしては本気くさいしなぁ、何なんだ)

しかしながら、今の状況はそれこそ魔法でないと説明がつかない事に気づいた。

空中から声が聞こえたのはまだいいとして、空間が歪んだ事がおかしい。高い熱でもあれば確かに空気が揺らいで見える事はあるが、まだ春先で肌寒いくらいだった。

更に、眠らされて拉致された訳でもなく突然こんな場所にいる。

寝起きの気だるさが全く感じられないから、自分の感覚を信じるならば眠ってはいないだろう。

「《――――》」

長髪の男が、有馬に聞き取れない小声で言葉を発した。

白い杖の先端が、淡い光を発する。そのままくるりとタペストリーを円形になぞると、光が尾を引いて円を描き、続いてタペストリーが下から巻き上がる。

(……違う、違う違う。花火の光だって尾くらい引くよ)

どきりとした。まさか本当に魔法なのかとも思ったが、有馬の常識と理性がそれ阻む。

花火の光と比べて空中に留まる時間が格段に長い事は、どうやら気にしない事にしたらしい。

長髪の男がその先にあった階段を上がって行き、それにもう1人の男、そして最後に有馬が続く。

有馬は疑問を心の中でつらつらと並べ立てられながらも、黙って昇って行った。


「……わお」

そして上にあった部屋に着くと、有馬は小さく歓声を上げた。

円が二つ連なったような、瓢箪型の部屋。両方の部屋の端に、それぞれドアがついている。

二つの部屋の間には段差があり、大きい方の部屋の方が高い。床には深い赤の絨毯が敷き詰められて、踏み込むと体が少し沈んだ。

(ホグ○ーツの校長室みたい)

思わず心の中でそう呟く。きょろりと部屋を見回し、有馬はある一点に目を留めた。

――大きな方の部屋に置かれた、机と椅子の横。

そこに一匹の、真っ白な狼が蹲って眠っていた。そして――

「それが、花嫁か」

大きな口を開けて、妙に色気のある低音で喋ったのである。

そしてすっと立ち上がったかと思えば、すたすたと歩いてくる。

(な、な、何!?)

起き上がった狼は更に巨大に見えた。有馬の背が低いとはいえ、胸ほどまでのサイズは明らかに異常だ。

噛まれたら一たまりも無いだろう。思わず後退りをした有馬の背を、とん、と押す手。

「大丈夫ですよ」

長髪の男の声。有馬は戦々恐々としながら、近づいてくる狼を真っ直ぐに見据えた。

特に彼女の気が強い訳ではなく、野生動物に遭ったら目をしっかり合わせろと本で読んだのを思い出しただけだが。

狼は、有馬の腹あたりに鼻を寄せてすんすんと嗅ぎ、しばらくそうしてから頬で擦り寄った。

「中々に、肉付きのよい女子じゃのう。よい、よい。心の臓の音も、穏やかで安定しておる」

肉付きの良い。

有馬は仄かに目の下をぴくりとさせ、若干嫌そうな顔をした。

しかし襲ってこないと分かり安心したらしい。

「あなたは?」

ひとまず冷静に、巨大な狼に尋ねる。

「我はこの部屋を守護し続けてきたもの。名は無い」

「……名前、無いの? 何て呼べばいいの」

「そやつらは、守護者殿と呼ぶがのう」

「じゃあ、守護者……さん」

尊大な調子の狼に、すりすりすりすりと腹のあたりに頬擦りをされ、有馬は顔を引きつらせる。

「守護者殿、どうなされたのです?」

「馨しい匂いがする」

(に、肉の匂いでもするかな……)

思わず腕を上げてすん、と嗅ぐ。汗と埃の臭いがする。虚しくなった。

「守護者殿、ひとまず話をせねばならないのだが」

「分かっておる」

低い声に合わせ、前触れ無く小さい側の部屋に二つのソファが現れた。

「――っ!」

有馬は目を見開く。二度目だが、やはりさっきとは違い、誤魔化しの言葉も見つからないほど魔法染みている。

しかしまだ、自分に想像のつかないトリックがある可能性も否めない。

「座ってくれ」

そう促され、たじろぎつつも腰掛ける。高級げな赤いソファは、身を任せるとふんわり沈み込んだ。

その隣にひょいと狼が飛び乗り、座った有馬の太腿に顎を乗せる。

有馬は若干体を強張らせたが、生来の動物好きの本能が勝ったのか雰囲気を和らげた。

「さて、説明を始めましょう」

もう片側のソファに、殿下と呼ばれた男が座り、当然のように長髪の男はその斜め後ろに立つ。

「まずは自己紹介から始めましょう。あなた様はアリマ・キノサキ様でよろしいですか?」

「あ、はい」

思わず返事をしたが、すぐに我に返って有馬は怪訝な顔をする。

「……いや、何で知ってるの?」

「伴侶候補のプロフィールを見たので。不快な思いをさせてしまったでしょうか」

「別に、いいけど……」

(……ってもしかして体重まで知られてるのかな?)

知られたからどうという訳でもないが、複雑な気分ではある。

「俺は、フォルテリア・ダグラス・シェパーダ・ウォルフ・アニマラーナ。

この国、アニマラーナ王国の第一王子だ」

「ふーん」

勿体つけるような口調の自己紹介を一刀両断。有馬は自分の体重について思案していて、上の空である。

「……フォルテ、と呼んでくれ……」

「うぃ」

フォルテは口元に手を当てて、小さく息を吐く。王族どころか王となる者だというのに、妙に哀愁ある仕草だった。

「私はシヴィルクス・アルマータ・レトリーヴァ・ウォルフ・アニマラーナです。シヴァとお呼びください」

優雅に一礼し、有馬もようやく目を向けた。落ち着いて見れば2人とも、輝くような美貌である。

(……うん、よく考えたら美味しいか、イケメン2人に犬まで)

さりげなく手を伸ばし、狼の頭を撫でる。柔らかな毛並みに、思わず口元も緩んだ。

「うむ。では、説明を始めよ」

狼は目を細め、そう言って気持ち良さそうに耳を垂れた。それを見てフォルテとシヴァが妙な顔をしているが、有馬は狼に集中していて気づかないようだ。

「……。まず我らの国の事から説明いたしましょう」

釈然としない顔を笑顔に戻し、微妙に引きつったまま説明を始める。

話が始まると、有馬は時折撫でる手を止めるほど聞き入った。

(嘘だとしても本当だとしても、物語みたいだ)

剣と魔法のファンタジーな世界、それだけで既に驚きに値する。2人の非現実的な銀髪にやや予想はしていたが、獣人だと聞いて更に驚いた。

有馬はリアリストだが、それでいて非現実を待ち望んでいる節があった。

故に、一度信じてしまえばもはや疑う事なく受け入れて、むしろ次は何かときらきらと目を輝かせ始めた。

「なるほど、深刻だね」

「そんな嬉しげな顔で深刻とか言われてもな」

とはいえ、まだその目は映画を眺めているようなものであったが。

「この世界に人間はいるんでしょ? 何でこっちの人を伴侶にしないの?」

「人間は、我々獣人を疎むのです。混じり物、とね」

「なるほど……人種差別ね」

何となしに言った言葉だが、ぴくりとシヴァが一瞬顔を硬直させ、フォルテも少し驚いた顔をする。

「人種差別、とは少し違う。そもそも俺たちは人間ではないから人種とは言わないだろうし」

「いや、人種差別は人種差別だよ」

「……まあ、いいか。変な感じだな」

有馬はその言葉に首を傾げる。2人はそれ以上言及せず、話を続けた。

「それとですね、今やこの世界に純粋な人間というものほんの一握りしかおりません。王族、しかも歴史の長い国の方々だけでして。分かっていただけましたか?」

「プライド高そうだし、無理だろうね。……純粋な人間じゃないと駄目なの?」

「はい。奇形児や半獣……人の形を取れない獣人、あるいはただの獣が生まれてくる事が大半でして。ああ、平民はその限りではないです」

近親間の生殖でのリスクと似たようなものである。

ただし、比較的近親での婚姻を繰り返した王族とは違い、平民は安定した血を持っているためそのリスクは無い――と言われているが、真偽は定かではない。

「なんとなく分かった。――んだけど、何でわざわざあたしみたいのを呼んだの?

不細工だし、太ってるし、性格もいいとは思えないし」

「私達が求めるのは、そういった表面的な事では無いからです。

王と性別が違う事、この世界の人間と同じ身体構造をしている事、健康状態が良好で生殖機能に不全が無くこちらで対処できない病気を持たない事、その他色々」

「実用重視って事? ……でも、そのくらいならもっと美人が居るでしょ」

「容姿は基準に入れていません。また、候補は見る事ができますが、最終決定は術によるものでして。異性の好みはそこそこ反映されるはずですが」

「…………好み?」

フォルテが首を傾げる。彼自身あまり女性に興味のあるタイプではないが、それでもぼんやりと、女性に好き嫌いを感じる事はある。

どちらかといえば健康的で明るく、素朴な風の女性に心惹かれる事が多い。

有馬は単に外に出たがらないからか色白で、長い髪の所為かやや大人しげに見える。

素朴な町娘というよりは、貧乏貴族の娘のような印象か。

「失礼だね、ほんと」

その呟きを聞いて有馬が、からかうような言葉をかける。フォルテが慌てて謝った。

「……で、あたしを帰して新しく召喚するっていうのは?」

「ほぼ不可能です。送還魔法は存在しませんし、再召喚も伴侶が子を成さないうちに亡くなった場合しかできません」

「なるほど。……ん? メール……手紙は送れたのに?」

「あれは干渉魔法と呼ばれるものです。形ある物を送る事は大変難しいですし、生命体となると完全に不可能と言われています。

今回の手紙ですが、思念を電波とやらに変えて送る事が出来たので、随分と簡単でした。手紙となると、一時的に向こうの生物の体を借りて操って書かせるしかないので」

不便だ、と有馬は思った。魔法も万能ではないらしい。

(思念を、電波に……じゃあ電気にも変えられるかな? ……携帯とか、プレーヤーとか、電子辞書とか、充電切らしたくないし、なんとかなんないかな)

思い出したように携帯を出して、電源を切って電池を取り出す。電子辞書の充電池も抜き、それは何ですか? というシヴァの質問を適当にかわして鞄にまた仕舞った。

プレーヤーはスリープにしてある。完全に電源を落とす方法は知らないため、早急に充電方法を探さなければいけないが、検討もつかなかった。

他に電化製品は無い。というより、普通の人が持ち歩くような電化製品は殆どこの程度だろう。

万歩計、ノートパソコン、電子手帳や携帯ゲーム機の類が加わる場合もあるが、有馬は持ち歩いていない。

「ねー、あたしにも使える? 魔法」

「……どうでしょうね。歴代の召喚された方々は全く使えなかったそうですが……。

アリマ様、学問は得意な方ですか?」

有馬は首を傾げる。魔法と一体どんな関係があるのだろう? そう思いつつ、正直に言う。

「物にもよるけど。国語とかは得意かなぁ、あと情報処理も好き。歴史とかも」

「そうですか。ならば、出来るかもしれません――まあ、この話はまた後ほど。

これからの事を、説明させて頂きます」

――これからの事。有馬にとっても気がかりな案件である。

伴侶となるなら悪い扱いは受けないだろうが、心の準備もさせて欲しい。

「アリマ様は15歳でいらっしゃいますね。この国では、婚姻を許されるのは男女共に、16歳からになります。

この世界の暦はあなたの世界と同じですが、時間にずれがあるようでして。

あなたの世界では春でしたがこちらではまだ1月の1日――つまり結婚するには半年近く待たねばなりません」

有馬の誕生日は、6月の6日だ。つまりあと半年近く待たなければいけない事になる。

「1月、1日……え、……元旦? お祝いとかしなくていいの?」

「先年末に国王陛下が崩御なされましたのでね。それに、召喚する日というのは限られていまして、月と日が揃う日のみなのです。丁度良かったんですよ」

1月1日、2月2日、そういう日のみということだ。

これは魔法の決まりというよりは儀礼的な事だが、一応重要ではある。

「……はあ」

「ですから、半年ほどこの部屋で過ごしていただく事になります。それに、いきなり結婚するという訳にもいきませんから、一先ずは半年後に婚約発表ということで。

――さて、肝心な事を聞き忘れていましたが、これは殿下から」

そう言ってシヴァはフォルテに小さく耳打ちした。途端に、すっと真面目な顔になる。

見れば見るほど整った顔立ちだ。すっと通った鼻筋にきりりとした口元、何より有馬は青い目が気に入った。ツンとしたような感じで、少し釣り目気味である。

(かっこいい、かも? いや、シヴァさんも捨てがたい)

のんびりとそう考えつつフォルテの言葉を待つ。

背がすっと伸ばされ、いつに無く真剣な顔で。

「アリマ・キノサキ。我が伴侶となり添い遂げ、子を成してこの国の力になってくれるか」

どきり、とする。初対面からまださして経っていないのだが、ストレートな言葉に気圧される。

何しろ、固い言葉ではあるが、意訳してみればプロポーズの言葉なのだ。

「はい」

有馬は、一つも気の利いた言葉は思いつかなかったが、とりあえず返事をした。

「悪くはないしね。いいよ」

そしてあっさりと付け加えるが、その言葉尻が僅かに震えた。それに気づけたのは、狼だけであったが。

「よかった。断られたら、どうしようかと……」

「その時は、あたしを殺して再召喚?」

真顔で述べると、フォルテもシヴァも少し面食らった。

反論しようとも思ったが、確かにその通りである。そのまま放るわけにもいかないし、下手に逃亡されれば王家の存亡に関わる。

結局は伴侶にするか殺すか、なのだ。あるいは無理矢理にでも子を産ませるか、惚れるまで必死にアピールするか。

「未練とか、無いのか」

「さほど無いよ。というか、先が見えなくて困ってたところだし、永久就職先見つけたと思えば全然」

小指の爪の先ほどもシンデレラストーリーに憧れる様子の無い淡白な台詞。

少なくとも世の夢見る女性達に見られたら殴られる事は確かである。

しかし今の所、有馬に不満は無かった。むしろ社会のしがらみから解放されたと思えば自分の貞操くらい大盤振る舞いしてもいい位に思っている。

「って言うか、未練たらたらになりそうな人は召喚しないでしょ」

「その通りですね。条件に入っていますし」

「ま、無いでもないんだけど。まだ読みたい本も、やりたい事もあったけど。別になくても生きてけるし」

突き詰めてしまえば、人間など身一つで生きられない事も無い。

少なくとも、有馬は生きていけないほど依存している物は無い。

強いていうのなら、紙と書く物が無い生活は厳しいかもしれないが。文も絵も書く事が好きなのだ。

「1つだけ言うなら、あたしを好きになって、別れるまでは好きでいて」

離婚か死別するか。それまでは、少しは好きでいてほしい。

ほんのささやかな願いに、フォルテは神妙に頷いた。

初めてみました。拙い文章ですがどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ