■第3話「部室に咲く妄想とリアル」──中編
【月曜日・放課後/書道部室】
──“書道部・現実強化週間” 初日。
「さぁっ、張り切っていきましょう! 本日は“臨書タイム”です!」
部長・つばさの掛け声とともに、部室に“緊張”が走る。
「臨書って……あの、古典の模写するやつ?」
沙耶が不安げに筆を構える。
「そう。楷書の基本を叩き込むことで、文字に品格が宿るのです!」
「っていうかさぁ、臨書って“自由じゃない感”すごくない? 私、もうすでに魂が悲鳴あげてるんだけど」
紅葉が机に頭を打ち付けて抵抗。
「……でも、こないだ琴音が“書には土台が必要”って言ってた」
「……言いましたけど、それを紅葉さんが引用してくるのは納得いかないです」
「つまりどういうことだよ!」
「あなたに“土台”の概念があるとは思えないという意味です」
「暴言だな!? なんか刺さったぞ今の!!」
そんなギャーギャーを聞きながら、沙耶はおそるおそる筆を動かす。
「……う、うわ、あれ、筆が滑る……思ったよりむずかし……!」
「大丈夫、最初はみんなそうです。沙耶ちゃんの筆は、“想い”に引っ張られるタイプだから」
「えっ……それって、いいんですか?」
「いいですよ。“妄想型書道”ってやつです」
「そんなのあるんですか!?」
「今、名付けました。新ジャンルです」
沙耶は苦笑しながらも、手元に向き直る。
(……たしかに、今の私って“理想の書道部”と、“現実の字の難しさ”の間でフラフラしてる……)
(でも、なんだろう。少しずつ、筆を持つのが楽しくなってきた)
琴音は黙々と筆を運びながら、ふと目を上げる。
「……沙耶さん、姿勢は崩れてますけど、運筆に迷いがなくなってきましたね」
「えっ、本当ですか!?」
「“味”が出てきました。……まだ美味しくはないですが」
「すごい褒め方が下手ですね!?」
一方そのころ──
紅葉は別の方向に爆走していた。
「はいこれ見て! “臨書”って言ったから、“魂で臨む書”ってことで“恋”って書いてみた!」
「いや意味わからん!! 字の構造もおかしいですからそれ!」
「しかも墨の代わりに、ピンクの絵の具混ぜてますよね!? 完全にアウトですよ!!」
「ラブ臨書です!」
「“臨死”の方に近い!」
バタバタ、わいわい、ちょいちょい筆を走らせて。
気づけば、部室にはほんのり“集中の空気”ができ始めていた。
つばさは、その様子を満足げに見守る。
「……やっぱり、“みんなで書いてる空間”っていいですね。
書道部って、部室の“静けさ”じゃなくて、“誰かが書いてる音”が大事なんだなって思いました」
「“カサッ……”って音とか、“すーっ”て線の運びとか……」
「……あ、それ、詩になるかも……!」
沙耶がペンを取って、すぐに何かをメモし始める。
「お、来たな。“部室ポエムスイッチ”!」
「私はそれを“妄想発火型創作癖”と呼んでます」
「名前がいちいち病名っぽい!」
──こうして、4人の強化週間は、騒がしくも“それぞれのやり方”で進み始めた。
・琴音は黙々と“完璧な型”を追求し、
・紅葉は自由すぎるアレンジを反省、
・つばさは空間そのものを“部活らしく”整え、
・沙耶は、“書く”ことと“妄想”の境界で、自分のスタイルを掴みつつあった。
(でも──)
沙耶は、ふと心に浮かぶ“ひとつのつぶやき”を思い出す。
──《書道部って、なんか“女の子4人が青春してる感”あって憧れる》
匿名SNSの、何気ないコメント。
その投稿に、無名アカウントとしていいねを押したのは、他でもない沙耶自身だった。
(憧れてた“理想の青春”って……もしかして、もう手の中にあるのかも)
(後編につづく)