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心の迷路「雨に潜む影」

雨はまだ降り続いていた。周は診察室を出て、廊下を歩く。壁の白は蛍光灯の光で少し黄ばんで見える。遠くから、低いうめき声が聞こえた。

「また始まったのか…」心の中でつぶやき、周は足を止める。

声の先には、一人の青年・村上翔むらかみ しょうがベッドに座っていた。手には古びた日記を握りしめ、ページをめくる音だけが廊下に響く。

「先生、これ、見てください…」

日記には、未来に起こる出来事が書かれていた。最初は些細なこと、廊下で誰かが転ぶとか、雨漏りの水が床に落ちる音のことなど。しかし、ページを進めるごとに、奇妙に現実と一致する内容が増えていく。周は背筋が寒くなった。

次の瞬間、廊下の向こうから足音が近づく。周は振り返るが、誰もいない。代わりに、窓ガラスに映る自分の影が、微かに歪んで揺れているのを見た。

「俺の影…?」

その夜、周は自分の診察ノートに目を落とす。患者の症例だけでなく、自分の過去の夢や後悔も、知らず知らず書き込まれていた。まるで、病院の空間が彼自身の心を映す鏡のようだった。

周は思った――この病棟では、誰が患者で誰が医師なのか、どこからが現実でどこからが心の迷宮なのか、もう分からなくなるのかもしれない、と。

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