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謝罪するのはこちらですわ!~すべてを奪ってしまった悪役?令嬢の優雅なる防衛  作者: 水無月 星璃


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3/3

後編

逆境をものともせず、優雅に「ざまぁ」する貴族令嬢の、マイペースなひとり語り。

後編。

準備万端で迎えた王妃様主催のお茶会当日、わたくしは堂々と……ではなく、少し申し訳なさそうな表情で会場に入りました。

お茶会にはあのご姉妹もいらして、わたくしに挑戦的な視線を向けていらっしゃいましたわ。

ですが、わたくしはひとまずそれを受け流して、王妃様にごあいさつをいたしました。

「王国の慈悲深く寛大なる月に拝謁いたします。この度、ブランシェール辺境伯の嫡男、テオドール様と婚約をいたしました、エルディア帝国の侯爵家の娘、イザベラ・フォン・リースフェルトと申します。王妃様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」

そのように申し上げると、王妃様は少し不信感を抱いているようなご様子で、「顔を上げなさい、リースフェルト侯爵令嬢。わたくしが王妃のマグノリアです。あなたのお噂は、かねがね……」とおっしゃられたのです。

わたくしはすかさず、「まあ、あの噂でございますね。王妃様の御心を煩わせてしまいまして、大変申し訳ございません。ですが、あの話は事実と少し違うのです……」と言って、事の顛末をお伝えいたしました。


ですが、異国の令嬢の言うこと。

もちろん、簡単に信じていただけるとは思っておりませんでしたわ。

周りの淑女のみなさまも、信じられないといった様子でヒソヒソとお話をなさっていらっしゃいました。

「あの方、アルベール伯爵家のご令嬢に嫌がらせをしていると聞きましてよ?」「まあ、わたくしは、ブランシェール家のご令息の弱みを握って、無理やり婚約をさせたと聞きましたわ」という声まで聞こえてきて、驚いてしまいましたわ。

そんなお話、初耳なのですけれど?


王妃様もそれをお聞きになったのか、お顔を曇らせて「わたくしね、テオドールをとても可愛く思っているの。息子達もとても親しくさせてもらっていてね。彼が選んだ婚約者を疑いたくはないのだけれど、貴女を信用していいものか、正直迷っているのよ」と正直におっしゃられましたわ。

それを聞いたあのご姉妹は、「我が意を得たり」というお顔をして勝ち誇っていらっしゃいましたわね。

「イザベラ様、どんな理由がおありだったのかわかりませんが、ご家族を追放なさるなんて……」と、フェリシア様が涙を浮かべておっしゃると、フェルミナ様がすかさず「恐ろしい方ね! そんな方、優しいテオ兄様には相応しくないわ!」とおっしゃって。

周りのみなさまも、そうだと言わんばかりに頷いていらっしゃいましたわ。


これが四面楚歌という状況かしら。

うふふ。

でも、問題ございませんわ。

ここからが本番ですのよ?


わたくしは同情を誘うように、心から悲しそうな顔で「王妃様、不躾なお願いではございますが、どうか慈悲の御心で、わたくしの話をもう少しだけお聞きくださいませ!」と訴えました。

「王妃様のご心配は、当然のことと存じます。ですが、どうか、わたくしに弁明の機会をお与えくださいませんか?」と、涙ながらにお願い申し上げたのです。


「王妃様に対して、なんて厚かましいの!」とおっしゃるフェルミナ様と、「もうこれ以上、恥をさらさない方がよろしいわ。」とおっしゃるフェリシア様を一瞥し、わたくしは王妃様をじっと見つめました。

すると王妃様が、「では、納得できるよう、きちんと説明なさい」と言ってくださりましたの。

実は、事前に王妃様の親友であるテオ様のお母様にお願いして、王妃様宛にお手紙を書いていただき、わたくしの話を聞いていただけるようにお願いしていたのですわ。

根回しって大事ですわよね?


お許しをいただいたわたくしは、そこで証人を呼んだのです。

現われたのは、この国の外務大臣で、わたくしのお母様のお兄様である、伯父様。

思わぬ重鎮の登場に、その場はシンと静まり返りましたわ。


伯父様はまず、王妃様とお集りの淑女のみなさまにご挨拶なさいました。

それからわたくしの姿を見るや否や相好を崩されて、「おお、ベラ! 元気かい?」と、気さくに声をかけてくださいましたの。

わたくしも「ええ、伯父様。お陰様で、元気に過ごしておりますわ。」とお答えし、早速、「伯父様、お願いしていた証言、してくださる?」とお願いしたのです。

伯父様は「もちろんだとも。ベラが悪女だなんて、非道い噂もあったものだ。身内の恥を晒すことになるが、ベラのためだ。」とおっしゃって、証言を始めてくださったのですわ。


「実はその、私の妹が亡くなったと同時にイザベラの実父が浮気相手と娘を屋敷に引き入れまして。その者たちがイザベラを虐げた挙句、屋敷から追い出したのです。この国の侯爵家に婿入りした私に代わって、妹は実家の侯爵家を継いでくれていたのですが、爵位だけ夫に譲り、屋敷と土地はイザベラに相続させるという遺言を残していました。それが、遠国への長期出張から帰ってみれば、妹は亡くなり、忘れ形見のイザベラは追い出されていた。だから、私が間に入り、不届き者どもを追い出して、事態を収拾させたのです。」


そこまで一気に話すと、伯父様は慈しむようにわたくしを見て、「ベラ、助け出すのが遅くなって、本当にすまなかったね。」と言ってくださいました。

「いいえ、伯父様。事態を収拾させてくださっただけでなく、お母様に代わってわたくしを愛してくださり、養女にまで迎えてくださって、感謝しかございませんわ。テオ様との婚約を取り付けてくださったことも……。」と、わたくしは心からの感謝を込めて、そう申し上げましたわ。

伯父様は軽く首を振ると、「いや、私は当然のことをしたまでだ。それに、テオドールくんに見初められたのは、ベラが素晴らしい女性だからだよ。」と言ってくださいました。

それから、「王妃殿下。これが真実です。王家に忠誠を誓うものとして、噓偽りはないと宣言いたします。」と、きっぱりとおっしゃいましたの。


すると、静まり返っていた場がざわざわとざわめき出し、「では、本当はイザベラ様は被害者ですのね?」「ブランシェール辺境伯令息とのご婚約も、後ろ暗いことは何もなかったということ?」「国王陛下の腹心である外務大臣様の姪御様で、養女にまでなられたのなら、潔白なのではなくて?」という声が、あちこちで上がり始めたのですわ。


わたくしと伯父様の関係をご存じなかったフェリシア様とフェルミナ様は、バツの悪そうなお顔で唇を噛んで、悔しそうに体を震わせていらっしゃいましたわ。

うふふ、残念でしたわね。


でも、これで終わりではありませんのよ?


伯父様の証言を受け、王妃様は「わかりました。日頃から真面目で誠実な貴方がそこまでおっしゃるなら、信じましょう。イザベラ嬢にも申し訳ないことをしたわ。」とおっしゃってくださいました。

そして、柔らかく息を吐きながら、王妃様は優しい眼差しを向けてくださったのです。

こんな理知的で慈愛に満ちた王妃様がいらっしゃるなんて、この国は安泰ですわね。

わたくしは感激で胸がいっぱいになりながら、「とんでもないことでございます。無事に誤解が解けて、安堵いたしましたわ。」と、にっこり微笑みましたわ。


王妃様もホッとしたように微笑んでくださりながら、「でも、一体誰がこんな噂を流したのかしら。可愛いテオドールの結婚を邪魔するなんて、許せないわ。」と不機嫌そうにおっしゃったので、わたくし、すかさず、「それについて、申し上げたいことがございますの。」と、再び王妃様に頭を下げたのです。

王妃様は即座に頷いて、「いいわ、話してちょうだい。」と承諾してくださいましたので、わたくしは噂の出所について、把握した情報をお伝えすることにしたのですわ。


「少し前置きが長くなってしまうのですけれど、わたくし、魔石の収集が趣味ですの。」「魔石というと、魔力を帯びた宝石だったかしら?」「はい、おっしゃるとおりです、王妃殿下。その魔石の中には、音を集める性質を持つものがありますの。それは特徴的な色をしておりまして、とてもきれいなスカイブルーなのです。」


わたくしがそこまで言うと、あのご姉妹がハッと息を呑んで、胸元のブローチを押さえるのが目に入りました。

そう。

あのご姉妹にプレゼントした、テオ様の瞳色の、スカイブルーのブローチを。


そこで、わたくしは「フェリシア様、フェルミナ様、こちらへ来ていただけますか?」と、ご姉妹にお声掛けしましたの。


お二人は顔を見合わせると、少し青ざめたご様子で、恐る恐るこちらにいらっしゃいました。

そして王妃様に一礼し、わたくしに「イ、イザベラ様……私たちに、何の御用かしら?」「わ、私たちは何も関係ないわよ?」と引きつった笑顔でおっしゃったのですわ。

わたくしは涼しい顔で微笑んで、「申し訳ないのですけれど、わたくしがお二人にプレゼントしたそのブローチを、少し見せていただけませんこと?」とお願いいたしました。

「ブローチ、ですか? これはその、テオが私たちの為に見立ててくれた大切なものだから……」「そ、そうよ。貴女には渡せないわ!」と、フェリシア様とフェルミナ様は渋っていらしたのですけれど、王妃様が「二人とも、やましいところが無いのなら、イザベラ嬢に協力なさい。」と命じてくださったのです。


さすがのお二人も、王妃様の命令には逆らえず、渋々ブローチを渡してくださいましたわ。

そこでわたくしは侍女を呼んで、魔石の力を発現させる魔道具を持ってこさせると、ブローチのひとつを魔道具にセットしました。


すると、そこから会話が聞こえ始めたのですわ。

それは、フェリシア様とフェルミナ様のお声のようでした。

お二人の会話のお相手は、下級貴族の方々や買収した使用人、それに庶民も混じっているようでしたわ。

その内容は、あちこちで、わたくしに関する悪い噂を流してほしいという依頼でしたの。

ご自身の口から語るのではなく、他の方を使って、噂を流させていたのですわ。

しかも、ご自分たちの身元がわからないように変装までしていたようで。

証拠が残らないよう、細心の注意を払っていらしたようですけれど、魔石を通して丸聞こえになってしまいましたわね?


真相を知って、「なんて卑劣な!」「淑女にあるまじき行為ですわ!」と、周りの方々が口々におっしゃるものだから、フェリシア様もフェルミナ様も、抱き合いながら震えあがってしまわれましたわ。

王妃様も「なんということを……。処罰は追って伝えますが、まずはイザベラ嬢に謝罪なさい。今すぐ!」と、怒りも露わにおっしゃったので、お二人は慌てて謝罪を口にされたのですけれど。


「も、申し訳ないことをしましたわ。でも、でも! 元々、テオと結婚するのは私だったのです!」「そうよ! やり方はまずかったかもしれないけれど、そもそもこの女が、お姉様からテオ兄様を奪ったのが悪いのよ!」と、性懲りもなくおっしゃるものですから、伯父様の堪忍袋の緒が切れてしいましたの。

いつもは朗らかな伯父様が「まだそんなことを言うのか! アルベール伯爵には私からしっかり抗議させてもらう。ただで済むと思わないことだ!」と、凄まじい剣幕で大きな雷を落とされたものですから、お二人は揃って「「ヒッ!」」と喉を引きつらせて、その場にへたり込んでしまわれたのですわ。


わたくしはというと、なおもお二人を責め立てようとする伯父様をなだめて、お二人に微笑みかけました。

「フェリシア様、フェルミナ様。謝罪するのはわたくしの方ですわね。お二人のおっしゃるとおり、テオ様とフェリシア様の間に割って入ってしまったのは、わたくしの方なのですから。そのせいで、お二人に悪事を働かせてしまって、本当に申し訳なく思っておりますわ。でも、お二人が色々としてくださった(、、、、、、、)お陰で、テオ様との愛も深まりましたし、実家で起きた出来事の誤解も解くことができましたわ。わたくし、寧ろ感謝すらしておりますのよ?」


そう申し上げると、それを聞いたフェリシア様とフェルミナ様は、顔を真っ赤にして何かを言おうとしていらっしゃいましたけれど、伯父様と王妃様に睨まれて、黙って下を向いてしまわれましたわ。


後日、お二人はご両親からもたいそうなお叱りを受け、改めてご両親と一緒に謝罪に来てくださいました。

その時は、お二人ともさすがに意気消沈していらっしゃいましたわね。

なんだか、お気の毒でしたわ……。


それから、テオ様もお義父様もお義母様も、事の顛末をお聞きになってひどく驚かれて、幼馴染の暴走を止められなかったことを心から謝罪してくださいましたわ。

特に、フェリシア様が猫を被って腹黒さを隠していらしたことに、たいそう衝撃を受けていらっしゃいました。

まあ、わたくしには易々と見破られてしまったわけですけれど。

恋に盲目になると、人って視野が狭くなるものですし、直情的にもなりやすいですからね。


でも、先にも言ったとおり、どなたにも謝っていただく必要などございませんのよ?

寧ろ──。


謝罪するのはこちらですわ!

素敵な婚約者も、幸せな生活も、そして社交界の信頼も。

すべてを奪ってしまって、ごめんあそばせ?


さて、みなさま。

ここまでお話にお付き合いくださって、感謝いたしますわ。

あれから、わたくしはテオ様と無事に結婚式を挙げ、今はとても幸せに暮らしておりますの。

逆境は寧ろ、愛を燃え上がらせる良質の燃料。

みなさまも、どうぞ素敵な恋愛をなさってくださいませね?


イザベラ・ド・ブランシェール

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― 新着の感想 ―
イザベラ様ステキですわ。 多分きっとテオ様を掌でコロコロしてらっしゃる…!  ←もちろんそれとわからぬように。 きっとそちらの方が人生うまくいきますわね。 だってベラ様上位存在ですもの…! 末永くお幸…
アイロンハートの手弱女ということですかしら? 淑女とはかくあるべし、ですわねえ。
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