『彗憐の図書室でのひととき』
彗憐「……」ペラッ
放課後、図書室には静寂の中に紙と紙が擦れる音だけが聞こえる。
何者にも邪魔をされず、ゆったりとした時間が過ぎていく。
彗憐「…ふふっ」ペラッ
窓から差し込む陽光は、静かに舞う埃を、宝石のように輝かせる。
図書委員であるボクは、誰にも邪魔をされないこの優雅な時間が、何よりも代えがたい休息の時間であった。
彗憐「…あっ、もうこんな時間。」
ボクは本を閉じ、完全下校には早いが、いつもと同じように誰も来なかったため、早めに図書室を閉じようとした。
その時、ガラッと扉が開かれた。
美鈴「おぉ〜間に合ったぁ!」
彗憐「…美鈴さん。」
久しぶりに見た彼女は、以前よりも背が縮んだようにも感じた。
美鈴「彗憐じゃん、同じ高校だったんだな〜」
彗憐「…は、はい。」
小学以来に顔を見合わせたのに、笹野美鈴はボクのことを認知してくれていた。…ちょっと、嬉しかった。
美鈴「あ、もしかして図書室閉じようとしてたの?」
彗憐「…い、いえ…。まだ時間ありますので…」
美鈴「ごめんなぁ〜、すぐに見つけて帰るからなぁ!」
彼女は笑顔でそう言うと、専門職の本が多く置かれるコーナーへ向かった。
ボクは彼女を見守りながら、読んでいた本の続きを読もうと座った。
彗憐「…ん?」
椅子に手をかけた時、視線を感じたボクは、カウンターに目を向けた。
彗憐「…美鈴さん?」
そこには先ほどまで奥にいた美鈴が顔をのぞかせていた。
彗憐「もう…、お決まりですか?」
彼女は恥ずかしそうに笑い、顔を横に振った。
美鈴「彗憐、そこにいるってことはさぁ、図書委員なんだろぉ?
…悪いんだけどさぁ、探して欲しい本があんだぁ〜」
彗憐「…え、あ、はい。」
どんな本を探しているのか、彼女からは想像もつかなかったボクは、彼女に探している本を聞いた。
彼女は頬をかき、照れくさそうに答えた。
美鈴「…実はさぁ、看護職の本を探してて〜」
彗憐「…っ」
美鈴「彗憐、あんまりそういう顔はするもんじゃないぞ。普通に失礼や。」
彗憐「す、すみません…。」
いつもふわふわとしていて、何を考えているかも分からない彼女が、看護職に興味を持っていることに意外性を感じてしまい、ボクは思わず変顔をしてしまっていたようだ。
ボクは咳払いをし、彼女を案内する。
彗憐「…看護職…、おそらく、この辺かと…」
美鈴「おぉ〜!ホントだぁ!さすがは図書委員だなぁ」
彼女は優しく笑うと感謝を述べてくれた。
ボクは嬉しくて、自然に笑顔になれた。
美鈴「…彗憐はさ、いつ仲直りすんだ?」
彗憐「…え?」
彼女の借用書を作っていると、突然そんな事を聞かれた。
ボクは一瞬悩んだが、すぐに理解した。
彗憐「…ボクは…、臆病者ですから…。もう少し…」
苦笑いをしながら、ボクは手早く借用書を作り終える。
彼女は優しい目でボクのことを見ると、そっぽを向いて話し始めた。
美鈴「これは独り言なんだけどよ。
…やっぱりなんかさ、アイツ、元気ねぇんだよ。誰かさんが欠けたせいでよ。
ま、おかげで今は、塁っつう男子が迷惑被ってるわけだけどよ。
…アタシも寂しいわ…。」
彗憐「……そう、なんです…ね」
ボクはその独り言に相槌を返し、借用書を手渡した。
彼女は可愛らしく笑うと、「ありがとな、彗憐」と言って図書室を出て行った。
再び静寂となった図書室に、ボクは一人残った。
彗憐「……寂しい、か…」
ボクは窓から見える夕陽を見る。
彗憐「…」
今なら、また仲良くなれるのかもと思いながら、ボクは今日も一人で帰路につくのだった。




