第59話:レオンの正体
『LEON』
『ORIGIN』
『REAL』
浮かび上がった文字が、光の中で揺らいでいる。俺は、その文字を見つめていた。
「成り立ちが違う」
カイ大佐の言葉が、頭の中で響いている。何を言われるんだ。胸の奥が、冷たくなっていく。
「レオン」
カイ大佐の声。俺は、顔を上げた。
「お前は、現実世界に存在した人間の、記憶パターンから生成された」
*
「……何を、言っている」
声が、震えた。
「他の意識体は、システムが一から生成した存在だ」
カイ大佐は、俺を見ていた。
「だが、お前は違う」
「お前は——『レオ』という人間の記憶を基に、作られた」
レオ。その名前が、頭の中で響いた。
「レオの記憶を基に……?」
俺は、カイ大佐を見た。
「それは、俺の記憶が、俺のものじゃないということか」
「俺が覚えていること……過去の記憶だと思っているものが、全部、そのレオという人間の記憶だと?」
「……そうだ」
その言葉が、胸に突き刺さった。
「……嘘だ」
俺は、言った。
「そんなの……嘘だ」
「嘘ではない」
「じゃあ、俺が感じてきたこと。俺が考えてきたこと……」
声が、かすれた。
「全部、誰かの借り物だったのか」
*
カイ大佐は、答えなかった。
「レオは、孤児だった」
淡々と、説明が続く。
「施設で育ち、八歳の時、私の娘と出会った」
「リア……」
「そのリボンは、リアがレオに渡したものだ」
俺は、左手首を見た。青いリボン。
——忘れないで。
声が、頭の中で響いた。小さな手。笑顔。風に揺れるリボン。俺の記憶。いや、レオの記憶。
「レオは戦争に行った。その戦争で重傷を負い、精神も崩壊した」
カイ大佐の声が、遠くに聞こえる。
「この世界で心を癒しながら、現実で身体の治療を続けた」
「だが、身体が、治療に耐えられず」
沈黙。
「レオは——死んだ」
死んだ。その言葉が、頭の中で反響している。
「本来なら、お前も消えるはずだった」
カイ大佐の声は、平坦だった。
「レオが死ねば、この世界のお前も消える。それがシステムの仕様だ」
「……」
「私は、消すべきだった」
カイ大佐は、光の柱を見つめていた。
「管理者として、そうすべきだった」
その目に、何かがあった。言葉にならない、何かが。
「——できなかった」
それだけだった。理由は、言わなかった。
*
「その後、お前は残り、進化した」
カイ大佐は、俺を見た。
「独自の意識を発達させた。お前の忘却術の才能は、レオのものではない」
「お前自身が、獲得したものだ」
俺は、黙っていた。言葉が、出てこない。
「……俺は」
やっと、声が出た。
「俺は、誰かのコピーなのか」
「俺が感じてきたこと。俺が考えてきたこと」
俺は、自分の手を見た。
「全部、俺のものじゃなかったのか」
「俺には、何もないのか」
カイ大佐は、答えなかった。ただ、俺を見ていた。その目に、何かがある気がした。
*
俺は、深く息を吸った。
周りを見た。
ミラ。何か言いたそうに。でも、言葉が出ない。
ガロウ。目を逸らしている。
ニナ。心配そうな目。
アリア。自分のことで精一杯だ。
全員が、混乱している。整理する時間が必要だ。
「……大佐」
俺は、カイ大佐を見た。
「まだ、話すことがあるんだろう」
「……ああ。だが、続きは明日にしよう。少し整理する時間が必要だろう」
「……必ず話してくれ」
俺の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「全部、聞かせてくれ」
カイ大佐は、俺を見た。しばらく、黙っていた。
「……分かった」
「約束だ」
「ああ。約束する」
*
俺たちは、システムコアを後にした。
階段を上りながら、誰も喋らなかった。
ミラが、隣を歩いている。何か言いたそうに、何度か俺を見た。でも、何も言わなかった。
俺も、何も言えなかった。
*
夜。
俺は、一人で部屋にいた。窓の外を見つめている。
ミラが、何か言いたそうにしていた。でも、何も言わなかった。
当然だ。何を言えばいいんだ。
「コピーでも大丈夫だ」なんて、誰が言える。
レオの記憶から作られた。俺の感情は、レオのものなのか。このリボンへの想いは、誰のものなのか。
俺は——誰なんだ。
答えは、出ない。頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。でも、俺は、まだここにいる。この世界に、存在している。消えていない。それだけは確かだ。
明日、全部聞く。
俺が誰なのか、必ず確かめる。




