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忘却術師は透明になる 〜記憶を消して人を救う代わりに、俺は誰からも忘れられる〜  作者: 黄昏
第4章:世界の真実

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第59話:レオンの正体


『LEON』

『ORIGIN』

『REAL』


浮かび上がった文字が、光の中で揺らいでいる。俺は、その文字を見つめていた。


「成り立ちが違う」


カイ大佐の言葉が、頭の中で響いている。何を言われるんだ。胸の奥が、冷たくなっていく。


「レオン」


カイ大佐の声。俺は、顔を上げた。


「お前は、現実世界に存在した人間の、記憶パターンから生成された」


  *


「……何を、言っている」


声が、震えた。


「他の意識体は、システムが一から生成した存在だ」


カイ大佐は、俺を見ていた。


「だが、お前は違う」

「お前は——『レオ』という人間の記憶を基に、作られた」


レオ。その名前が、頭の中で響いた。


「レオの記憶を基に……?」


俺は、カイ大佐を見た。


「それは、俺の記憶が、俺のものじゃないということか」

「俺が覚えていること……過去の記憶だと思っているものが、全部、そのレオという人間の記憶だと?」

「……そうだ」


その言葉が、胸に突き刺さった。


「……嘘だ」


俺は、言った。


「そんなの……嘘だ」

「嘘ではない」

「じゃあ、俺が感じてきたこと。俺が考えてきたこと……」


声が、かすれた。


「全部、誰かの借り物だったのか」


  *


カイ大佐は、答えなかった。


「レオは、孤児だった」


淡々と、説明が続く。


「施設で育ち、八歳の時、私の娘と出会った」

「リア……」

「そのリボンは、リアがレオに渡したものだ」


俺は、左手首を見た。青いリボン。


——忘れないで。


声が、頭の中で響いた。小さな手。笑顔。風に揺れるリボン。俺の記憶。いや、レオの記憶。


「レオは戦争に行った。その戦争で重傷を負い、精神も崩壊した」


カイ大佐の声が、遠くに聞こえる。


「この世界で心を癒しながら、現実で身体の治療を続けた」

「だが、身体が、治療に耐えられず」


沈黙。


「レオは——死んだ」


死んだ。その言葉が、頭の中で反響している。


「本来なら、お前も消えるはずだった」


カイ大佐の声は、平坦だった。


「レオが死ねば、この世界のお前も消える。それがシステムの仕様だ」

「……」

「私は、消すべきだった」


カイ大佐は、光の柱を見つめていた。


「管理者として、そうすべきだった」


その目に、何かがあった。言葉にならない、何かが。


「——できなかった」


それだけだった。理由は、言わなかった。


  *


「その後、お前は残り、進化した」


カイ大佐は、俺を見た。


「独自の意識を発達させた。お前の忘却術の才能は、レオのものではない」

「お前自身が、獲得したものだ」


俺は、黙っていた。言葉が、出てこない。


「……俺は」


やっと、声が出た。


「俺は、誰かのコピーなのか」

「俺が感じてきたこと。俺が考えてきたこと」


俺は、自分の手を見た。


「全部、俺のものじゃなかったのか」

「俺には、何もないのか」


カイ大佐は、答えなかった。ただ、俺を見ていた。その目に、何かがある気がした。


  *


俺は、深く息を吸った。


周りを見た。


ミラ。何か言いたそうに。でも、言葉が出ない。


ガロウ。目を逸らしている。


ニナ。心配そうな目。


アリア。自分のことで精一杯だ。


全員が、混乱している。整理する時間が必要だ。


「……大佐」


俺は、カイ大佐を見た。


「まだ、話すことがあるんだろう」

「……ああ。だが、続きは明日にしよう。少し整理する時間が必要だろう」

「……必ず話してくれ」


俺の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。


「全部、聞かせてくれ」


カイ大佐は、俺を見た。しばらく、黙っていた。


「……分かった」

「約束だ」

「ああ。約束する」


  *


俺たちは、システムコアを後にした。


階段を上りながら、誰も喋らなかった。


ミラが、隣を歩いている。何か言いたそうに、何度か俺を見た。でも、何も言わなかった。


俺も、何も言えなかった。


  *


夜。


俺は、一人で部屋にいた。窓の外を見つめている。


ミラが、何か言いたそうにしていた。でも、何も言わなかった。


当然だ。何を言えばいいんだ。


「コピーでも大丈夫だ」なんて、誰が言える。


レオの記憶から作られた。俺の感情は、レオのものなのか。このリボンへの想いは、誰のものなのか。


俺は——誰なんだ。


答えは、出ない。頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。でも、俺は、まだここにいる。この世界に、存在している。消えていない。それだけは確かだ。


明日、全部聞く。


俺が誰なのか、必ず確かめる。


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