■第3話「部室に咲く妄想とリアル」──後編
【金曜日・放課後/書道部室】
──“強化週間”最終日
「はいはーい! というわけで、今から即興書バトルを開催しまーす!」
部長・つばさが、掛け声とともに巨大な模造紙と墨セットを持ち込んでくる。
「お題はその場でランダムに決定! インスピレーションで“書”を仕上げてください!」
「うわ、急に部活がエンタメ空間に……!」
「私こういうの苦手なんですけど……!」
沙耶が後ずさり、琴音が額をおさえる中、
紅葉だけがテンションMAXで前に出る。
「よっしゃぁああ! こういうの待ってた!」
「はい、最初のお題はこちらっ」
(カラカラカラ……!)←つばさ謹製お題ルーレット
\ お題:スキ /
「……スキって!?」
「書道部なのにお題が“恋愛感情”方面っ!?」
「文字数が短いです! しかも漢字じゃないです!」
「ひらがなで“すき”を書けってこと!? 部室ラブコメ始まってるじゃん!」
「というわけで制限時間、3分!」
「短っ!!」
──3分後。
「はいっ、ペン(筆)を置いてくださーい!」
並んだのは4人の“スキ”。
・琴音の『すき』:
几帳面すぎて感情が逆に読めない。左右対称すぎる“完璧なすき”。
・紅葉の『すきぃ!』:
墨の跳ねが爆発。ハートと汗と花びらが舞っている。
※筆だけでやりました。
・つばさの『すき』:
全体バランスが異常に美しく、まるで書道の教科書に載りそうな“理想的なすき”。
・沙耶の『すき』:
ひらがなの“す”が少しだけ震えていて、でも最後の“き”に小さな“笑み”が見える字。
「え……沙耶ちゃんの“すき”、すごくいいじゃん……」
「……あ、あれ? わたし、また変なことしちゃいました?」
「いや逆に、“リアル”だった。なんか……心臓にくる」
「筆のリズムに感情が出てるんですよ。わかる人には、ちゃんと刺さる書」
「……自分で書いて、ちょっと照れました。こんな字、書くつもりじゃなかったのに……」
沙耶は頬を赤らめ、そっと自分の『すき』を見つめた。
その時だった。
「なにこれ……青春かよ……」
聞き覚えのある、ぼそっとした声が入り口から。
「──っ先輩!?」
「また来たんですか、望月先輩……!」
前回の展示会にふらりと現れた元部長・望月梓が、再び部室に現れた。
「いや、今日もたまたま通りかかっただけ」
「通りすぎてください!」
「……でも、なんか、良い雰囲気になってんじゃん。
こないだより部室、ちゃんと“生きてる”って感じ」
つばさが少し驚いた顔で、でも嬉しそうにうなずく。
「……はい。“理想の部室”に近づけたと思います」
「へぇ。……でも、青春ってのは妄想と現実の“ズレ”を楽しむもんだよ?」
「……あんまり名言っぽくないですけど……刺さるんですよね、それ」
紅葉が笑いながら言った。
そして、琴音がふと沙耶にたずねる。
「ところで、さっきの“すき”は……誰に対する“すき”なんですか?」
「へっ……!?」
「書いた本人がいちばんわかると思いますよ?」
「え、え、え、えっと、えっとっ……わ、わたし、部室が、す、好きでっ……!!」
「おぉお〜〜〜〜! これは良い青春バクハツだ!!」
紅葉が盛大に拍手して、全員が笑う。
その笑い声が、部室に、文字にならないけれど確かな“気配”として残っていた。
──その日の終わり。
帰り支度をしながら、沙耶は窓の外を見て、ぽつりとつぶやいた。
「……理想の部活って、どこかにあるものだと思ってたけど……」
「いま、ここにあるものなのかもなって」
つばさがにっこり笑って答える。
「その気づきが書けるようになったら、もう一人前の“書道部員”です」
沙耶はうなずき、小さく深呼吸した。
(妄想と、現実のあいだにある“今”。それが、私の青春)
(第3話・完)