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賢明なる1匹の蟻

作者: 荒田森山

私は蟻である。しかし並の蟻ではない。

私こそ億万劫のともがらの中にあって、もっとも頭脳鋭敏なる蟻である。

はじめ卵から孵りし時より能く言葉を解し、類稀な様であったから、

これを見た者たちは、この子こそ麒麟児であるとはやし立てたのだった。


日月を経て長ずるほどに、ますますもって博覧強記。

洋の東西にまだ聞き知らぬ国、言葉、風俗はなく、

幾多の学問に通じ、俊才の名をほしいままにした。


ときの女王陛下も、私の稟性をお聞きつけになり、

御前にお召しになって、様々な問答を仕掛けなさったが、

私のお答えすること、立てたる板に水の流るる如く、

それを見て大そう驚きなさったのである。


歳、ひと月にして、すでに国の政を定める御前会議の末席を汚し、

陛下は何につけても、必ず私に事の成否善悪をお尋ねになるほど、

身に余るご信頼をこうむった。


私が陛下のご寵愛をひとりじめするのを見て、心中、面白からず思う者もいたが、

なかなか私をあげつらうべき点が見出せなかった。

あるとき、そのような者の一人が、まいないをもって私に、

道義に背かせようと企んだが、目もくれなかった。

そのようなことを重ねる事、幾度。

ついに嫉妬深き者たちも私を落としいれるのを諦めてしまった。


私が陛下に進言する事、ことごとく正鵠を射ていたから、

ますます信頼厚くなり、ついに小才を宰相に任じられた。

この抜擢に応えんものと、いっそう励み仕え、

陛下も私の献策をよく容れてくださったため、我が国は豊かに栄えた。


ところが、それを羨んだ近隣の国が、

我らの貯蔵した食糧を奪わんと大挙して押し寄せたから、

私ども臣下一同、陛下の旗本で存分の働きをして、

ついに寄せ手を打ち破り、我らが巣を守ったのである。


かくて陛下の御政正しくて、国安らかに治まること半年、

にわかに病を得られ、数日もせぬうちにお隠れになった。

国中に痛哭せざる者なく、皆陛下の治世を懐かしんで涙に暮れた。


この頃より、不吉な前兆が幾度となく見られるようになる。

天は青く晴れながらにして雹が降り注ぎ、日が昇ったまま姿を隠すこともあった。

民衆擾乱して、凶事の起こらんとするのを恐れたが、何の打つ手もなし。


ついに変事の起こる。

しばらく降り続いた雨も上がり、温かな日差しの注いだ日のこと、

どこからとなく2人の大きなる怪物の現れ来て、

大音声でわめきながら、我らが巣のまわりを荒らし始めた。

蟻たち皆、驚き戸惑って、巣へと一目散に逃げ帰ったが、

獰悪なる2人の化け物は、器に注いだる水をもって、

巣の出入り口に流し込み、中にいた者をみな溺れ殺した。


私1匹のみ、命からがら巣から這いでたが、そこで力尽き、

ついに怪物の1人に摘み上げられ高々と掲げられた。

この邪悪なる怪獣は笑いながら、私のもがく様を眇めていたが、

やがてそれにも飽きたとみえ、私を地面にたたきつけて、

一足で踏みにじった。


私は何が起こったか知る間もなく潰し殺され、

2人の怪物はなにやらおめきながら、どこかへ走り去ってしまった。

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