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私意的な家族

作者: SEI

   恣意的な家族


 あるところに一組の夫婦がいました。二人の性格は正反対といっていい程異なった夫婦でした。

 旦那さんの名前は純一。

 考えるよりも前に行動してしまうような直情的な性格。座右の銘は「筋肉は裏切らない」体育会系の熱血漢です。

 奥さんの名前は咲子。

 石橋を叩いて渡るような理知的で冷静な性格。座右の銘は「ペンは剣よりも強し」文化系の学問主義です。

 なんの因果かお互いに惹かれ合った二人は結婚し、やがて子供が出来ました。

 子供の名は詩歌しいか

 二人はその正反対な性格ゆえ喧嘩をする事も少なくなかったですが、互いに子供を愛しとても幸せに暮らしていました。

 そして二人の子供(詩歌)が小学生になった時の事です。二人は今までで一番激しい言い争いをしました。それはそれは激しい言い争いでした。

 二人は正反対の性格でしたが二つだけ共通点がありました。一つは互いに独善的で頑固なところ。二つ目は詩歌の事を深く愛している事です。

 純一は言いました。

「詩歌には野球を習わせよう。団体競技は協調性や人と協力する喜び、何より自分自身に自信を持てるようになり向上心が高まったり、他にも色々と大事な事が学べる。俺がそうだったんだから間違いない」

 それを聞いて咲子は鼻息荒く言い返します。

「女の子なのに野球なんて冗談じゃないわ。それより詩歌には勉強をさせないと。小学生になったんだから塾に行かせましょう」

 二人はお互いに一歩も引かず、言い争いはそれはそれは長く続きました。詩歌はそれが嫌で嫌で仕方がありませんでした。二人の言い争いは詩歌の目には、悪意を含んで憎しみあっているようにしか見えません。

 二人の話し合いは進展する事なく、争う事にも疲れた二人は詩歌に尋ねます。

「詩歌、お前はどっちが正しいと思う?詩歌は野球とお勉強どっちがしたい?」

「詩歌ちゃんはママの味方よね?野球なんかよりお勉強の方が大事だってわかるわよね?」

「野球の方が」

「お勉強の方が」

「「良いでしょ?」」

 二人は声を重ねて詩歌に尋ねました。

 詩歌はそのどちらにも答える事が出来ませんでした。正反対な性格をした両親でしたが詩歌はパパの事もママの大好きでした。なので、どちらか一方の肩を持つなんて出来ません。ましてやどちらが正しいのかなんて聞かれても詩歌にはわかりません。

 結局その日は話し合いの決着はつく事なく、この話は延期する事になりました。

 その日の夜、詩歌はベッドの上で私にむかって尋ねました。

「ねぇカミサマ、私はどうしたら良いのかな?どうしたらパパとママは仲良くしてくれるかな。二人の言ってる事はどっちが正しいのかな。私はどっちを選ぶべきなのかな」

 真摯に悩む詩歌をとても哀れに思い、私は詩歌に言いました。

「安心しなさい詩歌ちゃん。あなたのパパとママはどちらも正しい。二人とも貴方の事を想っての事なのです。そんなに悩まないでどちらでも好きな方を選びなさい」

「パパとママ……どっちも正しいのか。ありがとうカミサマ」

 そう言って詩歌は眠りにつきました。


 翌日、詩歌は純一と咲子にこう言いました。

「私野球もお勉強もどっちもしたい。パパもママもどっちも正しいと思うから」

「そうかそうか!」

「そうねそうね!」

 詩歌がそう言うと二人は嬉しそうに声をあげました。二人が仲良くなって詩歌も笑顔になりました。


 それからしばらく後、再び言い争いが始まりました。その内容は前回と同じ事でした。

 純一は言いました。

「詩歌に音楽をやらせよう」

 咲子は言い返しました。

「そんな事よりパソコンをやらせないと」

 二人の言い争いは続きました。二人の言い争いは詩歌の目には、悪意を含んで憎しみあっているようにしか見えませんでした。

 詩歌は再び言いました。

「私どっちもやる」

 すると二人は言い争いを辞めて再び仲良くなりました。


 それからまたしばらく後、再三言い争いが始まりました。詩歌はその言い争いも同じようにして解決させました。

 同じような事は何度も繰り返されました。

 そして…

 詩歌の日常はとても忙しいものになりました。

 月曜日は……英会話とスイミング

 火曜日は……野球とピアノ

 水曜日は……塾と書道教室

 木曜日は……塾とパソコン教室

 金曜日は……バレエと器械体操

 土曜日は……野球と英会話

 日曜日は……野球と家庭教師授業


 毎日毎日気が休まる事ない日々を詩歌は過ごしていました。やがて詩歌に限界が訪れました。

 詩歌は私に縋りつきむせび泣きました。

「私もうヤダよ…毎日毎日疲れて大変で、本当はどれも楽しくないの。忙し過ぎてどれもちゃんと出来なくて皆より下手くそだし辛くてたまんないの。ねぇカミサマ、私どうしたら言いの?」

 それを聞いて私はとても哀れに思い、力を貸してあげる事にしました。

「泣かないで、詩歌ちゃん。大丈夫、私が協力してあげるからね」

「ありがとうカミサマ」

 すると詩歌は安らかに微笑み寝入りました。


 翌日。私は純一と咲子を消してあげる事にしました。


 詩歌は親族の人達と一緒に病院の待ち合い室にいました。おじいちゃんやおばあちゃんと一緒です。皆して不安気な面持ちで待ち続けるいると、やがてお医者さんが出て来ました。

 そして「残念ですがお亡くなりになりました」と言いました。おじいちゃんもおばあちゃんも一斉に泣き出してしまいました。

 しかし詩歌は違いました。

「よかった。これでもう習い事しなくて良いんだね。本当に良かった……」詩歌は心底ほっとしていました。

 お医者さんが尋ねました。

「君は一体どうやって両親を殺したんだい?」と

 すると詩歌は微笑んで返事を返しました。

「ふふっ、秘密です。カミサマとの約束だから」


 私意的な両親そっくりな性格の詩歌ちゃんなのでした。


友達に見せたら週刊ストーリーランドみたいだ、と言われました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのした文章からの意外なラストが、なんと言えず快いものでした。 [気になる点] 「「 ~ 」」 これは使用してもいいものでしょうか?私もわからないのですが。 [一言] はじめまして、フ…
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