表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却術師は透明になる 〜記憶を消して人を救う代わりに、俺は誰からも忘れられる〜  作者: 黄昏
第4章:世界の真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/66

第55話:扉の前で


夜明け前。


空は、まだ暗い。東の空が、わずかに白み始めている。俺とミラは、メモリアルタワーの前に立っていた。青白い光を放つ巨大な塔。見上げると、首が痛くなるほど高い。


「待ってたぜ」


低い声。振り返ると、ガロウが立っていた。


「ああ」

「予定通りだな」


ガロウは、タワーを見上げた。


「警備の交代は、夜明け前後。そこが一番手薄になる」

「シャドウの時代に、何度かここを通った記憶がある。断片的だが……覚えてる」

「頼りにしてる」

「任せろ」


ガロウは、タワーの裏手を指した。


「裏口がある。そこから入る」


俺は、ミラを見た。ミラは、小さく頷いた。


「行こう」


三人で、歩き出した。


  *


裏口は、ひっそりと存在していた。普通なら気づかない。壁と同化するような、目立たない扉。


ガロウが、扉に手をかけた。


「鍵は……」

「開いてる」


ガロウの声が、低くなった。


「おかしいな。本来なら、厳重に施錠されているはずだ」

「……罠か」

「分からない。だが」


ガロウは、俺を見た。


「引き返すか」

「……いや」


俺は、首を横に振った。


「ここまで来て、引き返せない」


ガロウは、頷いた。


「そうだな」


扉が、開いた。暗い通路が、奥へと続いている。三人で、中に入った。


  *


通路は、長かった。薄暗い。非常灯だけが、ぼんやりと足元を照らしている。


「この先に、下へ続く階段がある」


ガロウが、前を歩きながら言った。


「最深部は、地下だ。相当深い」

「どれくらいだ」

「分からない。俺も、最深部には入ったことがない」


ガロウの声が、少し緊張している。


「シャドウの時代でも、ここは禁域だった」

「管理者権限を持つ者以外、誰も入れない」


階段が見えた。下へ、下へと続いている。闇の中へ。


「行くぞ」


三人で、階段を下り始めた。


  *


階段を下り続けた。空気が冷たく、重くなる。


「……レオン伍長」


ミラの声が、震えている。


「見えますか。あれ」

「ああ」


俺は、頷いた。ノイズだ。


壁に。天井に。空気の中に。数字の羅列が、流れている。文字の断片が、明滅している。以前よりも、はるかに激しい。


「なんだ、これは……」


ガロウの声。驚いている。


「お前にも、見えるのか」

「ああ。見える」


ガロウは、周囲を見回した。


「何だ、この数字は。文字は……何が起きてる」


俺は、答えられなかった。


「最深部だからでしょう」


ミラが、静かに言った。


「ここでは……世界の境界が、曖昧になります」

「だから、誰にでも見えてしまうのかもしれません」


ガロウは、ミラを見た。何か言いかけて、口を閉じた。


「酷くなってる」


ミラが、呟いた。


「ノイズが。前よりも、ずっと」


俺は、頷いた。これほど激しいノイズは、初めてだ。


「進もう」


俺は、言った。


「答えは、この先にある」


  *


階段を下り切った。


目の前に、巨大な扉があった。金属製。重厚。両開き。

そして、扉の上に、文字が浮かんでいた。


『OBLIVION』


あの文字だ。ノイズの中で見た、あの文字。


「OBLIVION……」


ガロウが、呟いた。


「何だ、これは。何を意味してる」

「分からない」


俺は、首を横に振った。


「でも、この先に、答えがある」


扉に、手をかけた。重い。でも……動く。ゆっくりと、扉が開いた。


  *


目を、奪われた。


巨大な空間。天井が見えないほど高い。そして、光。無数の光が、空間を満たしている。


光の糸が、縦横に走っている。青白い。金色。銀色。様々な色の光が、交差し、絡み合い、流れている。


「これは……」


ガロウが、息を呑んだ。


「何だ、ここは……」


中央に、光の柱があった。天へと伸びている。いや、天井を突き抜けて、さらに上へ。その光の柱の周りを、文字と数字が渦巻いている。


『OBLIVION』

『SYSTEM』

『MEMORY』

『ERROR』


断片的な文字。意味は分からない。でも、ここが、タワーの中枢だということは分かった。


「ここに……」


俺は、呟いた。


「全ての答えが……」


  *


「——待っていた」


声が、響いた。


振り返る。光の中から、影が現れた。逆光で、顔が見えない。だが、その声は、知っている。


「カイ大佐……」


影が一歩前に出る。黒い軍服。白髪交じりの髪。鋭い黒い瞳。カイ大佐だった。


「……」


俺は、身構えた。ガロウも、ミラも、緊張している。


「お前たちが来ることは、分かっていた」


カイ大佐は、静かに言った。


「裏口の鍵を開けておいたのも、私だ」

「……なぜ」

「反逆者として捕らえることもできた。だが……」


カイ大佐の目が、俺を見た。


「お前たちがここまで来たということは」

「もう、止められないということだ」


カイ大佐は、光の柱を見上げた。


「それに……時間も無くなった」


光の柱が、揺らぐ。


「システムが、限界に近い」


カイ大佐は、小さく息を吐いた。


「予定より早いが……全てを話す時が来た」


  *


カイ大佐の声が、響いた。


「この世界の真実を」


光の柱が、揺らいだ。


「私の罪を」


ノイズが、激しくなる。


「そして」


カイ大佐は、俺たちを見た。レオン。ミラ。ガロウ。三人を、順番に。


「お前たちが何者なのかを」


  *


沈黙が、落ちた。


「覚悟はあるか」


カイ大佐の声が、低くなった。


「知れば、もう戻れない」

「お前たちは、二度と……同じ目で世界を見られなくなる」


俺は、拳を握りしめた。


ここまで来た。反逆までして、ここまで来た。胸の奥で、何かが燃えている。知りたい。全てを。


「……覚悟は、できています」


俺は、答えた。


「俺は……知りたい。全てを」


ガロウが、頷いた。


「俺もだ。俺の記憶を消した理由。監視をつけた理由。全部、聞かせてもらう」


ミラが、俺の手を握った。その手は、冷たく——少しだけ、震えていた。


「私も……覚悟は、できています」


カイ大佐は、俺たちを見た。しばらく、黙っていた。

そして、小さく、息を吐いた。


「……そうか」


カイ大佐は、小さく肩を落とした。その声は、低く、重かった。


「では、始めよう」


カイ大佐は、光の柱を見上げた。その横顔は、どこか、寂しそうだった。


「この世界の……本当の姿を」


  *


光の柱が、一瞬だけ——脈打った。


まるで、心臓のように。



第3章「真実への道」完


次章予告


全てが明かされる。

この世界が、何なのか。 住人たちが、何者なのか。 そして——レオンが、何者なのか。


「俺たちは……何なんだ……」


忘却を超えて、真実へ——


第4章「世界の真実」、開幕。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ