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忘却術師は透明になる 〜記憶を消して人を救う代わりに、俺は誰からも忘れられる〜  作者: 黄昏
第4章:世界の真実

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第57話:本物の救い


沈黙が、落ちていた。


「本物……?」


俺は、床に手をついたまま、カイ大佐を見上げた。


「どういう……ことだ……」


カイ大佐は、光の柱を見上げた。


「この世界の名前は、OBLIVION」

「心の傷を癒やすために作られた世界だ」


俺は、顔を上げた。


「現実世界には、戦争で心を病んだ人々がいる。彼らは医療用のカプセルに横たわり、この世界に意識だけを送り込んでいる」


カイ大佐は、俺を見た。


「お前が救った人々。エリカ。トーマス。エマ。彼らは全員、現実世界に存在する本物の人間だ」


  *


本物。俺がやってきたことは、無駄じゃなかった。胸の奥が、少しだけ軽くなった。でも。


「……俺は」


声が、出た。


「俺は、どうなんだ」


カイ大佐が、俺を見た。


「救った人々は本物の人間だった。じゃあ——俺は?」


俺は、自分の手を見た。


「この世界がデータなら……俺も、データなのか」

「俺は——最初から、作り物だったのか」


作り物。その言葉が、頭の中で響いている。


エリカを救いたいと思った。あの気持ちは——最初から、プログラムされていたのか。


トーマスの苦しみに触れて、胸が痛んだ。あの痛みは——データが生成したものだったのか。


エマの小さな手を握った時、守りたいと思った。あの想いは——俺のものじゃなかったのか。


マルコと笑い合った。

ガロウと肩を並べた。

ミラと手を繋いだ。


全部——最初から、作られていたのか。


「俺が感じてきた全ては」


声が、震えた。


「最初から——決められていたのか」


膝が、崩れる。


「俺は……何だったんだ」


  *


「……レオン伍長」


ミラの声。顔を上げると、ミラが俺の前に立っていた。その目が、真っ直ぐ俺を見ている。


「ミラ……」

「私には——分かりません」


ミラの声が、震えていた。


「あなたが作り物かどうか。私には、分かりません」


俺は、黙っていた。


「でも」


ミラは、一歩近づいた。


「私にとって——あなたは本物です」

「……え」

「あなたに救われました」


ミラの目から、涙が溢れた。


「あなたに守られました」

「あなたがいてくれて——私は、嬉しかった」


ミラの声が、震えている。


「初めて会った時、あなたは私に優しくしてくれました」

「誰も信じてくれなかった時、あなたは私を信じてくれました」

「一人だった私の隣に——あなたは、いてくれました」


涙が、ミラの頬を伝っていく。


「それは——嘘じゃない」


ミラは、俺を見た。


「世界が作り物でも。あなたが作り物でも」

「私が感じたことは——本物です」

「あなたは——私にとって、意味のある人です」


意味のある人。ミラの言葉が、胸に染みていく。俺は、作り物かもしれない。俺が感じてきた全ては、プログラムかもしれない。


でも——ミラが感じたことは、本物だった。俺がここにいたことは、ミラにとって意味があった。


「……ミラ」


声が、震えた。喉の奥が、熱い。作り物でも——誰かにとっては、意味があった。作り物でも——誰かの役に立てた。俺は——無駄じゃなかった。


「ありがとう」


視界が、滲んでいく。


「ありがとう……ミラ」


涙が、流れた。止めようとは、思わなかった。


「良かったな」


振り返ると、ガロウが壁に背を預けていた。ガロウの声は低かったが、どこか温かかった。


「お前が何者でも——意味はあったってことだ」


俺は、頷いた。


「……ああ」


  *


沈黙が、流れた。


俺は、涙を拭って、立ち上がった。


「カイ大佐」


俺は、言った。


「……世界のことは、分かった」


俺は、カイ大佐を見た。


「では、俺たちは何なんですか」


カイ大佐は、答えなかった。


「作り物だとして——何のために作られた」


ミラも。ガロウも。アリアも。マルコも。ニナも。


ニナ。あの子は、俺のことを覚えていた。記憶を消したのに——『心が覚えている』と言っていた。


「俺たちは——何なんだ」


  *


長い沈黙。


カイ大佐は、光の柱を見上げた。


「それは、次に話す」


その声は、重かった。俺は、一歩前に出た。


「今すぐ教えてくれ」


カイ大佐が、俺を見た。


「待てない。ここまで来て、待てるわけがない」


カイ大佐は、俺を見ていた。しばらく、黙っていた。そして、小さく頷いた。


「……いいだろう」


カイ大佐が、空中に手を翳した。


「アリア。ニナ。メモリアルタワーの最下階……システムコアに来い。レオン達もいる」


空間に、声が響いた。


「次に話すことは——お前たちだけでなく、この世界に生きる全ての者に関わる」


光の柱が、揺らいだ。文字が、浮かび上がる。


『ENTITY』

『CONSCIOUSNESS』

『GENERATED』


俺は、その文字を見つめた。


俺たちの正体が——明かされようとしている。


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